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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第2話 機械の鈴

 鈴を部屋に招き入れるために戸を開く。

 するとそこには、黒髪のおかっぱ頭で目が前髪に隠れている、大人しそうな雰囲気の少女が立っていた。

 幼女寄りの少女だが、軍服をしっかり着ている。

 首にかけてある、銀色のプレートのようなゴーグルが目を引く。

 碧玉連邦技術作戦軍元帥、懸木(かけのき) (すず)技術元帥だ。

「入っていいですか?」

 鈴が言う。

「暇なの?」

 俺がそう訊くと、鈴は、ぷんぷんと擬音が出そうな雰囲気で反論してきた。

「暇じゃないですよっ!本体はちゃんと仕事してるんですからね。」

 本体。

 鈴はジーニアス・プラタナス、またの名をチエスズカケノキ(知恵鈴懸木)という種の樹木人である。

 ここにいるのは、ヒト型の分体であり、本体は高さ30mほどの木なのだ。

「私もいマすヨ。」

 鈴の背後から、もう一人、鈴によく似た人物が顔を出した。

 すらりと身長が高い以外はおかっぱ黒髪でメカクレと、鈴に似た容姿をしている。

「・・・誰?」

 俺の隣から部屋の入り口を覗き込んだエミーリアが、思わずといったふうに声を上げる。

 俺も誰だかわからない。

「・・・まあ、そういう反応になりますよね。」

「仕方がナいかト。」

 背の高い方の鈴は、少し、機械音声気味の硬い声をしている。

 よく見れば、肌や髪の毛も、どことなく人工物っぽい。

「これは、機械の私です。ノノさんにバラバラにされた後、とりあえず仮のボディに搭載しているんです。」

 ああ。

 ノノに敗け、バラバラになってしまった鈴にそっくりだった機械か。

 そんな機械の鈴を見て、作太郎が声をかける。

「この御仁は、鈴元帥が作ったので?」

 その声に、鈴が得意げな顔を再びする。

「そうですよ。思考中枢部分は私が全て作りました。まあ、ボディは、前に壊れちゃったので、ひとまず機械生命体用の替えのボディを流用したものです。」

「仮のボディなのデ、声帯ノ性能もいまイちナのです。」

 そう言う機械の鈴は、音声こそ少し機械的だが、会話などはとてもスムーズだ。

 そのことを鈴に言うと、鈴はとても得意げである。

「それはそうですよ。実際に高度知的生命体と言えるレベルの思考能力や人格を搭載してますからね。」

 機械生命体用ボディに、高度知的生命体レベルの思考能力や人格。

 ・・・それは、機械生命体というのではないのだろうか?

「それって、機械生命体と何が違うっすか?」

 ヴァシリーサが、ツッコむ。

 すると、鈴が固まった。

 機械の鈴は、そんな鈴を横目に、言う。

「ソうですね。実際、機械生命体と大差ないカと。」

 明らかにオーパーツである。

 現文明では、機械生命体の創造には成功していない。

 下手したら、これが初めての事例になるのかもしれない。

「・・・これは、検証が必要・・・?」

 鈴は、難しい顔をしている。

 機械生命体レベルの知能を作り上げたりするあたり、鈴は間違いなく天才なのだが、どこか抜けているのだ。

「まあ、そんなことより、装甲車のカタログです。」

 鈴が、気を取り直すように、手に持っていた冊子を差し出してくる。

「とりあえず、主要なメーカーと、この辺りで手に入るオプションメーカーのカタログです。」

 数社分のカタログなので、分厚い。

 そして、鈴はカタログを俺に押し付けるように渡すと、すぐに機械の鈴の手を取る。

「これからこの子の解析と検証をやらなければいけなくなったので今日はこれで失礼しますね。」

 鈴は一息で、かつ異様な早口でそう述べると、さっさと去って行ってしまった。

「また、ゴ縁があレば~。」

 去り際にそう言った機械の鈴の方が、よほど余裕があったかもしれない。


 去るときの鈴の瞳には、マッドサイエンティストと呼ぶにふさわしい、妖しい光が宿っていた。


*****


 ちょっと予想外のこともあったが、いよいよ、装甲車のカタログが来た。

「早速見るっす!」

 ヴァシリーサのテンションが高い。

「一人だと、大きい装甲車には手は出さないっすからね。ちょっと憧れっす。」

 一人の戦闘旅客だと、装甲車を買うにしても、小さな装甲車になりがちだ。

 大きい装甲車だと持て余してしまうのだ。

「楽しみ。」

 エミーリアも、意外と楽しみなようだ。

 エミーリアは、純粋に未知のモノに対する興味関心のようである。

「・・・やはり、この威風堂々たる姿、良いモノですな。」

 早速カタログを開いている作太郎の声は弾んでいる。

 灰神楽自治区戦士団という軍事組織を率いていたのだ。

 軍事技術には興味があるのだろう。

 まあ、その声色には、それ以上に、少年のような輝きがあるが。

「まあまあ。ゆっくり選ぼう。」

 そう言い、俺もカタログを手に取る。


 その後、30分ほど、皆、無言でカタログを眺めていた。

 静かな部屋の中、エミーリアが口を開く。

「・・・どれを選ぶ・・・?たくさん・・・。」

 まあ、そう思うのも無理はない。

 今見ているカタログは、装甲車だけではなく、ソフトスキン車両や戦車なども載っている、戦闘地域用車両全般のカタログである。

 車種は、全てのカタログを合わせると数百種類はあるだろうか。

 大まかな種類だけでも、戦車や歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車などの軍用にもある車種から、装甲拠点車や装甲補給車などの旅客向け車両など、多くある。

「まず、戦車は買わないっすよね。」

 まあ、戦車はいらないだろう。

 カタログでは、戦車は軽・中・重に分かれている。

 そのうち、軽戦車では、辺境の奥に向かうには戦闘力が足りない。

 文明圏で活動している資金にまだ余裕の少ない旅客が購入することが多いようで、オプションを付けなければ歩兵戦闘車の類に比べれば安いが、それだけだ。

 辺境では、浅い地域での活動や、大型の基地車に搭載する軽便な戦力としての需要があるようである。

 中戦車や重戦車は、戦闘力は十分かもしれない。

 だが、そもそも、戦車には、3~5名しか乗ることができない。

 戦車の運用の人数は、多くても少なくてもダメなのだ。

 人数的には運用はできるだろうが、そうなると、俺たちが下車戦闘する余裕が無くなる。

 さらに、軽・中・重、どの戦車でも、物資の積載スペースが足りない。

 個人的に戦車は好きだが、今回の用途には合わないだろう。

 同じ理由で、自走砲も不採用である。

「砲は積むっすか?」

 ヴァシリーサの問いに、頷く。

 口径が大きめの砲は、あると何かと便利なのだ。

「じゃあ、装甲兵員輸送車とかはなしっすね。」

 装甲兵員輸送車にも武装は搭載可能である。

 だが、あくまで自衛用の15㎜重機関銃程度までである。

 専用の砲塔を搭載した歩兵戦闘車などには、武装の質でどうしても劣る。

「装軌式か装輪式、どちらに?」

 作太郎が言う。

 それは一長一短で悩むところだ。

 装軌式の魅力は、なんといってもその不整地走破性だろう。

 舗装されている道など無い辺境では大きな魅力である。

 しかし、燃費は悪いし、履帯が切れると動けなくなるのは欠点だ。

 装輪式は、いくつかタイヤが壊れても走ることができる生存性の高さは魅力的である。

 だが、不整地走破性が装軌式に対して劣る。

 装軌式か装輪式かについては、保留にしておこう。

「じゃあ、このあたり?」

 そう言ってエミーリアが開いたページは、歩兵戦闘車のページである。

 まあ、妥当なところだろう。

 歩兵戦闘車ならば、大きめの兵員室で物資の積載量も十分だし、火力も十二分にある。

 今回の用途には最も適していると言えるだろう。

「そうっすね。歩兵戦闘車なら、良いかもしれないっすね。」

 ヴァシリーサも納得なようである。

 ならば、歩兵戦闘車から選んでいこう。

「これなんか、いいかも。」

 エミーリアが、そう言い、カタログの片隅を指さす。

 そこには、非常にゴツい、20人程度向けの大型の重歩兵戦闘車が載っていた。

「そ・・・それはデカすぎでは・・・?」

 俺がそう言うと、エミーリアは少し不満そうな顔をする。

「じゃあ、これなんかどうっすか?」

「こ奴など、良いのでは?」

 ヴァシリーサと作太郎も、次々と意見を出してくる。

 それぞれ、特徴的なものを選んでいる。

「俺は、これとかいいと思うな。」

 俺も、議論に参加する。


 さて。

 俺が良いと思った装甲車は、皆にも良いと思ってもらえるのだろうか? 

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