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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第1話 装甲車を買う理由

 現歴2265年5月12日 午後1時


 時刻は昼過ぎ。

 昼食を終え、食後のお茶を飲む。

 ほっと息をつき、周囲を見渡す。

 ここで心が落ち着くような美しい景色でも見えれば言うことはないが、残念ながら、この部屋に窓はない。


 ここは、ロンギストリアータ第6要塞の第3宿泊区画。


 人類の文明が及ばない『辺境』と、人々が日々の生活を営む『文明圏』を分ける巨大要塞の内部にある宿泊区画だ。

 俺たちが現在宿泊している宿でもある。

 宿とはいえ要塞の内部、軍施設である。

 昼食後のお茶を飲みながら視線を巡らせれば、無機質な金属とコンクリートが目に入るだけだ。

 まあ、それもある意味趣があるのかもしれない。

 

「美味しかった。」

 20個分の弁当のガラの陰から、鈴の音のような声で呟くのは、俺の隣に座った、ジト目で表情が少ない、群体型ミニマムレギオンの少女。

 名を、エミーリアという。

 苗字を持たない文化圏の出身なので、エミーリアでフルネームだ、と本人は言っている。

 身長は150cmを少し超えた程度で、濃紫色の髪を肩口くらいまで伸ばしている。

 髪の毛は乱雑に切りそろえられており、様々な方向にはねている。

 全体的に露出の多い恰好をしており、露出した色白だが健康的な色の肌の所々に縫い跡のようなものがある。

 チューブトップの服装だと必然的に目に入る胸部は、膨らみがない訳ではないが身長に比べてもささやかな大きさである。

 ミニマムレギオンのエミーリアの体内には、38人のそれぞれ独立したエミーリアがおり、それぞれ別個の人格を持っている。

 別個の人格だが、根底では繋がっているらしい。

 個であり集団。集団であり個。

 それが、群体レギオンという種族なのだ。

「馳走になった。良い昼餉であった。」

 闇の底から響いてきたかのごとく深く昏く、それでいて、廃墟の中を吹き抜ける風のように掠れた音を口から紡ぎ、丁寧に手を合わせるのは、後頭部で豊かな白髪を束ねた紅色の骸骨。

 骸骨っぽいが、普通に食事はできるのだ。どういう原理なのだろうか?

 地球は日本生まれのアンデッド、狂骨の剣士、作太郎である。

 過去に家を捨てたので苗字を名乗っていないそうだ。

 身長は170㎝ほど。骸骨というか骨と皮だけの身体であり、その表面は紅色に染まっている。

 黒い着流しに、日本刀。

 アンデッドになって尚豊かな白髪は、後頭部でひとつに束ねている。

 落ち着いた雰囲気と言動は、このパーティの常識人枠なのかもしれない。

 一方、狂骨は、何かに狂った亡者が陥る化生だという。

 作太郎も、何かに狂っているのだろうか?

「美味しいお弁当だったっすね。」

 明るい声でそう言うのは、10㎝ほどの短く太い角を頭の左右に1対持ち、身長と同じくらいの長さの黒い艶やかな鱗に覆われた太い尻尾を持つ竜人の女性だ。

 名前はヴァシリーサ。

 別に苗字がない訳ではないようなのだが、名乗っていない。

 過去に何かあったのかもしれない。

 うちのパーティー、苗字を名乗らない者が多すぎる気がしなくもない。

 身長はあまり高くないが良く鍛えられたしなやかな身体をしており、髪型は癖のある濃い青色のベリーショートヘアをしている。

 眼は大きなアーモンド形でくりくりしており、その瞳は小さく、四白眼だ。

 身長はそこまで高くなく155㎝ほどだが、線は細くはなく、良く鍛えられたしなやかな身体をしている。

 胸はエミーリアより大きめで、体型相応の物を持っている。

 その体型と服装が合わさって、日に焼けたスポーツ少女ような雰囲気を醸し出している。

 戦闘能力は高く、『爆炎スプリンター』の二つ名を持つ青鉄クラスの旅客で、スポーツ少女的な外見と異なり、魔術も得意な万能戦士である。。

「うん。この弁当、美味しかったね。」

 俺も、皆に同意する。

 今日の昼飯に、と思って買ってきた弁当は、大変美味しかった。

 俺は、メタル。メタル=クリスタル。

 俺の髪の色は黒。瞳は黒に見えるが、よく見れば青みを帯びている。

 顔立ちは、普通じゃないだろうか。身長もそこまで高くはない。

 強さとしては、青鉄クラスではある。一応、ここの4人の中だと最強だろう。

 純然たる前衛で、魔術や呪術は苦手だ。


 俺たち4人は、この宿で、届け物を待ちながら暇をつぶしていた。

 午前中は朝寝坊をしたうえでボードゲームなどをしながらのんびりと時間を過ごし、昼は弁当を買ってきて部屋で済ませた。

 弁当は、それなりの値段のものを買ってきたため、しっかりと美味しかった。

「で、装甲車のカタログはそろそろっすか?」

 ヴァシリーサが、ごみ袋に弁当ガラを突っ込みながら、言う。

 待っている届け物とは、装甲車のカタログなのだ。

 装甲車のカタログは、先日、ノノに会った時、同行してきた鈴に頼んだ。

 本来ならばちゃんとしたルートから頼むべきなのだが、まあ、問題はないだろう。

 昨晩、そのカタログが今日の昼過ぎに届くと、鈴から連絡があった。

 俺たちは、それを待っていたのだ。

「・・・なんで、装甲車が欲しい?」

 エミーリアが、ポツリと訊いてくる。

 装甲車の価格はそれなりに高い。

 いきなり装甲車を買うと言い出したら、そう問いたくもなるだろう。


 何故、装甲車が必要なのか。

 それは、辺境のより奥深くまで進むためである。

 前提として、辺境に限らず、補給が望めない旅をするならば、物資は大量に用意する必要がある。

 一人で運ぶことができる荷物だけで冒険するならば、所属による差はあるものの数日~十数日が限界だ。

 さらに、辺境は不測の事態がよく起こる。

 往復1週間の距離のはずが、トラブルによって2週間も辺境から帰ることができないなど、よくあるのだ。

 それらを踏まえて物資、特に食料は多めに用意する必要がある。

 しかし、先にも述べたが、個人で持ち運ぶことができる食糧の量は限界がある。

 効率だけを考えた栄養補給食のみで統一すればもう少し増えるかもしれないが、それでは味気なさ過ぎて、精神的に辛い。

 辺境ではモチベーションを保つことも重要なのだ。

 辺境で採取して凌ぐことも可能だが、それには高度な知識が必要で、知識があったとしても食糧確保の安定感には欠ける。

 俺たちのような膂力のある上位旅客ならばより多くを運ぶことができなくもないが、身体の動きを大きく制限される量は運びたくはない。

 そうなれば、やはり、大量の食糧や物資を持ち運ぶ手段が別途必要になってくる。

 そこで、車両を使用するのだ。

 しかし、辺境の原生生物は強大である。

 乗用車程度は簡単に破壊する程度の力を持つ生き物も珍しくない。

 そのような環境下では、ソフトスキンのオフロード車の防御力では不安が残る。

 そこで、それなりに生存性を確保できる装甲車が必要になってくるのだ。

 また、装甲車の内部に寝台を用意すれば、移動基地のように使用することもできる。


 この星では、そう言った事情の他、文明圏でも危険な生物が生息している地域が普通にあるため、そこを通る車列の防衛も必要になってくる。

 そのため、それらの需要に応えて、多数の装甲戦闘車両が民間向けに発売されているのだ。

 

 幸い、今までの仕事でそれなりの資金は溜まっている。

 今の所持金は、ノノの件の報酬も入ったため、1億印ほど。

 これだけあれば、そこそこの装甲車を買うことができるだろう。


 そんなことをエミーリアに説明していると、部屋のチャイムが鳴る。

 思ったよりも重苦しい音が鳴った。

「お、話をすれば来たようですな。」

 音に作太郎が反応する。

 どうやら、届いた様だ。

「こんにちは~。」

 チャイム用スピーカーから声がする。

 この声は、鈴だ。

 ・・・どうやら、元帥自ら持ってきたようである。

 暇なのだろうか?

「頼まれたカタログを持ってきましたよ~。」

 鈴の声色は、暢気なものである。

 

 俺は、鈴を部屋に迎え入れるため、部屋の戸を開けに席を立つのだった。

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