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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第4章
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第14話 鈴の本体

 「まさか、このサイズの船を相手に、戦おうなどと思ってはいないよな?」

 ノノは、直径200mほどの巨大なそろばん玉型の浮遊する船に乗り込み、完全に勝ち誇っている。

 俺と鈴は、落下しながらその声を聴いた。

 

 だが。

 鈴から、エネルギーと魔力が迸る。


 鈴は、ノノが言う『まさか』を実行しようとしているのだ。 

 突如、落ちていく鈴の真下、鈴の落下予測地点付近の地面に光が迸る。

 魔術を使う際に術式の外に漏れだす魔力による魔力光である。

 強大な空間転移魔術だ。

 その光は、一瞬強く光ると、そのまますぐに収まった。


 光が収まったそこには、木が一本立っていた。


 樹高は30mほどあるだろうか。

 掌状の大きな葉をたっぷりと繁らせ、樹高以上に巨大に見える。

 樹皮は大きく不規則にはがれ、迷彩のようなまだら模様になっている。


 ジーニアス・プラタナス。


 またの名をチエスズカケノキ(知恵鈴懸木)。

 樹木系の植物人種の一種である。

 鈴は、その木に飛び込むような体勢で落下していく。

 現れた木は、鈴の本体なのだ。

 鈴は、樹木系の植物人であり、いつも会う鈴は、機動力の低い本体の木から分離して行動している分体なのである。

 以前、鈴は10歳ほどで外見年齢が止まっており、実年齢は20歳だと言った。

 あれも、嘘ではない。

 チエスズカケノキは、スズカケノキの仲間の例に漏れず成長が早い。

 寿命も樹木系の植物人としては短く、150~200年ほどである。

 たとえ、10年で成長が止まったとしても、それなりに大きくなっている。

 実際、チエスズカケノキとして30mはそこまで大きくない。

 チエスズカケノキの巨木は50mを超えるまで成長することもあるのだ。

 一方、人型をしている分体部分の外見は、20歳くらいまではサル系のヒト種と同じような成長をする。

 鈴は、12歳の時点で不老化したため、その外見で止まっているのである。


 落下してきた分体の鈴が、豊かに繁った葉の間に飛び込んでゆく。

 すると、木の下に、ひらひらと鈴の着ていた服が落下してくる。

 鈴自身は本体と同化したため、同化できない服だけが落ちてきたのだ。

 俺は、空中で態勢を変え、鈴の木を避けるように地面に降り立つ。

 

「なんだ、偉そうなことを言っていた割に、動物ですらない下等生物ではないか。」

 ノノの声が響く。

 ずいぶん差別的な言い様だ。

「あら、植物人を下等と言いますか。教養がないですね。」

 鈴はそう言い、葉をざわめかせる。

 その様子を見たノノが、馬鹿にしたように、言葉を続ける。

「葉をざわめかせるくらいしか能のないモノが何を言う。先ほどまでの方がまだ『まし』ではないか。」

 先ほどまで、とは、分体の鈴を指しているのだろう。

「まあいい。目障りだ。雑草は焼き払ってやろう。」

 ノノの言葉と同時に、ノノの船の細部が黄色く発行し始める。


 数秒の後、ノノの船から、黄色い光線が無数に射出された。

 その光線は空中で不自然に屈折し、鈴の真上から襲い掛かる。

 直径1mほどの、100本くらいの光線は、鈴に覆いかぶさるように着弾した。

 着弾した場所の地面が沸騰し、一瞬で蒸発することで、派手な爆発が起きる。

 爆風は、鈴を一瞬で覆ってしまった。

 俺は、その爆発から逃れるように、エミーリアと作太郎、ヴァシリーサがいる方向に走る。

「鈴さんが・・・!」

 エミーリアが、悲痛な表情をしている。

 俺は、そのエミーリアを安心させるように、落ち着いた声色を心がけて、言う。

「大丈夫。鈴は、あの程度じゃびくともしないから。」


「なるほど。なかなかの出力の攻撃ですね。」

 爆風が晴れる。

 そこには、一切傷ついていない鈴の本体が、堂々と立っていた。

 鈴が淡く光り始める。

 豊かに繁った葉が全て薄緑色に光るのは、どこか幻想的だ。

 その光は、葉から離れると形を変え、プレート状に展開される。

 光のプレートはノノの船に向かって飛翔する。

 ノノの船は動いて躱そうとするが、巨大な船の動きは鈍重で、躱すことができない。

 光のプレートが、ノノの船に直撃。

 ノノの船は、光のプレートを突き抜けるような形になった。

 しかし、何も起こらない。

「ふむ・・・。研究船か何かですかね?」

 鈴が、独り言のように言う。

「まあ、構造は大体わかりました。」

 再び、葉が光り始める。

 よく見ると、鈴の葉には、うっすらと紋様のようなものが浮かび上がっている。

 魔法陣だ。

 その光を危険だと感じたのか、ノノの船は、淡く青色に光るシールドのようなものを張る。

 鈴の葉の一枚から、淡い色の緑色の光線が発射される。

 その一筋の光線は、シールドに阻まれ、ジュ、という音を立てる。

「なるほど、これくらいの強度ですか・・・。」

 鈴の独り言が聞こえる。

 鈴の放つ光が、ひときわ強くなる。


「問題はないですね。では、解体します。」

 

 鈴が、ぼそりと言った瞬間、ノノの船の周囲を四角く囲むように、薄緑色の半透明なプレートが展開される。

 先ほどノノの船に当たった半透明のプレートと見た目がほぼ同じである。

 その外見から、すり抜けられると思ったのか、ノノの船がプレートに向かって動き、突破を試みる。

 しかし、今回のプレートは、ノノの船の透過を許さない。

 こうなってしまうと、上下も完全にふさがれてしまっているので、ノノの船は動くことができない。

 そして、ノノの船を囲んでいる薄緑色のプレートの天井が、ゆっくりと下がり始める。

 そのまま、ノノの船を押しつぶしてしまうと思われたが、そんなことはなかった。

 天井は、ゆっくりと降下しつつ、ノノの船を透過していく。

「何をする!?やめ・・・」

 ノノの声が響くが、その声も、天井が船の中ほどまで達した時に消えた。

 そして、20秒ほどかけて、天井が床まで達する。

 ノノの船からは、細部に灯っていた光が消え、動力が失われているように見える。

 どうやら、周囲を囲むプレートから魔力線が伸び、動力を失った船を支えているらしい。


「解体終了。」


 鈴の、淡々とした声。

 ノノの船は、緑のプレートに囲まれたまま、ゆっくりと地面に向けて降下してくる。

 よく目を凝らすと、ノノの船に、無数の隙間が見える。


「支持材展開。」


 地面から、ノノの船を支えるように、不透明な緑色の柱が無数に突き出してくる。

 緑色の半透明なプレートが消える。

 それとともにノノの船を支えていた魔力線も消えたようだ。

 だが、ノノの船は、無数の柱のおかげで、地面に転倒することなく、しっかりと支えられる。

 

 柱が蠢き、船を少し動かす。

「ぐああ!?」

 すると、船に隙間が生まれ、その隙間から、ノノが転げ落ちてくる。

 そのノノの周囲に、無数の緑の柱が突き立つ。

「ひっ!?」

 ノノは、着ているスーツにより、表情はわからない。

 だが、その声は恐怖に染まっている。

「で、ノノさん、まだやりますか?」

 鈴の声が、無情に響く。


 ノノは、その声に、力なく首を振ったのだった。


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