第13話 鈴、戦う
どうにか、プライベートが落ち着き、かつ、破損した小説データを復旧することができましたので、更新を再開いたします。
どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。
「おや、いきなり攻撃ですか。もう少し、知能があると思ったのですが・・・。」
体を貫かれたはずの鈴の口が動き、声が響く。
「あなたは、敵、ということですね。強制的に、確保しましょう。」
そう言い、鈴は、胸を貫かれたまま、ニヤリと笑う。
そして、ノノに向けて右腕を突き出す。
鈴の掌から、電気でできたネットのようなものが飛び出し、ノノに向かう。
しかし、ノノが片手で乱雑に払うと、そのネットは掻き消えてしまった。
捕縛向けの電気魔術のようだが、鈴にしては、低威力な魔術である。
ノノは鈴に突き刺さった3本目の腕を大きく振り上げる。
鈴は持ち上げられ、振り回され始める。
どうやら、地面に叩きつけるつもりのようだ。
突如、鈴の腕から、乾いた音が響く。
鈴はどこかに銃を隠し持っており、発砲したようだ。
銃?
確保すると言っていた割に、殺意が高い。
だが、振り回されている状態では狙いが定まらないようで、当たらない。
これも、おかしい。
鈴の銃の腕は軍人としてはそれなりに良いほうだ。
鈴は超人でもあるので、これくらいの勢いで振り回されただけならば、十分に狙いをつけられるはずである。
しかし、鈴は一発も銃弾をあてる当てることができないうちに、地面に思い切り叩きつけられた。
その瞬間、鈴は、バラバラに砕け散る。
あれは、鈴本人ではなかったようだ。
その鈴のようなモノは、ネジやバネ、基盤、人工筋肉を飛び散らせながらバラバラになったのだ。
「・・・機械?」
ノノが、訝しんで言う。
機械でできた、鈴のようなものだったようである。
違和感にも納得である。
突如、俺の背後から鈴の声がする。
「そうです。機械です。」
いつの間にか、鈴本人が、俺の背後に現れていた。
「エミーリアさんを見て、自分が複数いるのは便利かもしれないと思って作ってみましたが・・・。」
鈴は、ゆっくりと、原形を保ったまま転がっている鈴型の機械の頭部を手に取る。
「・・・性能は不十分でしたね。こんな結果になってしまって、悪いことをしてしまいました。」
鈴は、慈しみを感じられる手つきで自分と同じ外見をしている機械の顔を撫で、目を閉じさせた。
「中枢は、傷ついていませんね。次の身体は、もっと上手に作ってあげますからね。」
鈴がそう言うと、周囲に散らばっていた部品は、忽然と消えた。
鈴がどこかに転送したようだ。
鈴は、自身の創作物に対して、それなりに愛情を持っていたようである。
ノノは、今現れた鈴の強さが未知数だからか、警戒するように距離を離している。
そんなノノに、鈴はゆっくりと視線を向ける。
「ノノさん。再び問います。あなたの基本的な権利は尊重します。我々の研究にご協力いただけませんか?」
鈴の言葉に、ノノが、心底わからないといった風に返す。
「なぜ、私が貴様らのような劣った文明に協力せねばならない?」
それを聴いた鈴は、残念そうな表情をする。
「・・・そうですか。では、エミーリアさんを諦め、その建造物にお戻りいただくことはできませんか?」
鈴は言葉を続ける。
しかし、ノノはその言葉を否定する。
「なぜ、私が貴様らに忖度せねばならん?」
その言葉を聴いて、鈴の雰囲気が変わる。
「わかりました。一応、私も軍人です。国民は守らなければいけません。そして、壊された私の分身の仇もとらなければいけませんね。」
鈴が、言う。
その言葉に呼応して、ノノが構える。
それに対し、鈴は一切構えない。
だが、戦いは始まった。
ノノは、鈴に向けて青白い光線を発射する。
光線は、光ゆえの圧倒的な速さで鈴に到達する。
しかし、その光線は、鈴にダメージを与えることはできない。
鈴は、直立の姿勢から、目にもとまらぬ速度で光線を搔い潜り、ノノに肉薄したのだ。
そして、容赦なくノノの顎に掌底をお見舞いする。
あまりに想定外な威力に、ノノがたたらを踏んで後退する。
体勢を崩したノノに、鈴は嵐のように猛然と攻撃を繰り出す。
鈴は、体格が小さく手足が短いが、それをものともしない回転の速い攻撃を繰り出し続ける。
ノノは、両腕と3本目の腕を駆使してどうにか受け止めているが、長くは持たなそうだ。
その状況を嫌ってノノが距離を取ろうと後方に跳べば、鈴はそれと同じ速度で追撃し、攻撃の勢いは緩まない。
「ぐ・・・ぅ・・・、ああ、面倒くさい!」
ノノが叫んだ瞬間、ノノを中心に全周囲に向けて青白い衝撃波が迸った。
その衝撃波により、鈴は10mほど弾き飛ばされた。
だが、鈴は空中で姿勢を立て直し、何事もなかったかのように着地する。
鈴にダメージは無いようだ。
しかし、鈴の着地の瞬間、そこめがけて、直径1mほどの黄色い光線が襲い掛かった。
着弾した場所が爆発。
巻きあがった爆炎で、状況が分からない。
「いやー、こんな攻撃もあったんですね。」
俺の横から、鈴の声が聞こえる。
「お、大丈夫だったか。」
思わず、鈴に声をかける。
「ええ。躱すことができました。」
鈴は、涼しげに言う。
空間転移で躱したようだ。
煙が晴れるのを待っているが、なかなか晴れない。
「・・・あの光線、煙幕みたいなものだったんですかね?」
鈴が、訝し気な表情で言う。
さらに数秒待った時、地面が振動し始める。
「・・・地震か?」
俺がそう言うと、鈴が、首を振る。
「いえ、この揺れ方は地震ではありません。」
鈴がそう言った瞬間、エレベーターが昇り始めた時のような、浮遊感を感じる。
そして、周囲の景色が、下方に向かって動いていく。
地面が、上昇を始めたようだ。
とっさに、状況確認のために周囲を見る。
どうやら、塔と、その周囲の塔と同じ材質で舗装されていた部分が上昇しているらしい。
エミーリアと作太郎、ヴァシリーサがどうなったかは、わからない。
少し心配だ。
俺たちはぐんぐんと上昇していく。
一体、今はどれほどの高さなのだろうか?
次の瞬間、塔を中心に、先程ノノが放ったような衝撃波が迸り、俺と鈴を弾き飛ばす。
「うおっ!?」
突然の衝撃に思わず声を上げたが、衝撃波自体の威力はそんなになかった。
ダメージは無いが、俺は鈴と一緒に、上昇していく足場から放り出されてしまった。
だが、放り出されてわかったことがいくつかあった。
まず、思ったよりも高くまで上昇していたことだ。
すでに100mくらいの高さはあるだろう。
そして、上昇している部分の形状もわかった。
直径200mはありそうな、そろばん玉型の巨大な物体だ。
中央を貫くよう、上下に向けて10mほどの高さの四角柱の突起がある、
あの突起を、俺たちは今まで塔だと思い込んでいたのだろう。
塔の付け根あたりは平らになっており、その部分が、塔周囲の舗装されていると思っていた部分のようだ。
塔型の遺跡だと思っていたものは、ノノが操る、巨大な飛行機械だったのである。
地面の方向に目を向ければ、飛行機械が浮かび上がる際にめくり上がった地面を避けるように、エミーリアと作太郎、ヴァシリーサが見える。
うまく躱していたらしい。
安心である。
仲間たちの無事を見て少し安心しつつ落下していると、どこかにスピーカーでもあるのか、ノノの声が響く。
「今、エミーリアとやらを差し出せば、それ以外の者は見逃してやろう。」
その声色は、勝利を確信したものだ。
「まさか、このサイズの船を相手に、戦おうなどと思ってはいないよな?」
ノノは、完全に勝ち誇っている。
確かに、俺たちぐらいの大きさの生き物相手にこのサイズの飛行機械を出せば、普通は勝ちを確信するだろう。
だが。
鈴から、エネルギーと魔力が迸る。
鈴は、ノノが言う『まさか』を実行しようとしているのだ。




