第12話 ノノとの戦い
ノノから、殺気が吹き荒れる。
ノノは、何もしゃべらない。
ただ、戦闘態勢になったことは、わかる。
俺も、灰鉄の剣と盾を構える。
(開放、15)
開放を引き上げる。
先ほどのノノの攻撃に対するヴァシリーサの反応は、早かった。
以前、リコラ達に協力している際にヴァシリーサと戦った時は、開放2で戦ったが、どうやら、その時のヴァシリーサは本気ではなかったようだ。
先程の反応からすると、ヴァシリーサは、俺の開放8程度の戦闘力があると思っていいだろう。
それを易々と戦闘不能にしたのだ。
ノノは、先程の攻撃だけでも、開放10程度の強さはありそうである。
なので、開放の段階は、余裕をもって15にしておく。
ノノには分からないように、身体の外への力の放出は、抑える。
ノノは、俺が力を開放したことに気づいてはいないようだ。
先ほどと何も変わらない動きで、攻撃を繰り出してくる。
ノノの、3本目の腕が、俺に迫る。
3本目の腕を動かすときは、予備動作がほぼないのが、少し厄介だ。
少なくとも、こちらから見える側の筋肉が動いたりはしていない。
迫ってきた3本目の腕を、盾で弾く。
そして、その腕を切断するように、剣を振るう。
しかし、3本目の腕は、不可思議な動きで俺の斬撃を躱す。
どうやら、関節の数は、1か所ではないようだ。
ノノの方向から、嫌な感じがしたので、上半身を反らす。
すると、眼前を、青白い光が通過する。
ノノを見れば、手に、銃のような兵器を持っている。
そこから、光は発射されたのだろう。
2発、3発と光は続けて発射されてくる。
躱しながら、転がっている石を拾って光に当ててみれば、光にあてた部分が煙を上げて蒸発してしまった。
それなりの威力があるようだ。
俺の動きを阻害するように、3本目の腕が、攻撃を仕掛けてくる。
そして、3本目の腕で動きを阻害したところに、光を撃ちこんでくる。
・・・まあ、対処できないほどではない。
3本目の腕を弾き、光を躱しながら、ノノに肉薄する。
ノノは、接近を嫌って、光をばら撒き始める。
光は、先程のレーザーのようなものから、小さな光の弾が毎分500発ほどのペースで撃ちだされるように変化した。
だが、弾が直線的である限り、避けようはある。
3本目の腕が動きを妨害しようと攻撃してくるが、それも避ければ問題はない。
懐まで潜り込む。
すると、ノノは、光を出す武器を振り上げている。
銃口らしき場所から、光の刃が出ている。
あの銃のような武器は、遠近両用の便利なもののようだ。
今持っている灰鉄の剣と盾は、あの光線兵器を正面から受け止める性能はない。
この剣と盾を鍛えたボリスは名工だが、灰鉄という素材の限界から、ノノの光線兵器の火力相手には、分が悪い。
そのため、切っ先を跳ね上げ、光線兵器自体の切断を狙う。
ノノは俺の動きを看破したようで、バックステップで遠ざかりながら、熱線で斬りつけてくる。
だが、甘い。
ノノのバックステップに合わせて、体が密着するほど、大きく踏み込む。
この位置まで来れば、ノノは、腕を曲げなければ、俺を光線で斬りつけることはできない。
俺も、この大ぶりな剣を振ることはできないが、そこは問題ない。
剣を握ったまま、そのハンドガードで、ノノの腹部を殴る。
硬いような、少し柔らかいような妙な手ごたえだ。
ノノの着ている服には、衝撃吸収素材でも使われているのかもしれない。
だが、少しは衝撃が通ったようで、ノノは、数歩後退する。
そのノノに向けて盾を構え、体ごとぶつかりに行く。
全身を使ったシールドバッシュだ。
ノノがよろけた所にクリーンヒットし、ノノは数mほど吹き飛ぶ。
だが、ダメージはあまりないようで、ノノは、吹き飛びながら、すぐに体勢を立て直し、10mほど後方に跳んだ。
「・・・面倒な奴だな。」
ノノが言う。
「地味に強いじゃないか。」
そう言い、ノノは、光線兵器を下げ、手のひらをこちらに向ける。
背筋に、寒気が走る。
咄嗟に、横に跳ぶ。
すると、先ほどまで俺がいたところを、赤い光が奔っていった。
俺が避けた瞬間、赤い光は消える。
例の赤い空間だろう。
まだ制御できていないようなことを言っていたが、ある程度の操作はできるようだ。
赤い光に見えたモノは、今までの赤い空間と同じ、空間の断裂のようだ。
強力な空間攻撃だと考えていいだろう。
ノノが、再び手のひらをこちらに向ける。
また、赤い空間を使う気だろう。
その時、目の前の空間に、ジジ、という音と共に、目の前の空間に、ノイズが走る。
そのノイズに関わらず、ノノが、赤い空間を放ってくる。
だが、その赤い空間は、俺まで到達することはなかった。
「・・・まったく。どこの誰かは知りませんが、この空間は、そんな易々と使っていいものではないのですよ。」
ノノが放った赤い空間は、目の前に突如として現れた人物を飲み込むことができず、止まっている。
そこには、白衣を着た、背の低い、おかっぱ頭の少女が立っている。
今回の旅で幾度か世話になっている、技術作戦軍の 懸木 鈴 元帥だ。
「や、鈴ちゃん、いきなりどうしたんだい?」
目の前に現れた鈴に、声をかける。
すると鈴は、ノノを見据えたまま答える。
「赤い空間の反応を感知して、来ました。そして、鈴ちゃんって呼ばないでください。」
鈴ちゃんと呼ばれるのは、少し嫌なようだ。
鈴は、言葉を続ける。
「あの個体は、研究サンプルとして、回収したいですね。」
鈴の言葉に、ノノが、声を上げる。
その声は、苛立ちが隠せていない。
「私を研究サンプルに?・・・面白い。できるなら、やってみたまえ。」
ノノの言葉に、鈴が答える。
「おや?会話ができるのですね。でしたら、交渉でもしてみますか。」
鈴は、一切警戒する様子もなく、ノノに近づいていく。
そして、歩きながら、ノノに声をかける。
「あなたの基本的な権利は尊重します。我々の研究にご協力いただけませんか?」
その言葉を聴いたノノは、いきなり、3本目の腕を鈴に向けて叩きつける。
3本目の腕は、鈴の胸のあたりに命中したように見える。
そして、鈴の背中から、3本目の腕が、突き出す。
「・・・なに?」
ノノが、思わずといった風に、声を上げる。
「おや、いきなり攻撃ですか。もう少し、知能があると思ったのですが・・・。」
体を貫かれたはずの鈴の口が動き、声が響く。
「あなたは、敵、ということですね。強制的に、確保しましょう。」
そう言い、鈴は、胸を貫かれたまま、ニヤリと笑うのだった。




