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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第4章
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第10話 昼食と遺跡調査

 遺跡の探索の前に、昼食にすることとした。

「いい場所はないかな?」

 俺は、周囲を見渡す。

 何もない開けた場所で無防備に昼食を広げることは避けたい。

「あそこなんか、いいんじゃないっすか?」

 ヴァシリーサが指し示すのは、遺跡の外壁の一部である。

 一部が崩れて、うまく2方向からの視線を遮っている。

 確かにいい場所だ。

 

 ヴァシリーサが示した場所の周囲をクリアリングする。

 良い感じの場所には、先客がいることも多いのだ。

 今回は、先ほどまでダイオウソラクラゲが居たためか、先客はいなかった。

 あるいは、ダイオウソラクラゲこそが先客だったと言えるのかもしれない。

 2人が周辺を警戒し、残る2人が昼食を摂ることとする。

 最初に休憩するのは俺とエミーリア、次に休憩するのが作太郎とヴァシリーサになった。


 昼食は、軍用戦闘糧食である。

 要塞では、旅客向けにも戦闘糧食を販売している。

 栄養面も考えられた戦闘糧食は、旅客にとっても有用なのである。

 

 今回は、ヴァシリーサが全員分まとめて買ったため、皆同じものである。

 本来ならば、それぞれの種族に合わせた種類のものを買う必要があるが、幸いなことに、今いる4人は、ほぼ同じものを食べられる。

 そのため、全く同じ戦闘糧食で大丈夫なのだ。


 OD色の樹脂の袋に、一食分がまとめて入っているようだ。

 切り口から袋を開けると、樹脂でできた箱が複数出てくる。

 この戦闘糧食に限らず、この星では、とある植物から採れる樹脂が広く使用されている。

 簡単に自然に還る、環境にも優しい樹脂だ。

 今回のメニューは、肉を酸味のあるソースで煮込んだ料理とクラッカーのようである。

 あとは、栄養補給のための、野菜ゼリーが付属している。

 それ以外には、軽食用のチョコレートが一つ入っている。

 野菜ゼリーとクラッカー、チョコレートを袋から取り出し、煮込み料理のパックを袋に戻す。

 袋に入れたまま加熱できるようになっているようだ。

 加熱剤のパックから出ている紐を引き、すぐに袋に放り込む。

 すると、数秒で、ぐつぐつという音がして、袋から湯気が吹き上がり始めた。

 数分もすれば、暖かな食事の完成である。

 煮込み料理は、樹脂のカップに入っている。

 同じく樹脂の蓋を開ければ、酸味のあるいい匂いだ。

 赤いソースはヒイロ(地球のトマトのような実)だろう。

 一口食べてみれば、結構味が濃い。

 クラッカーは、分厚い乾パンのようなタイプで、10枚ほど入っている。

 特に味のついていない、プレーンタイプのクラッカーだ。

 クラッカーと煮込み料理を一緒に食べれば、味の濃い煮込み料理に、クラッカーがよく合う。

「おいしい。」

 エミーリアも、煮込み料理にご満悦のようだ。

 そして、エミーリアは、煮込み料理に続いて、野菜ゼリーも口に運んだ。

 袋に印字されている説明には、野菜ゼリーはデザートではなくおかずだと書いてあった。

 野菜ゼリーを口にしたエミーリアの表情が、曇る。

「・・・?」

 エミーリアは、訝しげな表情を浮かべ、野菜ゼリーを眺めている。

 ?

 俺も、野菜ゼリーを一口食べてみる。

 ・・・うん?

 これは、この味で合っているのだろうか?

 野菜の味はする。

 むしろ、野菜の味しかない。

 塩味や甘味などの味付けは、無いようだ。

 野菜の味も、数種類の野菜を混ぜているようで、青臭さが際立つ微妙な味だ。

 煮込み料理が美味しかっただけに、変なインパクトがある。

 とりあえず、野菜ゼリーを全て食べ、おいしい煮込みに戻る。

 煮込み料理は、クラッカーと一緒に食べれば、手が止まらない美味しさだ。


 全て食べ終えれば、思った以上に満足感がある。

 エミーリアは、俺が1袋食べる間に、3袋を平らげていた。

 最後に、チョコレートを食べ、食事を終える。

 

 食事後に、作太郎とヴァシリーサと周辺警戒を交代する。

 見通しの良い森であるため、警戒しやすい。

 エミーリアが5人に別れて周辺を警戒しており、360度全てをエミーリアだけでカバーできている。 

 俺は、周囲に気を配りながらも、遺跡を観察する。

  

 遺跡を見て、まず目につくのは、中心に立っている高さ10mほどの塔だ。

 形状は四角柱型で、一辺は3mほど。

 どんな物質で造ってあるのかはわからないが、色は純白で、金属光沢を放っており、一切の継ぎ目がない。

 所々に1~2mほどの直径の丸い窪みを持ち、その窪みの中は黒く、その中心部が淡い青色に光っている。 

 遺跡とは言いつつも、妙に未来的な外見だ。

 周囲には、白い柱がたくさん立っている。

 白い柱と遺跡の周囲を囲んでいる外壁の材質は同じようで、白い石材だ。

 遺跡の周囲の白い柱は、元々上部がアーチ構造で繋がっていたようで、そのアーチが残っている部分も散見される。

 外壁と柱やアーチは、装飾は少ないもののデザインが似ており、同じような時代に作られたように感じる。

 しかし、中央の塔に関しては、全く別の技術で造られているように見える。

 不思議な遺跡だ。


「食べ終わったっす。いけるっすよ。」

 遺跡を眺めていたら、ヴァシリーサから声がかかる。

 食事を終えたようだ。

 さて、遺跡の探索を行おう。



*****


 周囲を警戒しながら、遺跡に近づく。

 周囲の柱は、眺めながら予想した通り、外壁と同じ白い石材で造られている。

 触ってみれば、かなり頑丈な石材だ。

 だが、辺境の環境に耐えることはできなかったようで、アーチは崩落し、外壁も崩れている部分がある。

 塔の周囲は、塔の材質と同じ、白く金属光沢を放つ何かで舗装されている。

 舗装された場所には、柱は立っていない。

 塔までたどり着く。

 塔と地面の境にも、継ぎ目はない。

 塔を触ってみれば、どうも、金属でもないようだ。

「セラミックであろうか?」

 作太郎が言うとおり、セラミックのような質感だ。

 だが塔を軽く叩いてみると、セラミックとは違う感触もある。

「セラミックっぽいけど、ちょっと違う気がするな。」

 セラミックとは違う、妙な反発がある素材だ。

 

 塔の周囲をぐるりと回る。

 事前情報のとおり、特に入口らしきものはない。

 手が届く位置の青く光る窪みも触ってみたが、特に、何も起こらない。

 窪みの黒い部分も青く光る部分も、白い部分と同じような材質であるとしかわからなかった。

「わたしも。」

 そう言い、エミーリアが、塔に触れる。


 その瞬間、青く光っていた部分が、全て、黄色く光を変えた。


「!?」

 エミーリアが、驚いて手を放す。

 そして、盾を構えて、ゆっくりと下がる。

 俺たちも、武器を構えて、変化に備える。

 すると、何もないと思われていた、塔の一部が、音を立てずに円形に開く。

 そこから、何かが、現れた。

 ぱっと見は、ヒト型に見える。

 身長は2mほどか。

 まず、3本の腕が目に入る。

 3本の腕のうち2本はヒトと同じく両肩から伸びており、残る1本の腕は背中方向から伸びており、2本の腕の倍以上の長さがある。

 膝くらいまでを隠すような、ローブのような青白い服を着ており、顔もヘルメットのようなもので隠れている。

 ローブの先から足が見えているため、辛うじて、足が2本だとわかる。

 だが、それ以上はわからない。

 ローブとヘルメットは、塔と同じく継ぎ目がなく、内部にいる生物の情報を読み取れなくしている。

 


 塔から出てきた者は、エミーリアの方に体を向け、3本目の長い腕を伸ばす。

 エミーリアは、その腕を避けるように、距離をとる。

 その動きを見た、塔から出てきた者は、少し制止する。

 そして、なにか、音を発し始めた。


「・・・■■■■。・・・テ■■。■ス■。■■スト。」


 俺たちは、少し距離を開け、その様子を観察する。

 すると、塔から出てきた者は、こちらに向き直る。


「言語の調整は終わった。言葉は通じるかね?」


 少し、尊大な印象を与える声色で、塔から出てきた者は話し始めた。

 声の質は男性とも女性ともつかない、中性的なものだ。

 塔から出てきた者は、言葉を続ける。


「その個体を、引き渡したまえ、原住民諸君。」


 そう言い、塔から出てきた者は、エミーリアを3本目の腕で指さしたのだった。


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