第10話 昼食と遺跡調査
遺跡の探索の前に、昼食にすることとした。
「いい場所はないかな?」
俺は、周囲を見渡す。
何もない開けた場所で無防備に昼食を広げることは避けたい。
「あそこなんか、いいんじゃないっすか?」
ヴァシリーサが指し示すのは、遺跡の外壁の一部である。
一部が崩れて、うまく2方向からの視線を遮っている。
確かにいい場所だ。
ヴァシリーサが示した場所の周囲をクリアリングする。
良い感じの場所には、先客がいることも多いのだ。
今回は、先ほどまでダイオウソラクラゲが居たためか、先客はいなかった。
あるいは、ダイオウソラクラゲこそが先客だったと言えるのかもしれない。
2人が周辺を警戒し、残る2人が昼食を摂ることとする。
最初に休憩するのは俺とエミーリア、次に休憩するのが作太郎とヴァシリーサになった。
昼食は、軍用戦闘糧食である。
要塞では、旅客向けにも戦闘糧食を販売している。
栄養面も考えられた戦闘糧食は、旅客にとっても有用なのである。
今回は、ヴァシリーサが全員分まとめて買ったため、皆同じものである。
本来ならば、それぞれの種族に合わせた種類のものを買う必要があるが、幸いなことに、今いる4人は、ほぼ同じものを食べられる。
そのため、全く同じ戦闘糧食で大丈夫なのだ。
OD色の樹脂の袋に、一食分がまとめて入っているようだ。
切り口から袋を開けると、樹脂でできた箱が複数出てくる。
この戦闘糧食に限らず、この星では、とある植物から採れる樹脂が広く使用されている。
簡単に自然に還る、環境にも優しい樹脂だ。
今回のメニューは、肉を酸味のあるソースで煮込んだ料理とクラッカーのようである。
あとは、栄養補給のための、野菜ゼリーが付属している。
それ以外には、軽食用のチョコレートが一つ入っている。
野菜ゼリーとクラッカー、チョコレートを袋から取り出し、煮込み料理のパックを袋に戻す。
袋に入れたまま加熱できるようになっているようだ。
加熱剤のパックから出ている紐を引き、すぐに袋に放り込む。
すると、数秒で、ぐつぐつという音がして、袋から湯気が吹き上がり始めた。
数分もすれば、暖かな食事の完成である。
煮込み料理は、樹脂のカップに入っている。
同じく樹脂の蓋を開ければ、酸味のあるいい匂いだ。
赤いソースはヒイロ(地球のトマトのような実)だろう。
一口食べてみれば、結構味が濃い。
クラッカーは、分厚い乾パンのようなタイプで、10枚ほど入っている。
特に味のついていない、プレーンタイプのクラッカーだ。
クラッカーと煮込み料理を一緒に食べれば、味の濃い煮込み料理に、クラッカーがよく合う。
「おいしい。」
エミーリアも、煮込み料理にご満悦のようだ。
そして、エミーリアは、煮込み料理に続いて、野菜ゼリーも口に運んだ。
袋に印字されている説明には、野菜ゼリーはデザートではなくおかずだと書いてあった。
野菜ゼリーを口にしたエミーリアの表情が、曇る。
「・・・?」
エミーリアは、訝しげな表情を浮かべ、野菜ゼリーを眺めている。
?
俺も、野菜ゼリーを一口食べてみる。
・・・うん?
これは、この味で合っているのだろうか?
野菜の味はする。
むしろ、野菜の味しかない。
塩味や甘味などの味付けは、無いようだ。
野菜の味も、数種類の野菜を混ぜているようで、青臭さが際立つ微妙な味だ。
煮込み料理が美味しかっただけに、変なインパクトがある。
とりあえず、野菜ゼリーを全て食べ、おいしい煮込みに戻る。
煮込み料理は、クラッカーと一緒に食べれば、手が止まらない美味しさだ。
全て食べ終えれば、思った以上に満足感がある。
エミーリアは、俺が1袋食べる間に、3袋を平らげていた。
最後に、チョコレートを食べ、食事を終える。
食事後に、作太郎とヴァシリーサと周辺警戒を交代する。
見通しの良い森であるため、警戒しやすい。
エミーリアが5人に別れて周辺を警戒しており、360度全てをエミーリアだけでカバーできている。
俺は、周囲に気を配りながらも、遺跡を観察する。
遺跡を見て、まず目につくのは、中心に立っている高さ10mほどの塔だ。
形状は四角柱型で、一辺は3mほど。
どんな物質で造ってあるのかはわからないが、色は純白で、金属光沢を放っており、一切の継ぎ目がない。
所々に1~2mほどの直径の丸い窪みを持ち、その窪みの中は黒く、その中心部が淡い青色に光っている。
遺跡とは言いつつも、妙に未来的な外見だ。
周囲には、白い柱がたくさん立っている。
白い柱と遺跡の周囲を囲んでいる外壁の材質は同じようで、白い石材だ。
遺跡の周囲の白い柱は、元々上部がアーチ構造で繋がっていたようで、そのアーチが残っている部分も散見される。
外壁と柱やアーチは、装飾は少ないもののデザインが似ており、同じような時代に作られたように感じる。
しかし、中央の塔に関しては、全く別の技術で造られているように見える。
不思議な遺跡だ。
「食べ終わったっす。いけるっすよ。」
遺跡を眺めていたら、ヴァシリーサから声がかかる。
食事を終えたようだ。
さて、遺跡の探索を行おう。
*****
周囲を警戒しながら、遺跡に近づく。
周囲の柱は、眺めながら予想した通り、外壁と同じ白い石材で造られている。
触ってみれば、かなり頑丈な石材だ。
だが、辺境の環境に耐えることはできなかったようで、アーチは崩落し、外壁も崩れている部分がある。
塔の周囲は、塔の材質と同じ、白く金属光沢を放つ何かで舗装されている。
舗装された場所には、柱は立っていない。
塔までたどり着く。
塔と地面の境にも、継ぎ目はない。
塔を触ってみれば、どうも、金属でもないようだ。
「セラミックであろうか?」
作太郎が言うとおり、セラミックのような質感だ。
だが塔を軽く叩いてみると、セラミックとは違う感触もある。
「セラミックっぽいけど、ちょっと違う気がするな。」
セラミックとは違う、妙な反発がある素材だ。
塔の周囲をぐるりと回る。
事前情報のとおり、特に入口らしきものはない。
手が届く位置の青く光る窪みも触ってみたが、特に、何も起こらない。
窪みの黒い部分も青く光る部分も、白い部分と同じような材質であるとしかわからなかった。
「わたしも。」
そう言い、エミーリアが、塔に触れる。
その瞬間、青く光っていた部分が、全て、黄色く光を変えた。
「!?」
エミーリアが、驚いて手を放す。
そして、盾を構えて、ゆっくりと下がる。
俺たちも、武器を構えて、変化に備える。
すると、何もないと思われていた、塔の一部が、音を立てずに円形に開く。
そこから、何かが、現れた。
ぱっと見は、ヒト型に見える。
身長は2mほどか。
まず、3本の腕が目に入る。
3本の腕のうち2本はヒトと同じく両肩から伸びており、残る1本の腕は背中方向から伸びており、2本の腕の倍以上の長さがある。
膝くらいまでを隠すような、ローブのような青白い服を着ており、顔もヘルメットのようなもので隠れている。
ローブの先から足が見えているため、辛うじて、足が2本だとわかる。
だが、それ以上はわからない。
ローブとヘルメットは、塔と同じく継ぎ目がなく、内部にいる生物の情報を読み取れなくしている。
塔から出てきた者は、エミーリアの方に体を向け、3本目の長い腕を伸ばす。
エミーリアは、その腕を避けるように、距離をとる。
その動きを見た、塔から出てきた者は、少し制止する。
そして、なにか、音を発し始めた。
「・・・■■■■。・・・テ■■。■ス■。■■スト。」
俺たちは、少し距離を開け、その様子を観察する。
すると、塔から出てきた者は、こちらに向き直る。
「言語の調整は終わった。言葉は通じるかね?」
少し、尊大な印象を与える声色で、塔から出てきた者は話し始めた。
声の質は男性とも女性ともつかない、中性的なものだ。
塔から出てきた者は、言葉を続ける。
「その個体を、引き渡したまえ、原住民諸君。」
そう言い、塔から出てきた者は、エミーリアを3本目の腕で指さしたのだった。




