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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第4章
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第7話 要塞を抜けて

「緊急任務発令!緊急任務発令!腕に覚えのある戦闘旅客の参加を求む!」

 フードコートフロアに駆け込んできた軍人が、目の前に紙を持ち、それを読み上げるように叫ぶ。

「必要クラスは鉄クラス以上、必要人数20人以上!討伐任務である!」

 軍人が必要ランクを叫ぶと、該当するであろう戦闘旅客たちがわらわらと集まっていく。

 少し落ち着いたかと思うと、また、別の軍人がやってくる。

「採取任務発令!戦闘旅客ならば、全員が受注可能である!期日は3日!」

 次は、何かの採取を求める任務の発令である。

 既に夕方だが、これからは、夜行性の種の旅客たちが活動を始める時間である。 

 それらの旅客をターゲットに、任務が発令されているようだ。

 

 フードコートフロア、正式名称は『ロンギストリアータ第6要塞旅客任務局』。

 旅客情報局に似た機能を持つ、軍の施設だ。

 旅客たちからは正式名称を略して『任務局』や、フードコートが併設されているため、そのまま『フードコート』などと呼ばれる部屋だ。

 要塞の内部には同様の施設が5か所設置されており、北から1~5で番号が付けられている。

 要塞の全長は200㎞にもなるため、一か所では足りないのだ。

 旅客たちはそれぞれ、出撃したい地域の任務局を使うことになる。 

 俺たちがいるのは、第6要塞のちょうど中心に位置する、『第3旅客任務局』である。

 要塞の軌空車の駅に最も近い任務局で、かつ、最も利用者の多い任務局である。

 

「私たちは行かない?」

 俺たちが立ち上がろうとしないのを見て、エミーリアが言う。

 それに、俺が答える。

「今日はもう疲れただろ?明日から、何か受けよう。」

 俺がそう言うと、エミーリアは直に頷いた。

 戦闘旅客に限らず、辺境では、仕事にあぶれることはない。

 任務局で受注しなくても、防衛要塞内に築かれた街にも、大量の仕事があるのだ。

 辺境は、常に人不足なのである。

 まあ、今は、体を休めることを考えよう。

「じゃあ、まず、晩御飯を食べて、明日に備えよう。」

 そう言うと、エミーリアの瞳が輝く。

 どうやら、お腹が空いていたようだ。


 フードコートにある店を見回す。

 ここには、文明圏のチェーン店が並んでいるようだ。

 辺境に居れば、文明圏のチェーン店は貴重である。

 俺たちは各々、好きなものを注文して、テーブルに戻ってくる。

 俺は、焼肉丼にした。

 作太郎は、地球からやって来た「うどん」なる料理を手に取っている。

 ヴァシリーサは、ステーキを食べるようだ。

 エミーリアは、わざわざ10人に分かれて、フードコートの全メニューを制覇していた。

 いつもながら、よく食べる。


 夕食後、予約しておいた部屋に行き、眠る。

 軍の布団は、意外と寝心地がよかった。


*****


 現歴2265年5月6日 午前9時


 一夜が明け、俺たちは、再び任務局に来ていた。

 既に、朝食は済ませた。

 俺たちの装備は、全員、長期戦闘用のフル装備である。

 動きを阻害しないように、全身に荷物を分散して持っている。

 巨大すぎるバックパックは、動きを阻害するのだ。

 バックパックの大きさは一定に留め(それでも大きいが・・・)、腰のポーチや弾帯、小物保持ベルトなどを関節を避けるように装備することで、荷物の保持量と動きやすさを両立させている。

 長期戦用の装備なのは、日帰りのつもりでも、トラブルによって数日間辺境を彷徨う場合もあるためである。

 

 要塞周辺の緊急性の高い情報がないかを調べる。

 それによると、今は、比較的安定しているようだ。

 さらに近隣の詳細な地図も手に入れる。

 地図とそれぞれの場所の詳細が書かれた小冊子がセットの物だ。

 文明圏での冒険と同じく、情報は生死を分ける。


 さあ、あとは、辺境に出撃するだけだ。

「仕事は受けるっすか?それとも、自由探索にするっすか?」

 ヴァシリーサが訊いてくる。

 辺境では、仕事を受けて、その達成を目指す以外にも、何も仕事を受けずに辺境に出撃することも可能なのだ。

 それを自由探索といい、仕事の報酬はもらえないものの、自由度が高いため、自由探索メインの旅客も多い。

「まあ、初めてだし、自由探索にしようか。」

 俺の言葉に、全員が頷く。

 まずは、辺境に出てみることが、大切なのだ。

 

 俺たちは、要塞の内部を下っていく。

 原生生物に侵入された際に被害の拡大を防ぐため、要塞内部は非常に複雑な構造をしている。

 数分ほど歩き、要塞の正門に着いた。

「・・・大きい。」

 エミーリアの目が、驚愕に見開かれる。

 それもそうだろう。

 要塞の正門は、高さ100mほどの、巨大な門なのだ。

 

 要塞の正門は、高さ100m、幅50mほどのサイズで、要塞を貫通する形で造られている。

 構造的には、門というよりも、百数十mの長さの、要塞を貫通するトンネルである。

 そのトンネルの壁面に、要塞への出入り口が大小さまざま設置されているのだ。

 俺たちは、比較的辺境に近い側の出入り口から出てきたようだ。

 幅50mのトンネルは通路にもなっているようで、たくさんの人々の他、旅客が運用している装甲車や、軍の戦車なども走っている。

 ここからはよく見えないが、要塞正門の辺境の反対側は、海に面しており、港になっているらしく、そちら側では、大量の小型運搬車が走り回っている。

 

 俺たちは、門の中を、辺境に向かって歩く。

 門を抜けると、そこには、防衛要塞が広がっている。

 この通路は、辺境に向かって一直線に続いているようで、防衛要塞の防壁にも門が造られている。

 俺たちが歩いている間にも、時折、砲撃音が響く。

 防衛要塞事態も複雑な構造をしているようだが、探索はまた今度でいいだろう。

 防衛要塞には、街が形成されている。

 街は防衛要塞の防壁に囲まれた範囲内で形成されており、そこにも大量の旅客や軍人が動き回っている。

 街にも大いに興味があるが、今は、外を目指そう。


 道端で三輪タクシーを拾い、要塞の外へ向かう。

 防衛要塞を抜けるまでは数㎞ほどあるため、歩くと少し遠いのだ。 

「今から外に行くのか!がんばれよ!」

 気のいい兄ちゃんである。

「俺も多少は戦えると思ってたが、ここじゃあ通用しなかったからなぁ。ま、今の仕事も気に入ってるから、いいんだがな。」

 そう言い、運転手の青年は笑う。

 どうやら、緑クラスの戦闘旅客だったらしい。

 緑クラスは、文明圏では一流の旅客である。

 しかし、辺境では、最低限の戦闘力がある旅客といった扱いにしかならない。

 緑クラス程度の実力が、辺境では最低限必要なのである。


 要塞の外側に近くなるほど、辺境からの危険が増すため、建物の密度は減っていく。

 最後の1kmほどは、軍の建物以外、一切建造物が無くなった。

 防衛要塞の最も外側の防壁の前で、下ろしてもらう。 

「じゃ、ここまでだな。生きて帰って来いよ!」

 そう言い、タクシーは去っていく。

 要塞内とはいえ、辺境近くまで来るのは危険であるため、ここまで来る場合の運賃は高い。

 補給がしっかりしているため、辺境の物価はそこまで高くはないので、今のタクシーの運転手は、下手したら文明圏にいたときよりもいい生活ができるのかもしれない。

 

 防衛要塞の防壁は、非常に厚い。

 もっとも外側の防壁もその例にもれず、数十mほどの厚みがある。

 その防壁に、幅50m、高さ数十mほどのトンネルが造ってあり、このトンネルを抜ければ、辺境なのだ。

 ここまで1kmほどは建物がほぼ無かったが、トンネルの近くには、複数の建物が見える。

 民間の建物と軍の建物が混在しているようだ。

 辺境に出る前や帰ってきた直後の旅客を狙った店舗である。

 このあたりはかなり危険なはずだが、逞しいものである。

「砲撃権は買っていくっすか?」

 ああ、そんなものもあったな。


 砲撃権。

 その名の通り、砲撃の権利である。

 砲撃指示のビーコンを軍から購入しておくことで、任意の場所に砲撃してもらうことができるのだ。

 ダーツのような形をしており、それを突き刺した場所を目掛けて、そのビーコンに対応した要塞砲が砲撃してくれるのだ。

 口径別に販売しており、大口径で発数が多い物はより高級になっていく。

 

「試しに買っておくか。」

 俺はそう答え、防衛要塞の防壁内にある、軍の砲撃権販売店に入っていく。

 店の中は、カウンターと待つための席が配置されているだけで、至ってシンプルだ。

 今も、20人ほどの旅客が、砲撃権を買い求めている。

 カウンターの上の壁には、砲撃権の種類と値段が貼り出してある。

「15㎝砲10発でいいっすかね?」

 15㎝砲10発のビーコンの価格は20万印。

 15㎝砲弾の価格は一発数千印くらいだったはずなので、まあ、人件費とかも入れれば妥当なのだろう。

 碧玉連邦では、辺境で常に戦っている関係で砲弾の消費量が多く、量産効果でとても安いのだ。

 今回は、砲撃権の使い方を知れればいいので、最もオーソドックスな15㎝砲10発でいいだろう。

 15㎝砲10発の砲撃権を2回分買う。

 俺とヴァシリーサで一つずつ持つことにした。

 

 準備もすべて終わったので、いよいよ、要塞を出る時が来た。

 防衛要塞の門を抜ける。

 防衛要塞の前には堀があるので、そこにかかった跳ね橋を通る。

「・・・ここから、辺境。」

 跳ね橋からあと一歩で抜けるというところで、エミーリアが呟く。

 そして、意を決したように、一歩踏み出す。

 俺たちは、ついに辺境に踏み込んだのだ。


 辺境に出てすぐの場所は、幾度となく砲撃で耕されているはずの大地である。

 しかし、比較的新しそうな砲撃痕も緑の草に覆われており、辺境の生命力の強さがうかがえる。

 所々には既に深めの茂みもできており、その茂みで何かを採取している人々もいる。

 周囲には、同じく辺境に出てきた旅客や軍人たちが多く歩いている。

 不発弾処理をしている軍部隊などもいるようだ。

 少し離れた場所では、数台の戦車が土埃を上げながら、辺境の奥に向かって進んでいくのが見える。

 まだ要塞に近いので、人の営みが多い。

「じゃあ、15時くらいまで、少し先の森を探索してみようか。」

 俺の言葉に、全員が頷く。

 数百m先に、森がある。そこを探索してみるのは、初の辺境としていいだろう。

 ここから先数㎞に渡っては、草地の平原の所々に小規模な森が点在する地形になっている。

 その小規模な森のうち一つを探索することにした。

 地図にある情報によれば、文明圏内と比べれば十分危険だが、辺境としてはそこまで危険な生物はいないようである。

 今の時間は、午前9時30分。

 暗くなる前に帰ってきたいので、15時くらいに戻ってくるのを目安にする。

 

 森に向かって歩くうちに、次第に周囲から旅客や軍人の影はなくなっていった。

 それぞれの仕事や任務に向けて、旅立っていったのだろう。

 特に何かに邪魔されることもなく森に入る。

「なかなか明るい森ですな。」

 そう言うのは、作太郎。

 森の木々は、樹皮が白色をしており、木漏れ日にその白が反射して、美しい。

 地形は平坦で下草も少なく、明るい森だ。

 平坦だが、緩やかに丘になっているのか、森の反対側までは見えない。

「このあたりは、隠れられる場所が少ないっすね。」

 ヴァシリーサが言う。

 隠れられる場所は、所々にある、1.5mほどの高さの低木の茂み程度だろう。

「索敵しやすいけど、こっちも見つかりやすい。」

 エミーリアの言うとおりである。

 だが、この森には、俺たちにとって大きな脅威になる敵は少ない。

 辺境に慣れるには、ちょうどいいだろう。

 そんなことを考えていると、エミーリアが武器を抜いて身構える。

「・・・敵?」

 エミーリアが、何かを感じ取ったらしい。

 俺も、周囲を感じ取ろうと、感覚を研ぎ澄ませる。

 ・・・いる。

 20mほど先に、何かがいる。

「あー。アトオイグモがいるっすね。」

 ヴァシリーサにそう言われて、20m先を見てみれば、地面の落ち葉と同じような色をした、1mほどの平べったい蜘蛛がいるのがわかった。

 オオアトオイグモイだ。

 屍肉食性の蜘蛛である。

 旅客の後についていけば、旅客が回収しきれなかった原生生物の遺体にありつくことができるとわかっているのだろう。

 もしくは、旅客自体の遺体狙いかもしれない。

 まあ、今は害はない。

「戦う?」

 エミーリアが、問いかけてくる。

「いや、放っておこう。倒したら、その臭いで、厄介なのが来るかもしれないし。」

 辺境では、無駄な殺生は避けるべきなのだ。

 この小さな森の外から強敵がやってくる恐れもあるのだから。

 

 俺たちは、アトオイグモを後ろに引き連れながら、森の奥に向かって歩を進めるのだった。


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