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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第1章
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第6話 回収屋

 大地を揺らしながら、中型の履帯式トラックが走ってくる。

 バンタイプの荷台を持つ装甲トラックで、運転席上部には重機関銃が搭載された銃座がある。

 人数は、確認できるのは運転席と助手席に1名ずつ、銃座に1名の3人。

 回収屋が到着したのだ。

 腕時計を見れば、きっちり5分で来ている。

 装甲トラックはこちらの姿を確認すると、近くで停車した。

 運転席と助手席、銃座、荷台から人が降り、テキパキと鹿の積み込み準備を始める。

 装甲トラック1台に、護衛3名と作業員3名。

 よくある6人組の回収屋だ。

 回収屋のリーダーだと思われる、中年男性が近寄ってくる。

「どうしますか?定額買取で?こちらとしては、販売額払いよりもそっちがいいのですが・・・。」

 定額買取とは、獲物1頭につきいくら、といった形で定額で回収屋に売却する方式である。

 面倒な手続きなどなく、販売証書と現金だけもらって終わるので、手間が無い。

 しかし、売却した獲物に高値が付いたとしても、あとから受け取ることはできない。

 販売額払いは、獲物を処理して販売したのち、その販売額から回収屋の取り分を引いた分を受け取る方式である。

 基本的に定額払いよりも高くなるが、支払い方法の指定や手数料の取り決めなど、面倒な契約が多い。

 高額な獲物の場合は販売額払いがいいが、今回の場合は定額買取でいいだろう。

「定額でいいよ。いくら?」

「この個体なら、6,000印ですかね。」

 ふむ。安いが、まあ、妥当だろう。

 今は、駆除依頼が出るほど、数が出ているのだ。本来よりも値が下がるのは、仕方がない。

 回収屋から、6,000印を受け取る。

「お金の管理は、私がやりましょう。」

 レナートがそう言うので、渡しておく。

 初対面の旅客パーティの場合、金の持ち逃げなどを考慮しなければいけない場合もあるが、今回は大丈夫だろう。

 流石に、青鉄クラスがいるところで持ち逃げなどはしないと思われる。

 

 回収屋と金額の相談をしているうちに、作業員が鹿を積み終わったようだ。

「じゃあ、戻りますね。」

 そう言い、回収屋はトラックに乗り込んでいく。

「ああ、待ってください。」

 それを、引き止める。

「すぐにもう1頭討伐するので、それも回収していってください。

 トラックのサイズ的に、もう1、2頭は乗るだろう。

 いちいち呼びなおすのも面倒くさい。もう1頭ぐらい積んでもらおう。

 そんなことを考えていると、レナートが不思議そうな声を上げた。

「まだ、見つけてすらいないですよ?」

 ・・・?

 周りを見れば、皆、不思議そうな顔をしている。

 回収屋にいたっては、面倒くさそうな表情ですらある。

「すぐっていっても、30分くらいはかかるでしょう?早く持ち帰って処理しないと、肉が傷みます。それとも、1分で仕留めでもしてくれるんですか?」

 回収屋は、不満そうだ。

 そうか。普通はそうなるか。最近、仕事を受けていなかったから、失念していた。

 30分もかかるようなら、流石に回収屋を待たせはしない。

 今回の鹿なら、1頭10秒もあれば、十分だ。 

「1分?そんなにかからないですよ。1分経っても仕留められないようだったら、お帰りになって大丈夫ですから。」

 そう言い、回収屋を引き留める。

「それくらいなら、まぁ、いいでしょう。いいもん、見せてくださいね。」

 回収屋は何かを察したのか、少し楽しそうな表情で言う。

「う~ん、見てて楽しいかはわからないけど、手早くは済ませるよ。」

 そんなことを言いながら、戦闘服の裏に仕込んである、肉厚のナイフを取り出す。

 鍔の無い、投擲にも使えるように設計した、大きなナイフである。

 さて、鹿の方向は・・・こっちか。

 目を凝らせば、米粒のように小さく鹿が見える。

 そのままではいまいち種の判別がつかないため、腰のポーチから、単眼鏡を取り出し、確認する。

 青鉄旅客といっても、目がいいわけではないのだ。

 黒っぽい毛皮に、立派な角。オオタイグンジカのオスに間違いない。

 近くにほかの旅客もいない。あれは、仕留めてもいいだろう。

「あそこに、鹿が見えるかい?」

 皆に、言う。

 すると、回収屋含め、全員が気付いたようだ。

「いるけど、すごく離れてるよ?どうするの?」

 フーロが、疑問の声を上げる。

 単眼鏡の目盛りで大まかに測れば、鹿との距離は、大体、500mくらいだ。

 皆が見ているのを確認し、少しオーバーなモーションで、鹿に向かってナイフを投擲する。

 ナイフが手から離れる瞬間、柄尻の部分を指で強く押し出し、ナイフを加速させる。

 音速の2倍程度まで加速したナイフは、衝撃波を伴いながら、瞬きの間に鹿の首を撃ち抜く。

 鹿の首が衝撃に耐えきれず、断裂して吹き飛ぶのが、ここからでも見える。

「よし、討伐完了!」

 そう言い、周囲を見れば、皆、呆然としている。

 さて。回収してもらわなければいけない。

「じゃあ、回収お願いします。先に行っててください。追いつきますので。」

「え・・・?えぇ?・・・わかりました?」

 回収屋は、困惑しながらもトラックを発進させ、討伐した鹿の方へと向かう。

「よし、回収屋を追いかけるよ!」

 そう言い、歩きはじめるが、4人が動かない。

 様子を見てみれば、皆、放心している。

「今、何を・・・?」

 レナートが、ぽつりと呟いた。

 ちょっと、衝撃が強すぎたようだ。

「ナイフを投げて、鹿を討伐したんだ。さ、回収屋さんを待たせないように、行くよ!」

 俺の声にハッとして、4人が歩き出す。

「す・・・すげぇな・・・」

 歩きながら、角蔵が、ぼそりと言う。

「あんなの、現実にあるんだね・・・」

 フーロも、心ここにあらずな感じだ。

 エミーリアを見ると、表情は薄いが、驚いているようにも見える。

「・・・。」

 エミーリアの目線が、こちらを向く。

 何も言わず、観察しているような視線だ。すこし、居心地が悪い。

「わかっている?」

 エミーリアが、俺にしか聞こえないように、言う。

 ああ、わかっているとも。

 無言で頷いておく。

 エミーリアは、少し安心した表情をした後、表情を戻すと、黙々と歩きはじめた。


 ちょうど、鹿を装甲トラックに積み込み終えたとき、回収屋に追いついた。

「今回の鹿は、いくら?」

 回収屋に訊く。

「今回のは、さっきの鹿より少し小さいので、5,000印ですね。」

 まあ、妥当か。

 お金と討伐確認部位の小角を受け取り、レナートに渡す。

 これで、2頭討伐。報酬が2頭で10,000印、買い取りが11,000印。まあ、この短い時間でそれなりに稼いだだろう。

 そろそろ、戻ってもよいかもしれない。

 ・・・少し、よくない気配がする。

 ちょっと、気づくのが遅かった。対応しなければいけない。

「トラックもいっぱいなんで、私たちは戻ります。またよろしく。」

 回収屋は、そう告げると、いそいそと装甲トラックを発進させる。

 回収屋は感づいていたらしい。あの回収屋のおっちゃんは、なかなかな実力者のようだ。

 装甲トラックが地面を揺らしながら、走り去っていく。 

「さて、そろそろ戻りますか?」

 レナートがそう言う。

 角蔵と、フーロも、戻るのに納得しているようだ。

 3人は、まだ気づいていない。


 だが、エミーリアが、剣ヶ峰の方向に目を向け、動かない。

 数百m先の、剣ヶ峰麓の森の入り口を見つめている。

 ・・・エミーリアも、察知したらしい。


 装甲トラックはもう見えない。

 しかし、地面は揺れている。


 ここにきて、全員、異常に気付いたようだ。

 角蔵、レナート、フーロは、訳が分からないといった風に、きょろきょろしている。

「あそこだ。」

 森林の方向を指さし、方向がわかっていない3人に、場所を示す。


 俺の声とほぼ同時に、森林から、6人の旅客が、飛び出してくる。

 6人は何かから逃げるように、全力で走っている。

 

「来る。」

 エミーリアが呟く。

 その瞬間、森の木々が吹き飛び、何かが飛び出してきた。

 全身は透明感のある黒で、内部には透けていないどろりとした黒い何かが詰まっている。

 身体は蛇のように長く、体側から無数の腕が等間隔に生えている。関節や体の起伏は不明確で、顔は目と口にあたる部分には白く光る丸い穴が開いているだけだ。

 ・・・ちょっと、予想よりもヤバいやつが飛び出してきた。

 あれは『ツルギガミネセンジュ(剣ヶ峰千手)』。『剣ヶ峰の悪夢』と呼ばれる、剣ヶ峰内部に生息している非常に強力な生物である。

 無数の腕が、命名の由来だ。ある程度の形を保った不定形生物である。

 本来、剣ヶ峰の地中に生息している生物が、なぜ、こんな場所にいるのだろうか?

「そこの旅客!こっちだ!」

 ひとまず、叫ぶ。

 声が聞こえたのか、6人の旅客が、こちらに走ってくる。

 その姿を見つけたツルギガミネセンジュは、大地を揺るがす咆哮を上げた。

 その咆哮は、変に透明感のある、低い音で、聞いているものを不安にさせる。

「エミーリア、全員を率いてここで待ってて。」

 指示を出し、駆け出す。

 走ってくる旅客を見れば、悲痛な形相だ。

 ツルギガミネセンジュの咆哮に中てられているようだ。

 すれ違いざまに、声をかける。

「俺に任せろ。」

 そう言うと、一瞬、ぎょっとしたようにこちらを見る。

「無理だ!逃げろ!」

 6人のうち一人が、叫ぶ。

 基本は良いやつらなのかもしれない。

 4人が、咆哮に中てられているというのに、俺を逃がそうと、立ち止まり、武器を構えようとする。

 しかし、この4人では、ツルギガミネセンジュの相手は、難しいだろう。

「命を捨てるな!退け!」

 少し強めに言えば、4人は少し逡巡したものの、すぐに駆け出す。

 物分かりが良くて助かった。


 正面を見れば、俺を見て、ツルギガミネセンジュは動きを止め、こちらの様子を伺っている。

 俺の強さを、何となく察しているようだ。


 だが、逃げる気はないらしい。

 仕方がない。少し痛い目を見れば、逃げ帰ってくれるだろうか?

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