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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第4章
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第5話 要塞のルール

 10分ほど、たっぷりと辺境を眺めた後、要塞の内部へと戻る。

「いやはや、恐ろし気な場所ですなぁ。」

 そう言うのは、作太郎。

 そう言いつつも、その声色は、どことなく楽しそうである。

 おおよそ、強そうな気配を大量に感じて、喜んでいるのだろう。 

 作太郎は、強者に喜ぶ人種なのだ。

「・・・少し、怖い。」

 エミーリアは、そんな作太郎と対照的で、怖がっているようである。

 エミーリアは、間違いなく強い。

 しかし、その強さは、辺境においては、絶対ではない。

 そのことを、辺境を見たことで、理解したのだろう。

「いやー。やっぱ、辺境は怖いっすねー。」

 軽く言うのは、ヴァシリーサ。

 しかし、その言葉の裏に、本物の恐怖が隠れているのを、俺は聞き逃さなかった。

 辺境から生還した経験があっても、恐ろしい場所であることには、変わりがないのだ。

「メタルは、怖くない?」

 エミーリアが、訊いてくる。

 さて。

 俺は、辺境は怖いだろうか?

 ・・・。

 少し考えてみたが、怖くはない。

 そもそも、辺境とはいえ、俺にとっての強敵は多くはない。

 このあたりの地域では、その強敵もいない。

 この辺ならば、まだ、怖くはない。

「このあたりならまだ、怖くないかな。」

 俺がそう言うと、エミーリアの視線が、尊敬を含んだものに変わる。

 作太郎とヴァシリーサからの目線も、少しの憧れを感じるものに変わったようだ。

 ・・・なんだか、こそばゆい。



 そんなことを話しながら軌空車のホームに降り、そのまま、ホームから要塞入口に向かう。

 要塞入口と言っても、軌空車のホーム自体が要塞内部であるため、旅客用要塞入口と書かれた扉が、壁に並んでいるだけだ。

 それぞれの入り口には赤い「受付不可」と緑の「受付可」が書かれた表示があり、対応する場所が光っている。

 受付可という緑の表示が光っている入口ならば、利用可能なようである。

 俺たちが要塞の上から辺境を眺めている間に受付は進んでいたようで、今は、どこの部屋も空いている。

 とりあえず、適当な一室に入る。

 すると、朗らかな声をかけられた。

「ようこそ!ロンギストリアータ第6要塞へ!」

 そう声をかけてきたのは、受付を担当する軍人だった。

 軍人は、受付用の机の横に立ち、敬礼している。

「では、皆様の旅客証をお願いします。」

 その軍人に促され、旅客証を渡す。

 軍人は、俺たちの旅客証を、まとめて、読み取り機に差し込む。

 一部屋で複数同時に受付が可能なようである。

「ロンギストリアータ第6要塞がが初めての作太郎様とエミーリア様、最後に来たのが5年以上前のメタル様は、要塞の滞在者講習を受講する必要があります。」

 5年以上たっていると、講習を受けなければいけないのか。

「あたしも一緒に受けられるっすか?」

 ヴァシリーサが、そう、軍人に訊く。

「ええ。受講できます。では、皆さま、2番の扉にお進みください。」

 軍人は、2、と書かれた扉を示す。

 講習を受講しない者は1番、受講する者は2番に進むようだ。

 

 扉をくぐった先では、数十人の旅客たちが、用意された椅子に座って待っていた。

 部屋の入り口で、軍人に、資料を手渡される。

 俺たちは、後ろの方の席に座り、集まった旅客たちを見渡す。

 旅客の職種は、様々なようである。

 辺境に来るのは、なにも、戦闘旅客だけではない。

 多数集まっている旅客や軍人をターゲットにする理容旅客や調理旅客、鍛冶旅客、さらには性風俗を行う性旅客までいる。

 ちなみに、この星では、性風俗は特に強く規制はされていない。

 下手に規制してアンダーグラウンドな犯罪組織の資金源にされるよりも、しっかり見えるところで管理した方がよほど良いという考えのようである。

 性病や妊娠を防ぐ魔術が十分に普及しており、危険性が少ないことも、規制されていない理由になるだろう。

 まあ、その話は置いておいて。

 今回の旅客たちを見れば、やはり、戦闘旅客が一番多い。

 全体の8割ほどが戦闘旅客のようだ。

 残りが、調理旅客や鍛冶旅客のようで、少数だが性旅客らしき人もいる。

 戦闘旅客は、皆、歴戦の勇士といった面構えをしている。

 どの戦闘旅客も、一癖も二癖もありそうな連中だ。


 俺たちが席に着いてからも、続々と旅客が部屋に入ってくる。

 最終的に100人ほどが部屋に集まり、その6割程度が戦闘旅客のように見える。

「では、これより、要塞規定についての講習会を開催する!」

 軍人が、声を張り上げる。

 その声に、騒がしかった旅客たちが、静かになる。

「最初に、ロンギストリアータ第6要塞司令官、イグニ=アリウス中将より、訓示があります!」

 その声を合図に、部屋の奥の壇上に、一人の男が現れる。

 筋骨隆々の身体に、くるりと巻いた角。

 山羊人のようだ。

 その山羊人、イグニ=アリウス中将は、マントを翻し、堂々と壇上に立つ。

 そして、声を張り上げる。

「諸君!ようこそ、辺境へ!我々は、諸君を歓迎する!」

 よく響く、野太い美声である。

「諸君らは、勇敢なる戦士かもしれない。炎と鉄を自在に操る鍛冶師かもしれない。我々の胃袋を掴む料理人もいるだろう。戦いを忘れられる、楽しい時間を提供してくれる人々もいることだろう。」

 身振り手振りを交えた語りは、思わず引き込まれるような魅力がある。

「もしかしたら、退屈な日常から脱するために来た者もいるかもしれない。自らが犯した罪の罰から逃げてきた者も、あるいは、いるのだろう。」

 その言葉に息をのむ雰囲気が、いくつかある。

 辺境は、犯罪者の高跳び先としても、有名である。

「だが!我々は、全てを等しく、歓迎する!」

 アリウス中将は、大きく手を広げ、大きな声で、そう宣言した。

「辺境は、深く、厳しい。そこに挑む我々には、常に人手が足りないのだ!ここでは、過去は問われない。どんな過去があろうとも、ここでは、等しく、辺境の脅威に挑戦する、仲間なのだ!」

 大きな身振りに、良く通る声、そして、巧みな緩急。

 アリウス中将は、かなり演説慣れしているようである。

「最後に、再び言おう!ようこそ、辺境へ!皆の働きが、そのまま、皆の栄光に、ひいては、文明の防衛と未来へと繋がっているのだ!以上。」

 演説が終わり、拍手が起きる。

 その拍手の中、アリウス中将が、下がっていく。

 それと入れ替わりで、別の軍人が入ってくる。

「では、次に、要塞での規則をお伝えします。」

 そのまま、軍人が要塞での規則を伝え始める。


 解説は、要塞の戦闘態勢から、それぞれの状態での旅客の取り扱いに関する者だった。

 要塞の戦闘態勢は、この国全土で使用されている第5種戦闘態勢から決戦態勢の6段階が同じく適用されているとのことである。

 第5種戦闘態勢は『警備程度』の戦闘態勢で、文明圏でも危険度が低い地域での平時体制のことである。

 第4種戦闘態勢は『低強度の原生生物からの攻撃もしくは数人程度からなる小規模な集団からの攻撃』に対応できる戦闘態勢で、文明圏での多くの基地の平時体制である。

 この要塞では、そもそも第5種および第4種戦闘態勢になることがないので、参考程度に説明されただけだった。

 第3種戦闘態勢は『中強度の原生生物からの攻撃もしくは軍事組織からの小規模な攻撃が想定される』段階での戦闘態勢で、この要塞での平時体制でもある。

 この段階は、文明圏内では避難勧告が出るレベルだが、この要塞における旅客の活動に特段の制限はないとのことだ。

 第2種戦闘態勢は『高強度の原生生物からの攻撃もしくは有力な軍事組織からの攻撃が想定される』段階の戦闘態勢で、この要塞では、月に数回の頻度で発令されている。

 避難勧告は出るものの、旅客の活動に制限はかからないとのことである。

 第1種戦闘態勢は『非常に強力な原生生物からの攻撃もしくは軍団規模の軍事組織からの攻撃』が想定される状態で、この要塞では数年~十数年に1回の頻度で発令されている。

 この段階では、要塞の旅客たちは軍の指揮下に入り、組織的に原生生物を迎え撃つことになる。

 加えて、ヴィリデレクス州全体でこの要塞を支援する体制になる。

 また、発令後1時間で要塞外部と接続する大きな門は閉鎖される。

 要塞へは、戦時通用口からしか出入りできなくなるのだ。

 決戦態勢は『文明存続の重大な危機』における戦闘態勢であり、この要塞では、過去に2回発令されている。

 この段階では、国全体が戦時体制となり、文明の防衛に全力を尽くすこととなる。

 俺たちに関係することとすれば、即座に全門が閉鎖され、戦時通用口しか使えなくなることだろうか。

 

 現在は、第3種戦闘態勢とのことで、まあ、平時体制である。

 俺たちの活動に制限はないらしい。

 

 また、第1種戦闘態勢と決戦態勢の時用に、全員に臨時に階級が付与されるようだ。

 旅客としてのランクをもとに格付けされ、白クラスが二等兵、赤クラスが一等兵、黄クラスが上等兵、緑クラスが軍曹、青クラスは曹長とのことである。

 さらに上の、鉄クラス以上では、個人の資質に合わせて、臨機応変に階級が変わるようである。

 

 講習が終わった後は、臨時階級付与のための、試験と面談が行われた。

 俺は、既に客員大将という階級があるので試験はない。

 ヴァシリーサも、以前来た時の階級がまだ使用できるようである。

 ちなみに、ヴァシリーサは少将だった。

 正確には、ヴァシリーサ旅客少将になるそうだ。

 青鉄クラスであることを加味しても、高めの階級だろう。


 エミーリアと作太郎が、試験と面談を終えて合流する。

 階級は、エミーリアが中尉、作太郎が大佐である。

 作太郎は、元居た自治区での指揮官経験が加味され、階級が高くなったようだ。

 第1種以上の戦闘態勢の際、ヴァシリーサと作太郎は、他の旅客を率いて戦うことになるのだろう。

 しかし、結構長かった。

 試験と面談合わせて2時間といったところか。

 現在の時刻は13時。

 昼時である。

 

 さらに、エミーリアと作太郎は、午後に旅客用士官教育まで受ける必要があるようだ。


 辺境に出撃できるのは、明日になりそうだ。


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