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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第4章
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第4話 辺境へ向かって

 高い建物の最上部にあったオベリスクシステムのホームから降りる。

 地面に降り立てば、聳え立つ壁の姿は、より際立つ。

 夜闇の中ですら、一切陰ることのないその威容は、あたかも山脈の如く。


 ロンギストリアータ要塞群。


 ヴィリデレクス州と辺境の大陸を繋ぐ『ロンギストリア地峡』を塞ぐように建造されている、大要塞だ。

 大要塞ロンギストリアータとも呼ばれる、ヴィリデレクス州最大の要塞である。

 幅200km~300kmほどあるロンギストリア地峡を横断するように、数十kmおきに6層にも渡って建造されている。

 最も文明圏に近い要塞が『ロンギストリアータ要塞群 第1要塞』で、外側に行くほど番号が大きくなっていく。 

 名前が長いので、多くの場合は『第1要塞』などのように、番号だけで呼ばれることも多い。

 

 要塞は、厚さ100㎜の装甲板と厚さ数mのコンクリートを複数層重ねて建造してある。

 要塞の主砲は、大盾要塞と同じ『150cm汎用魔導火薬複合方式滑腔砲』だ。 

 それを三連装砲塔もしくは連装砲塔に収めて、壁の上に20kmおきに設置してある。

 さらに、80㎝砲や50㎝砲、30㎝砲に50㎜機関砲など、様々な種類の砲が、数えるのが嫌になるほど配備されているのだ。

 それらは全て、データリンクした上で、リスク分散のために大量に設置された射撃指揮所によって統合制御され、効果的に射撃できるようになっている。

 ロンギストリアータ要塞群は、防御力、攻撃力どちらも極めて強力なのである。

 その力で、今日も文明を守り続けているのだ。

 

 駅から見えた、両側の地平に向けて伸びている巨大な壁は、第1要塞である。

 要所要所に巨大なレーダー塔があり、その頂点に設置してあるレーダーをぐるぐると回している。

 対空警戒をしているのだ。

 第1要塞には、対空機関砲や大口径の高射砲、電柱のように巨大な対空ミサイルに制空戦闘機が大量に配備されている。

 前の要塞群の上空を超えてきた原生生物を止める最後の砦なので、防空力が大きく強化されているのだ。

 

 第2要塞以降は、第1要塞に遮られて見えない。

 それだけ巨大な要塞なのである。



 駅から出て、街を歩く。


 ロンギストリア市。

 要塞都市ロンギストリアや半地下都市ロンギストリアとの呼ばれ方もする、それなりに大きな都市だ。


 第1要塞に隣接して建造されている都市である。

 コンクリートと鉄板で造られた、角を丸めた四角形の建物で構成された街であり、武骨な雰囲気を漂わせている。

 人口は100万人ほど。

 要塞に勤務している軍人の家族と、辺境を目指す戦闘旅客が多く、それらに対するサービス業が盛んな都市である。

 さらに、要塞に配送する物資の集積所機能も持っている都市であり、ロンギストリアータ要塞の動脈ともいえる都市なのだ。

 そのため、軍の防衛部隊も厚く配備されており、都市の外周も完全に要塞化されている。

 それに加えて、いざという時に備えて、都市機能はほとんどが地下に移されている。

 都市の地上部を原生生物に完全に破壊されたとしても、都市機能を失うことはないのだ。


 街並みを見る。

 いざというときに逃げやすいよう、屋台などはない。

 全ての店は強固な店舗内で営業している。

「・・・眠い。」

 そう、むにゃむにゃした声で言うのは、エミーリア。

 エミーリアの声に反応して腕時計を見ると、時刻は夜10時を回っている。

 とりあえず、旅客情報局に向かう。


*****


 この都市の旅客情報局は、思ったよりも大きくなかった。

 規模としては、人口30万人の剣が峰町の旅客情報局を少し大きくした程度だ。

 軍が多く展開しているため、戦闘旅客向けの仕事がほとんど無いので、その分規模が小さいようである。

 辺境帰りの旅客向け窓口があるのが、特徴的であった。


 旅客情報局が斡旋してくれた宿に向かう。

 宿の外見はほかの建物と変わらなかったが、内装は、コンクリートむき出しの部屋を、上手くおしゃれに仕上げており、雰囲気のいいものであった。

 部屋数には余裕があるということで、一人一部屋でゆっくり休むことができた。


*****


 現歴2265年5月5日 午前9時


 一晩ゆっくりと過ごした宿を出る。

 今日は、要塞の外、辺境に向けて移動するのだ。

 要塞は、数十㎞置きに6層建造されている。

 要塞間の距離平均はおおよそ50㎞なので、単純計算で、最も外側の『ロンギストリアータ要塞群 第6要塞』は、ここから250㎞以上も離れてることになる。

 そのため、ロンギストリアータ要塞間の異動は、専用の軌空車で行う。

 この軌空車の路線は、民間路線とは合流していない。

 いざというときは、装甲軌空車が大量に展開する、要塞の防衛システムの一部なのだ。

 

 専用の軌空車に乗り込む。

 ロンギストリアに来た際に乗った軌空車と同じく3階建てのようだが、雰囲気は全く違う。

 その車体は武骨な装甲覆われ、側面と上面を濃い緑と青みがかった緑の迷彩模様に、車体の下面を青みがかった明るい灰色に塗り上げている。

 車体上面には、50装機関砲塔が2基。

 車体下面には、15㎝連装砲塔が1基。

 さらに、車体の四隅には、15㎝砲の単装砲郭がそれぞれ1基ずつ計4基搭載されている。

 多数が運用されている軍用軌空車の、戦闘輸送型である。

 自衛しながら、前線に物資を輸送できるように開発された車両だ。

 

 その車両に、他の旅客たちとともに乗り込む。

 車体自体が巨大であるため、武装にスペースを取られても、400人は乗ることができるようだ。

 

 軌空車は、滑るようにロンギストリアを出る。

 第1要塞の壁に迫ると、壁の一部が開き、トンネルが現れる。

 そのトンネルに、軌空車が入り込む。

 そこは、軌空車のホームになっている。

 無数の軍人が降り、無数の軍人が乗り込んでくる。

 この便は、軍人たちの足としても活用されているのだ。


 軌空車は、再び滑るように動き出し、第1要塞のトンネルを抜ける。

 装甲の一部に開けられた視察口から外を見れば、そこは、広大な大地だった。

 所々の草が剥げた大地で、森もあれば、川もある。

 大地の先には、第2要塞の先端部が、辛うじて、うっすらと見える。

 50㎞先からも見えるほどの要塞なのだ。

 下に目をやれば、戦車や装甲車、歩兵が動き回っている。

 第1要塞と第2要塞の間は、軍の演習場として使用されているのだ。

 幅100㎞、長さ50㎞と広大だが、要塞の間にあることで経済価値の少ない土地である。

 演習場としては最適なのだろう。

 時折、土地を調査しているような一団も見える。

 辺境に植生や環境が近いため、環境調査なども行っているようだ。


 数分で、第2要塞にたどり着く。

 第2要塞でも、先ほどと同じように、壁が開いて、軌空車を迎え入れる。

 開く壁の上には、要塞の壁面から管制室らしきものが張り出している。

 気づかなかったが、第1要塞にも似たようなものがあったのかもしれない。

 ガラス張りに見えるが、あれも頑丈に造ってあるのだろう。

 軍人や旅客が乗降した後、再び、軌空車は動き出す。


 第2要塞を抜けると、そこは、海だった。

 大量の軍艦や商船が、行き交っている。

 海の向こうには、長大な第3要塞が見える。

 第2要塞と第3要塞の距離は遠いようで、海の先30㎞くらいの位置に、要塞が見える。

 ここは、『北部ヴィリデレクス海』と『南部ヴィリデレクス海』を接続する、大運河なのだ。

 堀としての役割もあり、防衛にとっても重要な区画だ。

 軍艦より商船の数の方が多いようで、軍艦も、沿岸防衛用の砲艦が中心のようである。


 再び数分で、第3要塞に到着する。

 壁が開き、軌空車を迎え入れる。

 今回の要塞では、軌空車が止まらない。

 そのまま、軌空車は要塞トンネルを通過した。


 その理由は、要塞を抜けたら発覚した。

 第4要塞が、今までの要塞よりかなり近い位置に見える。

 さらに、周囲を見れば、全方位を要塞に囲まれているようである。

 ロンギストリアータ要塞群の第3要塞と第4要塞は、運河の中央に聳える島の上に建造されているのだ。

 その要塞の東側が第3要塞で、西側が第4要塞になっている。

 直径50㎞の円形をしたこの島は『ロンギストリア島』といい、『要塞島』などの別名もある、ロンギストリアータ要塞群の中心地だ。

 島の中央に聳える塔に、軌空車は横づけする。

 この塔は、ロンギストリアータ要塞の総司令部である。

 下を見れば、直径50㎞の円形の土地という広大な土地に、都市が広がっている。

 ここは『ロンギストリアータ要塞市』で、人口30万人ほどの都市である。

 軍人と軍人向けサービス、いざ立てこもる際の食料や兵器の生産プラントで構成された、軍事都市だ。

 今までで一番長い時間停車し、大量の軍人が乗降する。

 軍人向けのサービス業が多いため、一般人の乗降も多い。

 一方で、旅客の乗降は少ないようだ。

 乗降を終えると、軌空車は、再び動き出す。


 第4要塞を抜けると、再び海に飛び出す。

 眼下を見れば、こちらの運河は、商船よりも軍艦が多いようだ。

 軍艦も、先ほどの運河よりも大きく強そうな艦が多い。

 より、前線に近いからだろう。


 軌空車は、海に面した崖の上に聳え立つ第5要塞に入っていく。

 ここで、大量の旅客が降りた。

 俺たちは、降りない。

 軌空車は動き出し、第5要塞を抜ける。


 第5要塞を抜けた先は、広大な森が広がっている。

 地峡の最も広い部分で、幅は200㎞はほどもある。

 ここから先の第6要塞までの80㎞ほどの地帯は、完全に制圧されているわけではないのだ。

 第6要塞の完成から、15年。

 文明は、未だに第5要塞と第6要塞の間を、攻略しきれていない。

 元々辺境だったこの土地は、全周囲を要塞と海に囲まれても、未だに入場条件が緑クラス以上限定の、難度の高いフィールドなのである。

 そこの制圧に、軍と旅客が取り組んでいるのだ。

 第5要塞で降りた旅客たちは、第5要塞から、この区画を攻略しに来たのだろう。

 未だ制圧されていないとはいえ、第6要塞の外側よりは、難度は低い。

 それでいて、得られる富と名声は文明圏の比ではないのだ。 

 緑クラスから鉄クラスくらいの、世間一般で言えば一流と言える旅客たちが、数多く挑んでいるのである。



 軌空車は、第6要塞に差し掛かる。

 そこのホームで、俺たちは、降りる。

 深い要塞の底でも、砲撃の音が、遠くから響いてくる。

「さて、どうしようか?」

 辺境を知っているヴァシリーサに問う。

 要塞の通路は、攻撃された際の被害局限のために複雑に張り巡らされており、さらに、細かく区画分けされている。

 そのため、先に目的地を決めなければ、余計に歩き回る羽目になりやすい。 

「まず、要塞の上から、辺境を見てみるのがいいと思うっす。」

 ヴァシリーサが、そう言う。

 いい考えだ。

 これから戦う場所を、事前に見ておくのは、大切だろう。

 エミーリアと作太郎を引き連れ、要塞の上を目指す。

 このあたりの区画は、旅客に開放されているため、特に許可なく出歩いていいのだ。

 この要塞は、非常に特殊な環境である。

 そのため、独自のルールが多い。

 それについて、1日講習を受ける必要があるのだ。

 要塞の多くの区画は、その講習を修了しなければ、出歩くことはできない。

 しかし、軌空車の駅に最も近い要塞屋上出口には、講習を修了しなくても行くことができる。 

 まず、辺境を肌で感じてもらおうという、計らいである。


 要塞の壁に掲示された指示に従い、要塞の屋上に向かう。

 数分ほど歩くと、要塞の屋上に着いた。


 要塞屋上への出口は、高さ2m、幅3mほどの開口部である。

 開いている金属製の扉はスライド式で、厚さは30㎝ほどもある。

 そこから、要塞の屋上に出る。


「・・・・!!」

「・・・ほう、これは・・・。」

 エミーリアと、作太郎が息をのんだのが、わかる。


 要塞の高さは、数百mはある。

 俺たちは、150㎝砲の砲塔が設置されている塔から、要塞の本体たるカーテンウォール上に出てきたのだ。

 カーテンウォールの厚さも100m以上ある相当なものである。

 だが、二人は、その要塞の巨大さよりも、辺境に目が釘付けになっている。 

 数百メートルもの高さから、辺境を見渡す。



 高層ビルが霞むような大きさの木々で構成された、あまりにも広大な森林。

 その森林にあって尚、存在感を放つ奇岩の数々。

 そして、その全てを圧倒する威容を見せる、白銀の山々。

 巨大な竜巻が消えずに吹きすさぶ暗き土地に、草木一本見えない不毛の大地。

 突き抜けるような晴天の空に、無数の滝を降らせる巨大な島がいくつも浮かび。

 古の時代に建てられたであろう都市の名残が、遺跡としてその身を風雨に晒している。

 


 そして、その全てから、呼吸すら困難にさせるほどの、濃密な生命の息吹が、叩きつけられてくる。



 ここは、辺境。

 宇宙まで進出した文明すら拒み、しかし、無限の富と名声が眠る場所。

 究極の、試練の大地である。


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