表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第4章
66/208

第3話 軌空車で長旅


 現歴2265年5月4日 午前5時


「にぇむい・・・。」

 目をこすりながら、舌足らずな声で眠さを主張するのは、エミーリア。

「仕方がないとはいえ、眠いっすね。」

 ヴァシリーサは、そう言いつつも、はっきりと目を覚ましているようだ。

「某には、わからなくなって久しい感覚でござるなぁ。」

 一切眠くなさそうなのは、作太郎。

 そもそもアンデッドなので眠る必要がないのだ。

 正直、俺も少し眠い。

 

 俺たちは、ムスカリアのオベリスクシステムの駅に居た。

 ヴィリデレクス州は、アフリカ大陸並みの広さがあった中央州より、さらに広い。

 そもそも、中央州は4州あるうち最小の州である。

 ヴィリデレクス州は2番目に大きな州であり、その面積は、中央州の5倍ほどある。

 ムスカリアはその東端に位置する形になる。

 俺たちがこれから向かうのは、ヴィリデレクス州の西端にある『ロンギストリアータ要塞』。

 正確には、その要塞を越えた先の辺境だ。

 そこまでの距離は、直線距離でも10,000㎞を超える。

 時速700㎞を誇るオベリスクシステムでも、14時間以上かかってしまう計算だ。

 そのため、朝早い便に乗ることにして、朝の6時に駅に来ているのである。

 この距離ならば飛行機で行きたいところだが、辺境近くの1000㎞ほどは旅客便は飛んでいない。

 辺境から原生生物が飛来することが怖いのだ。

 旅客機では退避しきれず、撃墜される可能性があるのだ。

 もし、ロンギストリアータに飛行機で直接向かいたいならば、護衛付きの軍の輸送機に乗るか、自分で飛行機とその護衛をチャーターしなければならない。

 軍の輸送機は、今日は特に飛ぶ予定はないそうだ。

 飛行機を護衛ごとチャーターすれば、高額の費用が掛かる。

 そのような状況でも、オベリスクシステムならば、、ロンギストリアータ要塞のふもとにある街『ロンギストリア』に直接乗り付けることができる。

 オベリスクシステムは、元々は装甲列車用のシステムとして開発されたものである。 

 軌空車は、旅客機よりもはるかに頑丈なのである。


 長距離軌空車が、駅のホームに入ってくる。

 今回の旅では、旅客向けのチケットを買った。 

 車両編成は、大型軌空車が3両。

 前後の2両が客車で、中央が娯楽車兼護衛車である。

 中央の車両の上部には、剣ヶ峰旅客情報局分局に設置されていたものと同型の50mm連装機関砲塔が搭載されている。

 移動時間が10時間を超える軌空車には、このような娯楽車が付属することがあるのだ。

 護衛車も兼ねているのは、辺境近くまで向かうからだろう。


 俺たちは、眠い目をこすりながら、軌空車に乗り込むのだった。


*****


 大型の軌空車の客車は、内部が3階建てになっており、俺たちは前方の客車の最上階に席を取った。

 3階が1席当たりの値段が最も高く、1階が最も安いのだ。

 軌空車に乗って、席に向かう。

 3階の席は、一人一人に個室が提供されている。

 個室と言っても、1畳程度の小さな部屋だ。

 これが1両に30室ほどある。

 狭いとはいえ、部屋が区切られていれば、快適さは大きく違う。

 とりあえず、荷物を置いて、横になる。

 まだ朝は早く、眠いのだ。

 軌空車の3階は、1階部分よりも動力より遠いため、静かである。

 目を閉じれば、すぐに夢の世界へと旅立つことができた。


  

 ・・・目を覚ます。

 時計を見れば、午前9時。

 4時間ほど寝たことになる。

 十分寝たため、頭の中はすっきりだ。

 娯楽車に行ってみよう。


 中央の娯楽車には、多くの娯楽が集まっている。

 軽く体を動かすためのトレーニングルーム、ボードゲームも遊べる談話室、食堂に酒場、ゲームセンターなど、長い旅に退屈しないように気を配っているのだ。

 客車と同じく3階建てで、1階に食品関係の施設、2階に娯楽施設が入っている。

 3階は、上部の50mm連想機関砲塔のための戦闘用区画である。

 

 とりあえず、腹が減ったので、食堂に向かう。

 この軌空車の食堂は、自動食堂のようである。

 端的に言えば、自販機を並べただけの食堂だ。

 大型の軌空車とはいえ、調理場を複数内蔵するには狭い。

 この軌空車は調理場は酒場にあるようである。

 旅客向けの娯楽車の場合は、酒場に調理場があることが多い。

 この軌空車は、旅客向けのものなのだ。

 朝食用ということで、自販機で雑炊を買う。

 雑炊のボタンを押してから、数十秒待つ。

 表示されているカウントダウンが減り切ると、ピー、という音がしたので、自販機の扉を開ける。

 注文した、雑炊が一杯、出来上がっていた。

 地球が宇宙進出してから、自販機の質が大きく向上した。

 特に、地球の日本地区からやって来た自販機は、おいしい食べ物まで出てくるのだ。

 この雑炊も、なかなかに旨い。


 腹が膨れたので、談話室に向かう。

 談話室は、眺めのいい2階に設置されている。

 ボードゲームを楽しむ部屋も兼ねているようで、テーブルが付属した席も多い。

 談話室では、多くの旅客が談笑している。

 その一角、端の方に、ヴァシリーサと作太郎がいた。

「おお、メタル殿。起きられましたか。」

 作太郎が、俺に気が付いて、声をかけてくる。

 その向かいでは、ヴァシリーサが何かを睨みながら、難しい顔をしている。

「何やってるの?」

 そう訊くと、作太郎が答えてくれる。

「将棋でござる。生きていたころは、それなりに嗜みましたからなぁ。ルールは多少変わっているとはいえ、懐かしいことに変わりはありませぬ。」

 なるほど。

 地球の日本地区のゲームか。

 今日は、日本地区に縁のある日のようだ。

「俺にも教えてよ。」

 そう言うと、作太郎は嬉々として、ルールを教えてくれた。

 そして、俺は、作太郎にもヴァシリーサにも惨敗したのだった。


 その後、昼ぐらいに目を覚ましてきたエミーリアが、合流した。

 談話室から眼下を見れば、複雑な地形が見える。

 ヴィリデレクス州のあるヴィリデレクス大陸は、複雑な地形が多いことで有名な大陸でもあるのだ。

 起きてきたエミーリアは、眠そうな表情で、パンをむしゃむしゃと食べている。

 俺たちは、軌空車の中で、のんびりと過ごすのだった。


*****


 夜10時。

 軌空車は、終点の駅のホームへとスムーズに入っていく。

 今までの、どことなく華やかさや遊びのあるデザインのホームとは一変し、コンクリートと鉄でできた、武骨なホームが見える。

 17時間ほどかかって、ようやく、ロンギストリアに到着したのだ。 

 ムスカリアとロンギストリアの直線距離は10,000kmを少し超えたくらいだが、軌空車は直線で飛んでくるわけではないのである。

 複数の大都市を経由した結果、17時間もの時間がかかったのだ。

 軌空車から降りる。

 夜間特有の、ひんやりとした空気が、肌をなでる。

 駅のホームの窓から、外を見れば、見上げるほど巨大な壁が聳え立っている。

 壁の先、両側を見れば、どちらも地平の先まで続いており、終わりは見えない。


 大要塞ロンギストリアータ。


 文明防衛の、最前線である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ