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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第32話 裏紅傘にひとまずの別れを

 鈴曰く、空間魔法の調査は、数か月はかかりそうとのことであった。

 また、アルバトレルス関連の詳しい捜査も、これから始まるとのことであった。

 アルバトレルスの下部組織まで、一網打尽にする魂胆らしい。

 詳しい捜査は、軍が中心となって行うようだ。

 流石にここまでの大規模捜査となると、リコラ達のような一介の民間戦闘事業所が出る幕ではなくなってくる。

 リコラもそのことは判っているようだ。

 軍には、空間魔法の調査や、アルバトレルスの詳しい捜査の結果が出たら、裏紅傘に伝えるように依頼してある。

 本来ならばそんなことはできないが、俺の階級を利用して押し通した。

「その結果、アタシも聞いていいですか?」

 そう言っていたのは、ヴァシリーサである。

 ヴァシリーサは、アルバトレルス関係の何かを追いかけているようだ。

 今までの数年間、戦闘旅客としてアルバトレルス関係の組織と戦い続けてきたとのことである。

「ここまで来たら、もう、軍にお任せした方がよさそうっす。」

 今までの戦いで不毛さを感じていたところに、今回の大きな動きである。

 様子を伺うことにしたらしい。

 俺たちは、軍から捜査結果の連絡があったらリコラから連絡をもらうこととし、旅立つこととしたのだった。


 今日は、5月2日。

 この星では、1か月は30日で、1年は360日である。

 裏紅傘に雇われたのが4月22日。

 10日間も一つ屋根の下で生活していれば、情も湧くものだ。

「・・・じゃあ、メタルさんたちへの依頼も、ここまでだな。」

 リコラが、少し、寂しそうに言う。

「少し寂しいが、仕方がない。では、クロア、報酬を。」

 リコラがそう言うと、クロアが、部屋の奥から、封筒を持ってくる。

「まずこっちが、本来の契約額だ。かなり長い仕事になってしまったが、契約どおりの額で、本当にいいのか?」」

 リコラには、契約金額どおりでいいと言ってある。

 リコラの言葉に頷きつつ、封筒を受け取る。

 封筒を開ければ、そこには、確かに20万印が収まっていた。

「では次に、アルバトレルス攻略の報酬だ。」

 クロアが、小切手を取り出す。

「一人頭2千万印。メタルさんとエミーリアさん、作太郎さんそれぞれに、一枚ずつ。」

 2千万印の金額が書かれた小切手が手渡される。

 確かに、2千万印と書いてある。

「確かに、頂戴しました。」

 俺、エミーリア、作太郎の3人を代表して、言う。

 そして、懐から、最初にクロアから受け取った硬銀を取りだす。

 エミーリアと作太郎には、既に了承済みだ。

「クロアさん、これをお返しします。」

 少し畏まった口調で言って、硬銀をクロアに差し出す。

「いや、これは、報酬のはず・・・。」

 クロアが、狼狽えながら、受け取りを拒む。

 だが、これは、俺達には必要のないものだ。

「この報酬は、契約書に、書いてない。」

 エミーリアが、言う。

 その言葉に、クロアが、押し黙る。

 リコラが、おずおずと、言う。

「本当にいいのか?結構な額だぞ?それに、アルバトレルスの突入の時の働きも、均等割りじゃあ、割に合わないだろう。」

 リコラの言葉に、作太郎が口を開く。

「かっかっか。2000万印もあるのだ。それ以上受け取れば、欲張りすぎて、罰が当たろうて。」

 作太郎は、小気味よくカラリカラリと笑っている。

「まあ、それならいいのだが・・・。」

 その笑いに毒気を抜かれたのか、リコラも素直に引いた。

 まあ、2,000万印もあるのだ。しばらく金に困ることはないだろう。


「さあ、これで精算も終わりだ。今晩は、送別会だな!リネットたちの歓迎会もしなきゃいけないしな!」

 少ししんみりした空気を吹き飛ばすように、リコラが元気よく言う。

「オイシイモノ、タベタい!」

 ビッキーも、楽しげだ。

 そんな中、少し気まずそうにしている人物がいる。

 ヴァシリーサだ。

「じゃ、あたしは失礼するっす。」

 ここにいる中で、俺以外に知り合いのいないヴァシリーサは、かなり気まずかったようだ。

 だが、そんなヴァシリーサを、リコラが、止める。

「なんだ。せっかくなんだ。一緒に楽しんでいけばいい。」

 それを聴いたヴァシリーサの表情が、明るくなる。

 基本的に、騒ぐことは好きなのだ。

「そ・・・そうっすか?じゃあ、お言葉に甘えて!お金はあたしに任せるっす!」

 そう言って、ヴァシリーサが、どん、と薄い胸をたたく。

 ヴァシリーサも、青鉄旅客である。

 金はあるのだろう。

「今日から、新生裏紅傘だ。盛大にやろう。」

 リコラがそう言うと、皆、笑顔になる。

 さあ、祝勝会だ。


*****


 現歴2265年5月3日 午前8時

 

「また負けた―――!」

 誰かの叫びで、目を覚ます。

 声がした方に目をやれば、巨大な貝と、3人の大きな人影が、仲良くテレビの前に並んでいる。

 音から察するに、テレビゲームをしているようだ。

「もう一回!」

 ああ、クロアにK-8A、K-8Bだ。

 3人は、ビッキーとゲームをやっているようだ。


 昨晩は、大いに騒いで飲んだ。

 飲むことのできないビッキーは、クロアとK-8A、K-8Bを誘って、ゲームを始めていたのだ。

 情緒が子供に近い部分がある3人は、どうやら、ビッキーと気が合い、楽しく遊んでいるようである。

 4人とも、体力に任せて徹夜でゲームをしていたようである。

 まあ、ゲームは面白いからな。

 4人でゲームを楽しむその光景は、平和であった。


 俺は、あまり酒に強くない。

 楽しく飲んだが、日を跨いだあたりで眠気に負けた記憶がある。

 周囲を見る。

 エミーリアが、応接セットのソファに、小動物のように丸まって寝ている。

 その向かいのソファでは、リコラが、どことなく行儀よく横になっている。

 リネットは、机に突っ伏して寝ている。

 ヴァシリーサは、酒瓶を抱えて床に転がっている。

 皆、痛飲したのだ。

 まあ、大きい戦いの後の酒は、旨いものである。

 飲みすぎるのも、仕方ない。

「おや?起きましたな?」

 掠れたような、太い声がする。

 そちらに目をやると、部屋の暗がりに、作太郎がいる。

 ・・・怖い。

 暗い中から浮かび上がる、眼窩に昏く赤い光を灯した、緋色の骸骨。

 結構ヘビーなホラーである。

「・・・怖いな。」

 俺がそう言うと、作太郎は、カラカラと笑いだす。

「はっはっは。仕方ありますまい。某、アンデッドでござる故。」

 それもそうか。

 俺たちの話し声で気づいたのか、エミーリアがもぞもぞと起き上がる。

「・・・むにゃ・・・おはよう。」

「おはよう。顔を洗っておいで。」

 俺がそう言うと、エミーリアは、目をこすりながら、洗面所へと向かっていった。

「んぁ・・・?朝っすか・・・?」

「ん・・・むぅ・・・。あ・・・さ?」

「ん、んぁあ。・・・ああ、朝か。」

 エミーリアに釣られるように、皆、続々と起きだしていく。

「では、某は、朝食でも用意しますかな。」

 作太郎は、そう言いながら、厨房に消えた。

 ああ、俺も、シャワーでも浴びて、目を覚まそう。

 


 シャワーを浴びた後、部屋に上がり、荷物をまとめる。

 エミーリアと作太郎も、荷物をまとめているはずである。

 リュックに荷物を詰め、旅の準備を整える。

 武装を確認する。

 APFSDSは使っていないので、まだ5本ある。

 大盾要塞で買った灰鉄の剣は、大柄過ぎて市街地では使っていなかったので、新品同様だ。

 灰鉄の盾も、問題はない。

 重鉄は、それなり使ったが、まだ大丈夫だろう。

 愛剣の蒼硬は、この程度の使用では、その煌めきに一切の曇りはない。

 武装に、問題はない。

 少し、消耗品を補充すれば、すぐにでも旅に出られるだろう。

 そんなことを考えながら、荷物をまとめる。


 1階の事務所に降りれば、俺が最後だったようだ。

「来た。」

 エミーリアが、小さな声で、呟く。

 その声に釣られたように、全員がこちらを向く。

「いよいよ、行くのか。」

 リコラが、言う。

 それに、無言で頷く。


 俺とエミーリア、作太郎、ヴァシリーサの4人は、裏紅傘から出る。

 裏紅傘の前には、リコラにクロア、ビッキー、リネットにK-8A、K-8Bと、全員が並んでいる。

 一気に人数が倍になったのだ。

 これから、裏紅傘は忙しくなるだろう。

「じゃあ、また会おう。達者でな。」

 俺がそう言うと、リコラも、口を開く。

「そちらこそ。ご武運を。」

「死ぬなよ。」

「マタネー!」

 リコラのハスキーな声と、クロアの太めの声、ビッキーの元気のいい声を背に、裏紅傘を後にする。 


 リコラ達は、俺たちの姿が見えなくなるまで、大きく手を振っていた。


****


 数分ほど、歩いた時、ヴァシリーサが、声を上げる。

「次は、どこに行くっすか?」

 その問いかけに、少し、悩む。

 エミーリアに、目をやる。

「・・・強く、なりたい?」

 

 問いかけると、エミーリアは、強く頷いた。


 よし。

 ならば。

「ヴァシリーサ、ついてくる気はない?」

 ヴァシリーサは、俺の言葉を聴くと、不敵な笑みを作る。

「・・・青鉄が二人も必要な場所に、行くっすね?」

 俺も、笑みを作り、頷く。

 作太郎に、目をやる。

「某も、お供致しましょう。」

 戦力は、少しでもいた方が、心強い。

 

「よし、じゃあ、辺境に行こうか。」


 俺の一言に、エミーリアの眠たそうな目が、少し、開いた。


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