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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第31話 リネット達の処遇

 柴雄がスマートフォンを操作する。

 すると、裏紅傘の事務所の戸が開く。


 黒髪で体格が大きい二人の女性に、銀髪でカールのかかった髪の若い女性、そして、ボーイッシュな少女が入ってきた。

 K-8AとK-8Bにリネット、そして、ヴァシリーサである。


 リネットは、たいへん気まずそうな表情をしている。

 K-8AとK-8Bは、不安そうだ。

 ヴァシリーサだけが、余裕のありそうな表情をしている。

 柴雄が、その4人を見ながら、言う。

「ヴァシリーサ殿を除く3人について、扱いがなんとも微妙になってしまいまして・・・。」

 柴雄の声色も、なんとも微妙な感じだ。


 柴雄曰く、K-8AとK-8Bにリネットは、アルバトレルスに所属はしていたものの、犯罪行為には手を染めていなかったそうだ。

 そもそも、K-8AとK-8Bは、あの人造人間を作ることに血道を上げていた男によって作られた、まさに人造人間なのだ。

 だが、二人の脳はに関しては、人造ではないようで、どこかからか攫われた人の脳が使われているらしい。

 二人は、勝手に体を作り替えられた、被害者だったのである。

 アルバトレルスにおいても、最終兵器として隠し通路の先に軟禁されていただけで、特に犯罪行為は行っていないとのことである。

 リネットは、アルバトレルスの本部から送り込まれてきた、謂わばお目付け役的な人物だったそうだ。

 大学卒業後、一般企業で働いていたところをアルバトレルスのグループ企業に攫われ、過酷な労働を強いられていた。

 攫われる前に経理を学んできたことから経営管理に回されたため、アルバトレルス本部にいるときも体を売ることや犯罪に手を染めることはなかったのだという。

 アルバトレルスでは、業績の悪い者は、たちまち鉱山労働や売春、鉄砲玉に回されることとなる。

 そういったことにならないようにがむしゃらに働いていたところ、気が付いたらある程度の地位になっていたそうだ。

 そんな中で、我が星に新たにできたアルバトレルスの支所へ、不正経理防止と離反防止のためのお目付け役として送り込まれることになったのだという。

 リネットはそれまで、経理として数字のみを見ていたため、アルバトレルスの実際の悪辣さは知らなかった。

 さらに、一日18~20時間にもなる過酷な労働で、何をしているか考える余裕も無かったのだ。

 しかし、お目付け役として送り込まれてすぐ、人造人間作りに血道を上げていた男から、K-8AとK-8Bの教育を命じられ、軟禁されていたK-8AとK-8Bに会う。

 K-8AとK-8Bは、人造人間にされた影響で情緒の発達は未熟になっており、実は、未だに子供のような状態なのだという。

 二人に教育を施すうちに、情が移るリネット。

 さらに、K-8AとK-8Bに会いに行けば、近くの部屋の、攫われてきた人々の扱いが見える。

 それを見ながら、リネットは、K-8AとK-8Bの二人が、攫われてきた人々と同じ扱いにならないように逃がさなければいけないと考え始めたのだという。

 そのリネットの考えを知ったK-8AとK-8Bの二人は、リネットを信じようと思い始めていた。

 それが、リネットがこの星に来てから、1週間のうちに起きたことである。

 そこで、俺たちが襲撃。

 1週間しか経っていないのに、敵側に立っていた(実際は捕まっていただけなのだが)リネットを見て、K-8AとK-8Bの二人は裏切られたと感じたらしい。

 そのため、戦闘の最初に「早速裏切りか?」などと話したとのことである。

 まあ、俺はそのセリフは聞いていないので、リコラ達しかいないときに言ったのだろう。


 これらのことから、K-8AとK-8Bは被害者で、リネットはただ経理を担当していただけだということが分かったらしい。

「しかし、ここからが問題で。」

 柴雄は、話を続ける。

 

 K-8AとK-8Bは、人造人間にされる際、記憶抹消措置を受けており、記憶がない。

 アルバトレルスの記録から、脳の元の戸籍を探したところ、二人は姉妹であり、旅行先で行方不明になり、死亡扱いになっているとのことであった。

 姉妹は交友関係は人並みだったものの、家族や近しい親戚はおらず、身寄りを引き取る相手もいないとのこと。

 リネットについても、アルバトレルス本部では記録が抹消されており、戸籍上では、行方不明からの死亡扱いになっているとのことである。

 今回、憲兵に捕縛されたことで、足がつかないように、アルバトレルス本部から切り捨てられたのだ。

「対応が異様に早いな。」

 リコラが、説明を聞いて口を開く。

 それに対し、柴雄が答える。

「憲兵内で、アルプトの一派をまだ捕縛しきれていないので、そこから伝わったようです。」

 アルプトは、アルバトレルスと繋がっていた憲兵だ。

「しかし、その通信から、アルバトレルス本部との繋がりが分かりました。今頃、捕縛されているでしょう。」

 これで、憲兵の中でアルバトレルスと繋がっている者は一掃できそうだ、とのこと。

 怪我の功名、といったところだろうか?

 

 となると、問題というのは、K-8AとK-8B、リネットの扱いなのだろう。

「こういったことから、この三人は今、戸籍上存在しないことになっているのです。」

 やはり、3人の扱いについてだった。

 柴雄は、困ったように言う。


 すると、リコラが、なんてことのないように声を上げた。

「なんだ、そんなことか。それなら、私が後見人になって、戸籍を作ればいいだろう。」

 ・・・結構重大な決断にも聞こえるが、いいのだろうか?

「もしよければ、そのまま、裏紅傘で働いてもらえれば、それが一番だ。」

 リコラがそう言うと、リネットの表情が、明るくなる。

 柴雄は、心配そうに声を上げた。

「そう言っていただけるのは大変助かりますが、よろしいのですか?」

 まあ、そう思うのが当然だろう。

 だが、リコラは全く気にしないそぶりで、言葉を続ける。

「むしろ、うちには専門の経理担当がいないので、リネットさんのような経理が分かる人がいていただけると、大変助かります。」

 リコラは、そう言いながら、リネットたちに、身体を向ける。

「リネットさんたちは、いかがですか?」

 リコラが問いかけると、リネットは、気まずそうな表情から一変し、しっかりとした表情で、リコラに向き直る。

「・・・ありがとうございます。その申し出、受けさせていただきます。」

 リネットはそう言い、申し出を受ける。

 そして、 再び不安そうな表情になると、言葉を続ける。

「・・・無理なお願いを言ってもいいですか?」

 なんだか、深刻そうな声色だ。

「K-8AとK-8Bも、一緒に雇っていただけないでしょうか?」

 リネットとしては、自分が助けようとしていた二人は、気になるところなのだろう。

 リコラは、その言葉に、笑みを深くする。

 そして、頷く。

「もちろん。我が裏紅傘は、人材不足に悩んでいたところなんです。むしろ、こちらからお願いしたいところです。」

 リコラの言葉に、K-8AとK-8Bの表情が明るくなる。

 これで、3人の処遇はほぼ決まったと思ってもいいだろう。


 さて、そうなると、なぜここにいるかわからない者が一人いる。

「ヴァシリーサはなぜここに?」

 ヴァシリーサは、なぜここにいるのだろうか?

 俺がその疑問を口にすると、柴雄が、説明をする。

「ヴァシリーサさんも、基本的には罪に問われることはしていないですね。」

 ほう。

 ならば、ますます、ここにいる理由がわからなくなる。

「しかし、一つだけ、罪に問われる可能性があることが、あったのです。」

 ふむ、なんだろうか?

「メタルさん、あなたに対する暴行罪です。」

 柴雄に丁寧な言葉で話されると、違和感で背筋が寒くなる。

 いつもは『メタルさん』などと呼ばれないので、なおさらである。

 しかし、俺に対する、暴行罪?

 はて、俺はヴァシリーサに何かされただろうか?

 よほど俺が怪訝な表情をしていたのだろう。

 柴雄は、続けて説明をする。

「アルバトレルスに雇われていただけとはいえ、メタルに襲い掛かったからな。」

 柴雄の口調が元に戻っている。

 俺相手に丁寧にし続けるのは、無理だったのだろう。

 しかし、俺に襲い掛かった、か。

 確かに、ヴァシリーサとは戦った。

 まあ、俺が勝ったとはいえ、法律的には暴行罪になるのかもしれない。

「ああ、そういうことか。俺が勝ったし、不問でいいよ。」

 俺がそう言うと、もともと余裕がありそうな表情をしていたヴァシリーサの顔から、こわばりが抜ける。

 余裕そうに見えて、少し緊張していたようだ。

「いやー、助かったっす。お礼を言うっすよ。」

 ヴァシリーサがそう言うと、柴雄が、ヴァシリーサの方を向いて言う。

「では、ヴァシリーサさんは釈放ですな。」

 一応、身柄を拘束されていた扱いだったようだ。


「では、今回見つからなかった方々について、私から。」

 柴雄の話が終わった後、鈴が、再び声を上げた。

 そうだ。

 アルバトレルスを仕留めたはいいが、まだ、見つかっていない人々がいるのだ。

 

 見つかっていないのは、空間魔法を使って拉致された人々である。

 エミーリア曰く、相当高度な空間魔法のようだが…。

「今回使用された魔法は、かなり高度なものです。私でも、使用者を追うには時間がかかります。」

 鈴がそう言うのなら、そうなのだろう。

「エメリア元帥の協力を得る必要があるかもしれません。」

 そこまでか。

 エメリア元帥は、戦略作戦軍魔導軍の元帥である。

 魔術については並ぶ者のいない、大魔導士なのだ。

「結果が出ましたら、リコラさんとメタルさんに連絡しますね。」

 鈴がそう言うと、ヴァシリーサの表情が、少し、変わる。

 だが、俺以外、ヴァシリーサの表情に気づくことはなかったようだ。

 鈴は、そのまま、話を終えてしまった。

「では、私たちはここで。リコラさん、今回はありがとうございました。」

 柴雄と鈴は、用が済んだので、帰っていく。



 余談だが、鈴が帰るのを見て、ビッキーがとても寂しがっていた。

 どうやら、外見的に年齢が近そうだったので、話が終わったら一緒に遊べると思っていたらしい。

 最後まで、遊んでいかないかと、鈴を誘っていた。

 


 とにもかくにも、アルバトレルスについては、これで、一件落着と言っていいだろう。

 あとは、鈴の調査結果を待つだけになったのだ。




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