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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第28話 合流

 リコラ視点。


「ミニマムレギオン、エミーリア。いざ、参る。」


 そう言い、エミーリアさんたちは、分厚い剣と盾を掲げ、数人ずつで部隊を組んで赤い女に迫る。

 赤い女が、エミーリアさんのうち一人に、剣を振るう。

 エミーリアさんは、それを受け止めるため、盾を構えて前に出る。

 盾に剣が激突する瞬間、エミーリアさんの身体から、無数の手足が現れ、しっかりと床に踏ん張る。

 エミーリアさん一人だけでは、赤い女の攻撃は止められないのだろう。

 最初のうちは、その攻撃を受け止めきれず、姿勢を崩す時もあった。

 しかし、一撃を受けた後は、完全に対応しきっている。

 一人のエミーリアさんが攻撃を受け止めていると、別のエミーリアさんが攻撃に移る。

 赤い女は、どうにかその攻撃に対応するが、次々と別のエミーリアさんが攻撃を繰り出す。

 怒涛の波状攻撃の中、赤い女は隙を見つけて攻撃に移っているものの、複数のエミーリアさんにうまく受け止められ、全くダメージにはなっていない。

 

「・・・助かったな。」

 クロアの声がする。

 その声に、ハッとする。

 放心していた。

 クロアは、腕が切り飛ばされていた。

 早く治療しなくては。


 そう思い振り向くと、クロアが、斬り飛ばされたはずの左手をぐるぐる回しながら立っていた。

 既に、腕はくっついている。

「腕は、大丈夫なのか?」

 私の一言に、クロアが頷く。

「ああ。切り口が綺麗だったから、くっついた。」

 突っ込みどころしかないが、まあ、くっついたならいいだろう。

「私たちでは、助けには入れなさそうだな。」

 そういうクロアの目線を辿る。


 そちらでは、もう一人の敵である青い女と作太郎さんが戦っている。


 2人は一進一退の攻防を繰り広げていた。

 作太郎さんの刀が変幻自在に閃き、青い女の剣が空気を切り裂く。

 速度は同等で、技術は作太郎さんの方が、パワーは青い女の方が優れているようだ。 

 青い女の力に溢れた攻撃を鋭く流し、返す刀が女の喉元めがけて雷光のように奔る。

 しかし、青い女は首をひねってその一撃を躱し、カウンターのように拳を振るう。

「はっはっは。拳とは、無粋ですな。」

 作太郎さんは、笑いながら、その拳に刀を這わせる。

 だが、青い女はすぐに拳を引き、刀を躱しつつ、もう片方の手で剣を振るう。

 その剣は作太郎さんに撃ち落され、青い女の身体が流れる。

 流れた体をめがけて、鈍色の光が閃く。

 一閃は上体を反らして躱され、一閃は身体を回して躱され、一閃は戻ってきた剣に弾かれる。

 作太郎さんが放ったほぼ同時にすら見える三閃は、しかし、全て対応されてしまった。

 さらに、刀を弾かれたときに、作太郎さんの身体が大きく崩れる。

 そこに追撃を加える青い女。

 作太郎さんは、ゆらりとした掴みどころのない足運びで、それを躱す。

 

 凄まじい速度の戦いだ。

 助けようにも、手を出す隙が見えない。

 

「おや、思ったよりも大丈夫そうだね。」

 そこに、メタルさんの声がする。

 そちらを向けば、メタルさんと、見たことのない女性が一緒にいる。

「そうっすね。あのままなら、大丈夫そうっす。」

 メタルさんと一緒に来た、ボーイッシュな褐色の少女も安心しているようだ。

 どうやら、この少女も、私より強いらしい。

 少し、自信を無くしそうだ。

「大丈夫そうなのか?」

 私の声に、メタルさんが、頷く。

「ああ。エミーリアは、あれは時間の問題だ。一対一でもエミーリアが少し不利な程度なうえに、あの人数差じゃどうしようもない。」

 そう言われてエミーリアさんの方を見てみると、確かに、赤い女は防戦一方になっている。

 どうやら、エミーリアさんが赤い女の戦い方に慣れ、うまく攻めることができるようになっているようだ。

「作太郎は互角だけど、ホントにヤバくなるまでは手は出さなくても大丈夫だろう。」

 メタルさんがそう言った瞬間、作太郎さんが、こちらを一瞬見る。

 その視線には、邪魔をしないことへの感謝が読み取れた。


 エミーリアさんが来ただけで、形勢は、逆転したのだ。


*****


 メタル視点。

 

 増援に駆けつけてみれば、状況は思ったよりも良さそうだった。

 エミーリアと赤い女、作太郎と青い女が戦っている。

 赤い女、青い女どちらもクロアよりも強い。

 ここにいるメンバーで、一対一で確実に勝てるのは俺と、先ほどの戦いの後連れてきたヴァシリーサくらいだろう。

 作太郎は互角、エミーリアとクロアで少し不利といったところか。

 だが、それはあくまで『一対一』の話である。

 レギオンとしての力を十全に発揮しているエミーリアならば、全く問題にならないだろう。

 もともと、エミーリアはクロアと同等の強さを持っていた。

 一対一ならば力負けしてしまうが、エミーリアの強さは『数』である。

 自分よりも少し弱い相手とはいえ油断できないレベルの相手が20人。

 それを同時に相手にして勝てる者は、そういない。

 エミーリアの戦いは、安心して見ていればいいだろう。

 

 作太郎の方は、もっと安心して見ていられる。

 身体能力的には、互角。

 しかし、技術と経験については、作太郎が大きく勝っている。

 最初こそ、互角の戦いだったのだろうが、今は、作太郎が押し始めている。

 作太郎と戦っている青い女は、自分と同等以上の者を相手にしたことがあまりないのだろう。

 自分の戦闘スタイルを押し付ける戦い方しかしてこなかったようで、それができない相手との戦いに慣れていなさすぎるのだ。

 あれは、時間の問題だ。


 案の定、数分で、赤い女と青い女は、地に足を突いた。

 エミーリアと、作太郎が勝ったのだ。

 エミーリアが、どこからともなく頑丈なロープを取り出し、二人を捕縛する。

 いつも思うが、エミーリアの物資格納力はすごい。

 レギオンとしての能力を活かして、体内に持っているのだろう。

 縛り上げた二人を、通路の端に転がす。


 すると、意外な人物が、声を上げた。

「・・・お願いです。あの二人は、殺さないでいただけますか。」

 その声に、全員の視点が、その人物を向く。

 リコラ達が捕らえたという、組織の幹部らしき女性である。

 なんだか、どことなく疲れたような雰囲気の若い女性だ。

 髪の色はくすんだ灰色で、腰くらいまでの長さの髪を首の後ろくらいで束ねた髪形をしている。

「詳しくは、あとで話します。お願いです、どうか。」

 そう言い、女性は大きく頭を下げる。

 なんだか、ややこしい話がありそうだ。

 どうしたものかと考えていると、リコラが、声を上げる。

「・・・もともと、殺す気はありません。あなたには、この先の案内についてきていただく必要があります。二人には、ここで待っていてもらいます。」

 リコラがそう言うと、その女性は、表情を恐怖に歪める。

「そ・・・それでは、二人は、殺されてしまいます。」

 ・・・?

 どういうことだろうか?


 しかし、それをどういうことなのか問いただす暇はなかった。

 リコラの言葉を遮るように、男の声が、響く。


「おやぁ?まさか、そこにいるのは、K-6Aじゃないか?」

  


 その声に、窮地でも動じなかったクロアの表情が、歪んだ。


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