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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
56/208

第25話 強敵登場

 リコラ視点


 それなりの地位であろう女を捕らえた後、地下に向かう。

 女は、ビッキーの貝の中に閉じ込めている。

 ビッキーの貝は、ヒト一人くらいは簡単に格納できる程度には大きい。

 時折、爆音や重低音が響き、ビルが揺れる。

 メタルさんたちの勢いはとどまるところを知らないようだ。

 時折、アルバトレルスの構成員と出会うが、クロアと作太郎さん、そしてビッキーが目にもとまらぬ速さで無力化していく。

 ビッキーは強いとは知っていたが、私が思っていた以上である。

 触手は目にもとまらぬ速さで空を走り、アルバトレルス構成員を打ち据える。

 うまく加減してはいるようで、今まで命を奪ってはいない。


 1階のホールに差し掛かる。

 上へ向かう階段と地下へ向かう階段は、1階のホールで合流しているのだ。

 1階ホールの外には、気絶したアルバトレルスの戦闘員たち縛り上げられ、ビルの前に転がされているのが見える。

 メタルさんたちが大暴れした跡だ。

 皆、ちゃんと息はあるようである。

 

 地下に向かう階段を下りる。 

 さて。地下何階に拉致した人はいるのだろうか?

「ビッキー、さっきの人を出してもらえるか?」

「ワカッタ!」

 ビッキーの貝が開き、先ほど捕らえた女性が転がり出てくる。

 なかなか、痛そうな転がり方だった。

「うぐっ・・・。・・・ん、なに?」

 その衝撃で、女性は目を覚ましたようだ。

 上半身を起こし、首を振っている。

 その女性の近くに、作太郎さんが歩み寄り、女の顔を覗き込むように、かがみこむ。

 そして、地獄の底から響いてきているような、昏く重い声で、口を開いた。

「女、捕らえた者は、何処か?」

 作太郎さんを見た瞬間、全てを思い出したのか、女はガタガタと震えだす。

 なんだが、少しかわいそうにも見える。

「あ・・・あぁ・・・・ち・・・地下3階から・・・行けます。」

 そう言う女に、作太郎さんが、刀を突き付ける。

 そして、その眼窩に赤い光を灯し、さらにおどろおどろしい声で告げる。

「今宵は、未だ、血を吸い足りんなぁ・・・。」

 そう言いながら、女の首の皮を、薄く傷つける。

 数滴滲んだ血は、美しい刃の上を、ゆっくりと滑り落ちる。

 その様は、傍から見ているだけでも、かなり恐ろしい。

 当事者たる女の恐怖は、凄まじいものに違いない。

 それを証明するように、女の顔は恐怖に引き攣り、歯をカチカチと鳴らしている。

「た・・・たすけ・・・て・・・。」

 そういう女に、作太郎さんは、さらに口を開く。

「ほう、助かりたいか。・・・ならば、先導せい。」

 作太郎さんは、そう言い、女の服の襟をつかみ、立ち上がらせる。

 女は、少しふらついたものの、すぐに立ち直り、歩き始める。

「こ・・・こちらです!」

 先導を始めた女に、作太郎さんが、さらに声をかける。

「我らを謀ったときは・・・分かっているだろうな?」

 作太郎さんの声に、女は、首を激しく縦に振る。

 どうやら、罠に誘い込まれることは、なさそうだ。

 だが、信用もできないだろう。


 私たちは、警戒はしながらも、その女の後をついていくのだった。



*****


 女の後をついていくこと、数分。

 ビルは、地下3階で最下層のようだ。

 ビルの地下とはいえ、ここは高層都市である。

 地下というのは、ビルの1階がある層から下を指すだけで、実際に地面の下にあるわけではない。

 窓もあるし、外も見える。

 しかし、このビルの窓は塞がれており、外は見えないようになっている。

 女は、壁の前で止まった。

 そして、カードキーを、壁の継ぎ目に見える場所に通す。

 すると、壁が開き、通路が現れた。

「こ・・・ここです・・・。」

 壁が開いたとたん、その奥から、生物が発する様々な臭いが流れてくる。

 ・・・いい匂いではない。

 むしろ、吐き気を催すような、悪臭である。

「・・・ここが捕らえている場所というのは、本当のようですな。」

 作太郎さんが、言う。

 骨の顔の表情は読み取りづらいが、声色からするに、顔を顰めているようだ。

「死体の匂いはしない。生きてはいるようだ。」

 クロアも言う。

 いつも表情をあまり出さないクロアにしては珍しく、その表情は嫌悪感に歪んでいる。

「ワタシ、ココに、ハイリタクナイ。」

 ビッキーは、嫌悪感を隠そうともしない。

「う・・・ぅぷ・・・。」

 案内してきた女が、その匂いに負けて、気持ち悪そうな表情をしている。

 その様子を見て、作太郎さんが怪訝そうな声を上げる。

「貴様、演技が上手いな?慣れておるだろうに。」

 作太郎さんがそう言うと、女は、首を振る。

「私・・・ここに来たの初めてで・・・。」

 そう言うと、クロアが女に対して、嫌悪感を一切隠さずに、声を上げる。

「・・・汚れ役は、部下に任せていたか。」

 クロアの言葉にも、女は首を振る。

 女の表情は、悲痛に歪んでいる。

 だが、言葉は出ないようだ。


 このままここでこの女を責めていても、埒が明かない。 

 一度、仕切り直した方がいいだろう。

「ここで言い争っていても、拉致された人は助けられないぞ。」

 私がそう言うと、作太郎さんとクロアは、頷く。

「そうだな。だが、ビッキーはどうする?」

 クロアが、私に目を向けて、言う。

 私も、クロアや作太郎さんよりは弱いとはいえ、戦闘旅客として悲惨な場面は見たことがあるし、生娘でもない。

 この先にどういった光景が待っていそうかくらいは、想像がつく。

 強いとはいえまだ幼いビッキーに見せるのは、良くない光景だろう。

「ここで待っているのは・・・危険か。」

 作太郎さんが言う。

 敵地のど真ん中で待っているのは、危険だろう。

 さて、どうしようか。

「皆さん、この先に、進むんですか・・・?」

 私が悩んでいると、連れてきた女が、口を開いた。

 その声色は、怯えの色が強い。

 まあ、女からすれば、敵に囲まれているのだ。

 怯えるのも、当然だろう。

「ああ、進むよ。」

 私がそう答えると、女は、首を振りながら、言う。

「き・・・危険です。私も協力します。増援を、連れてきましょう。」

 ・・・?

 どういうことだ?

 なぜ、アルバトレルスの一員である女が、こんなことを言うのだろうか。

 

 少し混乱していると、クロアに似た声が、開いた通路の奥から、響いてきた。

 


「そこにいるのは誰だ?」


「ひっ!?」

 その声に、連れてきた女が、怯えの声を発する。

 クロアと作太郎さん、ビッキーはすぐに戦闘態勢に移る。

 通路の奥から、大柄な人影が、2人、現れる。

 女だ。

 その2人の女は、クロアにかなり似ている。

 姉妹と言ったら、信じてしまいそうだ。

 その、2人の女は、捕まえてきた女を見て、口を開く。

「お前は・・・・・・。なんだ、早速、裏切りか?」

 その2人の女は、そう言い、武器を構える。

 2人の武器は、大ぶりな片刃剣である。

 その様子を見て、クロアが、小声で、私に話しかけてくる。

「・・・リコラ、メタルたちを呼んで、ビッキーを連れて下がれ。私では、あいつらには、勝てない。」

 クロアの様子は、いつもと変わらない。

 だが、話した内容は、衝撃的なものだった。

 クロアが、勝てない。

 ならば、あの二人は、相当な手練れなのだろう。

 こちらの会話を横耳に聴いてきた作太郎さんも、声を上げる。

「2人は少し、厳しいかもしれませぬな。」

 

 私は、メタルさんたちを呼ぶために、スマートフォンを取り出す。

 それと同時に、クロアと作太郎さん、ビッキーが、2人の女と戦闘を開始したのだった。


*****


 5人のエミーリアが、部屋の一つに、突入する。

 剣戟の音が響くが、1分経たずに、静かになる。

「制圧完了。」

 俺の傍らに立っているエミーリアがそう言うと、突入した5人のエミーリアが部屋から出てくる。

 そして、次の部屋へと向かっていく。


 アルバトレルスのビル攻略は、順調に進んでいる。

 たくさんいるエミーリアが、とにかく強い。

 一人一人が一流の戦士であるエミーリアが、36人もいるのだ。 

 さらに、エミーリアの使う分厚い短めな剣は、室内での戦闘に大変向いている。

 先ほどからアルバトレルスの戦闘員は、さしたる抵抗もできずにエミーリアに叩きのめされている。

「制圧完了。これで、この階もクリア。」

 5階も終わった。

 地上部は、これで全て制圧完了である。

 この後は、地下に向かおう。

 リコラ達の戦闘痕は、地下に向かっていた。

 リコラ達から離れるよう、俺たちは上に向かって進んでいたが、完全制圧してしまえば、話は変わる。

 戦力の誘引という目的は果たした。

 合流していいだろう。


 そんなことを考えていると、スマートフォンが鳴る。

 リコラだ。

 着信に応答する。

 すると、リコラの切羽詰まったような声が聞こえてきた。

「こちらリコラ。強敵に遭遇、増援求む。場所は地下3階。急いでくれ!長くは持ちそうにない!」

 声の向こう側では、戦闘音が響いている。

 救援要請を話してすぐに、着信が切れる。

 これは少し、やばそうだ。

「エミーリア、増援要請だ。行こう。」

 俺の言葉に、エミーリアが頷く。


 俺とエミーリアは、分離しているエミーリア達を回収しながら、地下に向かう。

 エミーリア達は、自分達の居場所がそれぞれわかっている。

 それぞれが離れていると、細かい内容を伝えることは難しいそうだが、合流指令などの簡単な内容は共有することができるようだ。

 それを利用し、各階に散っていたエミーリアたちは、それぞれで合流してまとまりながら、俺たちが通るルート上で待っている。

 そのため、エミーリアたちの合流には、余分な時間はほとんどかからない。

 スムーズに地下に向かって移動できるのだ。

 


 だが、簡単に地下に降りることができるわけでも、なさそうだ。


 1階のホール近くに来た時、俺の感覚に、引っかかるモノがあった。

 敵のようだ。

 1階ホール、その真ん中にいる。

 地下への階段に向かうには、1階ホールを横切らなければいけない。

 どうやら、そいつは待ち伏せしているらしい。

「エミーリア、敵がいる。」 

 俺がそう言うと、エミーリアが立ち止まる。

 エミーリアを後ろに隠しつつ、1階のホールに入る。


「あれ?もしかしてメタルさんっすか?」

 人懐っこそうな、ハスキーな声が聞こえた。

 ホールの真ん中に、小柄な人影がある。

 ボーイッシュな女性だ。

 身長はあまり高くなく、癖のある濃い青色のベリーショートヘアをしている。

 眼は大きなアーモンド形でくりくりしており、その瞳は小さく、四白眼だ。

 両側頭部に、10㎝程度の、短めで太く黒角が上に向かって生えている。

 腰からは、その女性の身長と同じくらいの長さの、黒い艶やかな鱗に覆われた太いしっぽが伸びている。

 竜人だ。

 身長は低めだが、線は細くはなく、良く鍛えられたしなやかな身体をしている。

 オレンジ色の半そでに黒いハーフパンツ、グレーのランニングタイツに軍用ブーツという、靴以外はこの場に似合わないようなスポーティな服装をしている。

 服装と合わさって、日に焼けたスポーツ少女ような雰囲気を醸し出している。

 だが、その手には、スポーツ少女には似合わない、群青色に輝く重厚な六角棍が握られていた。

 ・・・これは、さすがに予想外だ。

「・・・ヴァシリーサ?『爆炎スプリンター』ヴァシリーサか。久しぶりだね?」

 俺の声に、ボーイッシュな女性、ヴァシリーサはニっと笑う。

 笑う口からは、長めの八重歯が見える。

「まさか、メタルさんが出てきているとは思わなかったっすよ。あー、いよいよこの依頼受けなきゃよかったっすかね?」

 ヴァシリーサはそう言いながらも、重厚な六角棍を隙なく構え、身体には魔力を張り巡らしている。

 洗練された足運びや隙の無い体捌きからは、強者の雰囲気が漂っている。


 予想外の大物だ。まさか、ここまでの相手が出てくるとは思わなかった。

 数百万人いると言われている碧玉連邦の戦闘旅客のうち、ごく僅かしかいない青鉄の戦闘旅客。

 その一人、『爆炎スプリンター』ヴァシリーサ。

 探しものがあるとかで、全国をウロウロしている旅客だ。

 数年前、小さな仕事で一緒に行動したことがある。

 その時から青鉄クラスの非常に強力な旅客だったが、雰囲気が違う。さらに腕を磨いたようだ。


 ヴァシリーサは、その外見に反することなく、近接戦闘を好む。

 それに加え、魔術にも大変長けている。

 その実力は、大魔術師と言っても過言ではない程だ。

「まぁでも、あたしも信用があるっすからね。簡単に通すことはできないっすね。」

 そう言いながら、ヴァシリーサは六角棍を軽く一振り。

 その瞬間、棍の先端で爆炎が渦巻く。

「あたしの目的もあるっす。簡単には負けられないっすよ。」


 戦闘旅客は、当然だが、仕事を受けたのならばその完遂が求められる。

 今回、ヴァシリーサはアルバトレルスから仕事を受けているのだろう。

 事情を話せば戦わないで済む気もするが、どうやら、ヴァシリーサにも事情がありそうである。


「エミーリア、リコラ達に合流して。おれは、ヴァシリーサを止める。」

 俺の言葉にエミーリアは頷き、階段を下りていく。

 降りていくエミーリアを、ヴァシリーサは見逃した。

「・・・見逃していいのかい?」

 俺がそう言うと、ヴァシリーサは、苦笑いして言う。

「ああ、いいっすよ。アルバトレルスがどうなろうが、知ったこっちゃないっすから。」

 どうやら、俺が知らない事情がありそうだ。


「じゃ、メタルさん。あたしのために、少し、気絶していてもらうっす。」


 ヴァシリーサはそう言い、六角棍をこちらに向けて、構えたのだった。



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