第24話 戦闘・侵入
俺が合図をしたら、ビルの陰から、38人のエミーリアが、飛び出してきた。
そして、アルバトレルスの戦闘員たちに襲い掛かる。
アルバトレルスの戦闘員は、突如として現れた大量の敵に、混乱する。
混乱しながらもひたすらに銃弾を撃ち込むが、エミーリアを止めることができない。
エミーリアたちが使用する盾は5~6㎜程度の厚みがあるRHA製の盾であり、個人用の盾としては非常に防御力が高い。
拳銃弾を使用するサブマシンガン程度の貫通力では、エミーリアの盾を貫通できないのだ。
また、全員を統括しているいつものエミーリアの盾は灰鉄製でデザインが異なっており、いつものエミーリアがどこにいるかは、一目でわかる。
戦場を見渡す。
すると、大型のライフルのようなものを持ち出してきている、狙撃手らしき戦闘員が目に入る。
・・・対物ライフルだ。
憲兵からの横流し品だろう。
あれは、エミーリアの盾では防げない。
足元に転がっている気絶した戦闘員のサブマシンガンを拾い、狙撃手に投げつける。
俺の投げたサブマシンガンは、狙撃手の腕に命中。
腕が変な形に曲がっているので、折れているだろう。
突然の出来事に狙撃手が混乱しているうちに肉薄し、頭部に一撃。
狙撃手は、意識を失った。
対物ライフルを再度使用されると面倒なので、破壊しておく。
再度、戦場を見渡す。
エミーリアが圧倒的に優勢だ。
まあ、エミーリアは上位戦闘旅客である。
碌な戦闘訓練も受けていない有象無象には負けないだろう。
ビルの上を確認すると、リコラ達が屋上に向けて降り立ったのが見える。
戦闘音も聞こえないので、どうやらうまく侵入したようだ。
再び、戦場を見渡す。
38人のエミーリアは、全員の思考が繋がっているのを活かして、戦場全体を支配するかのように柔軟に機動している。
数で優っているはずのアルバトレルスの戦闘員は、しかし、エミーリアの立ち回りにより分断され、混乱し、その数を活かすことができていない。
時折、どうにか反撃に移ろうとする者もいるが、エミーリアの波に呑まれ、昏倒していく。
戦場は、ものの数分で静かになった。
アルバトレルス本拠地ビル前で立っている者は、俺とエミーリアしかいない。
俺の前には、戦いを終えたエミーリアたちが集まってくる。
「メタル。終わった。」
エミーリアの一人が、報告してくる。
「ああ、お疲れ。」
エミーリアをねぎらう。
「けがはない?」
俺の言葉に、38人のエミーリアが、一斉に頷く。
どうやら、全員無傷のようだ。
「リコラ達はうまく侵入したみたいだ。俺たちも先に進むけど、いけるかい?」
俺の言葉に、戦闘のエミーリアが、口を開く。
「ちょっと待って。武具のダメージを確認する。」
戦闘のエミーリアがそう言った瞬間、全エミーリアが、同時に盾や剣の確認を始める。
たしかに、結構撃たれていたので、確認は必要だろう。
「そうだな。盾の痛みが酷いときは、戦いに参加しないほうがいいかもしれない。」
エミーリアの戦い方は、盾を起点にしている。
また、エミーリアは軽装である。
拳銃弾を止めることができるのは、エミーリアの装備だと盾だけだ。
その盾が使用できなくなっているのならば、そのエミーリアは、戦わないほうがいいだろう。
「・・・確認完了。盾損壊、2。その2人は撤退を。」
しかし、RHA製の盾が使用不可になるとは、何があったのだろうか?
そう思い、盾を見せてもらうと、盾を保持するための革ベルトがちぎれている。
どうやらもともと痛み気味だったようだ。
2人のエミーリアが、立ち上がり、いつものエミーリアに向かってくる。
俺は、その時初めて、エミーリアが妙に軽装な意味を知った。
2人のエミーリアは、各々、いつものエミーリアの体の縫い目から、体内に入っていく。
物理的に入り込めないであろう大きさの縫い目に、吸い込まれるように入っていく様は、なかなか不思議な光景だ。
レギオンが数を増減させているところを始めて見たが、思っていたよりも生々しいというか、おどろおどろしい感じだ。
エミーリアが妙に露出の多い軽装だったのは、レギオンとして自分を出し入れするときに服が邪魔になるからだったのだ。
「撤退完了。いける。」
2人が撤退したため、エミーリアは36人になった。
「人数が足りないときは、誰からでも、出せる。」
どうやら、エミーリアの内部は全員が繋がっているようで、今撤退した2人は、どのエミーリアからでも再出撃できるようだ。
便利である。
「わかった。じゃあ、人数が必要な時は、お願いするよ。」
俺の一言に、エミーリアが頷く。
さて。
リコラ達のためにも、さらに暴れなければいけない。
俺と36人になったエミーリアは、アルバトレルス本拠ビルに突入するのだった。
*****
リコラ視点
アルバトレルス本拠ビルに屋上から侵入する。
薄暗い階段を、周囲を警戒しながらゆっくりと降りてゆく。
先頭はクロアで、次に作太郎さん。その次に私が続き、殿はビッキー。
クロアの周辺警戒は、隙が無いように見える。
ビッキーは、その巨大な貝殻を器用に傾けたりしながら、うまく進んでいる。
時折、下の階から振動と爆音が響いてくる。
メタルさんたちは、うまく暴れてくれているようだ。
「・・・敵はいない。進もう。」
角から通路を確認していたクロアが言う。
通路の先には、階段が見える。
通路を進んでいると、クロアと作太郎さんが、身構える。
すると、通路の少し前にある扉が開く。
スーツ姿の若い女性と、その取り巻きが3名出てきた。
次の瞬間、クロアが駆け出す。
物音に振り向いた取り巻き3人のうち一人の側頭部に、クロアの拳が命中。
一撃で昏倒する。
まったく動く気配の無かった作太郎さんは、いつの間にか取り巻きの近くに移動しており、刀を一閃。
二人目の取り巻きも昏倒する。
「峰打ちだ。死にはせん。」
作太郎さんが言う。
さらに、最後の一人に対しては、ビッキーの触手が伸びる。
触手で絡めとる、などはせず、伸ばした勢いのまま、顔面に一撃。
最後の取り巻きも、気絶した。
「なに!?えっ?」
女性は、どうやら状況がわかっていないようである。
そこに、ビッキーの触手が伸びる。
「その女は、捕まえて!」
そのままだと昏倒させそうだったので、思わず、言う。
ビッキーはうまく反応してくれて、触手が女を捕まえる。
「手足は動けないようにして。」
私がそう言うと、ビッキーの触手が、その女をぐるぐる巻きに縛り上げる。
もはや簀巻きのようである。
あれだけがっちりと拘束されたら、手足は全く動かせないだろう。
その女の首筋に、作太郎さんが、脇差を近づける。
「ひぃ!?」
作太郎さんを見た女の顔が、恐怖にゆがむ。
作太郎さんは、私に目配せをしてくる。
どうするのか、聴いているのだろう。
この女、取り巻きを引きつれていたのだ。
それなりの地位だと考えられる。
何かしら情報を持っているかもしれない。
作太郎さんに、頷きを返す。
すると、作太郎さんは、女に向き直り、口を開く。
「貴様らが攫った人々は、どこだ?」
地獄の底から響いてきそうな昏い声で、作太郎さんが問いかける。
その声に、女は恐怖にひきつった顔に涙に浮かべた。
「言う!言います!だから、祟らないで・・・。」
・・・祟る?
どうやら、思った以上に脅しが効いているようだ。
「はやく、言え。」
作太郎さんの催促に、女はすごい勢いで話し出した。
「攫った人たちは、地下に、地下にいます!」
やけに素直だ。
女に対し、作太郎さんが、カパリと口を開き、首をゆっくりと揺らす。
それを見た女は、さらに恐怖に顔を引きつらせている。
どうも、アンデッドを見慣れていないようである。
「か・・・カードキーが・・・私の名札に。」
女がそう言ったとき、作太郎の眼窩に、赤く昏い光が灯る。
「ひっ!ひぃいい・・・・、がく。」
あまりに怖かったのか、女は、意識を失ってしまった。
「えっ・・・?」
作太郎さんの眼窩から赤い光が消え、困惑した声を上げる。
まさか、気絶するほど怖がられるとは思っていなかったようだ。
「情報は手に入った。行こう。」
女が気絶したことを一切気にせず、クロアが言う。
気絶した女は、連れていくことにしよう。
目を覚ましたら、またいろいろ聞きだせるかもしれない。
私たちは、地下に向かって、歩みを進めるのだった。




