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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第22話 恐れ知らずたち

「ならば、アルバトレルスのこの星での本拠を、潰してくれ。私は、この地区の憲兵を正常化する。」

 そういうことならば、お安い御用である。

 力づくでの解決は、得意分野だ。


「で、その本拠地は、どこ?」

 そう訊くと、柴雄は、どこからともなく紙とペンを取り出し、さらさらと地図を描く。

「ここだ。このビルが本拠地のようだ。」

 そういいつつ、俺に地図を手渡す。

 どうやら、アルバトレルスは民間企業に擬態しているようだ。

「報酬は出す。契約書は、いつもの内容でいいか?」

 契約について言うということは、戦闘旅客としての俺に依頼する形にしたいのだろう。

 軍が民間組織を攻撃するには、当然だが様々な制約がある。

 ほぼほぼ証拠がそろっているとはいえ、必要な法的手続きが多く、軍を動かすには時間がかかる。

 そのため、戦闘旅客への依頼にするという形にすることで、法的手続きをどうにか簡略化するつもりなのだろう。

 そういう場面は過去に何度もあった。

「ああ。いいよ。報酬は?」

「2,000万でどうだ?」

 2,000万印。

 ふむ・・・。少し安いか?

 そんな話をしていると、リコラが声をかけてくる。

「メタルさん、そういうことなら、裏紅傘との契約はここまでになるのか?」

 その声色に、嫌味なところは一切ない。

 純粋に事務的な話として訊いてきたのだろう。

 裏紅傘との契約か・・・。

 ここまで、力になれたかというと、そこまでなれていない気もする。

 正直、報酬の硬銀分は働けていないだろう。

 硬銀の受け取りは辞退した方がいいかもしれない。

 だが、俺が言葉を発する前に、柴雄が反応した。

「なに・・・?既に契約している?」

 そう呟き、柴雄は固まっていた。

 契約していると、何か不都合でもあるのだろうか?

 ・・・あるのかもしれない。

 軍や行政の契約に関する法律や規則は、複雑怪奇なのだ。

 柴雄は、そのまま数秒固まる。

 そして、突然再起動した。

「・・・よし、わかった。では、リコラさん。いや、戦闘事務所『裏紅傘』さん。」 

 柴雄は、リコラに向き直る。

 いきなり向きなおられたリコラは、びくりと震える。

「な・・・なんでしょう?」

「武装組織への武力行使を依頼したいのですが?」

 どうやら、俺の今の雇い主であるリコラに依頼して、間接的に俺を動かすつもりのようだ。

 驚いていたリコラも、その意図に素早く気付いたようだ。

 ニコリと営業スマイルを浮かべ、答える。

「・・・ええ。いいでしょう。幸い、現在の我が事務所は、戦力も大変充実しています。」

 そのリコラの言葉に、柴雄は満足そうに頷いた。

「ありがとうございます。では、契約内容を詰めましょう。」

 その言葉に、リコラは頷く。

「ええ。では、こちらへ。」

 そう言い、事務所の中へ案内するのだった。


*****


 その後、契約は旅客向けの契約書を流用し、一部を除いてスムーズに行われた。

「皆、準備は?」

 かたい口調でリコラは問う。

 俺たちは、今、裏紅傘に来る時にも乗った、古びた軽貨物車に乗っている。

「問題ない。」

 そう答えるのは、後部座席に座ったエミーリア。

「某も、いつでも。」

 後部座席の窓に腰掛け、身を乗り出した作太郎が言う。

「なあ、なんで皆そんなに落ち着いていられるんだ?」

 そういうリコラの声は、少し震えている。

 

 契約の際、スムーズに済まなかった一部とは、参戦する人員についてである。


 柴雄の思惑としては、俺一人でアルバトレルスを叩き潰すようにしたかったようだ。

 だが、クロアとエミーリアが、自分も参戦すると強く言い張った。

 加えて、リコラも、雇い主として監督義務があると主張した。

 どうやら、リコラはクロアの意思を尊重したかったようだ。

 柴雄は、一般人の参戦について最後まで渋った。

 しかし、契約書に『戦力の選定は一任する』との文言があったため、最終的に柴雄が折れた。

 結果として、報酬を俺一人向けの額から全員向けの額に変更したのだった。

 その報酬金は1億2千万印。

 俺、エミーリア、作太郎、リコラ、クロア、ビッキー、一人あたり2千万印ということになる。

 その報酬額を見て、リコラは目を白黒させていたが、俺の「任務内容にしては少なめ」という言葉にさらに驚いていた。

 また、今回の憲兵の襲撃の詫びとして、無償で事務所の建物を工兵が修復してくれるそうだ。

 柴雄は、契約締結後、襲撃の後に簀巻きにしていた憲兵とアルバトレルス構成員を全員連行していった。


 その契約から15分後。

 出撃に向けて全員が軽貨物車に乗り込んでいる。

 

 運転はリコラ。

 俺は助手席に乗っている。

 後部座席に向かって左からクロアと作太郎、エミーリア。

 クロアと作太郎は窓枠に腰掛け、上半身を車外に出している。

 クロアは、柴雄から融通してもらった13㎜重機関銃を小脇に抱えている。

 エミーリアも武器を構え、やる気満々だ。

 荷台部分は、天井がぶち抜かれ、両側の壁は歪んでおり、ビッキーが無理やり収まっている。

 貝は開いており、ビッキーの本体は、腕を組んで堂々と笑みを浮かべている。

 

 リコラを除いて、皆、殺る気に満ち満ちている。


「なあ、皆は怖くはないのか?」

 リコラの声は震えている。

「はっはっは。怖くない、ということはありますまい。」

 それに、作太郎が答える。

 武装組織への襲撃だ。

 俺はともかくとして、本来ならば怖いのが普通なのだろう。

「しかし、それ故に、戦の前には、己を鼓舞しなければなりませぬ。」

 作太郎が、なかなか真っ当なことを言う。

 しかし、そう答える作太郎の声は、どこか喜びが滲んでいるようにも聞こえる。

「まあ、某は、恐怖よりも、合法的に斬れるのが嬉しいのですがな。」

 作太郎が、付け加えるように言う。

「なんだ。まとも話だと思ったが、違うじゃないか。」

 それを聴いたリコラが嘆息している。

「私にも、恐怖はない。ただ、敵を撃滅するのみだ。」

 作太郎に続くように、クロアも言う。

「そして、この身は、アルバトレルスに造られた身。その礼をしなければならない。」

 そう言い、クロアは重機関銃を煌めかせる。

 珍しく、クロアが皮肉を利かせたことを言う。

 テンションが高いようだ。

「私も怖くはない。」

 エミーリアも続く。

「私は、強くなる。そのために、必要。そして、メタルもいる。」

 相変わらず、言葉が少ないが、その瞳には決意が灯っている。

 声色を聴くに、どうやら内心は怖いようだが、それを表には出していない。

 リコラは気づいていないようだ。

 そして「メタルがいる」とは可愛いことを言う。

 その期待には、応えなければいけないだろう。

「皆は、すごいな。ビッキーは、怖くないか?」

 リコラは、この中では一番幼いビッキーに声をかける。

「コワクナイ!」

 しかし、帰ってきた声は、今までの中で、一番やる気に溢れていた。

「ナワバリにシンニュウしたテキ!ユルサナイ!」

 ある意味、もっとも単純な理屈だ。

 敵だから、倒す。

 ビッキーの頭にあるのは、恐怖ややる気ではなく、生存競争のようだ。

「はぁ・・・。当然、メタルさんは、怖くないよな?」

 リコラは最後に俺に訊いてくる。

 まあ、怖くはないな。

「怖くはないな。」

 俺を傷つけることができない相手を恐れることはない。

 リコラは、俺の答えを聴くと、少し、目を閉じる。


 そして、目を開く。

 その瞳には、ヤケクソ気味な決意が宿っている。

「わかった。ここまで来たら腹をくくる。さあ、行くぞ!」


 リコラはそう言い、車のアクセルを思い切り踏み込んだ。


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