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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第21話 恐ろしい強制捜査

 とりあえず、アルプトと襲撃犯全員を縛り上げ、事務所の前に並べる。

 これで、逃げることはできない。

「では、吐いてもらおう。」

「ぐぅ。」

 縛り上げたアルプトを、クロアが小突いている。

「やりすぎないでね。」

 放っておくとやりすぎそうなので、釘をさしておく。

 まあ、リコラがいる。やりすぎそうなときは止めてくれるだろう。

 さて。

 ここまで来たら、軍を呼んでいいだろう。

 証拠ばっちりだ。

 流石に、軍の全体は腐敗していない。

 健全な部隊を呼べば、問題なく引き渡すことができる。

「アルプト達を、軍に引き渡そう。流石に、もう逃れようがないからな。」

 アルプトは、ぐったりと項垂れている。

 もはや、逃れようがないのはわかっているようだ。


 軍に連絡しようと、スマートフォンを取り出す。

 すると、まだ電話をかけていないのに、こちらに向かって一台のパトカーがやって来た。

 ・・・増援だろうか?

 姿勢は変えず、注意だけはしておく。

 パトカーは、裏紅傘事務所の前で止まった。

 パトカーから、4人の憲兵が下りてくる。

 そのうち2人は、明らかに階級が高い。

 一人は、温厚そうな、しかし、強者としての確かな自信を持った顔つきをしている。

 もう一人は、冷静沈着そうな、落ち着いた感じの青年だ。

「これは、どういうことかね?」

 落ち着いた声で、冷静沈着そうな憲兵が、この場にいる全員に問いかける。

「大佐!それに中佐も!」

 アルプトが、希望に満ちた声を上げる。

 ふむ。

 ここの地区を含む広域を統括する人物たちということだろう。

 強者の雰囲気を持つ憲兵が、先頭に立って声をかけてくる。

「私は、ヴァラータと申すものです。どなたか、事情を説明してはくれませんかな?」

 階級章的からすると、こちらが大佐のようだ。

 ヴァラータ大佐は、ゆっくりと、全員を見渡しながら、言う。

 すると、アルプトが、声を上げる。

「この者達が、我々を!」

 その声を聴いたヴァラータ大佐は、一瞬、俺を見る。

 そして、口を開く。

「ふむ、そうか。だが、周囲の銃撃痕は何だ?民間人にこれだけ銃撃をしたのか?あ?」

 その声色は、冷え切っている。

 どうやら、大佐は怒っているようである。

 それを聴いたアルプトの表情が、固まる。

 ふむ?

 どうやら、アルプトの当ては外れたように見える。

 はたして、この大佐は白なのだろうか?

 それとも、トカゲのしっぽ切りの如く、アルプトを切り捨てにかかっただけだろうか?

 悩む俺をよそに、リコラがヴァラータ大佐に説明を始める。

 

 説明を聴くうちに、ヴァラータ大佐の顔色は、みるみる青くなっていく。


 リコラの説明は、簡単なものだが、住民の失踪から憲兵の腐敗、今回の襲撃まで網羅した、判りやすいものであった。

 そして、話を聴き終えたヴァラータ大佐の顔色は、もはや、青を通り越して白くなっている。

「き・・・貴様・・・、なんてことを・・・。」

 どうやら、ヴァラータ大佐は、リコラの証言を信じたようである。

 ヴァラータ大佐は、今にもアルプトに掴みかかりそうだ。

 だが、それを止める者がいる。

「大佐、落ち着いてください。」

 冷静沈着そうな男だ。

 階級章は中佐。

 怒りに震える大佐を宥めている。

「本当だとしたら大変なことです。しかし、この者達の証言を鵜呑みにすることはできません。真偽は、慎重に確かめなければ。」

 ふむ?

「まずは、この場にいる全員から詳しい事情聴取が必要でしょう。」

 言っていることは間違っていない気がする。

 だが、声色と視線から、こちらを見下しているような雰囲気を感じる。

 なんだか、言い方が癪に障る。

 中佐は、激高する大佐に近づき、肩に手を置く。

「大佐、まずは落ち着きましょう。持病に触ります。」

 大佐、持病持ちなのか。

 しかし、中佐の冷静な言葉にも、大佐は一切動じず、怒り心頭である。

「いや、そんなことは言ってられん。これは、上に・・・うぐぅ・・!?」

 だが、大佐は、いきなり倒れてしまった。

 それを、中佐は急いで抱き起す。

「いかん!持病の発作だ!おい!大佐をお運びしろ!」

 そう言うと、パトカーから一緒に降りてきていた二人の憲兵が、大佐をパトカーに運び込んでいく。


 だが、完全に偶然だが、俺は見てしまった。

 中佐は、大佐を宥めるふりをしながら、皆から見えない角度で、大佐に何かを打ち込むような動作をしていたのだ。

 ・・・こいつは、黒だ。

 大佐は、白黒わからないが、こいつは黒である。

「おい、今、何をした?」

 中佐に声をかける。

 考えてみれば、こいつは名乗ってすらいない。

 俺に声を掛けられた中佐は、一切動じずに答える。

「はて?何か?」

 はて?じゃねぇんだ。

 だが、証拠が無い。

 

 ああもう、面倒くさい。

 ここからは、憲兵の元締めに動いてもらうこととしよう。

 ここまでくれば、証拠十分。憲兵の元締めも納得するだろう。

 俺は、スマートフォンを取り出す。

「何をしている!」

 すると、中佐が俺のスマートフォンを奪い取ろうと手を伸ばしてくる。

 その手を躱し、中佐の腹部に、意識は失わないが立てない程度の威力でキックを一発。

「うっ!?ぐぁああぁぁぁ。」

 その一撃で、中佐は腹を抱えてうずくまる。

「そいつを止めろ!」

 中佐が、絞り出すような声で、大佐をパトカーに運び込んだ二人の憲兵に指示をする。

 その指示で、憲兵が俺に掴みかかってくる。

 一人目の側頭部に踵を叩き込む。

 二人目には、裏拳をお見舞いする。

 二人とも、一撃で意識を失い崩れ落ちた。

 さて。これで邪魔者はいなくなった。

 スマートフォンを操作し、ある人物に電話する。

「・・・もしもし?こちらメタル。」

『・・・こちら、佐藤。ああ、メタルか。どうした?』

 電話の先からは、太いが、どこか透き通るような独特な声がする。

「ああ、ちょとやばいことがあってね。」

『なに?やばいこと?・・・はぁ。お前が言うんだ。あまり聴きたくは無いが、重要なことなんだろう?』

 電話先の男、佐藤は、どこか諦めたような口調で言う。

「ああ。実はな・・・」

 とりあえず、これまでの流れを説明する。

 すると、電話の先で、男が絶句していくのがわかる。

 説明を終えると、佐藤が、絞り出すような声を発する。

『・・・なぜ、もっと早く、言ってくれなかった・・・。』

 ・・・確かに、早めに言っておいた方が、良かったかもしれない。

『今すぐそちらに行く。住所は?』

 佐藤の言葉に、裏紅傘の住所を伝える。

『わかった。・・・そこか。よし。「近くの自分を送る」。』

 その一言を最後に、電話が切れる。

 

 数秒後、地面から、透明な何かが、盛り上がってくる。


 その何かは、数秒で人と同じくらいの体積まで溜まる。

 そして、どこからともなく軍服を取り出すと、その首部分から、流れるように収まっていく。

 軍服は開口部が首部分しかないようで、風船が膨らむようにヒト型をとっていく。

 本来ならば頭が来る場所には、透明な何かが本来の頭と同じくらいの高さまで盛り上がっている。

 そして、服に詰まった身体から、核のようなものが二つ。目があるならここであろう位置に移動してくる。

 数秒で、そこには、軍服を纏った(?)不定形生物が、立っていた。

 


「・・・来たぞ。」

 電話口で聞こえていた声が、目の前から聞こえてくる。

 その姿を見た中佐とアルプトが絶句している。


 碧玉連邦の憲兵、正式名称は碧玉連邦軍治安作戦軍。

 そのトップの男。


 治安作戦軍元帥、佐藤=柴雄(サトウ=シバオ)である。


 柴雄は、不定形生物だ。

 本来、柴雄はヒト型を長時間保つことのできる種ではない。

 そのため、風船のような開口部の無い軍服に収まり、無理やりヒト型を取っているのだ。

 その仕草は、元々不定形生物だとは思えないほど自然であり、堂々としている。


 柴雄は、軍人らしいきびきびした歩みで、リコラの元へと向かう。

「あなたが、リコラさんですか。」

 その言葉に、状況についていけていないリコラが頷く。

「私は、佐藤 柴雄。碧玉連邦治安作戦軍元帥を務めています。この度は、大変な迷惑をおかけしました。申し訳ございません。」

 柴雄は、重々しい声で続ける。

「そして、ふがいない我々に代わり、市民の平穏を守ろうとしてくれたこと、深く感謝申し上げます。」

 そう言い、柴雄は、深々と頭を下げる。

「げ・・・元帥殿!そんな!頭を上げてください!私なんか、大したことはしていません。」

 リコラは、唐突に眼前に現れた元帥という国の重鎮に、狼狽えている。

 だが、柴雄は頭を上げずに言葉を続ける。

「いえ。リコラ様の尽力は、この街に巣食う悪を暴き出しました。感謝いたします。」

 そう言い、たっぷり30秒ほど頭を下げた柴雄は、ゆっくりと頭を上げる。

「リコラさんのお仲間の皆さま。クロアさん、ビッキーさん、作太郎さん、エミーリアさん。皆様、後日、ゆっくりとお礼をさせてください。」

 再び、頭を下げる。

 律儀な男なのだ。

 再びたっぷり30秒ほど頭を下げ続けた柴雄は、ゆっくりと頭を上げる。


 憲兵たちの方を向いた柴雄は、その空気を一変させた。



 そう言い、柴雄は、アルプトの方へと歩いていく。

「・・・リコラさん、ビッキーさんを、家の中に。皆様も、刺激が強い光景が苦手な方は、建物に入っていた方がいいかと。」

 ああ、『あれ』をするのか。

 確かに、あれは、刺激が強いかもしれない。

「あ、ああ。ビッキー、帰ろうな。」

 ビッキーも、異様な空気を察したのか、リコラの言葉に素直に従い、裏紅傘の中に戻っていく。


「・・・貴様は、死刑すら生ぬるい重罪人である。強制捜査を行う。さあ、教えてもらおうか。」


 柴雄は、アルプトの頭に、手を添える。

「な・・・なにを・・・っくぁ!?」

 一瞬、アルプトが変な声を上げ、ぐったりとする。

 よく見ると、アルプトの耳から、透明な何かが入り込んでいる。

 数秒経つと、柴雄はアルプトから手を離した。

 その際、アルプトの耳から、ずるり、と透明な何かが抜けてくる。

 どうやら、柴雄はアルプトの耳から自分の体の一部を侵入させていたようだ。

「あが、あがががが・・・。」

 耳から透明な何かが抜けるのに合わせ、アルプトの体が、やばい感じに痙攣する。

 アルプトは白目をむき、気絶してしまった。

「ふむ。なるほど。」

 柴雄は、何かに納得したようである。

 強制的に脳から情報を読み取ったのだ。

 重大な犯罪の現行犯に対して、憲兵の高位士官しか行使することが許されていない、最終手段の一つである。

 まあ、そもそも実行できる人物がほぼいない、超絶難度の技術でもあるのだが。


 中佐は、それを腹を押さえて転がったまま見ていた。

 その顔の引きつりは、果たして腹部の苦痛か、恐怖なのか。

「次は、貴様だな。」

 その言葉を聴いた瞬間、中佐の表情が恐怖に染まり、叫ぶ。

「ひ・・・ひいいい!?くるなぁ!」

 そして、逃げ出そうと、中佐は立ち上がり踵を返す。

 あのキックの後、こんなすぐに立てるとは、意外に根性があるようだ。

 だが、逃げ出そうとした試みは、無駄だった。


「どこに行くつもりだね?」


 中佐の眼前には、柴雄がいた。

「ひっ!?」

 中佐は、思わず振り返る。


 そこにも、柴雄がいる。


 柴雄は、この場に二人出現しているのだ。

「どういうことだ・・・?」

 クロアのつぶやきが聞こえる。

 意外なことに、エミーリアと作太郎は驚いていない。

 

「ひいいいい!?」

 叫ぶ中佐。

 そんな様子に一切構わず、柴雄は、中佐の頭に手を添える。

 そして、中佐も、奇声を上げて気を失うことになるのだった。


「ふむ。大体はわかった。次は、大佐か。」

 そう言い、柴雄はパトカーに運び込まれているヴァラータ大佐の元へと行く。

 ヴァラータ大佐は、まだ意識を失っていた。

 柴雄は、そのままヴァラータ大佐の頭に手を添える。

 そして、数秒で手を放す。

「ふむ。大佐は白か。」

 どうやら、大佐は白だったようだ。

「・・・大体はわかった。そうだな。・・・よし。」

 少し思案していた柴雄は、何かに納得して、頷く。


「メタルよ。最後まで付き合ってもらうぞ。力づくでの解決は、得意だろう?」

 ほう。

 力づくと来たか。

「ああ、大得意さ。」

 まあ、もともと最後まで付き合う気ではあったのだ。

 問題はない。

「ならば、アルバトレルスのこの星での本拠を、潰してくれ。私は、この地区の憲兵を正常化する。」

 そういうことならば、お安い御用である。


 さあ、いよいよ攻勢の時間だ。



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