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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第20話 包囲

《犯人に告ぐ!貴様らは既に包囲されている!大人しく出てこい!》

 外から、拡声器を通したアルプトの声が響いてくる。

 窓から身をさらさないようにそっと外を確認すれば、憲兵のパトカーに装甲車、それに加えて黒いワゴンが、裏紅傘を包囲するように並んでいる。

「・・・くそ、憲兵は、ここまで堕ちていたか。」

 リコラが、吐き捨てるように言う。

「・・・ふむ。状況は、悪いですな。」

 作太郎が言う。

 これは、俺も予想外だった。


 この地区の憲兵とアルバトレルスは、繋がっていたのだ。


「捕まったら、碌なことにならないでしょうな。」

 作太郎が言う。

 そのとおりだ。

 少なくとも、リコラとクロアは、あのアルプトとかいう憲兵に引き渡されるだろう。

「裏にも、敵。」

 そう言うのは、エミーリア。

 裏口を確認してきたようだ。

 どうやら、事務所は完全に包囲されているらしい。

 

≪犯人に告ぐ!貴様らは完全に包囲されている!逃げ場はないぞ!≫


 また、アルプトの声が響く。 

 敵戦力確認のため、再び、窓の外を確認する。


 敵は、パトカーが4台、黒いワゴン車が5台、そして、装甲車が2台である。

 装甲車は、20mm機関砲搭載の歩兵戦闘車が1台に13mm重機関銃が搭載された兵員輸送車が1台。

 兵員は、全員が何かしらの火器で武装している。

 かなりの戦力だ。

「・・どうする?」

 リコラの声が、裏紅傘の事務所に響く。

 その声は震えている。


 あまりに不安そうな声だったので、思わずリコラを見ると、その表情は硬い。

 どうにか平静を装っているようだが、どこか諦めと恐怖に似た色も見える。

 クロアの顔を見れば、苦々しげな表情を隠しもしない。

「・・・これは、厳しいですなぁ。1対1ならば斬れますが、多勢に無勢では、如何ともしがたいでござる。」

 窓の外を見ながら、作太郎が言う。

 作太郎も、この状況が厳しいと思っているようだ。

「ド・・・ドウナルノ?」

 ビッキーは、状況がよくわかっていないようだが、周囲の不穏な空気を感じ取っているようである。

 その表情は、不安そうだ。

 エミーリアは、口を開かない。

 いつもどおりの無表情だが、少し、絶望感が宿っているようにも見える。

 沈黙。

 裏紅傘の事務所内を、沈黙が支配する。


 全員の、あの戦力相手には、勝てないと思っているようだ。

 

 リコラは、正しいことをしていた。

 街の平和を守り、人々の平穏を守ろうとしていた。

 クロアは、平穏を手にしていた。

 昏く染まった過去を捨て、新たに平和な日々を手に入れていたのだ。

 ビッキーは、楽しそうだった。

 学校に通い、それを作太郎に話す時の表情には、幸福が溢れていた。

 作太郎も、エミーリアも、そんな彼らを手伝っていたのだ。

 彼らは、我々は、決して、間違ってはいなかったはずだ。


 それが今、理不尽に蹂躙されようとしている。

 敵の戦力は大きく、抵抗すれば、死は免れない。

 皆、そう思っているのだ。


 こんなことが、あっていいだろうか。

 否。否。

 あっていいはずがない。

 

 俺は、全ての理不尽から、全ての人を守ることはできない。

 だが、目の前で起きる理不尽くらいには、抗ってみせよう。


「どうにか、私だけで済むように、アルプトと交渉してみようか・・・。」

 沈黙を破り、リコラが言う。

 自分を犠牲にして、他の皆が助からないか、と思っているようだ。

 だが、そんなことをする必要は無い。

「大丈夫。リコラは行かなくていい。」

 そう言うと、皆の顔が、こちらを向く。

「俺がやる。」

 俺が、どうにかするしかあるまい。

 

 理不尽には、さらなる理不尽で。

 暴力には、それを超える暴力で。

 

 力を開放する。

 今回は、最初から、開放を50まで引き上げる。

 装甲車は、強い。

 特に、歩兵戦闘車が厄介だ。

 20㎜機関砲は、徹甲弾を使えば、ビッキーの殻も貫くだろう。

 ただ倒すだけならば、開放30程度で十分だが、皆を守りながらとなれば、開放50が妥当だ。


 解放した瞬間、クロアが、信じられないものを見たような顔で、俺の方を見る。

 ビッキーは、いきなり殻を閉じた後、少しだけ殻を開けて、そっとこちらを伺う。

 作太郎も、驚いたような顔をしている。

 エミーリアは、何故か得意げだ。

 リコラだけ、何が起きたかわかっていないようだ。


「・・・メタルたちを雇ったのは、正解だったようだ。」

 そう、クロアが言う。

「どういうことだ?」

 リコラが、クロアに尋ねる。

 リコラだけ、ここにいる中では、戦闘力が低く、俺の力を感じ取れていないようだ。

「見ていればわかる。」

 クロアは、それだけ言う。


 愛剣を抜く。

『ん?仕事ぉ・・・?』

 愛剣の言葉に頷く。

「そうだ。仕事だよ。」

『わかったぁ。がんばってねぇ・・・。』

 仕事だと伝えても、眠そうな雰囲気は崩れない。

 俺の愛剣は、マイペースだ。

「俺は、正面の敵を倒す。」

 俺の言葉に、エミーリアとクロア、作太郎が頷く。

 それに驚いたのは、リコラだ。

「えっ!?そんなこと・・・。」

 リコラは未だに俺が勝てないと思っているようだ。

 だが、リコラに説明する時間も惜しいので、話を進める。

「皆は、背後から突入してくる敵に備えて。」

 背後に配置されている敵は、俺が正面から出たら、リコラ達を捕縛しに動くだろう。

 だが、作太郎にクロア、エミーリア、ビッキーは強い。

 並の相手には負けないのだ。

 ここは、任せても大丈夫だろう。


 リコラ以外全員の表情に覚悟が宿ったのを見て、俺は、裏紅傘の正面扉を開くのだった。


*****


 アルプトは、勝ったと思っていた。


 これだけの戦力を揃えれば、あの糞生意気な青鉄旅客の小僧も、敵わないに違いない。

 たとえ、装甲車がやられたとしても、他の者を人質にとれば、どうにでもできるだろう。

 あの青鉄旅客が出てきたら、背後の部隊を突入させればいいのだ。

 そうすれば、裏紅傘の3人、リコラ、クロア、ビッキーは俺の物だ。

 二度と刃向かわないようにしっかりと「教育」してやらねばなるまい。

 ああ、楽しみだ。

 

 アルプトが、そんな下種なことを考え、内心で舌なめずりしていると、裏紅傘の正面扉が開いた。

 あの旅客だ。

 その手には、抜き身の剣を持っている。


 信じられないことに、戦う気だ。

 

 バカめ。

 教養のない旅客は、この戦力を見て、不利だと考えることすらできないようだ。


 右手を上げる。

「後ろは狙うなよ。撃て!」

 そう言い、右手を振り下ろした。


*****


 裏紅傘の前に出ると、アルプトが、驚いたような顔をしたのが見えた。

 まあ、それもそうだろう。

 これだけの戦力に対し、正面から出てきたのだから。


「撃て!」


 アルプトの声で、敵が一斉に発砲を始める。

 本来なら、この攻撃で八つ裂きにでもなるのだろう。

 だが、俺を倒すには、火力が足りない。

 集中する。

 すると、全てがスローモーションに見えはじめる。

 

 真っ先に俺に到達するのは、砲口初速の速いバトルライフルの弾。

 続いて、20㎜機関砲弾。

 その次に、13㎜重機関銃弾、サブマシンガンの拳銃弾と続く。


 その弾を、愛剣で弾く。

 20㎜機関砲弾は榴弾のようで、剣で叩くと爆発する。

 この弾は後ろに通すと危険なので、優先的に止めておく。

 どうやら、俺を狙ってくれているようで、背後に飛んでいく数は少ない。

 弾を弾きながら、ゆっくりと進む。

 俺の前進に、敵が動揺しているのがわかる。

 歩兵戦闘車の方に歩みを進めると、歩兵戦闘車は動揺し、退こうとする。

 しかし、周囲の車や兵員が邪魔で、上手く動けないようだ。

 撤退できていない敵歩兵戦闘車の正面に到達する。

 歩兵戦闘車に掴みかかる。

 破壊するのも勿体ないので、そのまま持ち上げ、逆さまにする。

 機関砲を撃たれると面倒なので、砲身だけは曲げておく。

 次は、装甲兵員輸送車だ。

 10mほど離れた位置の装甲兵員輸送車へと向かう。

 装甲兵員輸送車は、うまく逃げだしそうになっているので、少し急いで近づく。

 常に周囲の敵から銃撃されるが、ダメージにならないので無視する。

 逃げていく装甲兵員輸送車に追いつき、歩兵戦闘車と同じように逆さまにする。

 13㎜重機関銃は銃架に設置されていただけなので、これで撃てないはずだ。

 次に、近くのパトカーのボンネットに、踵落としを喰らわせる。

 エンジン部はひしゃげ、走行不能になった。

 次は、黒いワゴンだ。

 車の側面から、エンジンルームを愛剣で切り裂く。

 エンジンルームは見事に真っ二つになり、車は動かなくなった。

 

 そのまま、車両を破壊していく。

 途中、弾が切れたのか、兵員たちが直接攻撃しに来た。

 兵員たちを、数mほど吹き飛んで気絶するように殴る。

 殺さないように気を付けなければいけない。

 数台の黒いワゴン車が、エンジンをかけて反転する。

 逃げ出す気だ。

 まあ、黒いワゴン車ならば、止めなくてもいいだろう。


 いずれ、潰すのだ。


 ただ、どこに逃げたかわからなくなっても困るので、一台を捕まえ、転がす。

 それを最後に、周囲が静かになる。

 確認すれば、立っているのは、アルプトだけだ。

 ふむ。

 思ったよりも歯ごたえは無かった。

 俺は、アルプトに歩み寄る。

 すると、アルプトは、少し慌てているものの、まだ余裕があるような声色で、声をかけてくる。

「や、やあ、お強いですな。流石に予想外ですよ。」

 ふむ。

 まだ、何か策があるな?

「そこで止まってくださいね。これ以上近づけば、裏紅傘の中で待っている人たちが、どうなっても知りませんよ?」

 ほう。

 何かあるのだろうか?


 次の瞬間、裏紅傘の窓が割れ、何かが飛び出してくる。

 ヒトのようだ。

 ・・・見たことのない人物である。

 飛び出した人物は、2、3回バウンドすると、気絶したのか動かなくなった。

 それを見たアルプトは、露骨に慌て始める。

 裏紅傘の、扉と、シャッターが開く。

 そこから出てきたのは、傷は少々あるものの、健在な裏紅傘のメンバー全員だった。

「ば・・・ばかな!?」

 アルプトが、狼狽する。

 どうやら、裏紅傘の背後から背後から突入した部隊が、切り札だったようだ。

 大方、裏紅傘の誰かを人質に取って、こちらと交渉するつもりだったのだろう。

 裏紅傘メンバーの傷を見ると、決して弱い相手ではなかったようだ。

 だが、どうやら、裏紅傘の戦力を見誤ったようである。

 

 リコラが、近くまで来て、口を開く。

「アルプトさん、流石に、犯罪組織と繋がっているとは・・・。見損ないました。」

 リコラの言葉に、アルプトは、びくりと震える。

 さらに、クロアが続く。

「アルバトレルスの本拠、吐いてもらうぞ。」

 そう言い、アルプトの首根っこを掴み、持ち上げる。

 

 クロアに吊るされたアルプトの表情は、先ほどのリコラ達のように、絶望に染まっているのだった。


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