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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第19話 盗聴器

「この部屋に仕掛けられた盗聴器を探そう。」

 クロアはそう言った。

「なに?盗聴器?」

 その情報に驚きを隠せないリコラ。

 それもそうだ。

 自分の拠点にいつの間にか盗聴器があると言われれば、誰だって驚く。

 だが、なぜ盗聴器があるのがわかるのだろうか?

「なんで、盗聴器があるのがわかる?」

 エミーリアも同じ疑問を抱いたらしい。

 エミーリアの疑問を聴いたクロアが、答える。

「理由は二つある。一つは、それが『アルバトレルス』のよく使った手だからだ。」

 アルバトレルス。

 クロアが過去に所属していた武装犯罪組織であり、地球における暴力団のような組織だ。

 たしか、この別の星から来た、外来の犯罪組織だったはずである。

 だが、アルバトレルスは昨年壊滅したはずだ。

「アルバトレルスは、無くなったはずでは?」

 リコラが疑問を呈する。

 ここにいる全員が、同じことを思っているだろう。

「私もそう思っていたが、どうやらそうでもなかったようだ。この会話も盗聴されている。詳しくはあとで話す。」

 クロアはそう言い、会話を打ち切る。

 確かに、考えてみれば、この事務所を開けている時間はそれなりにあった。

 盗聴器を仕掛ける時間はいくらでもあっただろう。

 だが、我々は、証拠もろくに掴めていない状態だったのだ。

 わざわざ、そこまでするだろうか?

「ふむ。こちらからすれば、捜査の進展はほとんど無かったとはいえ、それはアルバトレルスには関係ない故か。」

 作太郎が、考えるような口ぶりで言う。

 そうか。

 俺たちからすれば捜査の進展は無かったが、こちらが証拠を掴んでいないことは、アルバトレルスからはわからない。

 アルバトレルス側からすれば、邪魔な反抗勢力なのだ。

 そう考えれば、潰しにかかるのも不思議ではない。

 暴力で不都合をどうにかしようとする武装犯罪組織ならばなおさらである。


「・・・モウ、ダイジョウブ?」

 いままでこの場に居ながら会話に参加していなかった者の声がした。

 その声と共に、部屋の片隅の巨大二枚貝が、ゆっくりと開く。

 ビッキーだ。

 襲撃で 目を覚ましていたのだろう。

「カラに、キズがツイチャッタ。」

 そう言いながら、自分の殻を撫でている。

 ビッキーの貝殻には、よく見ると、浅い傷がついている。

 先ほどの銃撃による傷だろうが、言われなければ傷があるとわからない程度だ。

「痛みますかな?」

 作太郎が訊く。

「ゼンゼン。イタクナイよ。ワタシのカラはカタイんだ!」

 ビッキーは得意げに答える。

 貫通力が低い拳銃弾による銃撃だったとはいえ、予想よりも傷は浅い。

 頑丈な殻だ。

 

 その後、ビッキーとも情報を共有し、皆で盗聴器を探すことになった。


*****


 盗聴器探しは、思ったよりもすぐに終わった。

 クロアが、盗聴器の大体の場所について、わかっていたのだ。

 さらに、その場所からから電波が出ているかどうかを、ビッキーが察知することができた。

 そのため、盗聴器の捜索はほんの30分程度で完了した。


 今、テーブルの上に、5個の盗聴器らしきものが並んでいる。

 4つは小さな機械で、ピンマイクのような雰囲気だ。

 残る一つは、雰囲気が違う。

「これは、盗聴器なのか・・・?」

 リコラがそう言いながら見つめる物は、緑色をした、30㎝四方くらいの、盗聴器にしては大きな四角い機械である。

 どこにもボタンやメーターの類は無い。

 アンテナらしきワイヤーが上部と思われる方向にぐるりと鉢巻状に配置されているだけである。

「詳しくはあとで話す。まずは、破壊しよう。」

 そう言い、クロアは小さな盗聴器を一つ握り潰す。

 俺も、二つほど手に取り、握り潰す。

 樹脂製の小さな機械は、簡単にくしゃりと潰れた。

 ビッキーも一つ手に取り、粉々にしている。

 ビッキーの力は強いのだ。

 さて、問題は、この四角い機械だ。

「これ、結構頑丈だぞ?」

 リコラが、機械をペタペタと触りながら言う。

 四角いその機械は、金属製でいかにも頑丈そうだ。

「これは、頑丈だ。私も容易には壊せん。」

 なるほど。

 まあ、俺なら問題なく壊せるだろう。

「これ、爆発とかしないよね?」

 四角い機械を手に取り、一応、クロアに尋ねる。

「ああ、爆発はしないはずだが・・・。壊せるのか?」

 クロアの言葉に頷く。

 箱には、突起は鉢巻アンテナみたいな部分しかない。

 とりあえず、アンテナを引っ張ってみる。

 千切れた。

 次に、本体に指を突き立てて力を込める。

 ・・・確かに、なかなか頑丈だ。

 そのまま力を込め続けると、指が本体にめり込んでいく。

 指先が外板を突き抜けた感覚がする。

 外板を掴み、引っ張る。

 外板は、俺の力に耐えることができず、一部がちぎれて穴が開いた。

「よし。」

 外板は金属製で、その厚みは、1cmほどもある。

 これは、滅多なことでは壊れないだろう。

 内部を見れば、よくわからない機械が詰まっている。

「クロア、開いたけど、どうすればいい?」

「・・・流石だ。そのまま壊してくれ。」

 ふむ。

 下手な壊し方で機能が生きていても、良くないだろう。

 機械を両手で挟むように持ち、力を込めていく。

 俺の力に耐えられなくなった機械の外板は、メキメキと音を立てて潰れ始める。

 1cmもの厚みがある外板は、内部の機械を圧壊する。

 ある程度潰れたら、再び機械を開く。

 すると、内部でバラバラになった機械が見えた。

「これでいい?」

 俺は、そう言いながら、クロアに機械を手渡す。

 クロアは、機械の中身を取り出し、しっかり壊れているか確認する。

 さらに、クロアが犯人の車で見つけた書類を見始める。

 そのまま、数分。

「・・・大丈夫だ。完全に機能を停止している。」

 どうやら、完全に壊せたようだ。


 これで、アルバトレルスや、今回の襲撃について、クロアから話ができる状態になった。

「では、事情を話そう。」

 クロアの言葉に、全員の目線がそちらに向く。


 一切勿体ぶることなく、クロアは口を開く。

「私は、アルバトレルスで造られた人造の生命体だ。」

 その言葉に、リコラが息を呑む。

 クロアの言葉は、その口調の気負わなさに反し、なかなか重い内容であった。

 ビッキーは、よくわかっていないようだ。

 エミーリアは、表情が険しくなり、視線が鋭くなる。

 作太郎の表情は変わらない。

 ふむ。

 人造の生命体、か。

 先ほどの襲撃の際の傷から見えた金属光沢は、体内の部品のようなものなのかもしれない。

「脳だけは造れなかったようで、私の脳は、アルバトレルスが攫った少女の物が使われている。」

 ・・・それは、衝撃の事実かもしれない。

「・・・そのころの記憶は?」

 エミーリアが訊く。

 リコラは、いきなり出てきたヘビーすぎる話に、絶句している。

「少女だったころの記憶は、ほとんど無い。記憶は消され、私の今の体に移植された。」

 そう言いながら、クロアは自身のサブウェポンである大ぶりなナイフを取り出す。

 そして、自分の腕を、ナイフで深く傷つける。

 赤くない、真っ黒な血のような何かが少し垂れるが、すぐに止まる。

「この内部が、証拠だ。」

 肉が大きく抉られたそこからは、骨が見えている。

 その骨は、明らかに金属でできており、鈍色の光沢を放っていた。

「私は、脳にも改造を受けている。」

 クロアは、腕の傷を一切気にせず、話を続ける。

「その改造により、アルバトレルスの指示書のコードを読むことができる。」

 あの数字とQRコードのようなものは、専用の読み取り機能が必要だったのか。

「だが、アルバトレルスからの離反防止のため、指示書を読んだうえでその指示に反した行動をしようと思考すれば、体の動きが制限され、苦痛を感じるようになっている。」

 クロアは、先ほどこの書類を見たときに顔をしかめていた。

 本人なりに、その指示に反するように行動しようとしたのだろう。

「さらに、先ほどメタルが壊した中継機を介して、私の行動や思考がアルバトレルスに送られて、私の周囲の情報が、アルバトレルスに筒抜けになる。」

 なるほど。

 だから、襲撃のタイミングが、全員がそろってすぐのタイミングだったのか。

「では、リコラ殿を庇ったのは、アルバトレルスの意向に沿っていたと?」

 作太郎が問いかける。

 その言葉に、クロアが頷く。

「ああ。指示書には、クロアの拉致が記されている。クロアを押し倒すのは、その指示には反さない。」

 そういうことか。

「ということは、敵はアルバトレルスで確定か。復活したんだな。」

 俺がそう言うと、クロアが頷く。

「そういうことだ。では、私は行く。」

 クロアは、いきなり説明を打ち切ると、立ち上がり、武器を手に取る。

 それを見て慌てたのはリコラだ。

「なに?どこに行くんだ?」

 リコラの言葉に、クロアは淡々と答える。

「今回、私は裏紅傘の襲撃の一助になってしまった。けじめはつける。」

 これは、クロアは一人で新生アルバトレルスに殴り込みをかけるつもりだろう。

「だめだ。どこに行く気だ!クロア一人で行っても、何にもならないだろう!」

 リコラはクロアの言葉に怒り、声を荒げる。

 そのまま、クロアの歩みを止めようとしてクロアの肩に手をかけるが、クロアの力が強すぎて、リコラでは止めることができない。

「メタルたちも、クロアを止めてくれ!」

 リコラが焦り、俺たちにも声をかけてくる。


 ・・・車が集まる音がする。

 

 どうやら、クロアが一人で行くとか、俺たちが止めるとかの問題ではなくなってきたようだ。

「クロア、止まれ。」

 俺が言う。

 だが、クロアは止まらない。

「敵に包囲されている。」

 そう言った瞬間、クロアが止まる。

 そして、それと同時に、外から声が聞こえる。


《犯人に告ぐ!貴様らは既に包囲されている!大人しく出てこい!》


 拡声器で大きくなったこの声は、アルプトの声だ。

 窓から身をさらさないようにそっと外を確認すれば、憲兵のパトカーに装甲車、それに加えて黒いワゴンが、裏紅傘を包囲するように並んでいる。

「・・・くそ、憲兵は、ここまで堕ちていたか。」

 リコラが、吐き捨てるように言う。

「・・・ふむ。状況は、悪いですな。」

 作太郎が言う。

 これは、俺も予想外だった。



 この地区の憲兵とアルバトレルスは、繋がっていたのだ。


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