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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第16話 止まらない失踪

明けましておめでとうございます。

今年も引き続き、更新を続けていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

 カラン、カラン・・・。


 朝10時、裏紅傘の扉についているドアベルが鳴る。

 来客だ。

「おや、レーヌさんではないですか。奥方様も。お久しぶりです。」

 リコラが、親しげな声を上げる。

 そこには、鳥人の夫婦が立っていた。

 原始率は50%くらいだろうか?

 足は鳥っぽい鱗のある黄色い足で、腕には羽毛が見えるが、顔にはくちばしがあるわけではなく、ヒトと同じような顔をしている。

 どちらも大変見目麗しく、男性の方も、女性と見間違えるほど中性的で美しい外見である。

 2人の表情は、悲痛に歪んでいる。

「・・・一体どうしたんです?まずは、こちらに。」

 そう言い、クロアが、応接セットのある場所に二人を通す。

 2人が応接セットに腰掛けると、クロアがその対面に腰を下ろす。

 俺とエミーリア、作太郎は、リコラの後ろに各々立っている。

「どうぞ。」

 クロアが、レーヌ夫妻にお茶を出す。

 それ終えると、リコラの後ろ、俺たちの近くに移動し、立つ。

「レーヌさん、一体、どうしたんですか?」

 クロアが、レーヌ夫妻に話しかける。

「私の・・・私の息子が行方不明に・・・。」

 そう言い、涙を流すのは、夫人の方だ。

「・・・。」

 レーヌ夫人の言葉に、リコラの表情が険しくなる。

 そのまましゃくりあげ、言葉が継げなくなってしまったところ、レーヌ氏が言葉を続ける。

「昨晩、コンビニに行ってくると言って、そのまま戻ってこなかったんです。」

 2人とも、悲痛な表情をしている。


 失踪したのは、二人の3人いる息子の長男、19歳の鳥人の男性とのこと。

 昨晩、4月22日の午後11時時くらいに、コンビニに行くと言って出たっきり戻らなかったそうだ。

 深夜にコンビニに行くのは、別に珍しくなく、不審な行動ではなかったようである。

 コンビニまでは家から歩いて5分程度。

 その短い間に失踪したことになる。


「憲兵に言っても、家出か何かじゃないかって取り合ってもらえなくて・・・。」

 憲兵が頼りにならないと思った二人は、最近の失踪騒ぎを調査しているリコラに、捜索を依頼しに来たそうだ。

「わかりました。では、詳しい状況を教えていただけますか?」

 リコラが、聴取を始める。


 30分後、一通り情報を話した鳥人の夫妻は裏紅傘を去っていった。

 リコラが、ホワイトボードに書いてある失踪者リストに、今回の失踪者を書き加える。

「このご家族は、裏紅傘に依頼を出してくれる常連なんだ。最初の仕事が無いうちは、かなり助かったんだよ。」

 そう言いながら手を動かすリコラの声色は、悔しげである。

「あそこの長男は、二人に似て、すごい美形の青年でね。それでいて性格が良くて。」

 リコラの声は、震えている。

「だから、地域の、人気者で。」

 ・・・泣いているのだろうか?

 ホワイトボードに書き終えたリコラが、ペンを荒々しく置く。

 こちらを向いたリコラの顔は、泣き顔ではなく、怒りに染まっていた。

「必ず、犯人を見つけ出そう。そして、失踪した人たちを、救い出すんだ。」

 リコラの言葉に、俺たちは皆、頷くのだった。


*****


 まずは現場をみなければいけないということで、レーヌ氏の長男が向かったと思われるコンビニに足を運ぶ。

 レーヌ氏の家から、歩いて5分ほど。500mも離れていない。

 レーヌ氏の家は、コンビニのある通りから少し外れた細い通りにあった。

 100mほど進むと、大きな道路に合流できる通りで、閑静な住宅街といった感じである。

 コンビニは、首都でよく見るチェーン店で、これといって特別な感じはない。

 コンビニ店員の若い女性に話を聴いてみることにする。

「ああ、あの、カッコいい鳥人の彼のことじゃない?」

 二人いた店員は、どちらも失踪したレーヌ氏の長男については知っているようだった。

 どうやら、失踪したその日、レーヌ氏の長男はコンビニまでは来ていないようである。

 コンビニ店員の女性のうち片方は、失踪した青年のファンである上に、その時間は実際に勤務していたようなので、来たならば必ず気が付いているはずだと言う。

「他に変わったところは無かったかい?」

 リコラが尋ねる。

 すると、昨晩は妙に憲兵のパトカーの通行が多かったとのことである。

「憲兵の・・・?」

 リコラは、憲兵という言葉が出て、眉を顰める。

 なにか、近くで事故でもあったのだろうか?


 コンビニから出た後、近隣の家々に聴き込みを行った。

 半分ほどの家が、リコラの顔を見ると応じるあたり、リコラの人望はかなり厚いらしい。

 その聴き込みから得られたのは、やはり、憲兵のパトカーが多く走っていたという情報だけだった。

 だが、近くで事故や事件があったような話はない。

 一体、何が起きていたのだろうか?


*****


 現歴2265年4月26日


 レーヌ夫妻の長男が失踪してから4日経った。

「・・・またか。」

 リコラが、電話を置き、呟く。

 昨日までの3日間、毎日1件ずつ人が失踪している。


 4月23日の夜には、56歳の不定形人の女性が消えた。

 4月24日の夜は、狼人の25歳女性が、失踪。

 4月25日の夜には、性別無しの機械生命体が空間魔術で消えた。

 全て深夜の犯行である。


「なかなか、犯人にはたどり着かないな。」

 リコラが、悔しさを顔に滲ませながら、言う。

 だが、目撃情報も、増えてきていた。

 4月23日の失踪の際は、黒い貨物用ワゴン車に乗り込む失踪者が目撃されている。

 4月24日にも、似たような黒い貨物用ワゴン車が目撃されている。

 また、この日は同時に憲兵のパトカーの目撃情報もある。

 4月25日の魔術による失踪は、残念ながら目撃者はいない。


 それに伴い、憲兵も重い腰を上げたという話が入ってきた。

「だが、憲兵は当てにならん。」

 そう言うのは、クロア。

 その言葉には同意できる。

 『この街の』という但し書きこそ付くが、憲兵は全くあてにならない。

 捜査を始めたと聞き、憲兵の庁舎に情報提供と情報交換に向かったが、門前払いであった。

 民間で先に捜査している者がいるならば、協力はしないまでも、情報の聴取くらいは行うはずなのだが・・・。

 それどころか、帰り際に遭遇したアルプトが、リコラを差し出せば情報を渡す、と遠回しに言ってきただけだった。


 今は、全員が集まり、情報の整理を行っている。

 ホワイトボードには、失踪者の情報が、一人ずつカードにまとめられ、貼られている。

 作太郎が、情報の並べ替えをしやすいように、ササっと作ってくれたのだ。

「ここまで増えれば、共通点が見えてくるな。」

 リコラが言う。

「失踪は、大きく分けて2パターン。空間魔術が使われているケースと、使われていないケースに分けられる。」

 そう言いながら、リコラは失踪者の情報がまとめられたカードを動かす。

 二パターンに分け、失踪した日付別に並べていく。

「ふむ。空間魔術での失踪は、5日ごとでござるな。」

 空間魔術による失踪者の一覧を見ながら、作太郎が言う。

 空間魔術による失踪が起きているのは、3月31日、4月5日、4月10日、4月15日、4月20日、そして4月25日。

 たしかに、5日ごとに失踪が起きている。

 使用されている魔術は、痕跡の隠蔽まで含め、非常に高度で規模の大きいものだ。

 魔術の準備に5日かかっていてもおかしくはない。

「こっちは、若い人。」

 エミーリアが、空間魔法が使われていない失踪者の一覧を見て言う。

 空間魔術によらない失踪者は、6人目の失踪者である機械人の男性を除けば、皆、若い者である。

 不定形人種で56歳の者もいるが、今回失踪した不定形人種は長命種であり、50歳はヒトでいう20歳くらいなのだ。

 他の失踪者も、外見年齢が20歳前後の者が多い。

「コッチのミンナは、ビジンさん。」

 そう言うのは、今日は既に学校から帰ってきているビッキー。

 ビッキーが指し示しているのは、空間魔法によらない失踪者達だ。

 ビッキーに言われ、失踪者達の写真を見れば、確かに、皆、美形である。

 種族差がありすぎて美形かどうかわかりづらい者もいるが、その種族的に、この容姿は美形の部類だったはずである。

「・・・人身売買か?」

 クロアが、呟く。

 俺も、そう思ったところだった。

 高い価格が付きやすい若く美形な者を中心に拉致するのは、違法な人身売買ではよくある話だ。

 特に、人身売買組織は、資金力が無い成立初期のころは、簡単に高値が付く者を中心に拉致することが多いという。

 だが、そうなると、空間魔術を用いた失踪者の説明がつかない。

 こちらには、中年男性や性別の無い機械生命体なども含まれている。

 世の中には、筋骨隆々な中年男性を求める客もいるかもしれないし、労働力として拉致した可能性もあるかもしれないが・・・。

 ・・・う~む。わからん。

「空間魔法を使って拉致された人たちも、人身売買かな?」

 よくわからなくなってきたので、疑問を呈してみる。

 すると、俺の声を聞いた作太郎が、顎に手を当てながら、声を上げた。

「これは、空間魔法を使っておる下手人と、空間魔法を使っておらぬ下手人は、別勢力やもしれぬな。」

 そうか。そう考えれば、不自然ではない、かもしれない。

「別勢力。可能性はある。手口が違う。」

 エミーリアも、作太郎に同意する。

 エミーリアは、さらに、追加するように口を開く。

「魔術を使わず攫えるなら、それでいい。今回の魔法は、コストが高すぎる。」

 エミーリア曰く、今回使用されている空間魔術は、非常に高度でコストの高いモノに見える、とのことである。

 一人攫うためにわざわざ用意するには大げさな魔術であり、それ以外の方法があるのならば、わざわざ用意して使用するのは非効率だそうだ。

 エミーリアが話し終えると、リコラが、口を開いた。

「ここまでの流れを見れば、今晩は、空間魔法が使われない失踪事件が起きる可能性が高いだろう。」

 そのまま、リコラは、話を続ける。

「正直、証拠が足りなすぎる。だが、現行犯で取り押さえるのならば、証拠もくそもない。」

 そうか。

 今晩、失踪事件が起きそうだとわかるのならば、その現場を押さえてしまえばいいのだ。

 そして、ここには、たとえ相手がヤクザだろうが武装組織だろうが、ワゴン車1台分くらいの人数なら薙ぎ倒せるだけの戦力が揃っている。

 リコラは続けて、言う。

「今晩、囮を出すぞ。」


 そうして、今晩、囮捜査を行うことになったのだった。


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