第15話 証拠探し2
失踪に関係していると思われる空間魔術の痕跡を探すため、6人目の機械生命体が失踪した現場に移動する。
場所は、比較的大きな道路。
その道路に面した雑居ビルにあるプログラミングの会社が、その機械生命体が勤めていた会社だ。
そこの社員に話を聴いてみる。
「あいつは、無口でわかりづらい奴だったけど、技術は確かだったな。」
どうやら、無口な人物だったようだ。
人物像に加え、外見の聞き取りも行った。
「なかなかかっこいい見た目の奴だったよ。逆三角形の大柄な体に、黒いボディアーマーがよく似合ってたね。」
ごつくてボディーアーマー・・・。戦闘型だろうか?
更に詳しく話を聴くと、どうやら、思ったとおり、その機械生命体は戦闘を主眼に置いたボディをしていたらしい。
人型で、黒いアーマーが特徴だったそうだ。
昨年から勤めていたが、4月17日から行方が分かっていないという。
「責任感はある奴だったからなぁ。無断欠勤ってことはないと思う。」
どうやら、責任感が強い人物だったようである。
今日が4月22日だから、失踪は5日前だ。
聴き取りを終え、機械生命体の通勤路を辿る。
プログラミングの会社と失踪者の家は、同じ道に面している。
道は一直線で、この道をそのまま歩いていくのが最短距離だ。
失踪者の家に向け、空間魔術の痕跡を探しながら歩く。
そのまま、失踪者の家の前まで着いた。
失踪者の家は、一人目の失踪者が住んでいたアパートと同じような単身用のアパートである。
特に変なところは無いように見える。
だが、アパートではなく、ここまでの道には、少し変なところがあった。
ここまでの500mほどで、痕跡を、感じ取ることができなかったのだ。
「エミーリア、痕跡はある?」
俺の問いかけに、首を振るエミーリア。
「何もない。」
エミーリアも、痕跡を感じ取ることはできなかったようである。
人を失踪させるほどの空間魔術を行使すれば、ほぼ必ず痕跡が残る。
生物を空間魔術で動かすのは、無生物を動かすよりも遥かに難しいのだ。
「4月5日、17日前に失踪したと思われる爬虫類人の現場で痕跡が感じ取れたんだろう?5日前に失踪した者の痕跡が感じ取れないということはないと思うのだが・・・。」
そう、疑問を口にするのは、リコラだ。
「犯人が拉致した方法が、違うのかもしれませぬな。」
作太郎が言う。
そもそも、生物を動かすような。痕跡が強く残る空間魔術の影響は、5日程度では消えない。
空間魔術は使用されていない、と考えた方が自然である。。
「ふむ。予想外だな。仕方ない。もしかしたら見落としがあるかもしれない。もう少し、周辺を捜査してみよう。」
リコラが言う。
確かに、見落としはあるかもしれない。
そう思い、再び捜査に戻る。
しかし、期待空しく、数時間の捜査で痕跡は全く発見できなかった。
*****
裏紅傘の事務所に戻ってくる。
あの後、機械生命体の捜査に時間をかけすぎてしまい、他の失踪者の現場は、さらっと通っただけで終わってしまった。
しかし、それでもわかったことはあった。
リコラが、捜査でわかったことをホワイトボードに箇条書きで書き込み始める。
1人目の竜人の50代男性は、3月31日に失踪。時間が経ちすぎていて証拠はほぼ無し。
2人目の爬虫類人の30代女性は、4月5日失踪、空間魔術で拉致されたようだ。
3人目の不定形人種、180代。4月10日失踪、この件も空間魔術のようである。
4人目、犬人の18歳女性、4月12日失踪、空間魔術の痕跡無し。
5人目、年齢不詳のゴーレム、4月15日に失踪。空間魔術により拉致。
6人目、機械生命体の男性、4月17日に失踪、空間魔術の痕跡無し。
簡単な情報だが、失踪は、空間魔術によるケースと、それ以外のケースがあることがわかる。
そして、捜査を進めるうちに、さらに、追加で失踪者の情報があった。
7人目の失踪者は、猫人の20歳女性。
失踪したと思われる場所には、空間魔術の痕跡は無かった。
失踪日は4月19日。
元々奔放な性格であり、数日行方不明になることは多いとのことで、事件との関連は不明である。
8人目は、40代の牛人の男性。
失踪日は4月20日。
失踪したと思われる場所には、かなり新しい空間魔術の痕跡が残っていた。
5人目、8人目の痕跡は新しく、使用された空間魔術についてかなり詳しいことを読み取ることができた。
まず、使われた魔術は、大掛かりな準備が必要な、非常に高度な空間魔術だということがわかった。
使用された空間魔術の規模からすれば、本来ならば痕跡はもっと強く残るものだったのだが、痕跡の隠蔽はかなり巧みであり、俺たちのメンバーの中で痕跡が感じ取れたのは、俺とエミーリアだけだった。
エミーリアのような、種の特性として空間魔術が感じ取れる者か、痕跡の追跡を専門にする魔術師でも一流でなければわからないレベルの隠蔽だったのだ。
俺は、青鉄旅客として今まで数多の空間魔術を見てきたので、何となく感じ取れただけだったようである。
魔術の詳しい構成や、どこから発動した物なのかまでは、エミーリアでもわからないとのことだ。
「今日分かったのは、こんなもんか。」
リコラがそう言いつつ、ホワイトボードに情報を書き込む手を止める。
思ったよりも、判ったことは多い、と、思う。
「じゃあ、ここまでの情報から、皆の考えを・・・」
情報を見ながら、リコラが皆に意見を求めようとしたとき、それを遮るようにビッキーから声がかかった。
「リコラー、ゴハンマダー?」
ごはん・・・?
ビッキーの言葉に、少し、驚く。
もう、そんな時間だったのか。
時計を見れば、時刻は、20時を回っている。
夕食には、少し遅めの時間である。
「おや?もうそんな時間だったか?」
リコラも、意外そうな声を上げる。
どうやら、皆、情報まとめにかなり熱中してしまっていたようだ。
「じゃあ、ご飯にしようか。」
リコラがそう言い、夕食の準備を始めるために立ち上がる。
それを見ていたクロアも立ち上がり、リコラと共に台所の方に歩いていった。
俺は、ホワイトボードに書いてある情報を眺めてながら考えを巡らせてみる。
・・・法則とか探せばいいのだろうか?
失踪日?年齢?性別・・・?
数分考えてみるが、残念ながら、いい考えは浮かばなかった。
エミーリアを見れば、ホワイトボードを見ながらも、眠そうな表情をしている。
どうにか考えようとしているようだが、眠気が邪魔をしているようだ。
作太郎を見れば、自分の刀の手入れを始めてしまっている。
かなり早い段階で考えるのを放棄しているようである。
「・・・これくらいの情報では、某では、わかりませんからな。」
俺の目線に気付いた作太郎が、口を開く。
そんな作太郎の手もと、手入れしている刀に目が行く。
・・・良い刀だ。
思わず、刀の方に思考が向いてしまう。
結局、このまま俺が考えても、よくわからないだけなのだ。
それなら、もう、考えるのはやめてしまおう。
「良い刀だね。」
そう声をかけると、作太郎が嬉しそうな表情をする。
「おお、判りますか。某の生前からの愛刀にござる。銘は無いですが、長船派の作だとか。」
長船派。
俺は知らないが、地球の名工なのだろう。
「少し、見てもいいかい?」
「いいですぞ。メタル殿ならば、大丈夫でしょう。」
作太郎は快諾してくれた。
作太郎から刀を受け取り、観察する。
反りのある刀は、この星にも見られる形式だ。
だが、その刀身は、滅多にないレベルの逸品である。
作太郎曰く『重花丁子』と呼ばれるという刃文は複雑に波打っており、艶やかな美しさを醸し出している。
日本刀は過去にも見たことはあるが、この刀は、今まで見た中でも最高の一振りかもしれない。
軽く一振りしてみる。
刀は、鋭い音を立てて、空気を斬る。
う~む。いい刀だ。
「これは、いいモノだな。」
作太郎に刀を返す。
作太郎は、愛刀を誉められてうれしそうである。
そのまま、作太郎と刀談議に花を咲かせていると、リコラがキッチンから出てきた。
「夕食ができたぞ。運ぶのを手伝ってくれ。」
俺たちは、リコラの声に従い、キッチンに向かう。
エミーリアとクロアの食欲は衰えることなく発揮された。
これは、食費は払わなければいけないだろう。
そして、そのまま夕食を追え、日が変わる前に眠りについたのだった。
その日の晩、俺たちが知らない場所で、一人、新たな失踪者が出た。




