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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第10話 リコラとの再会

「なんで、メタルさんとエミーリアさんが、こちらに?」

 リコラは、とても驚いているようだ。

「やあ、1週間ぶりくらいかい?」

 リコラ。

 1週間ほど前に大盾市で受注した、76番要塞の調査において出会った緑クラスの戦闘旅客だ。

 その時一緒にジビキガイという魔法生物の変種であるビッキーという個体とも出会っている。

「まあ、立ち話もあれですし。どうぞお座りください。」

 リコラに促され、応接セットに腰掛ける。

「今、お茶をお持ちしますので、少しお待ちくださいね。」

 そう言って、リコラは給湯室だと思われる場所へと引っ込んでいく。


 ガシャン。


 リコラが給湯室へ行ってすぐ、何か、金属がぶつかり合うような音が、静かな事務所内に響き渡った。

 音の方向に目を向ける。

 すると、そこには、鎧を脱いだクロアがいた。

 ・・・一瞬色気を期待してしまうのは、男のサガだろう。

 だが、そこに一切色気は無かった。

 鎧の下は、重厚な戦闘用プロテクターに覆われていたのだ。

 プロテクターだけでも十分な防御力がありそうである。

 クロアは、さらにプロテクターを脱ぎにかかる。

「あ、こら!クロア!こんなとこで鎧脱がないの!」

 クロアの奇行は、お茶を持ってきたリコラの声で阻止された。

「着替えなら更衣室に行きなさい!今はお客様もいるんだから。」

「あ、ああ。」

 リコラの叱責に、クロアはタジタジになりながら更衣室に引っ込んでいく。

 その後ろ姿を見届け、リコラがこちらを向く。

「いやぁ、すいません。ちょっと訳ありで、彼女は一般常識が少し足りなくて・・・。」

 そう言いながら、リコラはお茶を並べ終えると、対面に腰掛けた。

 そして、にこりと人のよさそうな笑みを浮かべる。

「では、改めまして、仕事の話の前に、自己紹介でも。」

 リコラはそう言う。

 リコラからすれば作太郎は初対面だろうし、俺たちも仕事の最中に少し会ったくらいなのだ。

 互いの理解は必要だろう。

 

 この何でも屋『裏紅傘』は3年ほど前から営み始めたそうだ。

 この区画は、後ろ暗い過去がある者や訳ありの者たちのうち、平穏を求める者達が集まってできた街である。

 リコラはもともと専業の戦闘旅客だったが、その中でこの街に関わる機会があり住み着いたそうだ。

 最初は警察の協力者として活動していたが、より身近な手助けになりたいと何でも屋を営み始めたらしい。

 しばらくは一人で営んでいたが、1年ほど前にクロアを加え、今は二人で運営しているとのこと。

 戦闘旅客としての活動は、何でも屋だけで食べていけないときに行っていたそうである。

 

 改めて、リコラを観察する。

 燃え上がるように赤いおかっぱの髪に、クロアほどではないが白い肌をしている。

 目じりの少し上がった大きい目をしており、凛々しく中性的な顔立ちだ。

 1週間前のダメージが抜けていないようで、少し栄養不足な感じが見える。

 身長はすらりと高く180㎝くらいあり、モデルのような体型だ。だが、どことは言わないが、上半身の一部は慎ましやかである。

 安っぽいジーンズとシンプルな半袖シャツを着ているのだが、どことなくスタイリッシュだ。

 腰には30㎝ほどの短い杖がある。

 魔法を使うのだろうか?

 

 自己紹介が終わると、リコラは、作太郎の方に目を向ける。

「そちらの方は?」

 以前は作太郎はいなかったので、リコラは初対面なのだ。

「某は作太郎と申す者。硬銀クラスの旅客也。よろしく頼み申す。」

 作太郎が、旅客証を示しながら、丁寧に挨拶する。

「硬銀クラスですか。お強いのですね。」

 それを見たリコラも、丁寧に対応している。

 次は、こちらに目を向ける。

 それに対し、俺とコニカは答える。

「改めて。俺はメタル。メタル=クリスタルだ。青鉄旅客だよ。よろしく。」

 俺も旅客証を出す。

「エミーリア。赤熱銅クラス。よろしく。」

 エミーリアが旅客証を出すと、リコラは驚いた顔をする。

「おや?エミーリアさんは昇格したんですね。おめでとうございます。」

 そうリコラが言うと、エミーリアは少し得意げそうである。

「そういえば、ビッキーは?」

 リコラと共に76番要塞から回収されたジビキガイの変種であるビッキーは、どこへ行ったのだろうか?

「ああ、彼女はここで生活しています。昨日から、学校に通い始めたんですよ。」

 最低限の知識だけは与え、あとは学校で協調性などを身に着けてもらう方針であるようだ。

 最低限の知識とは、人を攻撃しないこと、盗みをしないこと、身体は服で隠すこと、道路の渡り方だそうである。

 ビッキーは、大型種向けの初等部へ通うことになったそうだ。

 ビッキーのことを話すリコラの表情は優しさに溢れている。

 しかし、話していて思ったが、リコラの口調は、どうも窮屈そうである。

「リコラ、自己紹介も終わったし、口調を戻してもいいよ?」

 そう言うと、リコラは少しきょとんとした後、表情が変わる。

 先ほどまでの人のよさそうな笑みではなく、凛々しい感じの笑みだ。

「そうか。助かるよ。私も敬語を使い慣れてないわけではないんだが、やはり、堅苦しいからな。」

 リコラの少しハスキーな声にすらりとしたスタイル、凛々しい笑みが合わさると、なんだかすごく格好いい。

 そんなリコラが、スッと、身を乗り出してくる。

 そして、小さく、低めの声で言った。

「クロアから、いくら提示された?それとも、なにか高価な物でも渡されたか?」

 ・・・リコラは、どうやらクロアの思考パターンがわかっているようだ。

 リコラは、さらに口を開く。

「私も、金属色3人が20万で雇えるとは思ってない。正直に言ってくれないか?」

 そこまで言うなら、言っていいだろう。

 作太郎とエミーリアの方に目配せをすると、二人とも頷く。

「これだよ。」

 そう言って、硬銀のインゴットを示す。

「これは・・・銀・・・?」

 リコラは受け取って、訝しげな顔をしている。

 だが、ゆっくりとインゴットを見ているリコラの表情が、次第に驚愕に染まっていく。

「こ・・・硬銀?」

 硬銀が高価な金属なのは、良く知られた事実なのだ。

 リコラは震えた声で訊いてくる。

「か、寡聞にして知らないのだが、これで、いくらぐらいなんだ?」

「大体、1,500万印くらいだね。」

 そう答えると、リコラの顔がいよいよ硬直する。

「そ・・・そうか。まあ、金属色3人には、これくらい、必要なんだろうな・・・。」

 そう言いながら、こちらにインゴットを返してくる。

 依頼はしないから返せ、とはならないようだ。

 どうやら、このまま依頼する方向で良いようである。

 気持ちの切り替えは速いようで、硬銀をこちらに返した後、リコラの表情に既に驚愕の色はない。

「では、仕事の話をしよう。」

 そう言い、リコラは口を開く。


 リコラは、先の76番要塞の件で、3か月ほどこの地を開けていた。

 1週間前に軍に助けられ、治療の後に街に戻ると、知り合いが何人か消息不明になっていたという。

 訳アリの者が多いこの街は、しかし、人の出入りには敏感である。

 自分の現在を外に知られたくない者も多く、また、外から入ってくる者が危険人物であることも多い。

 そんな中で、出ていくものと入ってくるものに目を光らせる、独自の社会が形成されたのだ。

 そのような社会で、人が消息不明になれば、必ず噂になる。

 実際、3か月行方知れずだったリコラも、それなりに噂になっていたようだ。

 周囲に自分は健在だと伝えるのと併せ、失踪した者の調査も始めると、いくばくかの情報が手に入った。

 しかし、情報は断片的であり、その情報だけでは確実なことは何も言えないという。

 だが、何でも屋の仕事と調査を並行するには人手が足りない。

 そこで、人員の雇用をクロアに頼んだそうだ。

 なぜクロアが金属色旅客に声をかけたのかはわからないとのことである。


 そこまでリコラが説明すると、クロアの声が頭上から聞こえてきた。

「私の勘だ。戦闘力が必要になる。」

 そこには、私服に着替えたクロアがいた。

 ぴっちりとしたチノパンに、長そでのシャツを着ている。

 鎧に隠れて分からなかったその身体は、鎧を脱いでもいろいろとでかい。

 2mを超える身長に、全身に筋肉の鎧を纏ったその姿は、威圧感抜群である。

 チノパンにシャツ、どちらもかなり大きいサイズのようだが、クロアにかかればぴっちりタイトな服になってしまうようだ。

 だが、そんな身体にもかかわらず、十分に女性的でもあり、どことは言わないが、リコラと違って、豊満である。

 筋肉質だが、うっすらと脂肪もついており、ガチガチのアスリート体型という感じではない。

 生粋の戦士なのだ。

「この失踪は、怪しい。敵がいる。」

 リコラの隣にどっかりと腰を下ろしながら、クロアは言う。

 リコラも身長は180㎝くらいと高めだが、2mを超える巨大なクロアの隣に座ると小柄に見えるから不思議だ。

 座ったクロアは、グイッとリコラの肩を抱く。

「私は、もう、失いたくない。」

 クロアの声は必死であり、なにか、暗い過去を感じさせる。

 一方で、リコラの顔は、髪の毛と同じで真っ赤になっている。

 まあ、人前で急に抱き寄せられたら、恥ずかしくもなるだろう。

「こら、クロア。人前でこんな・・・」

 リコラはそんなことを言いながらクロアを振りほどこうとするが、クロアはびくともしない。

 少しすると諦めたのか、肩を抱かれたままで、リコラは抵抗しなくなった。

「と・・・ということだ。協力を頼めるか?」

 リコラが、真っ赤な顔をしたままで、こちらに問いかけてくる。

 ・・・少し締まらないが、仕事を受けることは、問題ない。

 エミーリアと作太郎を見ると、二人とも頷く。


 こうして、俺たちは何でも屋『裏紅傘』の仕事を受けることになったのだった。


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