第8話 クロアの依頼
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これからも、よろしくお願いします。
「協力してほしい。」
そう言い、頭を下げたクロアは、ピクリともしない。
「まあ、座って。」
このままでは話が進まないので、頭を下げるクロアに声をかける。
声をかけると、クロアは頭を上げ、椅子に向かう。
椅子に座るときに邪魔になる武器を、背中から降ろし、床に置く。
クロアの2つの武器は、そのどちらも重量級の大型武器だ。
黒い棘鉄球は棒の先に取り付けられたタイプで、棒と鉄球の接続部には無骨なハンドガード部がついている。
ハンドガード内部に何かが仕込まれているようにも見える。
鉈のような大剣は、俺や作太郎が持つと大剣サイズの、幅広で分厚い無骨な剣だ。
大きな剣だが、クロアが持てばロングソードくらいのサイズにしか見えない。
クロアは、武器を下ろすと、椅子にどっかりと腰を掛けた。
鎧の重量か、はたまた体重か、多種族対応の頑丈な椅子がギシリと音を立てた。
「じゃあ、依頼内容をお願いします。」
そう促すと、クロアは口を開いた。
「今、我が戦闘事務所『裏紅傘』は、ある事案を追っている。」
クロアの声は、改めて聴くと低めのハスキーな声で、その印象をさらに厳めしくしている。
「その際、戦力の不足が予測される。」
クロアの語り口は、淡々としている。
「故に、戦力として貴殿らを雇いたい次第。」
そう述べた後、ごそごそと鎧のポケットから何かを取り出す。
「報酬はここに。」
机の上に、布に包まれた小さな長方形の何かを差し出す。
机に置くと、ゴト、と重い音がした。
「中を改めてもいい?」
そう問えば、クロアは頷く。
長方形の何かを手に取る。
ズシリと重い。
500gくらいだろうか。
布をめくると、そこには、鈍い銀色をした金属のインゴットがある。
「・・・ほーう。硬銀か。」
「いかにも。」
硬銀。
旅客のクラス名にもなっている、非常に希少な金属だ。
本来はこの宇宙に存在しないはずの元素だと言われており、その希少価値は非常に高い。
非常に硬く、熱に強く、低温でも強度が低下しない。
また、化学的に非常に安定しており、酸、アルカリどちらにも強い。
その性質から様々な用途が考えられているものの、硬すぎるため、加工が難しいという難点を持つ。
研究用、産業用、軍事用、ありとあらゆる場面で用途が多いが、辺境でしか採掘できず、安定供給されていないため、常に需要に追い付いていないのだ。
そのため、非常に高価であり、このサイズのインゴットでも1,500万印はするだろう。
インゴットには、国が義務付けている品質表示ケースが取り付けられている。
あまりに硬い為、硬銀などの一部金属は、外側に樹脂のケースを取り付け、そこに品質表示を刻印するのだ。
その刻印やケースの状態、金属自体の輝き等を見るに、本物のようだ。
一応、俺も武具工房を営む身である。金属の目利きはある程度できるのだ。
「如何か?」
クロアが、再び訊いてくる。
そこに、作太郎が口を開く。
「追っている事案の仔細は?」
すると、クロアは一通の茶封筒を取り出し、こちらに差し出す。
「仔細は、ここに。」
差出人は書いていない。
封筒の口は締まっておらず、紙が1枚入っているようだ。
紙は、安い樹脂殻用紙のようだ。
この星で大量に使用されている植物性樹脂を取り出した後に残った繊維で作った、黄色味を帯びた安い紙だ。
様々な場所で使われているが、外部の人に渡すような紙ではない。
戦闘事務所の経費節約だろうか?
その紙を取り出し、横のエミーリアと作太郎にも見えるように広げる。
「・・・?」
紙には、手書きでいろいろ書いてあるようだ。
〇用意できる金額
・20万印
〇探す相手
・なるべく正義感がありそうな人
・強そうなら、なおいい。
〇伝えること
・今、首都で人が失踪する事件が起きていること。
・その捜査に協力してほしいこと。
・できれば、戦闘力もあったほうがいい。
・報酬は十分には用意できないこと。
・その他、必要そうなこと
等々、たくさん書いてある。
丁寧に書いたというより、走り書きだ。
・・・これは、クロア用のメモではないだろうか?
横を見れば、エミーリアと作太郎も訝し気な表情をしている。
「・・・なあ、これ、クロアさん用のメモじゃない?」
そう言うと、クロアは、きょとんとした顔をする。
「・・・何?・・・貸してもらおう。」
そう言うので、クロアに紙を手渡す。
紙を見るクロアは、しばらく固まったのち、紙をくしゃりと握り潰した。
そして、そのままポケットに突っ込む。
「・・・失礼した。」
そして、何事もなかったかのように、口を開いた。
「今、この街で人が失踪する事件が起きている。解決に協力してほしい。」
そう言うと、クロアはどことなくやり切った感を出して、黙ってしまった。
紙に書かれていた内容の大部分を話していない。
どうやら、クロアは口下手らしい。
まあ、渡された際に、全て見たので、良いとしよう。
クロアに少し待つように言い、3人で頭を突き合わせる。
「・・・どうする?」
エミーリアと作太郎に言う。
「本当に人が失踪しているならば、それは由々しき事態であろう?」
作太郎が、言う。
そのとおりだ。
「私は、受けてもいい。」
エミーリアは、意外と乗り気であるようだ。
確かに、仕事内容は悪くない。
作太郎が言う通り、人の失踪は、ただ事ではない。
捜査に協力するのは、全く問題は無い。
報酬については、報酬は十分用意できないという。
紙に書いてあった金額は、20万印と、決して十分ではない。
しかし、内容に反し、クロアは硬銀のインゴットを差し出した。
「クロア殿。紙に記された報酬と、硬銀の延べ棒、報酬に差がありすぎるのは何故か?」
気になっている部分を、作太郎が問いかけた。
すると、クロアは一切動じずに答える。
「強き者を雇うならば、釣り合う報酬は必須。」
言葉は足りないが、どうやら、クロアは、この延べ棒を自分で用意してきたようだ。
「それでも足りぬやもしれん。どうか、このとおり。」
そう言い、クロアは、頭を下げる。
「私だけでは、守り方を、知らないのだ。」
・・・守りたいものが、あるようだ。
その声色は、必死さを感じさせる。
「・・・私は、受けるために、話を聴きに行っても、いいと思う。」
エミーリアが、言う。
エミーリアから意思表示をするのは、珍しい。
そして、すぐに受ける、ではなく、話を聴く、というのもいい感じだ。
「ふむ。某も、聴きに行くのは賛成ですな。」
作太郎も賛成の様子。
2人が賛成ならば、俺も、問題は無い。
そうして、俺たち3人は、クロアの所属する戦闘事務所『裏紅傘』へ、話を聴きに行くことになった。




