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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
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第6話 エミーリアとの戦闘

 目を開けると、そこは、闘技場になっていた。

 闘技場の広さは30m四方。

 俺とエミーリアは、闘技場の端に生成された小さな四阿に生成されたようだ。

 四阿の一角には、この空間の制御端末がある。

 フィールドの変更が、闘技場の中からできるのだ。

 四阿の壁面には、様々な武器が生成されて配置されており、好きに使っていいようになっている。

 また、四阿の中央には、カプセルベッドに横になる前に登録した、自分たちが使っている武器をコピーしたものが出現している。

 コピー品は、オリジナルと比較すれば性能は若干劣るものの、同じような感覚で使えるのだ。

 エミーリアは、迷わず四阿の中央の武器を手に取る。

 また、周囲に設置された武器も回収しているようだ。

 俺も、エミーリアに続いて、四阿の中央に生成された剣と盾を手に取る。

 以前購入した、灰鉄の剣と盾のコピーである。

 そして、闘技場の中央へと歩を進めるのだった。


 今回のフィールドは標準屋外。

 足元は、所々に土がむき出しになった、くるぶしくらいまでの長さの草に覆われた平原である。

 部屋の周囲は岩肌を模した壁に囲まれており、上には青空が広がっている、ように見える。

 実際はそう見えるだけで、天井はある。

 だが、青空のおかげで、閉塞感は感じない。

 壁面の高い部分にはガラス張りに見える部分がある。

 観客がいる場合はそこから見るのだろう。 

 よく見ると、いつの間にか、作太郎が座ってこちらに手を振っている。

 俺たちが部屋を借りたりしているうちに、小遣い稼ぎは終わったようだ。

 とりあえず、手を振り返しておく。

 そんなことをしているうちに、エミーリアの準備が整ったようだ。

「戦える?」

 そう訊くと、エミーリアは頷き、構える。

「よし、じゃあ、始めようか。どこからでもかかってきな。」

 エミーリアに言い、俺も構える。



 エミーリアの構えを、改めて観察する。 

 身体を斜に構え、 腰を少し落とし、左手に持った盾でその半身を隠している。

 こちら側から見て右側から、盾から半分だけ顔を出して片目でこちらを見ているようだが、よく見ると、盾の反対側からも、手が少しはみ出している。

 右手で剣を持っており、左手で盾。

 ということは、盾からはみ出している手は、3本目の手だ。

 3本目の手には、少し亀裂が入っており、そこから、視線を感じる。

 あれは、レギオンとしての能力だろう。

 複数の自己のうち一部で死角をカバーしているのだ。

 剣は、身体に密着させて腰だめに構えている。

 初手に突きを繰り出しやすい構えだ。

 防御重視だが、視界が遮られる欠点がある構えを、レギオンの特性でカバーしている。

 堅実で、しっかりとした構えである。

 

 エミーリアは、俺を観察している。

 隙を探しているのだろう。

 そこで、こちらもエミーリアの鏡写しのような構えを取って、待ち構える。

 

 数十秒ほど、睨みあっただろうか。

 先に動いたのは、エミーリアだ。

 こちらの隙が見つからなかったのか、じりじりと詰めてきたエミーリアは、盾を前面に突き出して踏み込んでくる。

 シールドバッシュだ。

 エミーリアの盾は、スクトゥムに似た大柄な盾で、重い。

 大体の相手は、その質量を活かしたシールドバッシュに耐えることができないだろう。

 だが、俺は、それを正面から盾で受ける。


 轟音。


 金属同士がぶつかる、鈍く高い音が響く。

 その瞬間、俺の盾が、身体から引きはがされるように引っ張られる。

 何事かと思えば、エミーリアの盾から周囲の確認用にはみ出していた手が、俺の盾を掴んで引っ張っている。

 そして、少し空いた隙間に『4本目の手』が剣を捻じ込んでくる。

 身体を捻って、剣を躱す。

 身体を捻りつつ、引っ張られている盾をこちらが引っ張り返し、エミーリアの姿勢を崩そうと試みる。

 しかし、それは読まれていたようで、エミーリアは、すぐに手を離す。

 同時に、4本目の腕と、元々の右手に持った剣で、同時に攻撃を繰り出してくる。

 片方を盾で弾き、片方を剣で受ける。

「むっ!?」

 エミーリアの攻撃を受けた剣が、変な方向に流される。

 どうやら、俺が剣で受けるのを見た上で、こちらの姿勢を崩すように攻撃の向きを変えたようだ。

 こちらも攻勢に出たいが、エミーリアの体は盾に隠れており、なかなか踏み込めない。

 そのまま、エミーリアの攻勢は続く。

 エミーリアの斬撃を剣で受け流し、そのまま攻撃を仕掛けるも、別の剣で綺麗に受け止められる。

 受け止められた剣を力づくで弾こうとすれば、力を込める前に、別の腕からの攻撃が繰り出され、その対応にこちらは引くことになる。

 ・・・じり貧である。

 こちらが攻めあぐねているのを感じたのか、エミーリアが再びシールドバッシュを放ってくる。

 俺も、それに合わせて踏み込みつつ、シールドバッシュで応戦する。

 轟音。重い手ごたえ。

 驚いたことに、エミーリアは、衝撃を受け止めても揺るがずに立っている。

 俺は、エミーリアをカウンターで吹き飛ばすつもりだったのだが、意外である。

 

 瞬間、嫌な予感がする。


 咄嗟に後ろに跳ぶ。

 すると、立っていた位置に、俺の盾を迂回するように10本近い腕が剣を突き立てていた。

 俺が回避したのを見て、エミーリアの手は引っ込み、最初と同じ体勢に戻る。

 エミーリアは、戦闘を優位に進めたものの、その視線に油断は無く、構えに緩みはない。


 ・・・思っていたよりも、数段強い。

 攻撃は鋭く、重く、何より巧みだ。

 防御も硬い。

 剣で受け流し、それが駄目なら別の剣で、そして、最後に盾で防ぐ。

 二重、三重と張られた防御は、容易には突き崩せない。

 戦闘技術面は、相当のものだろう。

 俺も、戦い方を変える必要がありそうだ。

 

 俺がそう思い踏み出そうとした瞬間、エミーリアが踏み込みながら突きを放つ。

 踏み込みで重低音が響き、大地が揺れる。

 その瞬発力は、今までの重厚な戦い方からは想像ができないものだ。

 俺の雰囲気が変わったのを、感じ取り、体勢を立て直す前に止めるつもりで放ったのだろう。

 駆け引きや、相手を読む力も相応にあるようだ。

 

 だが、まだ甘い。


 エミーリアの突きが到達する瞬間、盾を振り上げ、振り下ろす。

 盾はギロチンの如く、突き出されたエミーリアの腕に襲い掛かる。

 エミーリアは、咄嗟に腕を引く。

 しかし、引き切れず、剣が俺の盾によって地面に叩きつけられる。

 そこで剣を離せば、まだよかったのだろう。

 しかし、エミーリアは咄嗟に剣を離せなかった。

 それによって、突進のベクトルが斜め下に向かって変化し、エミーリアは俺に向けて前転するように姿勢を崩す。

 それに合わせ、盾をそのまま前に突き出す。

 俺の盾と体の間に、自分の盾を差し込めたのは、流石エミーリアである。

 だが、止まりきることはできず、エミーリアは俺の盾に勢いよく激突する。

 エミーリアは、まずいと思ったのか、後ろに跳び退いた。

 しかし、倒れることこそ無かったが、ダメージはあったようで、足元がふらついている。

 そのエミーリアに向け、側頭部を狙って剣を横なぎに繰り出す。

 エミーリアは、どうにか盾で防ぐが、受け止めきれず、大きくよろける。

 そのまま、俺は攻勢に出る。

 だが、エミーリアも流石であり、ふらつきながらも致命傷だけは防いでいく。

 

 そして、その眼は、まだ諦めていない。

 俺の攻撃でよろけ、吹き飛び、転がりながらも、その視線には、力がある。

 しかし、攻め手が、無い。

 エミーリアは、決して弱くない。

 むしろ、かなり強い部類なのが、今回の戦闘で改めて分かった。

 だが、攻撃力が、攻めの手段が、足りない。

 エミーリアの現状で最強の攻撃は、先ほど躱した、剣を同時に突き立てるものだ。

 ということは、剣が効かない相手へは、有効打が無い。

 そして、状況への対応力についても、少し低めかもしれない。

 今、俺が攻めているが、こちらに反撃できる瞬間をあえて作っても、反撃できていない。

 その表情は、まだ諦めていないが、焦りが見える。

 状況をどうにかしたいと思いながらも、考えがまとまらないのだ。


 経験不足。


 エミーリアの現状での欠点は、それに集約されるだろう。

 身体能力は高く、戦闘技術も一定以上習熟している。

 しかし、それを実戦運用することに慣れていないのだ。

 なまじ強く、自分の戦い方を押し付けていける分、自分の戦い方ができなくなったらめっぽう弱いのである。

 

 俺が攻め始めてから、約20分。

 エミーリアに、体力の限界が訪れた。

 横薙ぎの一撃を受け止めきれず、転ぶ。

 どうにか立ち上がろうとするが、立ち上がれない。

 疲労が極限まで蓄積した手足は痙攣し、力が入らないようである。

「ここまでにする?」

 俺がそう言うと、しかし、エミーリアは、ニヤリと笑う。


 次の瞬間、俺の目の前には、大量の武器が隙間なく迫っていた。


 驚いた。

 まだこれだけの力を残していたのか。

 迫る武器の山に、盾を捻じ込み、道を作る。

 剣は、大量の腕に引っかかり動きづらいので、投げ捨てる。

 腕の森を突き抜けた先には、驚いた顔をするエミーリアが、腕に支えられて立っていた。

 そのエミーリアに向けて、無手になった右手を突き出す。


 軽い手ごたえ。


「かっは・・・」

 エミーリアの口から、乾いた咳が漏れる。

 俺の腕は、エミーリアの胸部を貫き、背中から突き出していた。

 エミーリアが白い光になって消える。


 この闘技場では、死亡判定、もしくは意識を失った場合、分身は魔力に戻って消滅する。

 そして、カプセルベッドの本体が目を覚ますのだ。

 また、死亡判定や意識消失が無くとも、端にある四阿の操作パネルで戻ることもできる。

 俺も戻ろうと、四阿に向かう。

「・・・おや?」

 すると、そこには既にエミーリアがいた。

 どうやら、すぐにカプセルベッドを起動させて、戻ってきたらしい。

 表情には、どことなく、闘志が感じられる。

「もう一回。」

 エミーリアが言う。

「いいよ。じゃあ、状況を変えてやってみようか。」

 エミーリアは、頷く。

 ちょうどいい。

 エミーリアの状況判断力を測るため、状況を変えて何回か戦おうと考えていたのだ。

 負けたことで『もうやらない!』とならなくて、よかった。

 

 その後、エミーリアの気が済むまで、20回ほど戦闘を行うことになった。

 そして、やはり、実戦経験が足りないことが明確になったのだった。


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