第5話 闘技場
なかなか、話が進まないです・・・。
エミーリア、作太郎と3人でホテルを出る。
そこは、未だ塔の中だ。
昨日は、駅近くのホテルに泊まったため、ホテルの外に出ても、中央の塔の内部なのだ。
現在の時刻は、午前8時。
既に大きな通りの車通りは多く、たくさんの人々が道を行き交っている。
「さて、今日は、闘技場に行こうか。」
相手の実力を把握するには、戦ってみるのが一番である。
今回、エミーリアの目的もわかったので、今の強さを測っておきたいのだ。
エミーリアは実力を隠しており、その実力は、まだわからない部分も多い。
測っておくならば、今、このタイミングだろう。
スマートフォンで調べると、ここから一番近い闘技場は、昨日行った旅客情報局の近くにあるようだ。
この国には、公営の闘技場がある。
その闘技場では、遥か太古のテクノロジーを利用して、命の心配なく全力で戦うことができるのだ。
旅客情報局の近くには、大体設置されており、多くの戦闘旅客などに利用されている。
闘技場に着いた。
旅客情報局のように塔の上階まで届くような建物ではないようだ。
しかし、闘技場自体は巨大であり、塔の中に建っているという実感はあまり湧かない。
形状は円筒形で、伝統的な大型闘技場を模しているようだ。
アーチ状の窓が積み上がるように配置されており、美しさの中にも無骨さを感じさせるデザインとなっている。
デザイン自体は伝統的だが、壁面は金属の表面にガラスを張った、美しい光沢を放つ近未来的なデザインをしている。
闘技場の前は広場になっており、多くの戦闘旅客が行きかっている。
「・・・あれ、何?」
その旅客達を見たエミーリアが、何かを指し示しながら、訊いてくる。
そこには、戦闘旅客と思われる人々が『挑戦者求む』の看板を掲げて立っていた。
「ああ、あれは腕試し屋だよ。」
「・・・?」
エミーリアは、何が何だかわからないといった顔だ。
作太郎は納得がいったようで、その旅客達に視線を走らせている。
「あの旅客達に勝てば、賞金がもらえるのさ。ただ、挑戦料はかかるし、負けたら指定分の金額を払わなきゃダメだけどね。」
腕試し屋は、この星の多くの地域にある文化である。
腕に覚えのある戦闘旅客が小遣い稼ぎでやっていたり、それで生計を立てていたりする。
挑戦料は数千印~数万印程度。
強い戦闘旅客は、その分賞金を大きく設定しているため、挑戦して勝ったときの儲けが大きくなるようになっているのだ。
まあ、勝てればの話だが。
また、あまりに挑む側が強い場合、腕試しに挑んで賞金を受け取るのはマナー違反である。
絶対に勝てる相手に挑んで荒稼ぎすることは、あまりいい眼では見られない。
また、それを防止するために、腕試し屋も挑戦の拒否権が法で保障されている。
その逆の、弱い者が強い腕試しに挑むのは、全く問題は無い。
挑戦料はかかるが、強い者と戦うことはいい刺激になるのである。
これら以外にも細々としたマナーや決まりごとはあるが、簡単に言えば、挑戦して勝てば得して、負ければ損する、一種の遊びである。
流石に首都だけあって、腕試し屋の数も多い。
そして、その実力の幅も広いようだ。
「メタル殿。少し、小銭稼ぎでもしてきてよいかな?」
作太郎が言う。
その眼は爛々と輝いており、戦う気満々だ。
「いいよ。でも、弱い者いじめは、ダメだよ?」
「はっはっは。強者以外と仕合う趣味はありませぬ。まぁ、身包みは剥がされるかもしれませぬが。」
そう言うと、作太郎はうきうきと、腕試し屋の方に歩いていった。
作太郎の歩いていった方を見ると、この中でも、最高峰の戦闘旅客達が待ち構えているエリアであった。
あの様子だと、闘技場での立ち振る舞いは、よくわかっているようである。
作太郎は、心配いらないだろう。
嬉々として対戦相手を探し始めた作太郎を横目に、俺とエミーリアは闘技場に入るのだった。
*****
闘技場の中に入ると、そこそこ広いロビーになっている。
壁面は外と似たデザインをしており、金属を磨き上げたような壁面をしている。
そして、床は、交換しやすいゴムタイルが敷き詰められている。
円筒形のロビーの壁には、自動ドアが並んでおり、その上にゴシック体の番号が大きく掲げられている。
それぞれが一つの闘技場とつながっているのだ。
どうやら、この闘技場には、大小さまざまな部屋が50ほどあるようだ。
10m四方程度の小さな部屋から、200人以上が同時に戦える大きな部屋までそろっているようである。
そのうち半分程度が、公開観客席付きで外部から見ることのできる部屋のようだ。
実力を知られることで直接仕事の依頼が来る場合もあるため、公開部屋は一定の需要があるのだ。
カウンターに行き、闘技場を使用したい旨を伝える。
「現在空いているお部屋は、こちらになります。」
係員から、今空いている部屋のリストが提示される。
今は、公開観客席付き部屋の部屋しか開いていないようだ。
非公開部屋は、今日は予約でいっぱいのようである。
「公開観客席付きでもいい?非公開設定もできるし。」
公開観客席付きの部屋と言えど、非公開にもできるのだ。
エミーリアは、頷いた。
比較的大きな闘技場を借りる。
闘技場の鍵を係員から受け取り、指定された番号の扉へ向かう。
扉の横には、誰が入っているかの名前と、旅客証の色が表示されている。
闘技場に入ると、部屋の設定用のパネルがある小部屋になっている。
「公開設定は、商談相手許可にしていい?」
商談相手許可とは、戦闘旅客のスカウトや、直接の仕事依頼を考えている者のみが観戦可能という設定である。
そういった商談目的の者は、闘技場に事前申請して入場許可証をもらっている。
商談相手許可設定にすると、入場にその許可証が必要になるため、必要最低限しか見られたくない場合に便利なのだ。
ちなみに、全体公開設定にすると、見学したい者は全員入れるようになる。
エミーリアに説明すると、OKとのこと。
「フィールドは、標準屋外でやるね。」
この闘技場は、フィールド設定の項目が多い。
流石、首都の闘技場である。
標準屋外フィールドは、3~5cmくらいの長さの草に覆われたフィールドである。
前衛職が手合わせをする場合に利用することが多い、その名の通り標準的なフィールドだ。
フィールドの設定が終わったので、小部屋から先に進む。
小部屋の先は大部屋になっており、薄暗い部屋にカプセル型のベッドが10個程度配置されている。
このカプセルベッドに横になることで、闘技場に自分を送り込むのだ。
公営の闘技場で命の心配がない理由は、自分が直接戦うのではなく、魔法によって自分の分身を作り出して戦うからである。
たとえ自分の分身が死んだとしても、自分自身に悪影響は無いのだ。
正確には分身ではなく、少しだけ位相をずらした平行世界を生成し、この世界とその平行世界に重なるように自分を存在させるという魔術らしい。
なので、正確に言うと、分身ではなく、それも自分だということになる。
俺の記憶が正しければ、現在の文明から10か11ほど前の文明で作られた技術だったはずだ。
その時の文明は、今のこの文明よりも遥かに進んだ技術を持っていた。
その時代の技術を発掘し、利用しているのが、この闘技場なのだ。
魔術および呪術の再現には成功しているものの、応用できるほど原理の解明は進んでいないようである。
正直、当時を知ってはいるものの、俺も、この技術はよくわからない。
まぁ、安全に使えれば、それでいいのである。
『部屋に鍵をおかけください。荷物はロッカーに入れ・・・』
部屋にアナウンスが流れる。
アナウンスに従い、エミーリアがカプセルベッドに入り込んだのを確認して、俺もカプセルベッドに入り込む。
『横になりましたら、手元のスイッチを・・・』
カプセルベッドの中でも、操作用のアナウンスが流れる。
アナウンス通りに、カプセル内にあるスイッチを押す。
そして、目を閉じる。




