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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
34/208

第3話 エミーリアの過去と想い

2020/9/30 最期の部分の内容を修正しました。

 路地裏。

 ビルとビルの間で、少し広くなっている空間。

 狂骨の作太郎は、エミーリアに『雰囲気が変わった』と言った。

 ということは、俺と会う前のエミーリアを知っているのだ。

 ならば、エミーリアも作太郎を知っているのだろうか。

「エミーリア、知り合い?」

 そう問いかけると、エミーリアはコクリと頷く。

 知り合いのようだ。

 作太郎のほうを見れば、もはや戦う気はないようである。

 ならば、単刀直入に訊いてしまおう。

 駆け引きは苦手なのだ。

「エミーリアを探したって言っていたな。どういうことだ?」

 少し、敵意を出しながら訊いてみる。

 まだ作太郎は敵か味方かわからないのだ。

 そう訊くと、作太郎は慌てたように両手を小さく上げ、首を振りながら答えた。

「某に敵意はありませぬ。どうか、落ち着いてくだされ。」

 少し、警戒を解く。

 敵意は無いと言われて馬鹿正直に信じるのは愚かだが、警戒しすぎるのもよくない。

 そして、作太郎の雰囲気からも、嘘をついているようには見えない。

「エミーリア、作太郎は信用できる?」

 その問いかけに、エミーリアは頷き、口を開く。

「私の、味方だった。」

 そういうエミーリアに、作太郎は嬉しそうな表情をする。

 先ほども思ったが、骨の体にしては表情豊かだ。

「いやはや。突如として出奔したときは、心配しましたぞ。」

 そう言う作太郎に対し、しかし、エミーリアの表情は硬い。

「・・・誰の指示?」

 エミーリアのその言葉に、作太郎の表情が真剣になる。

「・・・レピスタ王の指示にござる。」

 その『レピスタ王』なる名前を聞いた途端、エミーリアの体がこわばった。

「だが、某に、エミーリア嬢を連れ戻す気はありませぬ。」

 作太郎がそう言うと、エミーリアの雰囲気が、少し落ち着く。

 さて、どういうことだろうか。

「詳しく、聴かせてもらおうか。」

 俺がそう言うと、作太郎は、頷いた。

 そして、口を開く。

「しかし、このまま話すのも、落ち着きが悪かろう。どこかの店に入りませぬか?」

 ・・・まあ、もっともだろう。


*****


 個室のある飲み屋を選び、三人で入る。

 狂骨の作太郎も問題なく飲み屋に入ることができた。

 チェーン店の個室居酒屋だ。

 この国では、アンデッドも普通に生活できる。

 そこら辺を歩いている骨人や骸人などは、特に珍しくはないのだ。

 作太郎の場合は、色が朱色で特殊なので、店員が少し驚いていたが、まあ、それくらいは愛嬌だ。

 ちなみに、首都などの大都市において、多くの店は24時間営業である。

 数多の種類の知的生命体が暮らす大都市では、どの時間に営業しても一定以上の需要があるのだ。

 とりあえず、店員にソフトドリンクを注文し、作太郎と向き合う。

 作太郎も注文していたので、骨の体だが、飲めるのだろう。

 エミーリアは、俺の隣に座っている。

「じゃあ、聞かせてもらおうか。」

 俺の言葉に、口を開いたのは、エミーリアだった。

「まず、私が話す。」

 どうやら、エミーリアが先に話したいようだ。

 ちょっと予想外だったが、エミーリアの話に耳を傾けることにする。


「私は、灰神楽はいかぐら自治区出身。そこから出てきた。」

 そう言って、エミーリアは静かになる。

 俺と作太郎は、エミーリアの言葉の続きを待つ。

 そのうちに、頼んでいたソフトドリンクが届く。

 甘い炭酸飲料で喉を潤しながら、エミーリアの言葉を待つ。

 作太郎は緑茶を飲んでいるが、その緑茶は、果たしてどこに消えているのだろうか・・・。

 そんなことを考えながら1分ほど待っても、しかし、エミーリアは話さない。

「あれ?エミーリア、それだけ?」

 思わず、訊く。

 すると、あろうことかエミーリアは頷いた。

 流石に情報が少なすぎて、訳が分からない。

「・・・いやはや、口数が少なすぎるのは、変わっておりませんなぁ。」

 作太郎が、呆れたように口を開く。

 だが、すぐに作太郎は居住まいを正し、こちらに向き直る。

「では、某から、詳細を述べさせていただく。」


 灰神楽自治区は、この国の東北部に位置する、アンデッドが中心の自治区である。

 50年ほど前、各地を放浪していた作太郎は、自分に近い種が多く、居心地の良いその自治区に住み着いたのだという。

 作太郎は、灰神楽戦士団に入団してその腕っぷしで生計を立て始めた。

 その時点でそれなり以上に強かった作太郎はメキメキと頭角を現し、5年後には4つある戦士団の一つを率いる団長にまで登り詰めた。

 その頃の灰神楽自治区は、ナターリアという女王と民主的に選ばれた議員による議会が治めている、牧歌的でのんびりとした自治区だったそうだ。

 そんな状況が変わったのは、約30年前。

 レピスタという男が自治区に現れてからだった。

 レピスタは、ナターリアの旦那だと自ら名乗り、ナターリアから王位を譲り受けた。

 その戴冠式には、確かにナターリアがおり、住民たちは何も疑問を抱かなかったという。

 しかし、その後、王となったレピスタは住民たちがアンデッドで頑丈なのをいいことに、強引な労働政策などを推し進めていった。

 本来ならばそれを止めることのできる議会は、全会一致でレピスタ王を支持。

 治安維持組織である戦士団も、作太郎の第二戦士団以外はレピスタ王を支持した。

 議会に武力組織まで押さえられた自治区の住民たちは、その政策に逆らうことができず、言いなりになった。

 作太郎が、レピスタ王は他者を強制的に従わせることのできる何かしらの能力を持っているようだ、と気づいた時にはすでに遅かった。

 自治区の中枢を担う者がほぼ全て、その能力で操られていたのだ。

 それからのレピスタは、まさに悪虐の王であったという。

 逆らうものは戦士団を利用して捕縛し、家族を人質に従わせ。

 それでも従わない場合は、能力を使って家族を自らの手で痛めつけさせ、時には殺させることまでした。

 そうして、自治区全体の抵抗の芽を潰していった。

 自治区の全てが思い通りになったレピスタは、アンデッドの頑強さを盾に周辺自治区への侵攻すら考え始めたという。

 作太郎はなぜか操られることはなかったが、状況は良くなかった。

 どうにか、自分の部下だけは操られないように手を回したものの、このままでは、部下まで全て操られるのは時間の問題であった。

 外に通告しようにも、外聞は良くなるように操作されており、作太郎が騒いだところで狂人の戯言である。

 自分はどうしたらいいのか悩む日々の中、一人の少女が作太郎の元を訪れる。

 それが、エミーリアであった。

 どこか前女王ナターリアの面影を持つ少女は、レピスタ王に操られていないようであった。

 それを面白いと思った作太郎は、エミーリアを鍛えることに決める。

 エミーリアの戦法自体は定まっていたため、作太郎は実戦における立ち回りや戦い方を教えていたという。

 しかし、ある日、エミーリアは失踪する。

 それと同時に作太郎はレピスタ王から呼び出される。

 そして、レピスタ王から、エミーリアはナターリアとレピスタ王の娘であることを聞かされ、その捜索を命じられた。

 作太郎は、レピスタ王の前では従順でいたため、操りが効いていると信じられていたのだ。

 そこで、その捜索を利用して、戦士団の部下たちを自治区外へ逃亡させ、自分は、エミーリアを探すことに決めた。

 エミーリアから失踪の真意を聞きたかったのだそうだ。


「簡単には、こんな感じでござる。仔細は追々といったところでござるな。」

 作太郎が話し終える。

 なるほど。

 思っていた以上に、色々あったようである。

 作太郎は、エミーリアを見つめている。

 エミーリアに、失踪の真意を問うているのだろう。

 その視線を前に、エミーリアは、口を開いた。

「・・・私は、レピスタを倒す。そして、母と、自分を、救う。」

 その口調は、静かだが強く、その決意を表すようであった。

 今までの話の流れだと、ナターリアは母親なのだろう。

 しかし、母はともかく、自分を救う、とは、どういう意味だろうか?

「私は、レギオン。私の一部は、レピスタに、囚われている。」

 ・・・そうか、エミーリアはレギオンであった。

 レギオンは、複数の自己の集合体である。

 そして、特殊な方法を使えば、それを分離することも可能なのだ。

 エミーリアは、それにより、自分の一部をレピスタに捕らえられているのだろう。

「私の体の6割は、向こうにいる。」

 エミーリアの声は、重い。

「感覚は、繋がっているけど、動かせない。今は何もされてないし、していないけど、完全に、レピスタの、支配下。」

 その拳は震えるほどの力で握られ、表情は、いつもの無表情と違って、悔しさと怒りを溢れさせている。

 今は何もされていないが、このままでは、自分の命の6割をレピスタに握られている状態なのである。

「私は一度、負けた。だから、強くなる。そして、レピスタを倒す。それが、私の、けじめ。」

 そうか。

 だから、強くなりたかったのか。

 個室の中に、沈黙が訪れる。

「・・・メタル殿。エミーリアに、これからも力を貸してはくれませぬか。」

 作太郎が、沈黙を破り、こちらに声をかける。

 

 俺はいま、不快であった。


 エミーリアの境遇を聴いていると、不快感でむかむかしてくるようだ。

 そして、気づいたのだ。

 俺は、思ったよりも、エミーリアを大切に思い始めているようである。

 できる限り、エミーリアの力になりたいと思うのだ。

「・・・わかった。そのレピスタとやらは、自分で倒したいんだね?」

 エミーリアに問う。

 エミーリアは、力強く、頷いた。


 俺は、そんなエミーリアを見ながら、内心で闘志を燃やし始めるのだった。


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