表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第3章
32/208

第1話 首都到着


 現歴2265年4月21日 午後14時


 軌空車は、ほとんど振動せず、空を走っていく。

 窓の外を見れば、すさまじい勢いで景色が流れていく。

 高度20m程度の低い位置を時速700kmほどで移動しているのだ。

 なかなかのスピード感である。

 エミーリアなどは、最初30分ほどは、その速度に目を丸くしていた。

 そのエミーリアも、少し前から、シートに体を預けてぐっすりと眠っている。

 時計を見れば、到着まで、あと20分ほど。

 そろそろ見えるだろう、と思い、窓の外を見る。


 そこには、ただただ広大な平原と、その平原に高く高く聳え立つ何かがある。


 聳え立つ何かの外周部と中心には、巨大な塔のようなものが数本、その何かを支えるかの如き威容を見せつけている。

「んぅ・・・。むにゃ・・・。」

 エミーリアが目を覚ましたようだ。

「エミーリア、おはよう。」

 声をかける。

「・・・ふぁ・・・。ぉはよう。」

 エミーリアは、むにゃむにゃと目をこすっている。

「ほら、窓の外を見てごらん?」

 エミーリアに、窓の外を見るよう、促す。

 その声に、エミーリアが窓の外に目を向ける。

「・・・?あれは、何?」

 エミーリアはそう言い、聳え立つ何かを、じっと見つめている。

 何かに気付いたのか、エミーリアの半開きの目が、次第に見開かれていく。

 そして、ぽつりと呟く。

「すごい・・・。」

 軌空車は、その聳え立つ何かに近づいていく。

 その聳え立つ何かにく近づくことで、それらは金属の鈍色に錆色、コンクリートの灰色、そして、数多の看板や屋根のカラフルな色で構成されていることが見えるようになる。

 軌空車は、聳え立つ何かに沿うように飛行する。

 各建物からは、大量の道路やパイプ、コードが伸び、それが外見の混沌さを際立てている。

 この『聳え立つ何か』は、巨大な都市なのだ。


 これこそが、この星最大の都市にしてこの国の首都、惑星『碧玉』の名を冠する巨大高層都市『碧玉』である。

 

 人口は約1億人。

 この星どころか近隣の星系でも屈指の大都市であり、また、凄まじい人口密度を持つ高層都市でもある。  

 この都市の面積は約120㎢。地球の東京23区の2割程度の面積である。

 その面積に、1億人もの人口が詰まっているのだ。

 人口密度は驚異の833,000人/㎢。

 上に向けて拡大している高層都市だからこそあり得る、凄まじい人口密度である。

 この都市は、約1000m~1200mの塔を中心として成立している。

 それらの塔は、中心に1200mのものが1本、東西南北方向にそれぞれ1000mのものが1本ずつの計5本が配置されている。

 そして、それぞれの塔を繋ぐ空中回廊が建設され、その回廊に接続する形で高層都市が形成されているのだ。

 そのため、上空から見ると、都市は巨大な四角形をしている。

 都市部では、軌空車の軌道は、淡く発光している。都市に生活する飛行人種が軌道に入り込まないようにしているのだ。

 都市部へ突入する前に、軌空車は大きく減速する。

 都市内部では、軌空車の軌道ギリギリまで建物がせり出しているため、高速で移動すると危険なのである。

 軌空車は、ゆっくりと人々の生活の間を飛行する。

 軌空車は、外周の4つの塔を避け、中央の塔へ向かっていく。

 中央の塔の下部には、公共交通機関の集合駅が配置されている。


 滑るように、軌空車は駅へと到着した。

 エミーリアと共に軌空車から降りる。

 駅のホームの外見は、大盾市とあまり変わらない。

 少し歩き、落ち着いたところで、エミーリアに声をかける。

「さて。新しい場所に来たら、まず行く場所は、どこでしょうか?」

 そう問いかけると、エミーリアは、悩むことなく答えた。

「旅客情報局。」

 そう言い、自信ありげにその小さな胸を張る。

 ・・・可愛い。

「そう、正解だ。よくわかってるじゃないか。」

 エミーリアにそう返し、旅客情報局へと向かうことにした。


*****


 駅から出ると、そこは、塔の内部とは思えない、非常に広い空間であった。

 駅の前には、バスのロータリーがあり、そこから接続する道路は、片側6車線。

 道路の両脇には、緑の植え込みがあり、さらに、ビルが建っている。

 ビルの隙間からは、向こう側の道路とビルが見え隠れしている。

 さらにその先に目を凝らせば、遠すぎて霞がかかるほど先に、この塔の壁がようやく見える。

 目線を変えて上を見れば、たくさんの線路や道路、軌空車の軌道が張り巡らされており、ビルが、その隙間を縫うように伸びている。

 一部のビルなどは、この空間の天井を通り、上の階まで続いていたりもするのだろう。

 屋内ではあるものの、空気に淀みは無く、それどころか風の流れすらあり、空気に新鮮さすら感じる。

 エミーリアは、困惑したように周囲をきょろきょろしている。

「ここは、外?」

「いや、屋内だよ。」

 エミ―リアがそう思うのも無理がない程、塔の内部空間は巨大であった。

 そう。ここは、あくまで首都碧玉にある塔の内部なのである。

 駅の入り口の隣には、天井まで続いているであろう、円筒形の巨大な建物がある。

 この巨大な建物の1~7階が、『碧玉中央駅前旅客情報局』になっているのだ。

 首都『碧玉』には、その都市の大きさに合わせて、旅客情報局がたくさん設立されている。

 それぞれの旅客情報局によって、取り扱う仕事の難易度や種類、対象の旅客のクラスが異なる。

 上位旅客向けの高難易度仕事が中心の情報局もあれば、下位旅客が中心の低難易度の情報局もあり、都市外のこの地域の仕事を扱う情報局もあれば、この都市内の仕事に比重を置いた情報局もあるのだ。


 おしゃれな曲面で構成されたガラスの自動ドアをくぐり、ビルに入る。

 ビルに入ってすぐに大きな円形のエレベーターホールになっており、そこに配置されたエレベーターや階段で8階以降に向かえるようだ。

 今回、上には用はないので、まっすぐ進む。

 そこには、塔の外周と同じように曲面を描いた自動ドアがある。

 その自動ドアをくぐる。

「・・・!!」

 エミーリアが息を呑むのがわかる。

 それだけ、この情報局は、大きかった。

 碧玉中央駅前旅客情報局は巨大であり、直径500mはありそうな巨大な円形のホールが広がっている。

 上を見上げれば、200mほども直径がありそうな吹き抜けがあり、4階分の階層が見える。

 周囲には、飲食店や各種旅客用のグッズ店がたくさん並んでおり、旅客情報局というよりも、巨大な総合ショッピングモールのようだ。

 多くの物があるが決して雑多ではなく、床のテラコッタタイルの素朴な色合いと合わさり、どこか落ち着いてお洒落な雰囲気すら醸し出している。

 この旅客情報局は、外から来た旅客が真っ先に立ち寄るために設立された情報局である。

 そのため、1階は、この星においても珍しい、都市内の旅客情報局の情報に特化した情報局であり、多くの旅客は、ここから滞在先に近く利便性の高い情報局に向かうのである。

 2階以降は、この都市内部と都市周辺の代表的な仕事を主に扱っており、首都に長期滞在する気が無いのならば、個々の情報局だけでも十分なようになっている。

 また、仕事の難易度は、階が上がるごとに上位旅客向けになっている。

 2階は、最下位クラスの白から赤クラス向けで、5階は、金属色クラス専用という他の都市にはなかなか無い、高ランク専用の旅客情報局になっている。

 6階と7階は、旅客情報局の事務職が詰めているエリアのようだ。


 俺たちは、エミーリアが赤熱銅で、俺が青鉄。

 2人とも金属色クラスの旅客なので最上階に行くことができる。

 それとも、まずは都市内のほかの情報局の情報を集めたほうが、いいだろうか?

 俺は、そんなことを考えながら、きょろきょろするエミーリアを引き連れ、旅客情報局を歩くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ