第2話 旅客情報局
レトロな見た目の電車に乗り、揺られること20分。
月町の次の停車駅、「剣ヶ峰市」に到着だ。
月町で人がいなくなり、ほぼ無人になった電車から降りる。
入れ替わりで、それなりの人数が電車に乗り込んでいく。
駅のホームから外を見やれば、青空に聳える鋭い山が見える。街の名前にもなっている「剣ヶ峰」と呼ばれる、標高500mほどの剣のような形の山だ。
剣ヶ峰市の都市部は、山の東にある切れ長の谷間に形成されている。人口20万人ほどの地方都市だ。
実は、あの「剣ヶ峰」は、古の巨人戦士が使っていた巨大な石剣の折れた刀身なのだが、現在はその話は伝わっていない。
まあ、12万年ほど前の話だ。伝わっていなくて当然だろう。
その石剣も、年月による風化には抗えず、今は急峻な地形と多くの洞窟に化け、それなりに難易度の高めなフィールドとなっている。
攻略しても実入りはそこまでよくないため、この山に魅入られた一部の人々を除いては、登りに行く人はいない。
だが、山と谷の織り成す景色は美しく、温泉も湧くため、保養地としてにぎわっている。
「う~ん。温泉にはいりたいな。」
季節は春。新緑を眺めながら入る温泉はたいそう乙だろう。
だが、今回の旅の目的は違う。
仕事を受けるために、旅客情報局へ向かわなければいけない。
旅客情報局。それは、旅客に地域の情報を提供する公共機関である。
旅客は、その名の通り旅をするものであり、各地で情報を集める必要がある。
しかし、情報収集能力の低い新米旅客達は、情報不足が元で損害を被ったり、命を落とすことすらある。
旅客はこの星においてかなりの数がいるため、情報不足による損害は、社会問題となったのである。
そこで、旅客たちに情報提供するために国が運営している公共機関が『旅客情報局』だ。
旅客情報局の機能は、基本的に3つ。
一つ目は、旅客の管理機能。旅客の新規登録や、旅客証の更新などの事務的機能。
二つ目は、旅客への情報提供機能。近隣住民や、企業、公的機関から旅客に向けて出されている仕事や、近隣の現在の危険地帯、素材の時価などを紹介するのだ。
三つ目は、食堂機能である。冒険者の集まる酒場を想像してほしい。大体そんなものだ。一つの店が切り盛りしていることもあれば、フードコートのようになっていることもある。ここにも、多くの情報が集まる。
旅客情報局は、必要な機能を収めることのできる元からある建物を利用している場合が多いため、それぞれの地域の特色があることが多い。
ここ、剣ヶ峰市の旅客情報局は、旅館の一階と二階を利用しているもので、周辺の村落の情報も一手に取り扱う基地局だ。
旅客情報局は、国道沿いのわかりやすい場所に立っている。
・・・?前に来た時は前に植木は無かったと思ったが、5mほどの樫らしき木が生えている。
植えたのだろうか?
まあいい。とりあえず、旅客情報局に入ろう。
情報局に入れば、ロビーに多数配置された丸テーブルとイスが目に入る。賑わっており、立ち話している旅客も多い。
まっすぐ行けば、総合カウンターで、カウンターの向かって右隣りに掲示板と端末、左側に飲食店がある。
飲食店は、カウンターのみのファーストフード店と店舗内で食事をとる定食屋らしき店の2軒がある。ファーストフード店の商品をロビーに配置されている丸テーブルで摘まんでいる旅客も多い。
「さて。いい仕事はあるかな?」
とりあえず、仕事を探すには掲示板である。
人の隙間を抜け、掲示板にたどり着く。
掲示板の前にも数名の旅客がいるが、掲示板自体非常に巨大なため、余裕である。
掲示板は電子化されており、タッチパネルに無数の仕事が表示されている。
気になる仕事にタッチすれば、その仕事が目の前に拡大されて表示されるのだ。
仕事は色分けされており、求めるジャンルが一目でわかるようになっている。
大型タッチパネル以外にも、個人用の備え付け端末で探すこともできる。
個人用端末は、高さ調整用のバーの上に自在に稼働するように半透明の板がくっついているような見た目をしており、その板に情報が映る。
ハイテクなのだ。
掲示板の前に立ち、近くに表示されていた討伐の仕事をタッチする。
対応旅客:戦闘旅客
種別:討伐
目標:大鹿の討伐
報酬:討伐数に応じて。一頭5,000印。討伐確認部位として尻尾、角等を持ってくること。
難易度:3
発注者:剣ヶ峰市役場 危機管理対策室
注意事項:討伐後の死骸処理も行うこと。
詳細等:剣ヶ峰麓の森林の中で、大鹿が増え、農作物等に被害が出ているため、その討伐を依頼するもの。
一頭5,000印か。旅客情報局で掲示している仕事は、基本的に税金や社会保険料を引かれた金額になっている。この場合は、1頭で手取り5,000印という意味になる。
しかし、思った以上に難易度の低い仕事だ。通常の難易度が10段階指定があるうちの3。ある程度経験を積んだ新米旅客が、初めての大型生物討伐仕事として受けるのにちょうどいいくらいだ。
ほかの仕事を見ても、この辺りは危険な生物も少ないため、難易度の高い討伐任務はない。
他の旅客の取り分が減ってしまうため、あまり適正難易度から外れた仕事を受注するのは好ましくない。
難易度は、一般に掲示されるものは10が最高だが、それ以上の物もないわけではない。ただ、表には出ていないため、旅客証を示して閲覧する必要があるのだ。
受付嬢のところへ向かう。
「すいません。難易度11以上の仕事を見せてもらえます?」
すると、受付嬢は、笑顔の中にも、少し呆れをにじませつつ、答えた。
「えっと、難易度11以上は、それ相応の方にしか見せられないんです。旅客証を確認させてください。」
俺の見た目はせいぜい20歳より少し若い程度だ。少し自信のついた旅客が背伸びをしているように見えても仕方がないだろう。
そういった旅客が一定数いることも確かだ。
コートのポケットの決まった位置に旅客証は入れている。
旅客証は厚さ1㎝ほどの樹脂製の、車の免許証より一回り大きいカードであるため、結構ごつい。
その旅客証を取り出し、受付嬢へと提示する。
「青鉄・・・?少々、お借りしても?」
「はい。大丈夫ですよ。」
受付嬢は、心底疑わしいといった顔をして、旅客証を受け取る。
偽装を疑っているのだろう。正しい反応だ。
旅客は、それぞれ登録されている技能の習熟度によって、白、赤、黄、緑、青、鉄、赤熱銅、硬銀、緑透金、青鉄と、10段階に評価されている。硬銀、緑透金はただ単に銀、金と呼ばれることも多い。
実際は、1から10のランク付けがあり、それに伴ってわかりやすいように旅客証の色を変えているだけで、色自体はランクの正式名称ではない。
前半はただの色、後半は特定の金属の色となっている。これは、昔は自分の採ってきた素材で旅客証をつくり、それを実力の証としていた名残で、上位の色ほど希少な素材だ。ただ、残念ながら、現在の旅客証は、本物の金属ではなく、それらしい色をしているだけの樹脂である。
旅客には多くの種類があるが、どんな種類の旅客でも、鉄クラス以上の旅客は少なく、そうそう目にするものではない。
ちなみに、旅客証の色はあくまで旅客としての格付けであり、それ自体が戦闘力を現すものではない。
戦闘力は、戦闘ランクというランクで表される。ランクはS,A,B,C,D,E,Fの7段階で表され、さらに、その中でも10段階に分けられている。数値が小さいほど格上である。
例えば、ヒトの成人男性はF-6、地球のT-55戦車はE-5、F-22戦闘機はE-1、2010年時点のアメリカ軍全軍でC-3・・・といった形だ。
S-1は宇宙全軍の合計値を基準としているが、基本的にSランクは物理法則を超越した存在に与えられるクラスである。
俺の戦闘ランクは、E-6として登録してある。本当のランクは、秘密だ。
受付嬢は、俺の旅客証を機械にセットする。
すると、みるみる表情が変わっていく。
「たっ・・・大変失礼しました!青鉄の方ならば、問題はありません!今出ている難易度11以上の仕事はこちらです!」
受付嬢が大いに慌てている。
そして、周囲にいた旅客たちがざわつきはじめる。
「青鉄…?」
「こんな場所に?」
「でも、本当みたいだぜ?」
「職種は何かしら?」
うーむ。青鉄クラスの旅客だと、一瞬で広まってしまった。
受付嬢の声は決して大きくなかったが、俺も別に青鉄の旅客証を隠したりはしなかったので、見えていた旅客も多いのだろう。
とりあえずざわつきは置いといて、仕事を確認する。
クラスが銅以上の旅客は難易度11以上の仕事を受けることができる。そして、俺は青鉄の戦闘旅客だ。余程の事情がない限り、どんな仕事でも受注することができる。
「ふむ。」
受付にあったモニターに仕事一覧が表示される。
難易度11以上の仕事は、全国の物が閲覧できる。
高ランクの旅客は全国を飛び回り仕事をすることも多い。そのため、全国情報が欲しくなるのである。
受注自体はどこでもできるわけではないので、どこにどんな仕事があるかわかるだけだが、便利なことに変わりはない。
件数は全国で5,000件と少し。
軍や他の旅客が対処中であるものを除くと、1,500件ほど。
高い難易度と高額報酬の仕事が並んでいる。
1件当たりの報酬は、最低でも1,000万印。
この星の物価は、大卒初任給が20万印程度と地球連邦日本地区と似たようなものだ。
どの仕事を受けても、しばらくはのんびり過ごせるだろう。
だが、報酬が高いということは、それ相応に危険な仕事達でもある。
さて。どの仕事を受けようか。




