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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第2章
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第17話 仕事完了

 レオンの体の断面は、赤い何かで満たされており、生物らしさは一切なくなっていた。

「これは、何・・・?」

 エミーリアが呟く。

 皆の目の前で、レオンの体が退色していく。

 そして、10秒ほどで服も肉体も、真っ白になってしまった。

 その質感は陶器かプラスチックのようで、もはや、元生物だったとは到底思えない見た目になっている。

「・・・中身が、変ですね。」

 鈴が言う。

 その言葉につられ、切断面を見る。

 すると、そこには真っ赤な何かが充填されているように見える。

「・・・ふむ?」

 覇山が、その赤い何かに、触れようとする。

「ぬぅっ!?」

 赤い何かに指が達した瞬間、覇山が驚きの声を上げながら、指を引っ込める。

「どうした?」

 思わず、訊く。

 すると、覇山は訝しげな表情をしながら、答える。

「指先に、痛みが走った。攻撃を受け、ダメージを受けたようにも感じる。」

 覇山にダメージ?

 最上位超人の防御力を突破したということだろうか?

 覇山は、最上位超人にふさわしい防御力も備えており、並大抵の攻撃ではダメージは受けないはずだ。

 それを突破するとなると、特殊な攻撃か、よほど出力の高い何かなのだろうか。

 一部始終を見ていた鈴が、技術作戦軍の兵に言い、1m程の棒を持ってこさせる。

 グラスファイバーを束ねて作られた農業などに使う青色の棒だ。

 頑丈でよくしなるその棒は、技術作戦軍でも便利に使われているようである。

 鈴が棒を受け取ると、技術作戦軍の兵は、記録用紙を取り出し、観察の輪に加わる。

 鈴の持つ棒が、淡い光を放ち始める。

 鈴が棒に力を纏わせているのだ。

 そして、鈴は唐突に、その棒を、レオンの体の断面に、差し込む。

「ひぇっ・・・。」

 おぞましい光景に、エミーリアが小さな悲鳴を上げ、俺の服の裾を掴む。

 そんなエミーリアの様子をよそに、鈴は棒を突き立てたまま、押し込んでいく。

 棒は、一切の抵抗を見せず、するすると入っていく。

「やはり。」

 鈴が、呟く。

 棒は、引っかかったり、止まる様子はない。

 本来ならば、入らない深さになっても、止まることなく入っていっている。

 棒の残りが10cmほどになった時、鈴が声を上げる。

「皆さん、こちらを見てください。」

 鈴に促されるまま、棒の入り込んだ断面を見る。


 すると、赤い色の中に、棒の先端まで、しっかりと見える。

 棒は曲がったり折れることもなく、奥まで入り込んでいようだ。


 皆がそれを見たことを確認すると、鈴が、口を開いた。

「この、レオンという旅客の体は、異空間への入り口と化しているようです。」

 その言葉に、皆が、息を呑む。

 たしかに、棒の入った深さを見て、レオンの体を見れば、明らかに深さは足りていない。

 本来ならば、棒は20cmも入ればいい方だろう。

 一体、何が起きているのだろうか?

「・・・みなさん、よく見ていて、くださいね。」

 鈴が、力を抜く。

 その瞬間、棒は光を失う。そして、赤い空間に溶け込むように、消えてしまった。

 鈴が棒を引っ張れば、そこには、レオンの体に刺さっていなかった10cm程度の部分しか残っていない。

「このとおり、侵入したモノを吸収してしまう空間のようです。」

 なにそれこわい。

「ただ、ある程度の強さがあれば、レジストもできるようですが。」

 だから、鈴が棒に力を纏わせていたのか。

 鈴は、覇山ほどではないが、十分に強い超人である。

「ふむ。これは、危険だな。」

 覇山が言う。

 その言葉に、鈴が答える。

「ええ。危険です。このまま放置することは、できないかと。」  


 その後、結局、レオンの遺体は、技術作戦軍で回収することになった。

 レオンの遺族への連絡や事情説明などは、覇山率いる戦略作戦軍で行うことで話が付いたようである。

「私が斬ったのだ。責任は取らねばならぬ。」

 と、覇山は言っていた。


 ディートリヒ達は、とりあえず、戦略作戦軍に一時的に所属することが決まった。

 この時代の社会通念や法律を学んだうえで、その後の身の振りを決めることになったようである。

 碧玉連邦は、しっかり社会生活さえできれば、ゴーストだろうがスケルトンだろうが基本的人権は認められ、生活することができるのだ。

 皆、400年の重荷から解放されたのだ。いい人生(?)を送ってほしいモノである。

 

 帰りは、覇山が内地に戻るための汎用輸送機に便乗させてもらうことになった。

 その際、覇山にマッピング端末やその関係機材を預ける。

 元帥に雑用を押し付ける俺を、ディートリヒが信じられないモノを見るような目で見ていたのが印象的だった。

 乗る機体は、ティルトエンジンの汎用輸送機である。

 垂直着陸をしつつ、時速1,000kmで飛行できる優れものだ。


 汎用輸送機で数分飛べば、すぐに陸地である。

 大盾要塞の軍用滑走路にあるヘリポートに降り立つ。

「ではな、メタルよ。また会おう。」

 覇山はそう言い、輸送機で飛んでいった。

 上空を見れば、覇山機とは別に汎用輸送機が4機飛んでいくのが見える。

 懸木元帥が率いる技術作戦軍の機体と、ディートリヒ達を乗せた機体だ。

 技術作戦軍の機体は、現地部隊を一部残し、レオンの体を移送している。

 ディートリヒ達は、ゴースト故にほぼ重さが無く、本来ならば50人程度を輸送することが限界な汎用輸送機でも、224名が2機で収まったのである。

 なお、重さ的には1機で全く問題は無いが、スペース的に3機必要だったようである。

「では、メタルさん、こちらへ。」

 そう、迎えの軍人に声をかけられる。

 軍施設内を自由に歩き回ることはできないようで、空港から車に乗せられ、そのまま大盾市街へと向かう。

 一応、俺は軍の籍もあるのだが、今回はエミーリアがいるので、民間人扱いにしているのだろう。

 俺も、軍籍があることをひけらかすことはしないので、迎えの軍人からは、普通に民間の旅客だと思われているようだ。

 民間人扱いでも、丁寧な応対をしてくれる。人当たりの良い軍人さんである。

 10分ほど車に揺られ、大盾市街に到着する。

「では、我々はここで失礼します。報酬については、旅客情報局を通してお受け取りください。お疲れさまでした。」

 そう言いながら敬礼をし、人当たりの良い軍人さんは去っていく。

 

 大盾市の下層都市部から、狭い空を見上げれば、日は傾き、緋色に染まっている。

 なんだかいろいろあったが、今回の仕事は1日のうちに終わったのだ。

 そのまま、エミーリアと旅客情報局に向かう。

 旅客情報局に到着し、カウンターで報告する。

 ちゃんと軍から連絡が行っていたようで、すんなりと完了報告ができた。

「こちらが、報酬になります。」

 受付から、報酬を受け取る。

 報酬は、口座受け取りが基本だが、すぐに使う額をその場で受け取ることもできる。

 とりあえず、10万印を受け取り、残りは口座受け取りにする。

 報酬は、基本報酬が10,000,000印と、追加報酬が1,000,000印とのことである。

 合計は1,100万印だ。

 元々、正体不明の敵がいる前提の仕事であったこともあり、追加額は安い。

 禁呪球の戦闘力は想定外であったが、ディートリヒという現地協力者もいたため、そこまで大きな金額の追加にならなかったようだ。

 本来、禁呪球の討伐報酬は500~600万印くらいが、妥当だろう。

 今回の仕事においては、元々、マッピング報酬で500万、正体不明の敵への対応で500万という内訳であり、追加報酬が出ただけでも儲けもんだろう。

 金額は、エミーリアと550万印ずつ山分けにする。

 これで、灰鉄の剣のお金が工面できた。

 エミーリアはゴーストアーマーの素材は換金せず、武具屋に持ち込むつもりらしい。

 それで、新たな武具を仕立てるつもりなのだろうか。

 俺は素材を回収していないので、換金するものは無い。


 仕事後の処理を終えて旅客情報局を出れば、完全に夜になっている。

 下層市街地は、淡い街灯の光に照らされ、幻想的な光景になっている。

 今日はもう遅いので、武器屋には明日向かうこととした。

 下層市街地を出て、屋上市場に向かう。

 屋上市場は、ちょうど、夜の飲み屋街へと変貌を遂げたタイミングだった。

「エミーリアが買った剣は、いくらだい?」

「・・・300万印分。」

 分?いくつも買ったのだろうか?

 だが、300万印ならば、既に十分お金は足りている。

「じゃあ、今日は、屋台街で食べていこうか。」

 そう言うと、エミーリアは、表情は変わらないが、わくわくした雰囲気で頷いた。


 店を吟味しながら、屋台街を歩く。

 エミーリアは、その屋台街を、キラキラした目で眺めていた。


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