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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第2章
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第15話 表彰式典

「・・・なあ。こんなこと、あるのか?」

 ディートリヒが、震える声でぽつりと呟く。

 今、俺たちは要塞前広場にいる。

 そして、要塞前広場には、ある人物が待っていた。

「む。来たな。メタルよ。そちらが、話にあった?」

 そう話しかけてきた人物に、目を向ける。

 その男は、少し頬が痩けているものの精悍な顔立ちであり、左頬には頬の半ばから顎にかけて傷がある。

 髪は黒く、腰まで届くほどの長さで、それを後頭部で縛って流している。

 目は切れ長で眦は高く、その精悍な顔立ちと相まって、道を究めた武人の如き雰囲気だ。

 そして、何よりも目立つのは、左目の眼帯である。

 左目には十字に傷が走っており、眼帯で目を隠しているのだ。

 服装は、古式式典用の鎧のようだ。


 この星において、昔は軍人は位の高い式典には、鎧を着て出席する文化があった。

 野生生物が強力で、戦える者の地位が高かった名残であり、現在では、その伝統から、古風な式典などにおける男性の最上級の正装は鎧になっている。

 鎧にはある程度決まった型はあるものの、高位の軍人や戦闘旅客などは、自分用の専用デザインの鎧を持っていることが多い。

 また、野生生物の実戦を経験した鎧ほどいい物であるとの文化もある。


 男は、朱い鎧を着ている。

 地球の日本地区の大鎧と西洋鎧を併せたようなデザインの鎧で、背中にはマントがなびいている。

 腰と背に片刃の曲刀を二振り、マントを邪魔しないように独特な形式で佩いている。

 鎧の肩から下げた飾り布とマントには、階級を示す紋様が染め抜かれている。

 その紋様が示すのは『碧玉連邦 戦略作戦軍元帥』。

 400年前とは若干変わっているものの、基本形は変わっていないため、ディートリヒが見ても元帥だわかるのだ。


 碧玉連邦 戦略作戦軍元帥 覇山=健仁(はやま=けんじ)


 この男は、この国の軍のトップの一人なのだ。

「メタルよ。ディートリヒ少将といったか?彼が固まっているが?」

 そう、覇山が耳打ちをしてくる。

 覇山と俺は、仲がいい。

 休日に一緒にバーベキューをするくらいの仲だ。

 だが、ディートリヒからすれば、いきなり元帥が居て、驚いたのだろう。

 400年前の事情は知らないが、少将ならば、元帥と話す機会もあったのではないだろうか?

「ディートリヒさん、少将なら、元帥と話すこととか、無かったの?」

 そう訊くと、ディートリヒは首を振りながら、答えた。

「私の本来の階級は大佐だ。我々は全員死んでいるから、勝手に2階級特進して少将としていたのだ。」

 どうやら、部下の士気を保つため、全員を死んだことで2階級特進させたようだ。

 その中で、指揮官として最高の地位に就くために、自分も2階級上げ、大佐から准将を飛ばし、少将になっていたらしい。

 なので、実際は元帥と直接話したことはなく、今回も中将あたりが元帥代理で来ると思っていたらしい。

「なるほど。そんなことが。」

 覇山も話を聞いていたようで、相槌を打った。

「元帥が戻せとおっしゃるのならば、すぐにでも戻します。」

 そう言うと、覇山は首を振る。

「400年も国のために戦い尽くした者の階級を下げるなど、できん。」

 そう言いながら、覇山がディートリヒに改めて向き直る。

「よく、戦ってくれた。貴殿らの働きにより、この400年、人々の安寧は守られたのだ。」

 覇山がそう言い、ディートリヒに敬礼をする。

「・・・!?・・・----。」

 ディートリヒは、何かを言おうとしたが、どうやら、言葉が出ないようだ。

 そのまま、膝から崩れ落ちる。

 

 ディートリヒの乾ききった身体からは、涙は流れない。

 しかし、ディートリヒは確かに、その時、泣いていたのだ。


*****


 そのまま、話は進み、要塞前で、ディートリヒの部隊への表彰式典を行うことになった。

 どうやら、覇山は元からそのつもりだったようで、覇山が乗ってきたであろう輸送ヘリから、式典用の機材が次々に運び出されている。

 広場で調査を行っていた懸木元帥たちも式典に出席するらしい。

 懸木元帥の近くには、先に報告に戻っていたエミーリアもいた。

 エミーリアは、こちらにトコトコと近づいてくると、ぎゅっと服の裾を握ってきた。

 そして、こちらを上目遣いに見上げながら、口を開く。

「心配した。」

 ・・・なかなか可愛いことをする。

 

 式典準備は、1時間もしないうちに終わった。

 レオンを倒した跡の空間の歪みが残っているため、それを避けた位置での開催になった。

 1時間で準備したとは思えない会場は、しっかりとディートリヒの時代に合わせた形式であった。

 覇山は、動くことのできる軍の高官をかき集めてきたらしく、軍の高官がそれぞれの式典用鎧を着てずらりと並んでいる。

 元帥が2人も出席する式典など、それなり以上の格の式典のみである。

 そして、式典会場の中心には、ディートリヒの部隊が、整然と並んでいる。

 俺とエミーリアは、協力者という扱いで、会場の関係者席に配置された。

「第35特殊戦中隊、ディートリヒ中将以下224名、ここに。」

 ディートリヒがそう報告し、式典が始まった。

 

 元帥が部隊に対し、感謝と称賛の言葉を述べたときは、兵の間から男泣きの声が漏れ、その声につられるように軍の高官たちの表情も感極まっていた。

 ぐずぐずという声が聞こえ、服の裾が引っ張られるのでそちらを見れば、エミーリアも感極まって泣いている。

 どうやら、無意識に俺の服の裾を握っているらしい。

 泣いて鼻が赤くなり、涙も流れているのに、表情がほとんど変わらないのは、流石といったところか。


 式典は、滞りなく進み、1時間ほどで終了した。

 軍の高官たちは、忙しい中来たらしく、式典が終了し次第、ディートリヒに少し挨拶をすると、すぐにヘリで去っていった。

 この場に残ったのは、もとから広場にいた技術作戦軍の研究士官たちと、懸木元帥、覇山元帥、軍の人事担当であった。

 技術作戦軍の研究士官たちは、禁呪球の破片や核を要塞から持ち出してきている。

 ディートリヒと覇山、軍の人事担当が話している。

 ディートリヒ達の今後について話し合っているようだ。

 ディートリヒの兵たちは、各々集まって、休憩している。

 どうやら、目的を達成したことで成仏できるわけでもないようである。


 ・・・?

 妙な気配を感じる。

「・・・む?」

 覇山も気づいたようで、顔を上げている。


 それは、技術作戦軍が運び出していた禁呪球の破片で起こった。


 突如、禁呪球の破片から、赤い何かが溢れ出す。

 技術作戦軍の士官が散り散りに逃げていく。どうやらうまく逃げ切れたようだ。

 赤い何かは、禁呪球の破片や核を全て飲み込んでいく。

 その様子は、要塞に入る前に戦ったレオンが赤い何かに飲み込まれていった時と酷似している。

 レオンの時と同じく、赤い何かは、禁呪球を全て飲み込み、赤い水溜りのようになった。

 

 しかし、その時とは違うことがあった。

  

 赤い水溜りの中央から、赤い何かが盛り上がり、ヒト型を形づくっていく。

 赤い人型には、次第に色が付き始める。

 そして、人型が完全に完成した時、赤い水溜りは、消えてなくなっていた。


「やあ、お久しぶりです。」


 そこには赤い水溜りに飲み込まれたはずのレオンがいたのだ。



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