第12話 屋上探索
申し訳ありません、遅くなりました!
今までのマッピングから、2階へ向かう階段は、要塞四隅の円筒形の塔の中にあることがわかっている。
最も近い塔は、荷物搬入用の船着き場から直接行くことができた。
塔に入れば、ほんのり明るい。上部から光が差し込んでいる。
塔の中には、螺旋階段が壁伝いに造られている。
螺旋階段は、石造りのがっしりしたもので、古びてはいるが、壊れてはいない。
階段の上を見れば、中間くらいに、2階への入り口がある。
階段の最上段は、要塞屋上への出口が見える。扉は無くなっているようで、明かりはそこから差し込んでいるようだ。
階段を上る。
痛んでいる様子もなく、しっかりした階段だ。
「屋上と2階、どっちから行こうか?」
エミーリアに問う。
「・・・屋上。逃走経路の確認。」
なるほど。
堅実で良い選択だ。
先に屋上とそこからの脱出経路を確認しておけば、2階に予想以上の相手がいても、逃げられる可能性は上がる。
「よし。じゃあ、そうしよう。」
エミーリアの提案に従い、屋上を先に探索することにする。
階段を上り切り、屋上に出る。
眩しい。
思わず、額に手をかざし、庇を作る。
海の強い日差しが、暗闇に慣れた目に容赦なく降り注いでいる。
屋上の見通しは良い。
屋上の四隅に、円筒形の塔の先端が突き出している。
中央には、要塞の空気取り入れ口だと思われる、腰くらいまでの高さで直径3mkくらいの円形の井戸のようなものがある。
周囲は胸壁に覆われており、その胸壁から海を睨むように、前装式の古い大砲とその砲弾が残っている。
大砲や砲弾は完全に錆びついており、使い物にならなさそうだ。
屋上に、生き物の気配はない。
要塞の周囲を確認する。
地形にめり込むように建設されているため、一部、地面が近い部分があるようだ。
地面が近そうな場所から下を覗いてみれば、高さは2m程。
ここからならば、逃走できるだろう。
中央にある、空気取り入れ口と思われる穴を覗き込もうとする。
覗き込む直前、ぐっと後ろから引っ張られる。
エミーリアが、俺の服を引っ張って止めているようだ。
「塔を見たい。」
・・・?
まあ、いいだろう。
4つある塔は、外から見えづらい位置に階段があり、登れるようになっている。
だが、登ってみたものの、錆びた大砲があるばかりで、めぼしいものは無い。
塔を降りる。
再び中央の穴を覗き込もうとすると、エミーリアが、穴から少し離れた場所で止まった。
「どうしたの?」
すると、エミーリアはフルフルと首を振る。
「怖い。」
そう言うエミーリアの表情は、無表情ではあるが、どこか強張っている。
何かを感じているようだ。
俺は、特に何も感じない。
用心しつつ、穴を覗き込む。
穴は思ったよりも、浅い。
穴の深さは2mほど。底は要塞の壁と同じ煉瓦でできている。
底の壁の側面には開口部が数か所ある。その開口部に向けて水路があり、屋上に降った雨を効率よく集められるような構造になっているようだ。
・・・特に何もないように見える。
だが、穴の先から、うっすらと何かの気配は感じる。
だが、何がいるかまではわからない。
穴から目を離す。
振り返ると、エミーリアが、明らかにほっとした顔をしている。
「どうしたの?」
「・・・メタルが、何かに襲われないか、心配だった。」
・・・可愛いことを言う。
「何か、いた?」
真剣な表情で、訊いてくる。
「いや、見えなかった。何かはいそうだけど。」
そう言うと、エミーリアの表情が、少し、強張る。
「・・・・・・私も、見る。」
そう言い、エミーリアは恐る恐る穴に近寄っていく。
そして、ゆっくりと穴を覗き込む。
数秒見つめると、跳ねるように穴から離れてきた。
「・・・たぶん、高位のアンデッド。それに、他にも何かいる。」
「わかるの?」
「あの呪力痕はアンデッド。」
ほう。呪力痕がわかるのか。
呪力痕とは、その場所で呪力が発生ないし利用された際に残る痕跡のことだ。
そもそも呪力とは、この世界(宇宙)が異物を排除したり、傷を修復しようとしたときに発生するエネルギーである。
その痕跡は空間に刻まれ、しばらく残るのだ。
アンデッドなどは、存在自体が異常であるため、それだけで異物だ宇宙が認識し、周囲に呪力が発生する。
しかし、アンデッドの魂や肉体自体は元から宇宙にあったものの為、呪力は発生するものの、アンデッドを排除することはない。
それにより、アンデッドは発生してそこにいるだけで呪力痕を残すのだ。
痕跡はそれぞれ原因によって特徴があり、見える者はそれだけでそこで何が起こったか、何が居るかなどを察することができるようである。
ちなみに、俺は呪力痕があるとわかっている状態で集中すれば見ることができる。
エミーリアは、特に集中しなくても、見ようと思えば見えるらしい。
エミーリアが言うには、穴の底の壁面の開口部から、アンデッドのエネルギーが漏れ出た跡があるらしい。
そう言われて、再び穴の底を見る。
・・・たしかに、ある。
言われて見てみれば、微かだが、呪力痕がある。
アンデッドの物かどうかは、俺にはよくわからない。
だが、これで何かがいるのは確実だろう。
そして、それはエミーリアが気配だけで恐れるような相手なのだ。
気を付ける必要はありそうだ。
「進む?戻る?」
エミーリアが問いかけてくる。
エミーリアの表情としては、少し戻りたそうである。
だが、マッピングは終わっていない。
「う~ん。進みたいけど・・・。大丈夫?」
感じた気配的に、エミーリアだけでは厳しいだろうが、俺の敵ではなさそうだ。
エミーリアは、俺が気配を一切恐れていないのを見て、少し安心したようである。
「・・・大丈夫。進める。」
そう言い、エミーリアは、頷く。
ならば、進もう。
進む先を確認する。
4つの塔は、それぞれから要塞内部に入ることができるよう、入口が造られている。
しかし、1つの塔の中を見てみれば、1つの塔は階段が崩れており、降りるのは難儀しそうである。
別の塔は、屋上への出入り口が崩れてしまっている。がれきを避ければ通れるだろうが、それも危険だろう。
3本目の塔は、下へ降りる階段が無かった。屋上から塔へ入ってみれば、倉庫だったのだ。錆びた大砲の弾が大量にある。
進むには、来た経路を戻るしかないようだ。
先ほど出てきた塔に入る。
「ん・・・暗い。」
エミーリアが呟く。
塔の中は薄暗く、明るい場所に慣れた目では見通せない。
その暗さは、何かがいると思うと、心なしか不気味に見えてしまうのだった。




