第11話 要塞1階攻略
正規の入り口から、要塞に入る。
この入り口も、昔は重厚な扉でも取り付けられていたのだろうか?
今では扉は無く、侵入者を拒むことはない。
要塞の中へ踏み込む。
少し進むと、すぐに明かりが届かなくなる。
暗い。
要塞自体が地形にめり込むようにできているために窓が少なく、ほとんど明かりはない。
「明かりは?」
エミーリアが訊いてくる。
「暗いと見えないかい?」
そう訊くと、エミーリアは首を振る。
どうやら、暗闇でも問題なく見えるようだ。
明かりをつけると、暗い場所への注意力が散漫になる。
明かりを灯さないで見えるのならば、それが一番いい。
俺も、視界こそ少し制限されるが、夜目は効く。それに、それ以外の方法でも周囲は探れるため、問題は無い。
「見えるなら、明かりはつけないでいくよ。」
エミーリアは頷き、しっかりと剣と盾を構えなおす。
俺は先のレオン戦で剣を失ってしまったので、拳で戦うことになるだろう。
暗い通路を進む。
意外なことに通路にごみやがれきは無く、進みやすい。
少し進むと、壁が崩れている場所がある。
マップを端末で確認すれば、この崩落した先は、リコラとビッキーが生活していた部屋のようだ。
リコラの部屋側はがれきが積み上がっていたが、こちら側のがれきはある程度除けられている。
何者かが管理しているような雰囲気だ。
少し進むと、扉がある。
木製の古めかしい扉だ。
マッピングとクリアリングが目的なので、扉の先を確認しなければいけない。
警戒しながら、扉を開ける。
扉を開けてすぐ、エミーリアが扉の先に目くらましの閃光魔法を放つ。
幸いなことに扉の先には何もいなかった。
部屋に入れば、その部屋は食糧庫か何かだったようである。
なにも入っていない棚だけが、空しく埃をかぶって並んでいる。
部屋の中をくまなく探っても、特に何もない。
通路に戻る。
・・・何かが、いる。
背後で、エミーリアが武器を握りなおす音がする。
暗がりの中で、かさかさという音がする。
気配からすると、アナグラオオフナムシのようだ。
沿岸の洞窟や廃墟に生息する、30㎝くらいの巨大なフナムシである。
基本的に憶病で襲い掛かってこないが、ダンジョン内の個体はダンジョンの魔力に中てられて凶暴になっている個体も多い。
この個体もその類らしく、こちらに向かってきているようだ。
ある程度近くまで来たところで、俺に飛び掛ってくる。
そこへ、エミーリアが割り込んだ。
盾で的確にフナムシをいなし、壁に叩きつける。
衝撃で跳ね返ってきたフナムシに、剣を突き込む。
そのまま、両断。
流れるように剣を血振りする。
鮮やかな手並みだ。
アナグラオオフナムシは、普通のフナムシと違って、集団では生活しない。
追撃はないだろう。
回収できる素材はあるが、そこまで高価ではなく、手間もかかるため、死骸を通路端によけるだけにする。
それこそ、別のフナムシに食べられてなくなるだろう。
アナグラオオフナムシは、スカベンジャーである。
ほかの生物がいなければ、生息はできない。
どこかに、生物の入り込める穴などがあるのかもしれない。
1時間ほど進んだだろうか。
通路の所々に部屋があり、そのたびに中を調べるが、特にめぼしいものは無い。
要塞の最奥と思われる扉を開けると、光が目に飛び込んでくる。
暗闇に慣れ切った目にまぶしい。
そこには、荷物搬入用の船着き場があった。
外からは見えづらいようにうまく隠蔽して建設されているようだ。
壁にはアナグラオオフナムシがたくさんいる。先ほどのフナムシは、ここから迷い込んだようだ。
船着き場は簡素なもののしっかりした石造りで、まだ使えそうな様子である。
船着き場の近くの壁にある扉の先には、船着き場守備隊の詰め所らしき部屋があった。
部屋に入れば、荷鉤や武具が残っている。
残念ながら、荷鉤や武具は錆びており、使い物にはならなそうだ。
詰め所を出る。
背後で、エミーリアが息を呑み、武器を構える音が聞こえる。
詰め所に入るまでは何もいなかった港の真ん中に、黒いローブを纏ったような人影がいる。
「あぁ・・・何かと思ったら・・・。」
その人影は、掠れたような声で呟いた。
「侵入者か・・・。」
そう言いながら、人影はこちらを向く。
そのローブの中に顔は無く、黒い靄があるだけである。
その服装を見れば、ボロボロでよくわからないが、元は古い軍用鎧のようだ。
「・・・いや・・・こちらが・・・?」
人影は、ぶつぶつ言いながら、首を振ったりしている。
・・・アンデッドのようだ。
残留思念が、軍用鎧に宿るか何かしたものだろう。
アンデッドのリビングアーマーであるゴーストアーマーの類だろう。
ちなみに、アンデッドではないリビングアーマーもいるのだ。
様子を見ると、この要塞の昔の軍人だろうか?
軍用鎧の損壊と変色が激しく、元がどこの国所属なのかはよくわからない。
「・・・まあいい、奴は、敵だ。」
そう言い、ゴーストアーマーはどこからともなく、剣を抜く。
ボロボロの服に似合わない、鈍色の光を放つよく手入れされた剣だ。
どうやら、あのゴーストアーマーは、こちらを敵と認識したらしい。
「私が行く。」
そう言い、エミーリアが前に出る。
あのゴーストアーマーは、それなりの相手だ。
だが、エミーリアならば、やれるだろう。
俺は、エミーリアからマッピング端末を受け取りながら、頷く。
エミーリアも頷き返し、前に出ていく。
*****
ゴーストアーマーは、剣をだらりと持ち、視線はどちらを向いているかわからない。
それに対し、エミーリアの構えは、盾を前に出し、剣をそれに沿えるような、防御重視の構えだ。
戦いは、ゴーストアーマーの一撃から始まった。
駆け引きなどない、自分勝手な一撃。
しかし、それ故に重い一撃。
エミーリアは剣を前に突き出し、ゴーストア―マーの一撃を逸らす。
逸らした先には、エミーリアの盾。
剣が盾に触れる瞬間、盾を鋭く振るって剣を打ち払う。
ゴーストアーマーが姿勢を崩したところへ、目にもとまらぬ突きを放つ。
しかし、ゴーストアーマーは、滑るように横移動し、突きを躱すと、二撃目を放つ。
エミーリアは、二撃目を剣で逸らしつつ、盾を強く突き出し、ゴーストアーマーに叩きつける。
シールドバッシュを喰らったゴーストアーマーがよろめく。
そこへ、再度突きを放つような動きをする。
その動きに誘われて、ゴーストアーマーが横移動。
だが、それはエミーリアのフェイントだった。
横移動した先へ、剣が振り下ろされる。
それも躱すゴーストアーマー。
剣を振り下ろし姿勢を崩したエミーリアへ、ゴーストアーマーが迫る。
「・・・ようこそ。」
エミーリアがぼそりと呟くと、エミーリアの肩から、唐突に剣が突き出し、ゴーストアーマーを襲う。
躱すことができず、胸部に剣を受けるゴーストアーマー。
エミーリアの剣は、痛んだ鎧など物ともせず、ゴーストアーマーを貫いた。
ひるんだゴーストアーマーが下がろうとすると、何かに引っ掻かかる。
エミーリアが突き立てた剣は、返しがついている独特な剣だったのだ。
逃げられないゴーストアーマーに、いつの間にか現れていた無数の腕に握られた剣が迫る。
「・・・!!!???」
ゴーストアーマーは、困惑のうちに切り刻まれ、その意識は霧散していった。
*****
エミーリアは、問題なくゴーストアーマーを撃破した。
純粋なパワーとスピードは、エミーリアとゴーストアーマーにそこまでの差はなかっただろう。
だが、エミーリアの方が1枚も2枚も上手であった。
というよりも、エミーリアの種族を知らず、初見であれを見破るのは難しいだろう。
ゴーストアーマーは、ローブと鎧を残して消え去った。
エミーリアは鎧に刺さった返しつきの剣を抜こうと四苦八苦している。
俺が近づいていくと、うまく抜けたようで、その剣を持った腕も、エミーリアの中に消えていった。
「お見事!」
そう言えば、エミーリアは顔を赤くしながら、少しうつむいた。
そして、ぽつりと呟く。
「・・・素材。」
おお、そうだ。
せっかくゴーストアーマーを倒したのだ。
何かめぼしいモノはないだろうか?
ゴーストアーマーの残骸を調べる。
このローブは、なかなかな呪力を持っているようだ。それなりの値で売れるだろう。
鎧は、鉄製のオーソドックスなものに見えるが、正直、ボロボロで使い物にはならなさそうだ。
だが、鉄自体が呪力を帯びている。呪力鉄としてはそこそこの素材だ。
全部合わせて、10万印くらいにはなるだろうか。
持ち運びやすいように解体し、整理する。
「じゃあ、これは、エミーリアの物だよ。」
そう言い、エミーリアに素材全てを指し示す。
エミーリアが倒したのだ。エミーリアの報酬になってしかるべきだろう。
そう言うと、エミーリアは素材を回収する。
エミーリアが素材をしまっているうちに、端末でマップを確認する。
要塞1階は大体終わった。
この要塞に地下は無いようである。
となると、次は2階だ。
1階の戦利品は、ゴーストアーマーの素材と、錆びた刀剣類数本。
2階には、何があるだろうか?




