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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第8章
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第4話 報酬


 帰って来た。

 冒険と戦いは、終わったのだ。


 冒険と戦いこそ終わったが、やること自体がなくなったわけではない。

 エミーリアの移住の手続きなど、やるべきことはそれなりにある。

 とはいえ、急いでやることもない。 

 温かい飲み物と美味しいお菓子を用意し、同居人の大鏡=誠司と駒村=詩乃に、土産話をしながら旅を振り返る。

 これもまた、旅の醍醐味の一つだと、個人的には思っている。

 誠司と詩乃は、地球出身ということもあり、文化の違うこの星の話を楽しそうに聞いていた。

 その土産話の中で、エミーリアについて説明をした。

 あとは、作太郎がしばらくの間滞在することも併せて説明した。

 誠司と詩乃は、最初は作太郎の風貌にビビっていたものの、最終的には快く同居を受け入れてくれた。


 数日後。

 観武村役場にエミーリアの移住の届け出を出した。

 エミーリアの荷物や部屋などを整理する数日の間、エミーリアと話し合い、婚姻届けはまだ出さないこととした。

 エミーリア曰く、もう少し恋人気分に浸りたいのだそうだ。

 それもまた、オツなものだろう。

 特に反対する理由はないので、エミーリアの気持ちを優先した。

 レギオンは長命種である。

 その寿命は、およそ1000年。

 しかも、様々な力を手に入れたエミーリアは、恐らくだが寿命はさらに長くなっているだろう。

 時間はまだまだある。

 生き急ぐことはない。


*****


 帰ってきてから1か月ほど経った頃、軍、いや、国から連絡がきた。

 赤い宇宙と戦った際の報酬が確定したようだ。

 どうやら、とても揉めたらしい。

 赤い宇宙の存在は、未だ公表されていない。

 宇宙を喰らう宇宙が存在し、この宇宙が喰われそうになったということを公開すれば、いたずらに社会不安を増大させるという判断のようだ。

 今回の赤い宇宙については、国の中でも限られた者のみが閲覧できる極秘記録として保存し、しかるべき時に公開されるそうだ。

 まあ、既に終わった戦いだ。

 記録は残しておくに越したことはないが、その記録をどう扱うかは国に任せよう。

 だが、そうなると、俺に対して報酬を出す理由付けが難しくなる。

 鈴と覇山がいろいろと手を回し、どうにか理由付けをしてくれたそうだ。

 最終的に、俺は、先の原生生物襲撃騒動の際に辺境の奥深くへ突入し、原生生物襲撃の原因を撃滅したことになったそうだ。

 まあ、間違いではない。

 ダエダレアの内部を攻略するために辺境の奥深くへ突入したし、原生生物襲撃の原因であるナターリアも倒した。

 赤い宇宙の討伐に関しても、原生生物襲撃の遠因を絶ったとも言えるかもしれない。

 ということで、その功績による報酬と言う形になったそうだ。


 そして、今回の報酬は、勲章の授与になるらしい。


 その勲章は『碧玉連邦戦士勲章』。

 この国において、戦闘に関する事象により授与される最高の勲章であり、この国の全勲章の中でも最高峰の勲章でもある。


 戦士勲章、か。

 流石に、嬉しい。

 この星において、戦士、という称号は、特別な意味を持つ。

 特に一定の文脈の中で登場する、役割や性質を意味する接頭語を持たないただの「戦士」は、特別だ。

 ちなみに、役割や性質を意味する接頭語を持つ戦士は「軽戦士」や「重戦士」、「魔法戦士」等がある。


 碧玉連邦の各国は、歴史上、国が村落規模だった時代から、常に強大な原生生物に脅かされ続けてきた。

 そういった時代において、人々の生存のために最も大きな力を発揮したのは、原生生物と戦う者達だった。

 その者達には、得意とする戦い方によって、多くの戦闘職種があった。

 剣士、槍士、魔術師、狙撃手、弓術士、軽業師・・・ 

 その中には、戦士、と名のつく職種もいくつかあった。

 軽装で、技術と速度で戦う、軽戦士。

 重装備に身を包み、その重厚さで敵を蹂躙する、重戦士。

 魔法も使いこなす、魔法戦士。

 多くの職種が、自身の強みを活かして、敵と相対していた。

 だが、どんな職種の者も、得意・不得意が存在した。

 多くの軽戦士が、硬い相手に決定打が無く、より速い相手に追いつけずに、死んでいった。

 多くの重戦士が、速い相手に追いつけず、さらに重い相手に押し負け、死んでいった。

 多くの魔法戦士が、火力不足で相手を止められず。

 剣士は遠距離攻撃に手も足も出ず。

 狙撃手は意識の外から急襲され。

 不得手な状況、不利な環境を、多くの者が切り抜けることができなかった。

 ありとあらゆる状況に対応することは、不可能だ。

 不可能な、はずだった。


 だが、どんな時でも生き残り、勝利する者がいた。


 追いつけないほど早い相手は、閉所へと誘導し追い詰め。

 重厚で攻撃が通じない相手は、急所を探り当て攻撃を通し。

 強大な魔法生物の放つ、弾幕のような魔法を潜り抜け。

 如何なる状況にも対応し、ありとあらゆる敵を退け、絶体絶命の死地からをも堂々と凱旋する。

 軽戦士と言うにはあまりにも重厚で。

 重戦士と言うにはあまりにも早い。

 おおよそ、戦いに関する全てを、極めた者。

 そのような者は、適切な接頭語が無かったため、ただ、『戦士』と呼ばれた。

 その結果、次第に『戦士』こそがすべての戦う者の頂点の称号となっていったのだ。

 それ故、碧玉連邦において、戦闘職の最高称号は、『戦士』なのである。


 今回授与された『碧玉連邦戦士勲章』は、国が、個人をその真の『戦士』と認めた証なのである。

 長く生きてきて、この勲章ではないが、似たような内容の勲章や称号は得たことがある。

 だが、こういったモノは、何度受賞しても、嬉しいモノなのだ。

 なんだか、俺がこの国を、ひいては人々の暮らしを守れた証のようで、誇らしくなるのである。

 この勲章は、額縁に入れて飾っておくことにしよう。


 ちなみに、ただ『戦士』だけだと個人の識別が難しくなるため、個人の二つ名としては『戦士』に個人を表す修飾語が付くことがある。

 その場合は、戦闘職種に関係ない修飾語になることが普通だ。

 例を挙げると、俺の「青の戦士」という二つ名では、「青」の部分は特に何の戦闘職種や戦い方を表すものではない。

 俺の戦闘服の青から来ただけの二つ名なのだ。


 さて、勲章に話を戻そう。

 勲章だけが報酬かと思ったが、どうも、この勲章の受章者には、特権が付与されるとのことである。

 その特権は、100年間の年金の支給とのことだ。

 為替の変動による物価の変化に合わせて決定された額の年金が、毎年支給されるそうなのだ。

 その額を見てみれば、とりあえず、働かなくともそれなりに裕福に暮らせそうな額である。

 年金に年数制限があるのは、生物としての寿命が一定ではないこの星の住民において、不公平さを無くすためだ。

 

 他にも、従軍して戦ったことによる報酬や、ナターリアを撃破した報酬等、様々な報酬が支払われることとなったとのことである。

 全報酬を合わせれば、数十億印単位のお金が一気に手に入ることになる。

 ・・・冒険してお金を手に入れようと思ったが、考えていた量の100倍以上の金額が来ることになるようだ。

 凄まじい額だ。



 当初のお金稼ぎと言う目的から考えれば、今回の冒険は大成功だったと言えるだろう。

 

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