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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第8章
206/208

第3話 観武村

 現歴2265年10月17日


 角蔵とレナートに稽古をつけた次の日。

 俺たちは剣が峰市を後にすることとした。

 予定よりも1日長く、剣が峰市に滞在したことになる。

 1日長く滞在し、剣が峰の温泉を楽しむことができた。

 特に温泉を楽しみにしていた作太郎は、たいそうご満悦であった。


「じゃあな。また会おうぜ。」

 宿の前で、角蔵がそう言い、手を振る。

「訓練をつけていただいて、ありがとうございました。道中お気をつけて。」

 そう言うのはレナート。

 二人とも、宿まで見送りに来てくれたのだ。

 関わった日数は短いが、しっかりと見送りに来てくれる辺り、義理堅い男たちである。

「こちらこそ、楽しかったぜ!また会おう!」

 俺はそう、言葉を贈る。

 俺の言葉に、二人は頷く。

 半年ぶりに会った2人は、かなり強くなっていた。

 それでいて、その強さに驕らず、しっかりと真面目に上を向いて活動している。

 このまま活動を続ければ、着実に強い旅客へと成長していくだろう。

 将来が楽しみだ。


 そんな2人に別れを告げ、緑のひよこ号に後部ハッチから乗り込む。


 今回、ローテーション的に最初に兵員室で休憩するのは、俺だ。

 兵員室に乗り込めば、そのままでは、周囲は見えない。

 兵員室側面にある小窓を開ける。

 軍用装甲車では窓など考えられないだろうが、これは旅客用装甲車だ。

 銃眼としても使うことができる、上開きの小さな丸窓が設置されているのだ。

 直径15㎝ほどの丸窓から外を覗けば、手を振っている角蔵とレナートが見える。

「さらば!また会おう!」

 車長ハッチの方から、作太郎の声が聞こえる。

 作太郎が角蔵とレナートに声をかけたのだ。

「装甲車、前進!」

 作太郎の声とほぼ同時に、緑のヒヨコ号が、揺れる。

 そして、ゆっくりと動き出す。

 緑のヒヨコ号は、すぐに速度を上げ、車の流れに合流する。

 角蔵とレナートは、もう見えない。

 旅で別れは付き物とはいえ、なんとなく、寂しさがある。

 悪い別れではないので、心地よい寂しさとも、言えるだろう。


 道路に出た緑のヒヨコ号は、渋滞に捕まることもなく、順調に進んでいく。

 今日は、平日。

 俺たちの出発時間は、出勤の混雑する時間帯とずらしたので、スムーズに移動できているのだ。


 20分ほどで、剣が峰市の市街地を抜け、田園地帯に差し掛かる。

 緑のひよこ号は、田園地帯の広い道を軽快に進む。

 開けている小窓からは、秋の涼やかな風が入り込んでくる。

 気持ちがいい。

 小窓から外を見れば、黄金色に色づいた作物と、収穫に走り回るハーベスタの姿が見える。

 地平線の先には淡い青空が広がっており、そこには2、3の雲がぷかりと浮いている。


 長閑な光景だ。

 

 今回の冒険では、俺たちの宇宙を喰らおうとしている宇宙という、なんだか凄い相手と戦った。

 俺たちが戦って、勝利した。

 その結果が、目の前に広がっている長閑な景色だと思うと、なんだか、心が穏やかになる。



 そのまま、何をするでもなく、窓からの景色を心に受け入れ続けた。



*****



 2時間ほどで、剣が峰市の隣町である『月町』に着く。

 月町は、人口5万人ほどの街で、剣が峰市の衛星都市のひとつである。

 古くからある宿場町だが、剣が峰市の発展に伴って現在進行形で発展している街だ。

 最近は市に昇格しようとしているだとか、そんな話を聴くこともある。

 この辺り一帯は原生生物が少なく安全なので、外壁も建築されていないほど平和な街だ。

 

 月町を通る幹線道路沿いの世界的なチェーン店で、昼食を摂ることにする。

 戦闘旅客として世界中を旅していると、世界的なチェーン店は、ありがたい。

 それなりに美味しいし、なにより、世界のどこでも味がある程度保証されているのだ。

 食事が口に合わない地域でチェーン店を見つけると、救われた気分にすらなる。

 このチェーン店が出すものは、穀物の粉で作った生地に肉や野菜を包んで焼いたものだ。

 薄い生地は、表面はパリパリで香ばしく、中はもちもちとしていてほんのり甘い。

 その中に、ひき肉と細かく切った野菜でつくった、ジューシーな具が詰まっているのである。

 美味しくないはずがない。

 この星の住人には多くの種がおり、体格も食べられるモノも様々だ。

 そんな環境に合わせて、サイズも内容も味付けも豊富に取り揃えている。

 俺は、オーソドックスなひき肉と野菜のモノを頼んだ。

 オーソドックスだが、ボリュームがあり、溢れてくる肉汁が旨いのだ。

 作太郎は、魔法生物向けの、魔力多めなモノを頼んでいる。

 アンデッドである作太郎は、魔力の補給もある程度必要なのかもしれない。

 エミーリアは相変わらず健啖家であり、オーソドックスなモノから変わり種まで、20個も頼んでいた。

 ファーストフード店の小さなテーブルの上に、料理の山が出来上がっていた。

 この店はドライブスルーもあるが、エミーリアがいると、ドライブスルーの利用は難しい。

 1回、ドライブスルーを使ったこともあったが、エミーリアの注文量が多いため、店側も受け取る俺たちも大変だったのだ。

 そのため、毎回店の中で昼食を摂っている。

 これはこれで、ゆっくり食事が摂れるので、いい感じだ。


 昼食を済ませ、月町を発つ。

 月町の市街地を出て少し進んでから、幹線道路から外れて、海の方へと向かう。

 俺の住んでいる村である『観武村』は、海の近くの村なのだ。


 月町を出て、1時間ほど。

 緑のひよこ号が進むにつれて、海の香りが漂ってくる。

 丘を越えると、小さな川の河口付近に広がる、そこそこの大きさの町が見えた。

 観武村は、海に流れ込む小さな川の河口近くにある、町である。

 人口は2万人に少し届かない程度。

 村、といってもそれなりの規模の街ではある。

 行政区分的に、ぎりぎり村になっているだけなのだ。


 観武村は、その昔、強さを究めんとする人々と、その戦い様を観たい人々が集まってできた村だ。

 武を観る村、なのである。

 もっと言えば、かなり昔の話だが、俺と兄弟たちがこの土地に住み着いた後、そこに人が集まってできた村だ。

 俺と兄弟たちは当時、その強さでそれなりに有名だった。

 その俺たちに対して、多くの猛者とその従者が腕試しに訪れたのである。

 だが、当時から戦略超人級の強さを持っていた俺たちは、負けなかった。

 挑戦に来た猛者たちは、意気消沈するかと思いきや、周囲に住み着き、俺たちに勝とうと修行を始めた。

 数年かけて、次第に、その人数も増えていった。

 すると、その住み着いた人々を相手にする商人たちが集まってくる。

 そうなれば、商人や挑戦者たちをターゲットにした飲食店が建ち、その飲食店に卸す食材を得るための農業や漁業も盛んになってくる。

 人が増えれば飲食店や風俗店の集まる歓楽街もでき、さらに賑わいが大きくなっていく。

 気が付いたら、この場所には活気のある村ができていたのだ。

 村の成立から、数百年。

 この観武村は、その歴史から武を尊ぶ気風があり、有名な戦闘旅客や軍人を何人も輩出している。

 知る人ぞ知る武の村として、一部で有名な村になっている。


 その村の郊外。

 村の近くに広がる森のほとり。

 切り立った岩の崖の上に木々が生えている、テーブルマウンテン型の小さな丘がある。

 その崖に半分めり込むような形で建てられている2階建ての家が、俺の家だ。



 帰って来た。

 俺は、冒険と戦いを終え、家に帰還したのだ。



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