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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第8章
205/208

第2話 強くなった二人

 現歴2265年10月16日 午前10時30分


 両刃斧が、唸りを上げて首を狙ってくる。

 速度と威力、狙う部位は悪くない。

 だが、事前準備が足りない。

 急所を狙うならば、それなりに相手の体勢を崩してからにしなければいけない。

 俺の体勢は崩れていない。

 おそらく、他の攻撃への布石か。

 そう考えれば、ちょっと露骨だ。

 斧の一撃を頭を傾けて躱せば、やはり、ほぼ同時に、野球ボール大の氷の塊が飛んでくる。

 前衛が気を引き、後衛が本命を撃ち込む。

 いい連携だ。

 だが、あくまで『ほぼ』同時なだけだ。

 若干のずれがある。

 身体を少し捻り、氷の塊を躱す。

 氷の塊を避けた俺に向かって、再び両刃斧が振られてくる。

 胸の高さを狙った、力強い横薙ぎの一撃。

 氷の塊が避けられることも想定していた動きだ。

 回避しづらい横薙ぎと言うのもいい。

 しかし、ちょっと横薙ぎの位置が高すぎるだろう。

 斧の下の空間に身体を屈めて踏み込みつつ横薙ぎを躱す。

 そして、そのままの勢いで肉薄する。

 両刃斧の持ち主は、踏み込まれた瞬間に斧を捨て、ナイフを引き抜きつつ斬りかかってくる。

 状況に対応するために、武器を手放すことを躊躇わない。

 素晴らしい判断だ。

 ナイフ捌きも達者である。

 だが、俺に当てられるほどではない。

 ナイフを持った腕を絡めとり、そのまま、その人物を投げる。

「ぐぅっ!」

 背中から地面に叩きつけられたその人物は、呻きを上げて転がる。

 戦闘不能だろう。

 そうなるように投げた。

 相手を地面に投げたことで姿勢が崩れている俺に向かって、冷気の鞭が横薙ぎに迫ってくる。

 触れると、急速に体が冷やされてダメージを受けるとともに、動きも阻害される魔術だ。

 その鞭を、棒高跳びの背面飛びのような姿勢で、跳んで躱す。

 当たってはいないが、魔術の余波のヒヤリとした空気を感じる。

 氷魔法を使う魔術師は、しかし、一切動じずに冷気の鞭を振り回してくる。

 不規則な鞭の動きは、手練れが使えば避けるのは難しい。

 だが、魔術師は鞭の扱いに慣れていないのか、その動きにはキレがない。

 この程度ならば、躱すことに支障はない。

 鞭を躱しながら、氷魔法の魔術師へと接近する。

 あと2m程へと踏み込んだ瞬間、鞭が消える。

 そして、地面から斜めに、魔術師を中心として俺に向かって、長さ1m程度の氷の槍が複数突き出してくる。

 鞭の動きで誘って、狙っていたのだろう。

 狙いは良い。

 だが、氷の槍の密度が、足りない。

 突き出してきたランスの隙間を搔い潜り、魔術師に肉薄する。

 魔術師は、片手用の小型の杖に氷の刃を纏わせて氷剣をつくり、応戦してくる。

 判断は良い。

 近寄られた時にあたふたするだけの魔術師は多い。

 だが、この魔術氏は、すぐに応戦した。

 素晴らしい心構えだ。

 だが、戦闘距離に対して氷剣が長すぎるし、扱いも慣れているとは言い難いものだ。

 氷剣の斬撃を2度躱し、氷剣を持つ手を掴む。

 そして、そのまま投げる。

「うっ!」

 魔術師も、呻きを上げて地に伏せる。


 勝負ありだ。


 ブザーが鳴り響く。

『そこまで!』

 作太郎の声がする。

 視界が光に包まれる。



 気が付くと、そこは公営闘技場の、カプセル型ベッドが並んだ準備室だった。

「いやぁ、やっぱり歯が立たねぇな。」

 そう言って笑っているのは、角蔵。

 先ほどまで前衛で斧を振っていたのは、角蔵だ。

 以前会った時は赤クラスの戦闘旅客だったが、今は1段階昇格して黄クラスになっているとのことだ。

「なに一つとして、当たりませんでしたね・・・。」

 そう言って意気消沈しているのは、レナート。

 氷の魔術を撃っていたのが、レナートである。

 黄クラスであることは変わっておらず、角蔵の筆記試験の勉強などを指導していたそうだ。


 昨晩、フーロを含めた3人と飲んでいるとき、角蔵とレナートから戦闘指導を頼まれたのだ。

 2人は緑クラスの旅客を目指しているのだという。

 同じく黄クラスのフーロも参加したがっていたが、仕事があるとのことで、不参加である。


「そうは言うけど、結構強かったよ?」

 俺がそう言えば、角蔵は笑う。

「はっはっは。青鉄クラスにそう言われれば、嬉しいもんだな。」

 そう言う角蔵は、確かに嬉しそうだ。

 だが、俺の言葉は決してお世辞ではない。

「じゃあ、角蔵から指導しようか・・・。」

 戦闘指導として、角蔵の戦いを評価する。

 咄嗟に武器を捨ててでも状況に合わせる判断力。

 大型の両刃斧を軽々と扱う膂力。 

 戦闘技術も多少荒削りな部分もあるが、上々だ。

 黄クラスの旅客として考えれば、破格の強さである。

 強さだけ見れば、緑クラスには余裕をもって達しているだろう。

 あとは筆記試験か。

 とにかく、膂力と速度に判断力、これは十分にある。

 これからの角蔵は、それらを活かせるよう、経験を積みつつ戦闘技術を磨くといい。

 そう説明すれば、角蔵はさらに嬉しそうに顔を綻ばせる。


「では、私の評価もお願いしても?」

 そう訊いてくるのは、レナート。

「よし、じゃあレナートの番だな。」

 レナートの魔術も、大きく強化されていた。

 以前は氷のつぶてを飛ばすだけだった魔術が、冷気の鞭と氷の槍、それに氷の剣も繰り出せるようになっていた。

 どの魔術も、緑クラスで相対する生物相手ならば十分な威力がありそうだった。

 なによりも、魔術の発生が非常に早い。

 近接職に対して2mの距離で放った氷の槍を躱されてから、氷の剣の生成が間に合っているのだ。

 魔術発動の速さだけで言えば、青クラスにも通用する。

 その発動の速さと状況判断の速さが合うことで、レナートの対応力は非常に高いといえるだろう。

 だが、惜しい部分もある。

 それは、その対応力に戦闘技術がついていっていないことだ。

 状況に素早く反応し、最適に近い動きをするものの、技術が足りていなくて状況を打破できていないのだ。

 レナートは、緑クラスの筆記試験については、心配することはない程度には仕上げているとのこと。

 となると、あとは戦闘試験のみである。

 レナートは、角蔵から近接戦闘を学ぶといいだろう。

 そのように説明すれば、レナートは納得した表情で頷いていた。


「いや~、良いですなぁ。」

 指導の様子を見てそう言うのは、作太郎。

 その声色はほのぼのとしている。

 だが、その眼窩には、少しの闘志が灯っている。

「どれ。某もひとつ、稽古をつけてもらいましょうか。」

 作太郎が、俺に向かって、そう言う。

 どうやら、角蔵とレナートが俺と戦っているのを見て、うずうずとしてしまったようだ。

 まあ、角蔵とレナートも休憩が必要だ。

 見取り稽古というものもある。

 一つ、青鉄クラス同士の戦いを見せるのも、アリだろう。

「・・・私も戦う。」

 そう言うのは、エミーリア。

 無表情なその目の奥には、メラメラと闘志が燃えている。

「その3人が戦うんじゃあ、ついていけなそうだ。見学させてもらうぜ。」

 角蔵はそう言い、手をひらひらと振る。

「ええ、そうですね。休憩がてらに見学して、いろいろ学ばせてもらいましょう。」

 レナートもそう言い、見学席に向けて歩いていく。

 俺が見学だと伝える前に、二人は見学の姿勢になっている。

 まあ、普通に考えればそうなるだろう。

「じゃあ、青鉄クラスの戦いをしっかり見ていてね。」

 俺がそう言えば、角蔵とレナートの二人は頷き、期待していると告げた。

 ・・・二人が満足できるよう、しっかりと戦おう。


 カプセルベッドから、闘技場の空間に入る。

 四阿に生成されている武器を手に取り、闘技場の中央に視線を向ける。


 すると、そこには、俺の方を向いて、エミーリアと作太郎が肩を並べて立っていた。


 ・・・なるほど?

「これってさ、2対1?」

 俺がそう問えば、作太郎とエミーリアが頷く。

「戦力を上手く分けるなら、そうなるでしょうなぁ。」

「そう。メタルなら、勝てる。」

 ・・・そうか。

 俺の闘志にも、火がつく。

 そもそも、俺も戦うのは好きなのだ。

 お望みとあれば、二人とも、薙ぎ倒してやろうじゃぁないか。

 俺は、蒼硬に似たサイズ感の剣を構えると、二人と相対するのだった。


 後に、角蔵とレナートは、語った。

 神話の戦いを見ているようだった、と。


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