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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第8章
204/208

第1話 再会

 現歴2265年10月15日 午後1時


 大盾要塞を出てから3日。

 緑のヒヨコ号は、広大な畑の真ん中を走っていく。

 中央州は、平原が多く、世界的な穀倉地帯なのだ。

 定植されている穀物は綺麗に黄金色なって収穫期を迎えており、巨大なハーベスタが走っているのが見える。

 ハーベスタは自動化されており、操縦席は無人だ。

 農道の所々を、戦闘旅客の装甲車両が走っている。

 危険な原生生物が畑内に出没した場合に対処できるよう、巡回しているのだろう。

 広大な畑の所々には小さな林があり、そこ木々は赤く色づき始めている。

 黄金色の畑と色づいてきた林。

 秋が深まってきている感じがする。


 道の先には、標高500mほどの剣のような形の山、剣が峰が見える。

 今晩は剣が峰のふもとにある『剣が峰市』に1泊することにしている。

 温泉が有名だと言ったら、作太郎が是非にも泊まりたいと言ったのだ。

 温泉が好きなのだろう。

 急ぐ用事もない。

 宿の予約も取れたので、宿泊していくことにしたのだ。


 その剣が峰に向けて緑のヒヨコ号を走らせていくと、車内用インカムから、エミーリアの声がする。

「正面1㎞、大型装甲車両確認。」

 今は、エミーリアが視察員で、俺が運転だ。

 作太郎は、兵員室で休憩している。

 エミーリアが言った装甲車は、俺も視認している。

 A7V突撃戦車に似た、錆止めの茶色い塗料で塗られている装甲車だ。

 A7Vで視察用の出っ張りがある車体上面中央には、短砲身大口径砲を装備した四角い1基砲塔が載っている。

 農地巡回の装甲車と言った様子でもない。

 ハッチからはゴリラ型の獣人が顔を出し、周囲を見ている。

 

 あれは、チーム『青の戦士を仰いで』ではなかろうか?

 では、あの装甲車は錆色号だろうか?

 だが、錆色号とは砲塔が異なる。


 向こうも気づいたようで、ローランドが車内用インカムに何かを話している。

 すると、錆色号は、路肩に車体を寄せ、停車した。

 俺も、合わせて緑のヒヨコ号を止める。

「おーい!メタル殿たちではないか!」

 そう、声を張り上げるのは、ゴリラ型人種のローランド。

「やあ!元気そうで何より!」

 俺も、ドライバーハッチから頭を出して答える。

 

 そのまま、互いに近況報告となった。

 知り合いの旅客に会えば、情報交換と近況報告を行うのが通例だ。

 特に命がけの仕事が多い戦闘旅客は、会ったタイミングが最後の機会になることもある。

 限られた機会を活かして、互いの記憶に互いを刻むのが、伝統になっているのだ。

 それ以外にも、いくら安全な文明圏とはいえ、情報を得ておくのは重要だという理由もある。


 作太郎とエミーリアも降りてきて、チーム『青の戦士を仰いで』のメンバーと交流を深める。

「いくつか仕事をこなしたからの。湯治に来ておったのじゃ。」

 リーダーの、ホクドウジンという背の低い人種で豊かな髭を蓄えたヴィクトルがそう言う。

 十分に休暇を取れたようで、そう言うヴィクトルの顔色はいい。

 ヴィクトルとローランド、コロ、リピ、リトヴァの5人のメンバーは、皆、元気そうだ。

「そういえば、錆色号を新しくしたんだ。」

 そう言うのは、コロ。

 言われて見てみれば、確かに錆色号が新しくなっている。

 砲塔を換装しただけではなく、車体もしっかり新車なようだ。

 傷も少なく、新しさが分かる。

「前の錆色号は限界だったからねぇ・・・。」

 艶めかしい声色で言うのは、リトヴァ。

 前に会った時と大きく外見が変わっている。

 以前の仕事では、欠損した腹部を黄金銀製のパーツで補っていた。

 今は、ファッションもその黄金銀のパーツに合わせているようで、以前の黒一色のドレスではなく、金の差し色を増やした、スチームパンク感も漂う服装に変わっている。

 とはいえ、体のラインがわかるぴっちりとしたセクシーすぎる服であることは変わっていない。

「揺れが少なくなって、快適だよ。」

 そう言うリピは、もこもことした服をしっかりと着込んでいる。

 暑くないのかとも思ったが、曰く、身体のサソリ部分が脱皮したてなので、寒いらしい。

 

 チーム『青の戦士を仰いで』は、一流の戦闘旅客のチームとして今も精力的に活動しているようだ。

 赤い宇宙との戦いについては、どこまで話していいかわからなかったのでぼかして伝えたが、大きな戦いがあったことを伝えると、『青の戦士を仰いで』の面々の目は輝いていた。

 元々、伝説として残っている俺の戦いに憧れて集まった面々なのだ。

 大きな戦いの話に目を輝かせるのも、分かる。

 彼らからもらった情報では、剣が峰市周辺の状況は落ち着いており、異変は起きていないようだ。

 まあ、剣が峰自体は難易度の高いフィールドではあるが、安定しているフィールドでもある。

 今回の旅の始まりの時のように、ツルギガミネセンジュが山から出てくる方がおかしいのだ。

 

 情報交換と近況報告を終え、チーム『青の戦士を仰いで』の面々と別れる。

 旅の途中で合った人たちと再開するのも、旅の醍醐味で、楽しいものだ。


*****


 10分ほどで、緑のヒヨコ号は剣が峰の市街地に入った。

 黒塗りの木材と白い漆喰で作られた、古風な建物が並ぶ、雰囲気の良い市街地だ。

 そこに、赤く色づき始めた木々が映え、とても風情がある。

 そこからさらに数分ほどで、今日の宿に着いた。


 そこまで高級な宿ではないが、戦闘旅客向けで駐車場の充実している宿だ。

 宿の駐車場に、緑のヒヨコ号を停める。

 駐車場から宿に向かって歩いていると、声を掛けられる。

「おや?メタル殿とエミーリアさんではありませぬか?」

 その声に振り向けば、そこには、、白い鱗の細身で身長が高いカメレオン人がいた。

 ユキミカメレオンのレナートだ。

「おう!久しぶりだな!」

 豪快に声を上げるのは、黒い牛が二足歩行したような見た目の牛人。

 角蔵も一緒にいる。

 俺が旅の初めに指導したメンバーだ。

 だが、シコウアカガシのフーロの姿がない。

「久しぶり。フーロはいないのかい?」

 俺がそう声を掛ければ、レナートが答える。

「ええ。彼女とは別のチームになったのです。」

 おや。

 指導してから半年ほどだが、何かトラブルがあったのだろうか?

 そんな俺の表情を見てか、角蔵が口を開く。

「喧嘩別れじゃないぜ。フーロが樹木人のチームからスカウトされたんだ。俺達と過ごすよりも、同じ人種で過ごした方が色々便利だろうからな。」

 なるほど。

 スカウトで別チームに移った感じか。

「決して、仲は悪くないですよ?」

 レナートがそう言って締める。

 円満離脱なら、よかった。

 他のチームのこととはいえ、自分が面倒を見たメンバーがギスギスするのは、あまり気持ちのいいモノではないからな。

「あら?メタルさんじゃないですか!」

「おや。噂をすれば、と言うやつですね。」

 聞こえてきた女性の声に、レナートが反応する。

 声の方を見れば、シコウアカガシの木が立っている。

 フーロだ。

「お久しぶりです!」

 フーロの表情は、記憶にあるモノよりも、明るい。

 どうやら、以前会った時は、緊張していて表情が硬かったようだ。

「俺たちはよく飲んでてな。今日も3人で、この宿の飲み屋に来たんだ。」

 角蔵がそう言い、俺たちが泊まる予定の宿を指さす。

「奇遇だね。俺たちもその宿に泊まるんだ。」

 俺がそう言うと、今まで静かだった作太郎が、声を上げる。

「その者ら、某にも紹介いただけませんかな?」

 いきなり響く、昏く掠れた、重い声。

 レナートと角蔵、フーロの3人は、ビクリと身体を震わせる。

 どうやら、3人は今まで作太郎に気づいていなかったようだ。

 昏く重い声と共に、ゆらり、と存在感を示す作太郎。

 その様は、なかなかに恐ろしい。

 ・・・作太郎、気配を完全に消していたな?

 作太郎的には、悪戯成功、といったところだろうか。

「ど・・・どなたですかな?」

 レナートが恐る恐る尋ねる。

 外見と声に、完全にビビってしまっている。

「意地が悪いね?」

 俺がそう言えば、作太郎から、昏い雰囲気が霧散する。

「・・・はっはっは!悪いことをしましたな。某は作太郎と申すもの。以後、お見知り置きを。」

 作太郎は、急に明るい雰囲気になり、からからと笑う。

 レナートと角蔵、フーロの3人は、ほっとしたように自己紹介をする。

「・・・せっかくだし、一緒にご飯。」

 エミーリアが、言う。

 確かに。

 せっかく再開したのだ。

 俺たちの泊まる宿で飲むというし、一緒に飲むのはいいだろう。

「エミーリアもこう言っているし、どうだい?」

 俺がそう問えば、レナートが答える。

「もちろん。むしろ、こちらから誘おうと思っていたところでした。」

 話はまとまった。

 俺たちは、3人と一緒に、宿へと向かう。


 その夜は、楽しく夜遅くまで飲み明かすことになったのだった。



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