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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
201/208

第24話 核の状態

 現歴2265年10月10日 午前10時


 退院してから5日。

 いろいろと身辺を整理したり、エミーリアとデートしたりしていたら、5日はあっという間に過ぎていった。

 今日は、鈴たちと先の戦いの事後処理について話すことになっている日だ。

 どこで話をするかは、鈴から事前に連絡が来ている。

 指定の場所は、大盾要塞内の軍事区画。

 大盾要塞内にある市街地は、上から見ると、コンクリートの灰色の地面に迷路のように溝を掘ったようにも見える。

 溝のように見える部分は2車線の道路で、その狭い通路の両脇に高さ20m程の鉄筋コンクリートの無骨な建物が隙間なく並んでいるのだ。

 市街地はそれなりに広いが、大盾要塞への入り口はその広い市街地に数か所しかない。


 今回は、大盾要塞の中に入る入り口も、鈴に指定されている。

 秘密を守るため、というわけではない。

 要塞内で迷わないよう、案内人をつけてくれているため、その案内人が待っている出入口から入ることになっているのだ。


 鈴に指定された、大盾要塞3番口に着いた。

 濃い灰色の門に、でかでかと白い文字で『3』と書いてあるので、間違いないだろう。

 入口近くの立体駐車場に車を停め、大盾要塞に入る。

 そして、鈴が手配してくれた軍人に案内され、大盾要塞内を進む。

 要塞に入ってすぐに目に入る景色は、コンクリート打ちっぱなしの床や、薄クリーム色の塗料が塗られているだけの壁など、要塞然とした雰囲気だ。

 だが、少し進み、技術作戦軍が管轄するエリアに入ると、白い滑らかな外壁の、研究施設のような雰囲気になる。


 案内の軍人は、鈴が待つという部屋の前まで、俺たちを案内してくれた。

 目の前には、鈍い銀色に光る気密扉がある。

 形状こそ単純な円形だが、ロックを解除すると動くであろうピストンのようなモノや機械がいくつも取り付けられており、かなりゴテゴテしている。

 そのピストンのようなモノや機械が稼働するであろう部分には、黄色と黒の警告ラインが描かれており、扉は実に物々しい雰囲気だ。

 案内の軍人がその扉の隣にあるタッチパネルを操作する。

 すると、ロックが、がちゃり、とか、プシュー、とかいう音を立て、一つずつ動いて外れていく。

 一つ一つのロックが異なる動きをするため、見ているとちょっと面白い。

 十秒程度の時間をかけ、全てのロックが外れると、ゴムパッキンが剥がれる音を立てながら、扉はゆっくりと外側に向けて開いた。

 扉の先には、もう一つ扉がある。

 その扉も、今開いた扉と同程度に重厚で複雑な扉である。

 かなり厳重な部屋のようだ。

「どうぞ。」

 軍人に促され、中に入る。

 すると、俺たちの背後で、扉が閉じる。

 そして、ガコン、とか、プシュッ、などという音を立て、ロックが閉まっていく。

 開くときと同じく、10秒ほどの時間をかけて、ロックがすべて閉じた。


 その瞬間、部屋の全周に、圧迫感があるほどの凄まじい魔力と呪力が走るのがわかった。

 どうやら、部屋を囲むように何重にも魔術や呪術が張り巡らされているようだ。

 凄まじく強大な空間隔離である。

 厳重な扉が複数枚あるのは、出入りの際に空間隔離に穴が開かないようにするためだろう。

 今、目の前にあるのは2枚目の扉だが、この厳重さならばもう1枚くらい同じような扉があることだろう。

 この先に何があるか、なんとなく予想が付いた。


 どこかにスピーカーでもあるのか、鈴の声が響く。

『今、扉を開けます。しばしお待ちを。』

 鈴の声の後、再び、がちゃり、とか、プシュー、とかいう音が響き、入ってきた扉とは別の扉が開く。

 その先にも、さらにもう一枚扉が見える。

 思ったとおりだ。


 3枚目の扉の前でも一度止まり、2枚目の扉が閉まるのを待つ。

 2枚目の扉と3枚目の扉の間はエアシャワー室のようだが、空気は噴き出してこない。

 汚染について気にしなければいけない場合は、このエアシャワー室が稼働するのだろう。

 エアシャワーの代わりではないだろうが、1枚目の扉をくぐった後のように、凄まじい魔力と呪力が走るのを感じる。

 今回はともかく、いつもは何のために使う部屋なのだろうか・・・?

 そんなことを考えていると、3枚目の扉もメカメカしい動きをして、開く。

 

 扉は3枚で終わり、その先は実験室になっていた。


 その実験室にいる先客は、3名。

 思ったより少ない。

 部屋にいたのは、鈴と覇山、そしてナターリアの3人だ。

 他にも関係者はたくさんいたはずだが、何故か3人だけである。

 まあ、人数が多くてもまとまりがつかなくなりそうなので、これでいいのかもしれない。

 3人は、部屋の中央にある頑丈そうな金属の机を囲むように立っている。


 その机には、漆黒だが半透明な、結晶のようなモノが置いてある。


 やはりか。

 俺とエミーリアが部屋に入ると、鈴の目線が、俺の方を向く。

「ご足労いただき、ありがとうございます。」

 鈴はそう言いつつも、その目線は、机にある結晶のようなモノに向いている。

「こちら、お貸しいただき、ありがとうございます。」

 鈴が言うのは、鈴の目線の先にある、結晶のようなモノのことだろう。


 これは、俺がこの宇宙に持ち帰ってきた、赤い宇宙の核だ。


 俺が持ち帰った赤い宇宙の核は、技術作戦軍に一時的に預けていたのだ。

 その間、核を破壊したり機能停止させたりしなければ、云わば殺害しなければ、解析をしてもいいと伝えていた。

 この部屋で核を解析していたのだろう。

 核が変な動きをしても抑えられるよう、部屋に物凄く厳重な隔離術式がかかっているのだ。

 

 鈴が核を軽く撫で、口を開く。

「では、核の解析結果をお伝えしますね。」

 鈴曰く、解析によって分かったことは、あまり多くないという。

 というのも、核が変な動きをしないよう、あまり深い解析ができていないというのだ。

 それもそうだろう。

 核が暴走でもして、新たな宇宙をここで作られてしまえば、何が起こるかわからない。

 凄まじい被害が発生してもおかしくない。

 そのため、解析や実験は、核が変な動きをしないであろう、最低限の範囲でしかできなかったのだ。

 そのうえで、分かったことを鈴は語った。


 核の成分は不明。

 内部構造も、判然としないという。

 なんなら、重さすら一定ではなかったそうだ。

 そんな中でも、判明したこともある。

 一点目は、呪力に近いエネルギーが、核を支えているエネルギーである、ということ。

 二点目は、エネルギーは、核自身が消滅しないように、内側に向かって対流している、ということ。

 三点目は、核が有するエネルギーの量は、100メガトン級の原子爆弾と同程度、ということ。

 この3点くらいしか、明確に判明したことは無いのだという。

 解析中、核は動くことはなく、スキャンに対しても、なにも反応はしなかったそうだ。

「ここからは、推測なのですが・・・。」

 そう前置きをして、鈴は、自身の推論を語る。

 鈴曰く、核は今、生きることで精一杯なのではないか、とのことである。

 というのも、核は、俺との戦いで、そのエネルギーのほとんどを失った。

 核の有するエネルギー量は、現在の文明基準で考えれば、決して少なくはない。

 その全てのエネルギーを開放すれば、少なくとも大盾要塞は吹き飛ぶだろう。

 だが、宇宙一つ分のエネルギーとして考えれば、無いも同然の量である。

 その程度のエネルギー量では、宇宙を創造することなど、不可能だ。

 そのため、宇宙を創ることはおろか、核自身を維持するので精一杯である可能性が高い、というのだ。


 なるほど。

 

 なんとなく、納得できる。

 鈴が言うことが正しければ、核は今、瀕死の状態で必死に生き残ろうとしているのだ。

「そうか。なんか、俺が倒したからだとはいえ、少し可哀そうな気もするかな?」

 必死に生きようとする者は、どんな生き物であれ、健気に見えるものだ。

 俺は、そう思いつつ、核に触れてみる。


 すると、核は、ビクリ、と震えた。

  

 思わず、手を離す。

「なんと・・・。」

 鈴の声がしたのでそちらを見れば、鈴の目が、きらりと光っている。

 ように見えた。

「この3か月で、初めて動きましたね?」

 鈴はそう言うと、俺と同じように核に触れる。

 しかし、核は動かない。

「・・・ふむ。私ではだめですか。メタルさん、また触れてみてもらえます?」

 ・・・大丈夫だろうか?

 まあ、大丈夫か。


 再び、核に手を伸ばす。


 すると、核は、俺に触れられたくないように、少し、遠ざかるように動いた。

 ゆっくりとした動きだが、確実に動いた。

「ふむ?」

 鈴が、少し唸ると、俺に指示を出す。

「そのまま触ってみてください。」

 鈴の指示に従い、ゆっくりと遠ざかろうとしている核に触れる。


 すると、核は再び、ビクリ、と震えた。


 その動きを見て、鈴は、頷く。

「なるほど、なるほど。わかりました。」

 ほう。

「なに?何が分かったの?」

 思わず、訊き返す。

 鈴は、俺に促され、口を開く。


「核は、メタルさんを、怖がってますね。」


 ・・・なるほど?



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