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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第22話 脱出と入院


 俺は、赤い宇宙と俺たちの宇宙を繋ぐ亀裂に飛び込んだ。


 周囲の景色が、一瞬で変わる。

 視界に飛び込んでくる、灰色の天井。

 赤い宇宙側からも見えた、大盾要塞の天井だ。

 そのまま、俺の身体は術式に引っ張られ、赤い亀裂の上へと投げ出される。

 掴んでいた術式が、解けるように手の中からすり抜けていく。

 身体を引っ張ってくれるモノは無くなったが、飛び出した角度が斜めなので、このままの軌道で亀裂の外側に着地できる。

 身体を捻り、空中で態勢を立て直す。

 体勢を立て直すために身体を回したので、周囲の様子が目に入る。

 まず、目に入ったのは、エミーリア。

 エミーリアは目を閉じ、何かに集中している。

 俺が掴んでいた術式を操作を操作しているのだろう。

 次に、鈴が真剣な表情で俺を見ているのが、見える。

 他にも、周囲の人々の表情は、驚きや喜びなど、様々な表情をしているのが見える。


 身体を翻し、大盾要塞の硬い床の上に、着地。

 無事、帰ってくることができた。

「メタル!」

 俺の姿を見たエミーリアが走り寄ってくる。

 俺も、エミーリアに近寄ろうと、足を踏み出す。

 その瞬間、いきなり、視線が下がる。

「お、おっ・・・?」

 膝に力が入らない。

 崩れるように、腰を下ろしてしまう。

 視線を下げれば、俺の身体はボロボロだ。

 ぽたぽたと、赤い液体が足元に垂れている。

「衛生兵!」

 鈴が、叫ぶ声が聞こえる。

 エミーリアが心配そうな、悲痛な表情で、俺の手を握る。

「悪いね。」

 俺がそう言えば、エミーリアは目に涙を溜めながら、首を振る。

「大丈夫だから。」

 そう言って宥めるが、エミーリアの表情は悲痛なままだ。

 そうか。

 結構酷い怪我をしているからなぁ。

 心配させてしまって、なんだか悪い気がする。


 ああ、しかし、体中が痛い。

 ここまでのダメージを負ったのは、かなり久しぶりだな。

 完治まで、どれくらいかかるだろうか?


 床に腰を下ろしている俺に、衛生兵が駆け寄ってくる。

「メタルさん、こちらへ。」

 衛生兵が、担架に横になるように促してくるが、首を横に振る。

「ちょっと待って。見届けないと。」

 そう言い、赤い宇宙への入り口に目を向ける。

 できたら、立って見届けたかったが、立ち上がる力は残っていない。

 俺の傍らに寄り添っていたエミーリアも、俺の視線に釣られて、赤い宇宙へ目線を向ける。

「・・・崩壊は、止まらないようですね。」

 鈴の声が聞こえる。

 鈴は、俺たちから少し離れた場所で、赤い宇宙を見つめている。

 亀裂の向こう側では、相変わらず無音で赤い宇宙が崩壊していっている。

 亀裂から見える範囲は、もう、8割ほどが黒くなっている。

 次第に、赤い宇宙への亀裂が、閉じていく。

 赤い宇宙が崩壊したことで、この宇宙への接続を保てなくなっているのだ。

 

 赤い宇宙への亀裂は、1分ほどで、完全に閉じてしまった。


 亀裂があった場所に残ったのは、亀裂があったことによる空間の歪みのみであった。

 これで、赤い宇宙は終わったのだろう。


 ほっとしたら、身体から力が抜ける。

「じゃあ、治療を・・・お願い・・・します。」

 そう、衛生兵に頼む。

 なんだか、喋るのも億劫になってきた。

 衛生への手を借り、担架に身体を横たえる。

 身体を横にすると、少し、楽だ。

 思わず、眼を閉じる。

 ふわりと浮く感覚。

 担架が持ち上げられ、運ばれているようだ。

 運ばれる揺れが心地よく、意識が遠のく。


 ここまで来れば、安心だ。


 俺は、欲望に逆らわず、意識を手放した。




*****




 意識が、覚醒する。

 自然と、眼が開く。

 白い天井が目に入る。

 ・・・右目は何かに塞がれているようで、左目でしか見えない。

 視線を回そうと、首を動かす。

 痛い。

 首を動かすだけで、上半身のいろんな傷に響く。

 傷だけではなく、筋肉痛にもなっている。

 いや、筋肉痛も、ある意味傷か?

 そんなとりとめもないことを考えながら、痛みに耐えつつ、視線を動かす。

 すると、ベッドの傍らにいる人物が、視界に入った。

 エミーリアだ。

 エミーリアは、俺のベッドの隣に置いてある椅子に座っている。

 エミーリアと目が合う。

「・・・おはよう?」

 俺がそう言えば、エミーリアは小さく頷き、口を開く。

「・・・おはよう。」

 エミーリアの表情は変わらない。

 変わらないまま、一筋だけ、涙が頬を伝った。

「心配させちゃったか。」

 そう言えば、エミーリアは頷く。

「ごめんな。」

 そう言えば、エミーリアは首を振る。


 エミーリアは、おずおずと俺の掌を握る。

 少し傷に響くが、その痛みが、生きていることを実感させてくれる。

 俺は、勝ったのだ。

 勝って、生き残った。

 そして、エミーリアの隣に、帰ってくることができたのだ。

 改めて、実感が湧いてくる。

 エミーリアが、俺の傷に響かないように、そっと身を寄せてくる。

 エミーリアは、しばらくの間、声も上げず、身を寄せたまま、ハラハラと涙を流したのだった。


*****


 エミーリアは、涙が引いてからも、俺のベッドの傍らに座っていた。

 特に何をするわけでもなかったが、心地よい時間ではあった。


 エミーリアが落ち着いた後、首を動かして部屋を確認した。

 個室だが、装飾のほとんどない、白と灰色のみで構成された質実剛健なデザインの部屋だ。

 この質素さは、軍の病院だろう。

 赤い宇宙と接続していた場所は、この大盾要塞沖合の、古い小さなコンクリート要塞が建設されていた小島だった。

 だが、この部屋は、古い要塞の病室とは思えない、綺麗で整った病室だ。

 おそらく、大盾要塞の本要塞にある軍病院である。

 どうも、意識を手放した後、ここへ搬送ようだ。

 俺や覇山の怪我は酷かったため、あの小島では、医療施設が不足していたのだろう。

 

 身体を確認して見れば、身体のいたるところが包帯やギブスでぐるぐる巻きになっている。

 体の一部から感じる引き攣ったような感覚からすると、縫った場所もそれなりにありそうだ。

 幸い両腕は無事だったが、あばら骨等をやられたため、腕をあまり大きく動かせば、痛みが走る。

 自分の状態を顧みて、ダメージの大きさを実感する。

 治るまでは、しばらくかかりそうだ。


 ダメージのためなのか、身体が休息を求めているからなのか、すぐに眠くなってくる。

 思わず、あくびを一つ。

「ちょっと、寝ようかな。」

 エミーリアにそう伝えれば、エミーリアは小さく頷く。

「・・・おやすみなさい。」



 俺は、エミーリアの言葉に頷くと、睡魔に抗うことなく、眼を閉じるのだった。



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