第21話 脱出口
脱出口が見つからない。
この状況、どうしたものか・・・。
このまま見つからなければ、俺は、宇宙の外の何もない空間に投げ出されることになる。
長く生きてきたが、宇宙の外に投げ出されたのは、過去に1回だけだ。
その1回はどうにか帰って来ることができたが、今回も帰って来られるかはわからない。
あまり宇宙の外には出たくない。
どうしようか・・・。
・・・。
・・・・・・?
・・・これは、流れ?
エネルギーが、流れている?
崩壊していく宇宙から流出しているエネルギーに、流れが生まれている。
無秩序に、四方八方に流れ出ていたエネルギーが、どこかに向かって流れ始めている。
核が、息を吹き返してきたか?
いや、しかし、エネルギーは核へ向かって流れてはいないようだ。
一応、核へのエネルギーの流れを感じ取ってみる。
・・・やはり、核に向かって流れ込むエネルギー量は増えていない。
では、この流れは何だろうか?
何が起きているのだろうか?
エネルギーの流れる方向を見てみる。
宇宙には無数の亀裂が生じており、流れの先に何があるか、分からない。
今のところ、流れの先からは敵意やヤバそうな雰囲気は感じない。
だが、俺が感じ取れていないだけで、新たな敵が出現している可能性もある。
エネルギーに釣られ、別の宇宙から変なモノがやってきている可能性は、極めて低いものの捨てきれない。
確認する必要がある。
正直、新たな敵だった場合、体力的にかなり厳しい。
相手の強さにもよるが、あまり戦闘はしたくない。
敵じゃないことを祈りつつ、俺は、流れの先を見るために移動を始める。
エネルギーの流れは、それなりに強い。
流れに乗ることができるほどだ。
助かる。
この後、どれほど体力を使うかわからない。
体力を温存するに越したことはない。
エネルギーの流れに乗りながら進むこと、数分くらいだろうか?
時間感覚は完全に狂ってしまっているが、進んでいたのはそんなに長い時間ではなかった。
その短い時間で、エネルギーの流れが生じている原因と思われるものまで、たどり着いた。
そこには、赤いエネルギーの塊があった。
・・・なんだあれ?
この赤い宇宙の、新たな核か・・・?
形は、球形。
色は赤。
この宇宙の核は黒だったので、色は異なる。
しかし、そのエネルギーの『感じ』は、この宇宙のモノに近い。
・・・いや、それにしては、なんだか異物感がある。
この赤い宇宙のエネルギーに似た雰囲気だが、根底は異なるモノな感じがする。
この違和感、さっき感じたな。
先ほどの、 エミーリアが放ったと思われる援護攻撃だ。
あれは、外側をこの宇宙に似たエネルギーでコーティングした、エミーリアのエネルギーによる攻撃だった。
もしかしたら、この赤いエネルギーの塊も、エミーリアが何かをしたものなのだろうか?
俺が近づくと、エネルギーを吸収するその何かから、外殻が剝がれ始める。
崩壊する感じではなく、意図的に剥がしているような感じだ。
明らかに何者かの意思を感じられる。
外殻が全て剥がれたそこには、紫色の、小さな球形の術式があった。
やはり。
案の定、エミーリアが送り込んだもののようだ。
その術式は、すっと、俺の近くへと移動してくる。
近くで見ると、その術式はテニスボール大の大きさの、小さな球体だ。
内部に、無数の細かい術式が蠢いているのが見える。
テニスボール大の大きさの中に、莫大な量の術式が仕込まれているようだ。
・・・エミーリアが組むことができる術式のレベルと深さではない。
ナターリアあたりが作った術式を、エミーリアが使っているのだろうか?
そんなことを考えながら術式を見ていると、唐突に、術式から、脳内に語り掛けるような、声がする。
『掴んで。』
エミーリアの声だ。
エミーリアとナターリアは声が似ているが、この説明不足で短すぎる言葉は、エミーリアのモノだ。
短い言葉だが、意図はわかった。
俺は、左手にある、消えゆく核の残骸に目を向ける。
もはや、当初の3割程度の大きさしかない。
そして、残っている部分にも無数に亀裂が走り、どんどんと消えていっている。
この残骸は、このまま消え去るのだろう。
持っていても仕方がないので、投げ捨てる。
投げ捨てられた核は、崩壊しながら亀裂の先へと飛んで行った。
右手にある核の欠片に、目を向ける。
亀裂の数は明らかに少なく、崩壊はほぼ止まっている。
残った部分の大きさは、30cm程度。
元が球体だったことがわからないほどの、歪な形の破片だ。
元の完全な核と比較すると、残ったのは全体の1割に満たない程度の大きさだろうか?
だが、死んではいない。
今も、少しずつエネルギーを吸収し、生き延びようとしている。
その姿は健気にも見えるが、しかし、ここに置いていくわけにはいかない。
ここで置いていけば、いずれ、復活して再び俺たちの宇宙に喰らいついてくるかもしれない。
持っていこう。
核の破片を、右脇に抱える。
折れたあばら骨に当たって痛いが、ここは我慢のしどころだ。
そして、空いた左手で、テニスボール大の術式を掴む。
すると、その術式は、動き出す。
それなりのスピードと、それなりに複雑な動きだ。
振り落とされないよう、腕に力を籠める。
周囲の宇宙は、みるみるうちに崩壊していく。
もはや、視界の半分以上が黒に塗りつぶされている。
術式は、増えていく亀裂を避けるように進んでいく。
その動きに、身体が振り回される。
その度に全身の傷が軋み、痛みが走る。
だが、ここで手を離してしまえば、帰ることができない。
歯を食いしばり、痛みに耐えながら、術式を掴み続ける。
黒い亀裂とは違う亀裂が、見えた。
黒くなく、光が差し込んでいる。
その亀裂に近づいていくと、亀裂の先には大盾要塞の天井らしき灰色のコンクリートが見える。
脱出口だ。
俺を引っ張る術式は、一直線にその亀裂に向かって進む。
宇宙の崩壊に巻き込まれないように、術式はぐんぐんと加速していく。
そして、数秒とかからず、俺はその亀裂に飛び込んだ。




