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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第19話 死闘


 俺は、核に向かって、全力で右拳を振りぬいた。


 その瞬間、赤い宇宙が、揺れる。


 とても硬い。

 殴りつけた拳が、少し痛い。

 ガラスを殴りつけたような、靭性に乏しい感触だ。


 核は硬いが、俺の攻撃で、小さいが罅が入った。

 その罅から、どろり、と、赤い何かが流れ出す。

 核の血液的な何かだろうか?

 血のようにも見えるが、俺の手の上を流れ落ちても跡も残さず、臭いもない。

 その赤い液体は、重力の存在しないこの赤い空間で、細かな球体になり、跳び散る。


 核は、ダメージを負いながらも、逃げようとする。

 

 逃がさない。


 両手で挟むように、核を掴む。

 逃げようとする元気があるということは、先ほどの一撃だけでは十分なダメージは入っていないようだ。

 追撃が必要だ。

 両手で押さえた核に、膝を叩き込む。


 再び、赤い宇宙が、揺れる。

 さきほどよりも大きな罅が、黒い核に走る。

 赤い液体が、罅からさらに流れ出す。

 しっかりダメージは入っているようである。

 これがどれほどのダメージになっているのかは、わからない。

 だが、核は暴れて逃げようとしているため、まだ大ダメージとはいかないのだろう。


 周囲の空間には、核から流れ出た赤い液体が漂っている。

 その漂っている赤い液体を見て、嫌な予感がする。

 だが、一度捕まえた核を離して逃げると、再度追いつくことはできないだろう。

 嫌な予感はするが、逃げることもできない。


 核が、逃げようとして腕の中で激しく暴れる。 

 それを逃がさないよう、両腕に力を籠め、ギリギリと核を締め上げる。

 逃げられたら、再び捕まえるのは難しい。

 ここで止めを刺さなければいけない。

 

 そう思い攻撃をしようとすると、周囲に漂っていた赤い液体が、動き始めた。

 

 やばい。


 ぞわり、と、悪寒がする。

 赤い液体に対する嫌な予感は、当たっていたようだ。

 あの赤い液体は、核の意思で操作できるようだ。

 いや、そもそも、この赤い宇宙の中の全ては、核の意思で操作できるのだろう。

 赤い液体は、無数の弾丸として、俺に向かって突っ込んでくる。

 歯を食いしばり、ダメージに備える。


「ぐぁ・・・ぅ・・・・!!」

 衝撃。

 激痛。

 思わず、声が漏れた。

 再び周囲に漂った赤いモノは、核から漏れた液体か、俺の血液なのか。

 赤い液体の攻撃は、衝撃もさることながら、槍のように俺の身体にいくつも突き刺さってきたのだ。

 致命的なレベルではないとはいえ、大きなダメージを受けた。

 だが、核は手放さない。

 ここで手を離してしまえば、それは敗北につながる。


 気が付けば、近くの空間にあった黒い亀裂が、塞がり無くなっている。

 赤い液体が塞いだようだ。

 赤い液体は、核から流れ出ただけあって、巨大なエネルギーを秘めているようである。

 遠くにはまだまだ亀裂はあるが、俺との戦いに必要な範囲だけ修復したようだ。


 周囲の空間が修復されたことで、俺の身体に、再び、周囲の空間を使った巨大な力が押し寄せてくる。

 さらに、その空間攻撃に加えて、赤い液体も、弾丸になり、刃になり、襲い掛かってくる。

 核は、生き残るためになりふり構わず俺に襲い掛かってきている。


 はやく、止めを刺さなければ。

 俺も、先ほどから、核に止めを刺すべく、攻撃を続けている。

 膝を叩き込み。

 頭突きをかまし。

 両腕で締め上げる。

 着実に、核の罅は増え、赤い液体が流れ出している。

 だが、赤い液体が流れ出れば流れ出るほど、核からの攻撃も激しくなっていく。

 俺も、なりふり構わず、核を攻撃し続ける。


 これは、先にどちらが力尽きるかの、勝負だ。


 拳で殴り。

 空間で殴られ。

 膝で蹴り。

 赤い液体で切り裂かれ。

 ただただ、互いに攻撃を続ける。



*****



 一体、どれだけ戦い続けただろうか。 

 周囲からの攻撃は、激化の一途を辿っている。

 俺の身体にも、無視できない程ダメージが蓄積している。

 頭から流れてきた血が右目に入り、視界は半分になっている。

 幾度とない攻撃で、口の中はずたずたに切れており、血の味しかしない。

 左足の嫌な場所に衝撃を食らい、上手く動かせなくなり、足先の感覚も希薄になっている。

 そのほかにも、あばら骨は数本折れているだろうし、大きな切り傷が全身にできている。


 だが、核も無事ではない。

 全体は無数の罅と、いくつもの巨大な亀裂に覆われている。

 赤い液体は流れつくしたのか、弱々しく漏れ出るのみになり。

 暴れる力も弱くなってきている。


 あと少し。

 あと少しで、勝てる。


 周囲の空間が暴れ、その衝撃が俺の頭を打ち据える。

 あまりの衝撃にめまいがするが、それを気合で乗り切り、全身の筋力を使って、核に右膝を叩きつける。

 赤い液体の奔流が、塊となって、俺の脇腹に凄まじい勢いでぶつかってくる。

 あばら骨がボキボキと嫌な音を立て、内臓が傷ついたようで口から少し血が出る。

 だが、気にする余裕はないので、痛みを自己暗示で無視して、エネルギーを籠めた右拳で、核を殴りつける。

 空間が鳴動し、俺の全身を包み込むように圧し潰そうとしてくる。

 全身に力を入れてそれに耐え、さらに、圧し潰そうとしてくる力を逆に利用して、両腕で核を圧し潰すように力を籠める。

 ミシミシと言う音が聞こえ、核が少し歪む。

 赤い液体が、弾丸のように俺に突っ込んでくるが、勢いは衰えており、俺の防御力を貫通できていない。

 再び、右膝を核に叩きつけると、核は、亀裂を中心に、さらに、歪んだ。

 焦ったように、核が俺の頭部を狙って衝撃を撃ち込んでくる。

 その頭部に襲い掛かってきた衝撃を、タイミングを合わせて頭突きをして相殺しようとするが、衝撃を殺しきれずに上半身が仰け反る。

 だが、衝撃の威力は弱まってきており、大きなダメージには、ならない。

 仰け反った上半身を利用して、そのまま大振りな頭突きを、核に叩きつける。

 その頭突きで、核が一瞬大きく歪み、積み重なってきた亀裂の一部が、少し突出する。


 その突出部に、噛みつく。

 そして、そのまま頭を思い切り後ろに引く。

「-----!!」

 核の、声にならない叫びみたいなものが響き、宇宙がこれまでにないほど揺れる。

 頭を引いた俺の口には、食い千切った核の一部がある。

 ついに、核に罅以外の損傷を与えたのだ。

 

 そして、核に、穴が開いた。


 俺は、口にある核の一部を吐き捨て、その穴に、両手をかける。

 そのまま、核を両側に開くように、両腕に力を入れる。

「-------!!!」

 核が、再び、叫んだ。

 その叫びは、必死さと悲痛さが感じられるものだった。

 だが、手心は加えない。

 核は、俺の両腕を押さえるように、空間を歪ませて力を加えてくる。

 核にとって、この攻撃は、余程ヤバいのだろう。

 かけられてくる力は乱雑で、必死さを感じる。


 歯を食いしばり、全力を振り絞る。

 限界以上に力を籠めた両腕が、震える。

 籠めた力に耐えられず、腕の血管が切れ、血が流れる。

 だが、力を籠めるのは、やめない。

 

 核が、ゆっくりと歪んでいく。

 ビシリ、ビシリ、と、核の亀裂が拡大する音が、空気もない赤い宇宙に、響く。

 それと同時に、周囲の空間にも、今までの亀裂とは比べ物にならないほどのサイズの亀裂が、走る。

 核に連動して、宇宙がダメージを受けているのだ。

 核は、苦痛に悶え、苦しそうに震えてている。

 少し、申し訳ない気分になるが、力は、緩めない。

 これは生存競争。

 手を緩めた方が、死に、喰われるのだ。


 

 バキン。



 音が、響いた。

 核に、巨大な亀裂ができている。

 

「-------------------------!!」

  

 核が、宇宙が、震える。

 急に、全身にかかる力が、強くなる。

 それと同時に、赤い宇宙に次々と亀裂が走っていく。

 周囲の空間を、宇宙自体を崩壊させながらも、俺を止めようとしている。

 必死さを物語るように、その力は、これまでで最も強い。


 だが、俺の方が、強い。


「おああああああああああああああああああああっ!」

「--------------------!」

 俺も叫び、核も叫ぶ。

 最後の力を振り絞り、核に掛けている両腕に、全ての力を、かける。



 突然、両腕が、大きく、動く。

 急に、周囲からの力が、かからなくなる。

 核の声が、途絶える。




 核が、割れた。

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