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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
195/208

第18話 亀裂


 メタル視点


 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。


 一体、どれほど時間が経っただろうか?

 数時間?

 数日?

 数分、はないだろう。

 周囲はただただ赤いだけで景観の変化はなく、時間感覚はあっというまに狂ってしまった。

 もはや、どれだけ時間が経ったかは、わからない。

 エミーリア達はどうしているだろうか?

 いや、この赤い宇宙と元の宇宙で、時間の流れが異なる可能性もある。

 向こうでは数分しか経っていない可能性もあるだろう。

 俺の時間感覚が狂ったわけではなく、そもそも時間の流れ自体が俺の知っているものと違う、ということも考えられるかもしれない。


 とはいえ、消耗した体力を考えると、赤い宇宙と力が拮抗し動けなくなってから、かなりの時間が経過している。

 あと一手で勝てそうなのは変わらない。

 だが、その一手が足りないのも、変わらない。

 ただ耐えているだけではなく、何度も手を変え、動こうと試してみた。

 その結果、ある程度核への距離を詰めることができたこともあった。

 逆に、失敗してダメージを受けたこともあった。

 色々試したが、総合的に見れば、あまり効果は無かったといえる。

 距離を詰めることができたときも、結局、核は離れて行ってしまったためだ。

 距離の主導権は、核が握っている。

 

 ただ、色々試すうちにわかったこともある。

 それは、核に感情のようなモノがありそうなことだ。

 俺が動くことを成功させたときは、焦ったように震えていた。

 それを止めることができたときは、安堵したようにゆっくりと揺れていた。

 その動きからは、感情を感じさせられる。

 とはいえ、それが分かっても、戦闘に活かせているわけではない。

 

 俺の体力は、多少消耗したとはいえ、まだまだ余裕がある。

 だが、赤い宇宙のエネルギー量にも陰りは見られない。

 エネルギーを消耗しても、自身が宇宙であるため内部で循環させるだけでいい赤い宇宙。

 それに対して、消耗したら補充できない俺。

 持久戦は、最終的に不利になる。

 状況は、決して良くない。

 さて、次はどうするか・・・。



 そんなことを考えていたら、何かが、来た。



 あれは、なんだ?

 赤い、針?

 紡錘形の、赤い何かだ。

 長さは、50cmほどだろうか?

 俺の位置からは、小さな針のように見える。

 どこからともなく現れたそれは、緩く弧を描いて軌道を変えながら、核の方へと進んでいく。

 決して速い動きではないが、遅くはない。

 核は、その赤い何かを気にしている様子は無い。

 この宇宙内の、生物のようなものだろうか?

 その赤い何かは、さらに核に近づいていく。

 核は、動かない。

 これは、気にしていないわけではないな?

 赤い何かに、気付いていないようだ。

 

 赤い何かは、気付かれずに核に近づいていく。


 そして、核にあと数mほど近づいたとき、ついに核が気付いた。

 驚くように一度跳ねたので、ほんとうに気が付いていなかったのだろう。

 核が気付いた直後、赤い何かから、急激にエネルギーが霧散していくのを感じる。

 小さくしか見えないので詳細は分からないが、表面が赤い宇宙に吸収されているようだ。

 そして、エネルギーが吸収されることで赤い何かの表面が削られ、その中身が、現れた。

 紫色の、エネルギーの塊だ。



 赤い何か改め紫色のエネルギー塊は、表面が削られて内部のエネルギーが露出した瞬間、炸裂した。



 炸裂したエネルギーは、ガラスが割れるような音と共に、稲妻のような形状にエネルギーを迸らせる。

 そのエネルギーは、核にも襲い掛かる。

 だが、核はそのエネルギーをいなしたようで、紫色の稲妻は、核を避けてしまった。

 だが、紫色の稲妻が走った跡には、黒い亀裂が残っている。

 赤い宇宙の空間を、切り裂いたようだ。


 紫色のエネルギー。

 それは、エミーリアのエネルギーだった。

 援護攻撃をしてくれたのだ。


 一瞬で、紫のエネルギーは霧散し、そのエネルギーは赤い宇宙に吸収されていった。

 赤い宇宙の力の総量が、少し、増える。

 だが、俺にかかる圧力は、減った。

 どうやら、切り裂かれた空間を修復する方に、エネルギーを向けたようだ。

 紫のエネルギーが空間を切り裂いた範囲は決して広くはなかったが、核として、赤い宇宙としては無視できなかったようである。

 そして、亀裂の修復に核の意識が向き、俺から意識が逸れている。



 赤い宇宙よ。

 それは、大きな、そして致命的なミスだ。



 俺を押さえている力を踏み潰すイメージで、踏み出す。

 その瞬間、動かした足に引っ張られるように、宇宙に亀裂が入った。

 赤い宇宙は、俺を抑え込むために、宇宙を構成する根本の空間を使っている。

 その事実は、衝撃を押し返した時に、空間が割れたことでわかっていた。

 だから、俺が無理やり動けば、それだけで、赤い宇宙へのダメージになる。

 俺と赤い宇宙の力は、俺の方が大きい。

 それを押さえるためには、最も力の強い根本の空間を使うしかなかったのだろう。

 とはいえ、俺を押さえ切れているうちは、それでいい。

 根本の空間を用いて俺を押さえ、圧し潰すか消耗しきることを狙っていたのかもしれない。


 だが、抑えきれなくなった時、根本の空間を使っていることは、宇宙の崩壊に繋がるのだ。


 核は、焦ったように震えると、俺にかかる圧力を強めてきた。

 先程までよりも、エミーリアのエネルギーを吸収した分、いくばくか強さは増している。

 さっきまでだったら、少しまずかっただろう。


 もう遅い。


 赤い宇宙からの圧力は強くなったが、周囲に無数の亀裂があるせいで、その圧力のかかり方は、不均一だ。

 均一にかからない力で、俺を止められると思ってもらっては、困る。

 そもそも、力の総量は、吸収されたエミーリアのエネルギー分を含めても、俺の方が多い。

 一度、こちらに均衡が傾けば、その均衡を元に戻すことは、難しい。


 亀裂に、脚をかける。

 空間を押し割るように踏み抜きながら、核に向けて身体を押し出す。

 核は、赤い空間をしならせて衝撃を加えてこようとする。

 それを殴り返すと、しなって襲い掛かってきた空間は、圧壊するように崩れ、無数の黒い亀裂が走る。

 抑え込もうと、四方八方から力が絡まってくる。

 だが、亀裂のある方向からの圧力が弱いので、その方向へ、力づくで身体を押し込む。

 すると、俺を止めようとして絡まっていた空間に引っ張られるように、その周囲の空間が、割れる。

 俺を進ませないように、空間の密度を上げ、進めないようにしてくる。

 だが、周囲の亀裂のせいで、密度にむらがある。

 密度の上がった空間を殴りつけると、密度の薄い場所を中心に空間が崩壊した。


 気が付いたら、周囲には、無数の亀裂が走っている。


 核は、その亀裂がある部分を通ることができないらしく、焦ったように右往左往している。

 空間を修正することにエネルギーを回すが、そうすると、俺が動く。

 俺を止めようとすれば、周囲に亀裂が多すぎて止められずに、亀裂が増える。

 俺を止めなければ、俺が亀裂を増やしながら、近づいてくる。

 亀裂の少ない範囲に逃げようとしても、亀裂が邪魔をして、上手く逃げることができない。

 核からすれば、どうしていいかわからない状況だろう。


 俺は、赤い空間の中を力づくで進みながら、核に近づく。

 核は、焦ったように逃げようとするが、亀裂が多くなりすぎて、うまく逃げることができない。

 俺が核に追いつくのは、容易だった。

 目の前には、核が、震えている。

 核を見据え、右拳を握りこみ、力を籠める。



 捕まえた。



 俺は、核に向かって、全力で右拳を振りぬいた。


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