第18話 亀裂
メタル視点
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
一体、どれほど時間が経っただろうか?
数時間?
数日?
数分、はないだろう。
周囲はただただ赤いだけで景観の変化はなく、時間感覚はあっというまに狂ってしまった。
もはや、どれだけ時間が経ったかは、わからない。
エミーリア達はどうしているだろうか?
いや、この赤い宇宙と元の宇宙で、時間の流れが異なる可能性もある。
向こうでは数分しか経っていない可能性もあるだろう。
俺の時間感覚が狂ったわけではなく、そもそも時間の流れ自体が俺の知っているものと違う、ということも考えられるかもしれない。
とはいえ、消耗した体力を考えると、赤い宇宙と力が拮抗し動けなくなってから、かなりの時間が経過している。
あと一手で勝てそうなのは変わらない。
だが、その一手が足りないのも、変わらない。
ただ耐えているだけではなく、何度も手を変え、動こうと試してみた。
その結果、ある程度核への距離を詰めることができたこともあった。
逆に、失敗してダメージを受けたこともあった。
色々試したが、総合的に見れば、あまり効果は無かったといえる。
距離を詰めることができたときも、結局、核は離れて行ってしまったためだ。
距離の主導権は、核が握っている。
ただ、色々試すうちにわかったこともある。
それは、核に感情のようなモノがありそうなことだ。
俺が動くことを成功させたときは、焦ったように震えていた。
それを止めることができたときは、安堵したようにゆっくりと揺れていた。
その動きからは、感情を感じさせられる。
とはいえ、それが分かっても、戦闘に活かせているわけではない。
俺の体力は、多少消耗したとはいえ、まだまだ余裕がある。
だが、赤い宇宙のエネルギー量にも陰りは見られない。
エネルギーを消耗しても、自身が宇宙であるため内部で循環させるだけでいい赤い宇宙。
それに対して、消耗したら補充できない俺。
持久戦は、最終的に不利になる。
状況は、決して良くない。
さて、次はどうするか・・・。
そんなことを考えていたら、何かが、来た。
あれは、なんだ?
赤い、針?
紡錘形の、赤い何かだ。
長さは、50cmほどだろうか?
俺の位置からは、小さな針のように見える。
どこからともなく現れたそれは、緩く弧を描いて軌道を変えながら、核の方へと進んでいく。
決して速い動きではないが、遅くはない。
核は、その赤い何かを気にしている様子は無い。
この宇宙内の、生物のようなものだろうか?
その赤い何かは、さらに核に近づいていく。
核は、動かない。
これは、気にしていないわけではないな?
赤い何かに、気付いていないようだ。
赤い何かは、気付かれずに核に近づいていく。
そして、核にあと数mほど近づいたとき、ついに核が気付いた。
驚くように一度跳ねたので、ほんとうに気が付いていなかったのだろう。
核が気付いた直後、赤い何かから、急激にエネルギーが霧散していくのを感じる。
小さくしか見えないので詳細は分からないが、表面が赤い宇宙に吸収されているようだ。
そして、エネルギーが吸収されることで赤い何かの表面が削られ、その中身が、現れた。
紫色の、エネルギーの塊だ。
赤い何か改め紫色のエネルギー塊は、表面が削られて内部のエネルギーが露出した瞬間、炸裂した。
炸裂したエネルギーは、ガラスが割れるような音と共に、稲妻のような形状にエネルギーを迸らせる。
そのエネルギーは、核にも襲い掛かる。
だが、核はそのエネルギーをいなしたようで、紫色の稲妻は、核を避けてしまった。
だが、紫色の稲妻が走った跡には、黒い亀裂が残っている。
赤い宇宙の空間を、切り裂いたようだ。
紫色のエネルギー。
それは、エミーリアのエネルギーだった。
援護攻撃をしてくれたのだ。
一瞬で、紫のエネルギーは霧散し、そのエネルギーは赤い宇宙に吸収されていった。
赤い宇宙の力の総量が、少し、増える。
だが、俺にかかる圧力は、減った。
どうやら、切り裂かれた空間を修復する方に、エネルギーを向けたようだ。
紫のエネルギーが空間を切り裂いた範囲は決して広くはなかったが、核として、赤い宇宙としては無視できなかったようである。
そして、亀裂の修復に核の意識が向き、俺から意識が逸れている。
赤い宇宙よ。
それは、大きな、そして致命的なミスだ。
俺を押さえている力を踏み潰すイメージで、踏み出す。
その瞬間、動かした足に引っ張られるように、宇宙に亀裂が入った。
赤い宇宙は、俺を抑え込むために、宇宙を構成する根本の空間を使っている。
その事実は、衝撃を押し返した時に、空間が割れたことでわかっていた。
だから、俺が無理やり動けば、それだけで、赤い宇宙へのダメージになる。
俺と赤い宇宙の力は、俺の方が大きい。
それを押さえるためには、最も力の強い根本の空間を使うしかなかったのだろう。
とはいえ、俺を押さえ切れているうちは、それでいい。
根本の空間を用いて俺を押さえ、圧し潰すか消耗しきることを狙っていたのかもしれない。
だが、抑えきれなくなった時、根本の空間を使っていることは、宇宙の崩壊に繋がるのだ。
核は、焦ったように震えると、俺にかかる圧力を強めてきた。
先程までよりも、エミーリアのエネルギーを吸収した分、いくばくか強さは増している。
さっきまでだったら、少しまずかっただろう。
もう遅い。
赤い宇宙からの圧力は強くなったが、周囲に無数の亀裂があるせいで、その圧力のかかり方は、不均一だ。
均一にかからない力で、俺を止められると思ってもらっては、困る。
そもそも、力の総量は、吸収されたエミーリアのエネルギー分を含めても、俺の方が多い。
一度、こちらに均衡が傾けば、その均衡を元に戻すことは、難しい。
亀裂に、脚をかける。
空間を押し割るように踏み抜きながら、核に向けて身体を押し出す。
核は、赤い空間をしならせて衝撃を加えてこようとする。
それを殴り返すと、しなって襲い掛かってきた空間は、圧壊するように崩れ、無数の黒い亀裂が走る。
抑え込もうと、四方八方から力が絡まってくる。
だが、亀裂のある方向からの圧力が弱いので、その方向へ、力づくで身体を押し込む。
すると、俺を止めようとして絡まっていた空間に引っ張られるように、その周囲の空間が、割れる。
俺を進ませないように、空間の密度を上げ、進めないようにしてくる。
だが、周囲の亀裂のせいで、密度にむらがある。
密度の上がった空間を殴りつけると、密度の薄い場所を中心に空間が崩壊した。
気が付いたら、周囲には、無数の亀裂が走っている。
核は、その亀裂がある部分を通ることができないらしく、焦ったように右往左往している。
空間を修正することにエネルギーを回すが、そうすると、俺が動く。
俺を止めようとすれば、周囲に亀裂が多すぎて止められずに、亀裂が増える。
俺を止めなければ、俺が亀裂を増やしながら、近づいてくる。
亀裂の少ない範囲に逃げようとしても、亀裂が邪魔をして、上手く逃げることができない。
核からすれば、どうしていいかわからない状況だろう。
俺は、赤い空間の中を力づくで進みながら、核に近づく。
核は、焦ったように逃げようとするが、亀裂が多くなりすぎて、うまく逃げることができない。
俺が核に追いつくのは、容易だった。
目の前には、核が、震えている。
核を見据え、右拳を握りこみ、力を籠める。
捕まえた。
俺は、核に向かって、全力で右拳を振りぬいた。




