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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第16話 決断


 情報の処理を終え、顔を上げる。

 物凄い量の情報だったが、その受け止めと処理は、1分もかからず、終わった。


 私の脳内には、今、赤い宇宙に対する莫大な情報が、溢れている。

 とはいえ、情報の処理は、ただ、脳が焼き切れないように受け止め、脳に詰め込んだに過ぎない。

 情報の受け入れこそできているものの、まだ、整理はできていない。

 だが、整理できていないとしても、その情報を使わなければいけない。


 頭を回す。

 

 溢れている情報の中には、赤い宇宙に干渉する方法が、いくつもある。

 私達のうち半分を情報整理に回し、もう半分で何ができるかを考える。

 赤い宇宙の情報でも、今は使わなさそうなものも多い。

 それらの情報は、今はあまり考えないようにする。

 とはいえ、情報量はあまりにも膨大。

 使えそうに感じる情報だけでも、凄まじい量だ。

「・・・どうする?」

 考えていると、ナターリアが訊いてくる。

 そうか。

 自分の内部で全員で考え込むのではなく、外の対応をする私も必要だ。

 全員で考え込んでいるわけにもいかない。

 対応は、いつもどおり表に出ている私の役割だろう。

「今、考えている。」

 ナターリアに言葉を返す。

 すると、鈴が、声を掛けてくる。

「あまりいい状況ではないようですね?」

 鈴の言葉に、頷く。

 私とナターリアのやり取りを見ていて、察したようだ。

 私が口を開こうとしたら、先にナターリアが言葉を発した。

「メタルと赤い宇宙が戦っているが、拮抗している。何か一手が必要だ。」

 ナターリアがそれだけ言えば、鈴が少し顔を顰める。

 どうやら、私とナターリアが何かしらの手段で赤い宇宙の内部を観測しているのが分かったようだ。

 そして、少し考え、鈴が口を開く。

「しかし、我々の現有戦力では、赤い宇宙に効果的な攻撃をできる者が、覇山元帥しかいません。」

 その覇山元帥は、赤い宇宙との戦いで大きな怪我を負い、現在治療中だ。

 意識も失っており、戦える状態ではない。

「他にも戦える可能性がありそうな方もいますが、呼んで間に合うかというと、怪しいですし・・・。」

 ・・・他に、戦える強さの者が、いる?

 宇宙相手に?

 ・・・なんだか、恐ろしいことを知ってしまった気がする。

「メタルと先ほどの覇山とやら以外に、まだ、あてがあると言うのか・・・?」

 ナターリアもぞっとした顔をしている。

 なんだか、この国の底力を見た気がする。

 とはいえ、今ここにその戦力はいない。

 現状では、私が動くしかないことは変わらない。

 

 話をしているうちにも、私たちの議論は進んでいる。

 そして、私達の中で、何ができそうかの結論が出た。

 私達がたどり着いた、今の状況を動かせそうな行為は、二つ。 


 赤い宇宙に攻撃するか。

 メタルに力を渡すか。


 このどちらかだ。

 どちらも単純な答えだ。

 他にも候補は様々あったが、今の状況から考えると、最も実行可能性が高いのはこの二つである。

 だが、実行可能性が高いとはいえ、どちらの方法もリスクは大きい。


 攻撃するのは、最も直接的な支援だ。

 溢れ出した情報の中には、攻撃についても幾通りも刻まれていた。

 外部から攻撃する方法。

 内部から攻撃する方法。

 動きを止めるための攻撃。

 力を削ぐための攻撃。

 様々な方法と攻撃内容があった。

 それらの中で、今の状況に適しているものは、赤い宇宙の力を削ぐため、内部に自身のエネルギーを送り込み攻撃する方法だ。

 溢れている情報の多くは、外から宇宙を攻撃しても大きな効果は望めないと言っている。

 そして、動きを止める攻撃の多くは、あくまでこの宇宙への浸食スピードを止めるもの。

 今回の支援では、現在の均衡を崩すため、赤い宇宙の力を削ぐ必要があるのだ。 

 メタルへの支援としては、不適切。

 今回は、力を削ぐ方向で攻撃するのが、いいだろう。

 例え力を削げなかったとしても、赤い宇宙のリソースの一部を私への対応に向かわせれば、それで均衡はメタル側に傾くだろう。

 だが、内部にエネルギーを送り込み攻撃するのは、かなりリスキーだ。

 攻撃をしたとしても、そのダメージが小さすぎ、赤い宇宙のリソースも割けず、全く意味がないかもしれない。

 意味がないだけならいいが、送り込んだエネルギーが取り込まれ、赤い宇宙を強化する可能性もある。

 

 攻撃以外には、メタルに力を渡す、という方法も、ある。

 情報の中には、赤い宇宙内に自身のエネルギーを送り込む方法も、少ないが刻まれていた。

 今、外側に欺瞞コーティングを施して赤い宇宙の内部に送り込み、内部をモニタリングしている術式も、その一つだ。

 欺瞞や擬態をしっかりと行えば、送り込んだ力が赤い宇宙に吸収される可能性はとても小さくできる。

 この方法は、攻撃よりもリスクが無いように感じる。

 だが、情報を整理し、考えてみれば、こちらのリスクも小さくはない。

 力を受け取ったメタルが、すぐにその力を使えるとは限らない。

 私がナターリアの力が馴染むまで意識を失ったように、メタルも馴染ませるまでに何かがあるかもしれない。

 そうすれば、今の均衡が赤い宇宙側に傾き、メタルが飲み込まれることになるだろう。

 欺瞞や擬態が破られ、赤い宇宙を強化するだけになる可能性も、ゼロにはできない。


 赤い亀裂を睨み、考える。 

 脳内に溢れている情報を整理し続けながら、どちらが良いか、検討を重ねる。

 赤い宇宙への攻撃か。

 メタルへの力の譲渡か。

 体内では、数多の私が、二つの案に対し、喧々諤々の議論を重ねている。

 議論せずに、情報の整理を続ける自分もいる。

 情報が整理されるに従い、次第に議論は収束していく。


 そして、結論が、出た。


 私の表情が変わったのだろう。

 何かに気づいたような表情をして、ナターリアが、声を掛けてくる。

「・・・結論が出たようだな。」

 ナターリアの言葉に、鈴の視線も、私を向く。

「状況は動かせそうですか?」

 私は、鈴元帥の言葉に頷く。

 そして、口を開く。


「攻撃する。」

 


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