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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第14話 ナターリアが仕込んだモノ

 

 エミーリア視点


 皆は感じていないのだろうか?

 メタルが入ってから、赤い亀裂内部のエネルギーの動きが、大きく変わったことに。


 私は、今、感じている。

 一体なぜ、赤い亀裂の内部を感じられるのかは、わからない。

 だが、感じるのだ。

 赤い亀裂の先、赤い宇宙が、その力を、一点に集中させているのを。

 宇宙の力が集中している中心に、また別の強大な力が渦巻いているのを。

 そして、その渦巻いている強大な力が、メタルであることを。


 赤い宇宙は今、メタルを圧し潰さんとしている。


 その圧力の強さを形容するには、絶大という言葉すら、生温い。

 一つの宇宙全体が力を集中させているのだ。

 もはや想像すらできない。

 メーアの力とナターリアの力を得た私ですら、コンマ数秒もかからずに圧縮され、消滅するだろう。


 だが、その圧力に、メタルは、一切負けていない。


 凄まじく荒ぶっている赤い宇宙の中心に居ながら、その力に翳りは見えない。

 それどころか、その力の強さは、赤い宇宙に勝るほどである。

 今にも、赤い宇宙を逆に飲み込んでしまいそうにすら、感じられる。


 だが、何故か、拮抗している。

 勝つことができていない。

 

 何故、メタルが勝てないのか不思議に思いながら赤い亀裂を見つめていると、背後に、ヒトの気配がした。

「エミーリア。貴様も、分かるようだな。」

 ナターリアが、話しかけて来た。

 分かる?

 メタルが戦っていることについてだろうか?

「・・・何が?」

 訊き返す。

 すると、ナターリアは、煩わしそうな顔をして答える。

「とぼけるな。メタルが戦っていること、感じているのだろう?」

 それは、そうだ。

 頷く。

「やはりな。私が渡した力が、馴染んでいるようだな。」 

 ・・・?

 どういうことだろうか?

 疑問を頭の中に思えば、私の表情を読んだのか、ナターリアが答える。

「私は、赤い宇宙から逃げるつもりだったのだ。そうなると、赤い宇宙を観測できなくては逃げようがない。」

 それもそうだ。

 私が納得していると、ナターリアは、説明を続ける。


 ナターリアが脱出船を使って赤い宇宙から逃げる際、赤い宇宙が追ってくる可能性があった。

 そのため、追ってくる赤い宇宙を確認するために、赤い宇宙を観測できるよう、力を調整し、策を仕込んでおいたのだという。


 その策とは、隠密と潜入。

 赤い宇宙を外から観測するだけでは、不十分。

 内部から観測できなければいけない。

 そのためには、自身の力を、赤い宇宙に接続しなければいけない。

 ただ赤い宇宙に力を接続しただけでは、その力は吸収され、分解されて終わってしまう。

 ナターリアは、吸収されずに赤い宇宙内に力を繋ぐため、力の波長をカモフラージュしたのだそうだ。

 正確には、赤い宇宙から異物だと認識されないよう、力の外側の波長を赤い宇宙に近い波長でコーティングしたとのことである。

 そのコーティングされた力が、端末のように独立して、赤い宇宙の中に送り込まれている。

 なので、ナターリアから力を引き継いだ私が、赤い宇宙の中を観測できているのだそうだ。 


 語り終えたナターリアは、続けて言う。

「しかし、メタルの力は、これほどだったとは。今なら、メタルに戦いを挑んだ自分がいかに愚かだったかがわかるな・・・。」

 ナターリアも、赤い宇宙の内部を感じ取ることができているようだ。

 私に力を渡したはずなのに、何故、感じ取ることができているのだろうか?

「なんでわかる?」

 そのことを問いかけてみれば、ナターリアは気まずそうな表情をして、答える。

「・・・貴様と私は元々同じ存在なのだ。1本程度なら力のリンクくらいならば残しておける。」

 ・・・なるほど。

 受け取ったはずの力の一部が、ナターリアにも繋がっているのは、あまり気持ちのいいものではない。

 だが、今はそれを責めている場合ではない。

 メタルが、勝てていないのだ。

「メタルが、勝ててない。」

 私が言うと、ナターリアも頷く。

 ナターリアもメタルが勝てていないことは分かっているのだ。

 メタルは未だ、赤い宇宙と拮抗している。

「相性が悪い。いや、力の大きい者に、この赤い宇宙と相性がいい者など、いない。」

 相性が悪い?

 どういうことだろうか?

「力を喰らい強くなる赤い宇宙にとっては、力の大きな者はただの捕食対象、餌に過ぎないなのだ。」

 なるほど。

 赤い宇宙は、元々相手の力を喰らって巨大になっていく存在だ。

 力の大きい者は、格好の獲物なのだろう。

 しかし、そうなると何故、メタルは戦えているのだろうか?

「何故、負けない?」

 私がそう訊けば、ナターリアは答える。

「それは、メタルがあまりに巧みだからだ。」

 巧み?

 私が首を傾げれば、ナターリアはぼやくように言う。

「巧みに力を喰われないよう、自身の力の流れや密度をうまく操作しているのだろう。」

 なんと。

 宇宙の中で、全周囲から襲い掛かられながら、そんなに器用なことをしているのか。

「だが、このままではじり貧なのも事実。」

 そうだ。

 そうなのだ。

 このままでは、メタルが押しつぶされてしまう。

 どうしたらいいのだろうか。

「エミーリアよ。貴様は私の力を継いだのだ。」 

 悩む私の耳に、ナターリアの言葉が、響く。



「今こそ、貴様が継いだその力を、使う時が来たのだ。」

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