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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第13話 拮抗


 力を籠めて身体を動かそうとすれば、周囲の空間が歪む。

 それに呼応し、赤い宇宙は、さらにエネルギー密度を上げる。

 

 こうなったら、純粋な力比べだ。


 改めて、身体の奥底から、力を、全身に回す。

 重要な筋肉から順に、力を巡らせていく。


 腹直筋と大胸筋に、がっちりと力を籠め、全身をを支える。

 広背筋と僧帽筋が、ギチリ、ギチリ、と唸りを上げ、膨らむ。

 大腿四頭筋とハムストリングスが、ミシリ、ミシリ、と咆哮し、隆起する。

 三角筋が、上腕三頭筋が、ヒラメ筋が。

 全身のありとあらゆる筋肉が、自身に宿るその力を、誇示する。

 そして、躍動し始めた筋肉たちが求める莫大なエネルギーを、一切の不足なく供給する血管が、太く、力強く浮かび上がる。


 準備は、できた。

 

 歯を食いしばり、全身を、動かす。


 その瞬間、全周囲から力がかかり、俺の動きを止めようとしてくる。

 その力は、凄まじい。

 宇宙なのだ。

 星や銀河どころではない。

 今までほとんど受けたことが無いような、膨大と言うのも生温い程の力が、俺の全身を押さえ、圧し潰し、消滅させようとしてくる。

 俺は、その力を、全力を以って、迎え撃つ。

 核まで動き、宇宙を張り倒そうとする、俺。

 その俺を圧し潰さんとする、赤い宇宙。

 二つの力がぶつかり、もたらされた結果は・・・。



 拮抗。



 俺と赤い宇宙の力が拮抗し、動きが止まる。

 身体が、筋肉が、震える。

 鉄の味が、した。

 力を入れすぎて、どこかで毛細血管が切れたか?

 それとも、歯を食いしばりすぎて、少し血が出たか?

 頭の片隅で、そんなことを考える。

 脳内にはそんな余裕があるが、身体には、余裕はない。

 今も、全力で動こうとしている。

 しかし、動けそうで、動けない。

 もう少し。

 もう少し力があれば、勝てる。

 今の拮抗は、薄氷の上のモノだ。

 少しでも、どちらかに力が偏れば、それだけで、勝負はつく。

 そんな気がする。


 力を比べていて、わかったことがある。

 赤い宇宙は、それはもう強大だ。

 宇宙なのだ。

 強大でないはずはない。

 だが、赤い宇宙の内部で戦っていてわかった。

 赤い宇宙全体から伝わってくる力からすると、実は、力の総量では俺の方が勝っている。

 赤い宇宙は、恐らく、これまで『戦う』ということを経験していない。

 それ故なのか、戦いにおける駆け引きはなく、己の力を隠すようなこともしない。

 なので、赤い宇宙の力の総量は、とてもわかりやすいのだ。


 だが、勝ちきれない。

 何故なら、相性が、良くない。

 

 赤い宇宙は、他の宇宙に喰らいつき、侵食する力を持っている。

 その力は、宇宙に対して特効を示す。

 戦略級の超人の体内世界は、非常に大きなエネルギー量と重厚さを持っている。

 その力の大きさは小さな宇宙と言えるほどだ。

 戦略級の超人は、ほぼ漏れなくその体内に小さな『宇宙』を持つのである。

 それは、俺も例外ではない。

 その宇宙といえる体内世界に対して、宇宙相手に有利な赤い宇宙の特性が、効いてしまっている。

 赤い宇宙は、宇宙相手というよりも、大きなエネルギーに対して喰らいつき、侵食・吸収する力に長けているのだ。


 力が小さい相手は、そのまま圧し潰す。

 力が大きい相手は、相性有利になるので喰らいつくことができる。


 この赤い宇宙、かなり隙の無い存在である。

 今のところ、侵食は防ぎきれている。

 侵食可能な力の量よりも大きく高密度な力を当てることで、喰らいつけなくしているのだ。

 口よりも大きなモノには喰らいつけないように、赤い宇宙にも浸食の限界がある。

 しかし、正直、あと一手が足りない。

 俺に力が増えるか、何かで赤い宇宙の力が削がれれば、勝てる。

 だが、その一手が足りず、勝つことができない。


 ・・・ここは、撤退か?

 今なら、撤退する余力はある。

 だが、本能が告げている。


 ここで退けば、勝てなくなる。

 

 戦っている最中も、赤い宇宙は、その力を増している。

 喰らいついている俺たちの宇宙から、力を奪っているのだろうか。

 その力の増加速度は、それなりに速い。

 ここで、勝たなければ、強大になっていく力に追いつけなくなる。



 ここで、勝負を決めなければいけないのだ。



*****


 エミーリア視点。


 赤い亀裂を、見つめる。

 メタルが入って、数分。

 赤い亀裂の鳴動は、止まった。

 一瞬、黒いラインが赤い亀裂内に走ったが、それ以降、外見に変化はない。

「こっちの宇宙にかかってる圧力が、減ってるぜ。」

 ラピーラが鈴に報告しているのが聞こえる。

 その報告に、鈴が答える。

「メタルさんが中で戦っている影響の可能性が高いですね。何か計測はできていますか?」

 計測?

 確かに、赤い亀裂を囲んでいる機械には、無数のセンサーのようなものやメーターが取り付けられている。

 これらの計器で赤い亀裂を観測しているのだろうか。

「いや、何も。むしろ、さっきよりもだいぶ静かになってるぜ。」

 ラピーラの答えに、鈴元帥が、諦めの混じった表情をする。

「ふむ、そうですか。やはり、どうにかして赤い亀裂の内部を直接観測したいところですね・・・。」

 どうも、内部が観測できていないようだ。

 どういうことだろうか?

「ああ。とはいえ、何回かセンサーを投入してはいるが、すぐにバラバラにされちまうからな・・・。」

「ふ~む・・・。装甲を施してみても、意味は無かったですからね・・・。」

 鈴は、顎に手を当て、悩んでいる。

 どうやったら赤い亀裂の中を計測できるか、考えているのだろう。 

 どうも赤い亀裂の中に物を投下しても、すぐに分解され、計測できないようだ。

 確かに、それでは赤い亀裂の内部を観測することはできず、外部に漏れてくる情報だけで推測するしかなくなる。


 

 だが、皆は感じていないのだろうか?

 メタルが入ってから、赤い亀裂内部のエネルギーの動きが、大きく変わったことに。



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