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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第2章
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第8話 要塞外壁広場攻略

 要塞外壁までは、約100m。

 道の左右は切り立った崖で、その谷間を歩いて向かうことになる。

 谷には大岩がいくつも突き出しており、船着き場から外壁を直接見ることはできない。

 海から砲撃で狙いづらいような配置になっているようだ。

 沖合からならば外壁は見えるが、この要塞が建設された時代では、そこから届く射程の大砲は無かったのだろう。

 大岩を迂回しながら、外壁に向かう。

 足元には石畳の名残があり、昔は綺麗に整えられていたことがうかがえる。

 所々石畳が大きくはがれている場所は、昔の戦闘の名残だろうか。

 苔や背の低い草は生えているものの、背の高い草は無く、周囲に敵が隠れられるような場所はない。

 情報では、攻撃があるのは外壁を超えてからとのことであった。

 この辺りではそこまで警戒しなくてもいいかもしれない。


 周囲の様子を伺いながら歩いていくと、すぐに外壁前に着いた。

 外壁を見上げる。

 海から見た通り、上部に狭間の設けられた胸壁がある円形の塔が二本立っており、その間に谷を塞ぐように外壁がある。

 外壁の中央部には木製の門があったようだが、その門は破壊されており、今は一部を残すのみとなっている。

 円形の塔の一部に、爆破されたような穴が開いているものの、構造はしっかりしており、崩れる心配などはなさそうだ。

 この壁を越えた先が、話にあった襲撃のあった場所だろう。

「先に俺が行くよ。ここで待ってて。」

 流石に、青クラス旅客を撃退するレベルの未知の相手がいる場所に、エミーリアを先行させることはできない。

 背に下げていた盾を右手に、昨日購入した鋼鉄の直刀を左手に持つ。

 昨日購入した鋼鉄の剣は、片刃の大振りな直刀で、長さが170cmほど。

 銘は無いが、商品名は鋼鉄の大刀であった。

 大きな剣なので、ダンジョンなどの閉所戦闘には向かないかもしれない。

 そんなことを考えつつも、外壁を超える。

 外壁を超えた先は、幅20m、奥行き50mほどの広場だった。

 ここには、石畳などはほぼ残っておらず、がれきもほとんどない。

 側面は崖で、奥に要塞本体が見える。

 要塞の近くには、小さな墓が2基造られている。

 ・・・あれだけ妙に新しく見える。

 さて。いつ襲撃されるだろうか。


 10m程進んだだろうか。

 ・・・来た。

 地面が、かすかに揺れている。

 正面斜め下から、何かが迫ってきている。

 一歩下がりながら、盾を傾けて正面に構える。

 硬く、重い感触。

 盾をずらして相手を確認しようとしても、既に目の届く範囲にはいないようだ。

 2発目。

 再び正面斜め下。

 半歩引きつつ、上体を反らして回避しながら、目を凝らす。

 一瞬、黒い触手のようなものが目の前を通り過ぎ、地中に戻っていった。

 速い。

 地面から突き出して戻るまで、1秒程度だ。

 この速度で、どの方向から来るかわからなければ、緑クラスでは歯が立たないだろう。

 青クラス旅客でも、厳しい相手だ。

 生きて帰った青クラス旅客は、それなり以上の腕前だったのだろう。

 地面を見ても、攻撃の痕跡はない。

 3発目。

 背後斜め下。

 正面2発から背後への攻撃は、並の旅客ならば躱すことはできないだろう。

 横に避け、剣で薙ぐ。

 相手の硬さがわからないので剣の背で攻撃する。

 案の定、かなり硬い感触がある。

 そこまで強く叩かなかったとはいえ、触手は微動だにしない。

 ふむ。相手が何者かは、大体判った。

 正攻法だと、面倒くさい相手だ。

「開放、1。」

 力技で、倒してしまおう。

 4発目。

 真下。

 剣と盾を背に戻し、半歩避ける。

 真下から垂直に触手が上がってくる。

 解放した動体視力では、触手がスローモーションに見える。

 つるりとした、光沢のある触手だ。

 その触手に、掴みかかる。

 つるつるして滑りやすいが、ぬめりがあるわけではない。

 触手は掴まれたことに驚いたのか、腰に巻き付いてくる。

 そして、万力のような力でこちらを絞めあげ、地中に引きずり込もうとしてくる。

 残念だったな。その程度の力では、俺を動かすことはできない。


 腰に触手が巻き付いたのをいいことに、そのまま、引っ張る。

 触手が2本、3本、と次々に現れ、俺に絡みついてくる。

 だが、俺の動きを阻害するには、パワーが足りない。

 そのまま、ゆっくりと下がる。

 何か大きなものが地中で動いたようで、地響きが起きる。

 ペースを変えずに、下がる。

 このままではまずいと気が付いたのか、触手が俺の身体から離れていく。

 だが、離さない。

 両脇に3本ずつ触手を抱え、下がり続ける。

 一本の触手が、俺の頭部めがけて振り下ろされてくる。

 その触手に合わせ、少し屈み、そのまま伸びあがって頭を叩きつける。頭突きだ。

 ゴキン、という音がして、触手が折れ曲がり、引っ込んでいく。

 足を止めようとしたのか、地面を這うように触手が襲い掛かってくる。

 その触手は地面に思い切り踏みつける。

 ぐしゃりという感触と共に、力を失った触手が地面に引っ込む。

 その間も、下がることはやめない。

 地響きはいよいよ大きくなり、地面が大きく盛り上がる。

『-------------!!!』

 声にならない叫びを上げながら、地中から巨大な本体が飛び出してきた。

 地面から飛び出してきた勢いそのままに背負い投げのようにぶん回し、地面に一撃。

 そのまま、さらに振り回して崖に一撃。

 最後にもう一発、大きく振り上げて地面に叩きつける。

 本体が意識を失ったようで、黒い触手がぐったりする。

 勝利だ。

 気絶している本体を確認する。

 本体は艶のある黒い甲殻に覆われた、二枚貝のような外見をした何かで、その甲殻の所々から先ほどの黒い触手が生えている。

 二枚貝のような見た目だが、丸い。二枚貝よりも、つるりとしたクルミといった雰囲気だろうか。直径は3m程。

 予想通り、ジビキガイ(地引貝)の一種のようだ。

 ジビキガイとは、地面の振動を感知して、呼吸管も兼ねた触手で獲物を地中に引きずり込む陸生の貝である。

 文明圏内では最も危険な「オオジビキガイ」でも、直径50㎝程度で、緑旅客ならば簡単に倒せる相手である。。

 本来ならば、ここまで巨大かつ危険な個体は生息していないはずである。

 ダンジョンの魔力に中てられた特殊個体だろう。

 強さ的には、赤熱銅クラスなら互角、硬銀クラスならば余裕をもって戦える程度の相手だ。

 エミーリアならば、倒せるだろう。

 本来は、ジビキガイが振動を感知して無差別に攻撃してくることを利用して、毒を触手に捕らえさせ、その毒により弱ったところを掘り出すのがセオリーだ。

 もしくは、呼吸管でもある触手を全て潰してしまえば、呼吸ができなくなり地中に出てくるため、そこを叩くのもいい。

 だが、どちらも面倒くさいため、今回は力づくで倒したのだ。


 周囲には、もう敵の気配はない。

 ここの広場は、制圧完了だろう。

「エミーリア、いいよ!」

 そう声をかけると、エミーリアが外壁から歩いてくる。

「・・・大きい。」

 エミーリアは、少し離れた位置でジビキガイを見つめている。

 すると、ジビキガイがもぞもぞと動き始めた。

「!」

 エミーリアが咄嗟に剣と盾を構える。

 だが、ジビキガイは、ダメージが大きいのか、ずるずると逃げるように移動するだけで、元気はない。


 止めを刺すか、どこかに逃がすかを検討しなければいけない。

 そう思い、近づく。

「ワアァアァ!クルナ!」

 !?

 なんと、ジビキガイがいきなり声を上げた。

「クルナァァ!」

 その声は情けなく、ジビキガイはワタワタと逃げようとしている。

 ・・・まさか、知能まで持っているとは驚きである。

 だが、このままここで生活させるわけにもいかない。

 知能があるのならば、まだ話は通じるだろう。

 どうにか生息場所を移ってもらうか、社会に適応してもらう必要がある。

 とりあえず落ち着かせなければいけない。

 抵抗してきたのを何回か制圧すれば、抵抗が無意味だとわかって、話を聞いてくれるだろう。


 ジビキガイの抵抗の意思を刈り取るため、威圧のために抜刀する。

 その瞬間、ジビキガイがびくっと震える。

 ・・・なんだか、弱い者いじめをしている気分になってきた。

 そのまま近寄っていこうとすると、いきなり声がした。

「やめて!そこまでよ!」

 そして、要塞から人が走り出してきた。

 赤い髪をぱっつんおかっぱにした女性だ。

 痛んだハードレザーメイルを着ている。

「リコラ!タスケテェ!」

 その声に反応し、ジビキガイの殻が開く。

 驚いたことに、ジビキガイの中には、少女が入っている。

 いや、太ももより下を見れば、貝と同一化している。

 少女が入っているというよりも、あの少女がジビキガイの本体なのだろう。

 

 唖然として見つめているうちに、リコラと呼ばれた女性が、ジビキガイと俺の間に入る。

「この子は何も悪くない!やめるんだ!」

 そして、こちらに向かって、錆びた剣を構える。

 その構えは堂に入っており、それなりに戦闘慣れしていることがわかる。

 ・・・一体、どういう状況なのだろうか?

 ジビキガイは、リコラの背後に隠れるように動き、震えている。・・・サイズが違いすぎ、全く隠れられていないが。

「・・・わかった。手は出さない。話を聞かせてくれないか?」

 そう言い、武器を背にしまう。

 どうやら、なんだか事情があるようである。

 あのジビキガイに対応するのは、話を聞いてからがいいだろう。

「・・・やけに聞き分けがいいな。何かを企んでいないか?」

 ふむ。まあ、そう思うのも、自然か。

 だが、そう言うわけではない。

「そう言うわけじゃないよ。悪いけど、リコラさんと、そこのジビキガイみたいな子が全力で抵抗しても、俺を倒すことはできないからね。」

 そう。

 2人がいくら抵抗しようとも、俺は、数分で二人とも倒すことができるのだ。

 リコラの動きを観察しても、戦い慣れているようだが、脅威には感じない。

 ジビキガイは、既に一度倒している。

 2人が連携してかかってきたとしても、全く問題なく倒せるだろう。

 俺がそう言うと、リコラは、悔しそうに顔をしかめる。

 よく見れば、その鎧は大きな穴が開いており、何かしらの攻撃を受けた跡が見える。

「わかった。信用しよう。」

 リコラは、剣を下ろす。

 その剣も、錆がひどく、護身用以上の意味はなさそうだ。


 これは、事情をしっかりと聴く必要がありそうである。


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