第11話 黒い球体
皆さま、いつもお読みいただき、ありがとうございます。
昨日、投稿したつもりでしたが、トラブルなのか、次話投稿ボタンを押し忘れたのか、上手く投稿されておりませんでした。
更新が遅れ、大変申し訳ございません。
日曜日に確実に投稿できるよう気をつけてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
「この宇宙の核と、戦うためさ。」
そう言うと、黒い球体は、ゆらり、と揺れる。
黒い球体は、そのまま、ゆらり、ゆらりと揺れている。
俺の勘が、訴えてくる。
目の前で揺れている黒い球体こそ、この宇宙の核である、と。
だが、ここは俺が生きてきた宇宙とは異なる、全く別の法則によって成り立つ宇宙だ。
この宇宙にしかいない生き物などの可能性もある。
勘だけで攻撃し、余計な体力を使うわけにもいかない。
そう思い、黒い球体を観察していると、揺れが、止まる。
そして、黒い球体側から再び話しかけてきた。
「”カク”?カク、*#なに?」
再び、言葉にノイズが混じっている。
とはいえ、このくらいのノイズならば、意味は分かる。
核の意味が、わからないのだろう。
・・・いや、待てよ?
そもそも、この黒い球体は、なぜ、こちらの言葉を話すことができているのだろうか?
「お前、なぜ、こちらの言葉がわかる?」
俺が悩んでも仕方がないので、単刀直入に訊いてみる。
すると、再び、黒い球体は、ゆらり、と揺れる。
ゆらり、ゆらりと数回揺れた後、また、止まる。
「+*!”&#*”&#=+**~&#。」
音だ。
また、意味の分からない音の羅列を黒い球体が、発した。
黒い球体は、動かない。
そして、再び音を発した。
「そ*!”&#ん&ゅ=+ほ*~&#。」
少し、判別できる音は混じるが、言葉にはなっていない。
「こっちが分かるように話してくれないか?」
俺がそう言えば、黒い球体は、また、ゆらり、ゆらりと揺れ始める。
どうやら、このゆらゆらと動くのは、この球体が思考している時のようだ。
しばらく揺れ動いた後、球体はまた止まる。
「そちらの言語を模倣している。」
今回は、ノイズの混じらない流暢な言葉だった。
しかし、模倣か。
何か情報がどこかにあり、その情報から学習してきているのだろうか?
既に学習を終えているのならば、ノイズは発しないはずである。
ノイズを発してくるということは、現在進行形で模倣中ということなのだろうか?
そして、模倣中ということは、その元はどこから得ているのだろうか?
疑問は尽きない。
・・・とはいえ、この疑問たちは、今考えることではない。
今考えるべきは、この黒い球体は、倒すべきなのかどうか、ということだ。
模倣できているなら、核という言葉の意味も分かってきているのではないだろうか?
「お前は、この宇宙の核か?」
俺がそう問えば、核は、少し震える。
そして、言葉を発する。
「核。・・・物の中心、コア、中核。」
核の意味は、分かっていそうだ。
「その意味でならば、正しい。」
なるほど。
この黒い球体は、核で合っていた。
敵だ。
拳を向ける。
姿勢制御はまだまだ上手くいっていないが、敵が目の前に来たならば、戦いは始まる。
今の状態で戦うしかない。
拳を構えた俺を見てか、黒い球体改めこの宇宙の核は、すっと距離を離す。
まずい!
本能が、勘が、大音量で警鐘を鳴らす。
何か来る。
ヤバい一撃が来る。
その警鐘に従い、両手を顔の前に交差し、防御態勢をとる。
その瞬間、凄まじい衝撃が防御姿勢をとった上半身に襲い掛かってきた。
「っ・・・!」
衝撃はガードを貫通し、頭部に届く。
頭が揺らされ、声すら出ず、一瞬、意識が遠のく。
とんでもない威力だ。
ナターリアの固有世界で受けた攻撃の、さらに数段上の威力である。
このクラスの威力の攻撃は、久々に受けた。
そのくせ、周囲の赤い空間に変化はなく、一切の予兆が感知できない。
その凄まじい衝撃は、続けて何発も、四方八方から襲い掛かってくる。
覇山たちも、この攻撃に晒されたのだろうか。
ならば、覇山はともかくとして、ブライアンが生きて帰って来られたのは、とても幸運だったのだろう。
一撃ごとに、意識が飛びそうになり、吐きそうになり、身体が捩じ切れそうな思いをする。
周囲が真っ赤でわかりづらいが、遠くに見える核の位置と体にかかる慣性から、一撃ごとに大きく吹き飛んでいることがわかる。
これは、なかなかキツい。
姿勢制御すらままならないところに、全周囲からの攻撃。
周囲の景色が赤一色で変わらない中でもみくちゃにされ、自分の姿勢すらわからなくなる。
だが、耐えられる。
今のところ、凄まじい力だが、俺に致命傷を与えるには至っていない。
幸い、急所を狙ってくるほど器用な攻撃ではない。
体を丸めて急所を隠せば、致命傷は避けることができる。
ならば、耐えながら、観察できる。
身体を丸め、全身の筋肉を引き締め、纏っている力の出力を上げる。
未だ、ピンボールのように身体は跳ね飛ばされているが、まだまだ、耐えられる。
肩に衝撃が来る。
身体が吹き飛ぶ。
だが、俺の筋肉は突破されていない。
頭に衝撃が来る。
腕で阻む。
身体は吹き飛ぶが、頭部まで衝撃は貫通してこない。
こちらの力の密度を濃くしたことで、威力を受け止めきることができている。
そのまま、一発一発を、観察する。
観察して、わかった。
これは、ただ、膨大なエネルギーを叩きつけてきているだけの攻撃だ。
凄まじい威力だが、とても雑な攻撃である。
だが、納得の攻撃でもある。
相手の宇宙から見れば、俺一人など、矮小な存在だ。
ヒトが小さな虫を踏み潰すのと一緒で、技術を凝らす必要など、無い。
宇宙からすると、俺など、虫と一緒で、その体重を乗せれば、簡単に潰れるものでしかないのだ。
そして、恐らくだが、この宇宙は『戦い』を経験したことがないのだろう。
それも当然だ。
宇宙に並び立つモノなど、他の宇宙しかない。
そして、他の宇宙は捕食対象であるため、相性的に、戦いになりはしない。
一方的な捕食になるだけだ。
だから、こんなにも雑な攻撃を繰り返すのだ。
いや、攻撃ですらないのだろう。
踏み潰そうとした虫が、足を避けた。
だから、また足を振り下ろした。
それだけなのだ。
・・・衝撃が来る、ということは、エネルギーの動きがある。
俺にぶつかり、衝撃を伝えるだけの密度のエネルギーが、動いてきているのだ。
腕に、衝撃。
俺の身体は吹き飛ぶ。
それを迎え撃つように、背に衝撃。
正面方向に、俺は吹き飛ぶ。
俺の正面から、衝撃。
腕と脚で、分散させて受ける。
吹き飛んでいる方向から、迎え撃つように衝撃が来ている。
ならば、次は、背の方向から、衝撃が来るはずだ。
衝撃が来る瞬間、そちらを、蹴る。
捉えた。
足裏に、異様な重さを感じる。
その重さは、脚から、身体に伝わってくる。
その重さを、ダメージにせず、身体を押し出すことに使う。
見据えるは、離れたところに浮かぶ、核。
拳を、硬く、握りこむ。
脚から伝わる重さだけでは、足りない。
丸めていた身体を大きく伸ばし、全身の力も追加する。
跳躍。
一瞬で、黒い核が、目の前に迫る。
俺は、核に向け、硬く握り締めた拳を、振りぬいた。




