表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
187/208

第10話 突入

読者の皆様、いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


 赤い円の上に突き出した足場から、円の中を覗き込む。

 先ほど通過した黒い球体は、もう見えない。

 あれは核だったのだろうか?


 赤い亀裂を覗き込めば、心の底から、戦意と殺意が、沸き上がってくる。

 奥底にあるであろう、その核を叩き潰してやろう。

 核が逃げるようなら、空間を叩き割ってやろう。

 俺の敵になったことを、後悔させてやらねばなるまい。


「この亀裂、入って、いいかな?」


 皆を恐れさせないよう、務めて平静を装い、鈴に訊く。

 悪いのは、この赤い宇宙である。

 決して、他の人に八つ当たりはしてはいけない。

 だが、俺の声を聴いた鈴は、肩をびくりと震わせると、少し青い顔をして、こちらを見る。

 なんなら、少し涙目だ。

「・・・メタルさんのそんな怖い声、初めて聴きました。」

 ・・・残念ながら、平静を装おうとしたが、失敗してしまったようだ。

 少し涙目のまま、鈴は言葉を続ける。

「では、1秒間、空間の拘束を解きます。その間に、飛び込んでください。」

 1秒。

 短く聞こえるが、超人にとっては、非常に長い時間だ。

 満身創痍の覇山ですら、1秒で赤い宇宙からの脱出に成功している。

 だが、覇山脱出の1秒で、亀裂への拘束はかなり不安定になった。

 空間の拘束を解く時間は、より短い方がいいだろう。

「もっと短くていいよ。」

 俺がそう言えば、鈴が、少し考える。

 そして、言う。

「では、0.1秒でお願いします。」

 ふむ。

 まだ長い気がするが、まあ、そんなものか。

「わかった。」

 俺が了承すると、鈴がラピーラに視線を向けて、頷く。

 鈴の頷きを見たラピーラは、技術者や魔術師たちに指示を飛ばす。

「30秒後に0.1秒間、魔力供給を切る!設定急げ!」

 ラピーラの指示に従い、技術者と魔術師たちが慌ただしく動く。

 30秒後か。

 心構えをしておこう。


 目を瞑り、呼吸を落ち着かせる。

 そして、全身に、自身のエネルギーを纏わせる。

 これで、入ってすぐに赤い宇宙に分解されることはないはずだ。


 身体にエネルギーを纏ってから20秒ほどで、ラピーラが叫ぶ。

「準備完了、魔力供給切りまで、あと8秒!」

 いよいよか。

 目を開け、赤い亀裂を見据える。

「5、4・・・」

 カウントダウンが始まった。

「3」

 姿勢を低くし、飛び込むための姿勢をつくる。

「2」

 足場から亀裂に向けて倒れ込み、頭を下にする。

「1」

 息を大きく吸い、足に力を籠める。

「今!」

 瞬間、脚に込めた力を開放し、全身を赤い亀裂に向かって、押し出す。

 0.1秒に満たない、極短い時間で、俺の身体は赤い宇宙へと飛び込んだ。






 飛び込むと、なんだか周囲からの感覚が変わった気がした。

 感覚が変わった瞬間が、赤い宇宙に侵入した瞬間なのだろう。

 周囲を確認する。

 赤。

 ただ、ひたすらに赤い。

 目が痛くなりそうな、鮮烈な赤だ。


 飛び込んできた方向を見れば、一応、飛び込んできた亀裂は見える。

 亀裂はみるみる遠ざかり、今はゴマ粒ほどのサイズだ。

 この空間には、空気も、重力もないようだ。

 まあ、俺たちの宇宙とは違うのだ。

 何も無いのも、想定内である。

 空気や重力の抵抗がないため、思ったよりも飛翔速度は速い。

 長い期間にわたって呼吸ができなくとも、自身の力を消費して無理やり生きることもできる。

 リカバリーに相応の年月がかかるのでその方法はやりたく無いが、息を止めたままでも、生命維持には問題は無い。 

 

 さて。

 核はどこだろうか?

 周囲を見渡しても、赤一色。

 気が付けば、飛び込んできた亀裂は見えなくなっている。

 空気も重力もなく、慣性もおかしいのか、服がなびきすらしない。

 こうなれば、周囲の景色が一切変わらないせいで、自分が動いているのかすらよくわからなくなってくる。

 戦闘服に仕込んでいる投げナイフを取り出す。

 力を纏わせ、投げる。

 投げたナイフは、俺のいる位置から真直ぐ飛び、しばらく飛んでから溶けるように消えた。

 今のナイフの軌道からすると、いつの間にか、俺は止まっていたらしい。

 とりあえず、動けないことには戦闘どころではない。

 動くことができるかを、確かめる必要がある。


 まずは、自身の姿勢制御ができるかを確かめよう。

 手足を動かしてみる。

 問題なく動く。

 腰を捻ってみる。

 問題ない。

 全身の筋肉を動かし、その反動で横や縦に一回転してみる。

 できる。

 なんだか、抵抗が極端に少なくなった水中にいるような感覚だ。

 とはいえ、身体は十分に動かせる。

 次に、声を出してみる。

「あ、あ、あ。ふむ、声は出るな。」

 一応、自身の声は聞こえる。

 自身が纏っている力のおかげだろうか?

 だが、空気の振動としての音とは、何かが違う気がする。

「テスト、テスト。」

 さらに声を出してみる。

 今回は、自身の纏っているエネルギーの外側に向けて、声を飛ばしてみた。

 その声も、聞こえる。

 この空間は、それが空気の振動としての音であるかは別として、ある程度は音を通すと考えてもいいだろう。

 

 さて。移動はできるだろうか。

 試しに、新たなナイフを取り出し、エネルギーを纏わせて手を放してみる。

 すると、そのナイフは、ゆっくりと動きつつも、ほとんどその場からは動かない。

 ゆっくりと動いているのは、手を放すときのブレによるものだろう。

 そのナイフを目印にして、移動を試みてみることにする。

 水中のような感覚なので、泳ぐように手足を動かしてみる。

 一応、微妙にだが、進む。

 抵抗が無ければ進まないはずなので、空気こそ無いとはいえ、一切何も無い空間、というわけでもないようだ。

 なにか弱い抵抗があるため、泳ぐことはできる。


 よし。

 これなら、戦える。


「{*・=◇、●☆て#~”+」


 唐突に、変な音が、耳に飛び込んできた。

 方向は、背後。

 体を捻り、振り向く。


 そこには、黒い球体があった。

 亀裂を横切った、あの黒い球体だ。


「な{*・を、●☆て#~る?」


 再び、音が聞こえる。

 どうやら、この音はこの黒い球体が発しているようだ。

 黒い球体から、敵意は感じない。

 この黒い球体は、この宇宙の核だろうか?

「なんだ?」

 問いかけてみる。

「な{ぃ・を、や☆て#ぃる?」

 単語が、なんだか明瞭になってきている気がする。

「なんて?」

 再度、訊き返す。

「なに・を、やって#る?」

 ここまでくれば、流石の俺でも、何を言っているか分かる。

「体を動かせるか、試しているんだ。」

 答えてみる。

 すると、球体は、ついに『言葉』を返した。

「なぜ?」

 この球体は、果たして、なんなのだろうか?

 この宇宙の核で、いいのだろうか?

 正直に答えてしまおう。


「この宇宙の核と、戦うためさ。」


 俺がそう言うと、黒い球体は、ゆらり、と揺れるのだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ