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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第8話 満身創痍


「覇山元帥も、こちらに。」

 衛生兵が、覇山用の担架を示す。

「私は、いい。」

 そして、俺の方を見て、言葉を続ける

「メタル、鈴、来てくれないか。」

 急いで情報共有をしなければいけない理由があるようなので、俺は、すぐに戦うことができるように心構えをしつつ、覇山の傍らへと向かう。


 だが、その覇山に最初に近づいたのは、衛生兵だった。

「覇山元帥、治療を。」

 当然だ。

 覇山は装備もボロボロで、目に見える部分にも大きな傷があり、未だに血が流れ出している。

 覇山の身体は、素人目に見ても満身創痍なのが分かるほどだ。

 覇山は、覇山を搬送しようとする衛生兵の方を見る。

 衛生兵の目は職務への信念と覇山への心配に満ちている。

 その衛生兵を見て、覇山は、言う。

「・・・わかった。だが、移動せずにできる範囲で頼む。」

 衛生兵はその回答に少し顔をしかめる。

 だが、諦めたような表情をして、周囲の衛生兵に指示を出す。

 そして、衛生兵数人が覇山の治療を始める。

 治療されている覇山は、なぜか直立不動だ。

「メタル、鈴。すまないが、動けそうにない。こちらに来てくれないか。」

 動けない?

 それほどか。

 覇山のダメージは、思ったよりも大きいようだ。

「横になったら、意識が飛びそうでな。すまない」

 そう言う覇山の装備を、衛生兵が外す。

 意識が飛びそう?

 余程のダメージのようだ。

 俺と鈴が駆けつける中、衛生兵が血濡れになった装備のインナーを、覇山からはぎとる。

 

 思わず、ぎょっとした。

 覇山の右脇腹は、広い範囲が紫色になり、変形している。

 さらに、左胸のあたりは大きく抉れ、あばら骨が見えている場所すらある。

 見えているあばらも、明らかに折れており、どうも血管を傷つけているようで、血が流れだしている。

 普通ならば、意識を保つどころか、あっというまに命を落としても不思議ではない重症だ。

 だが、流れ出す血は定期的に体内に戻り、連鎖的に発生しているであろう身体のダメージは次々と巻き戻っている。

 今気が付いたが、覇山の眼帯は外れ、魔眼が爛々と輝いている。

 魔眼の力で、今、身体に発生する不具合をどうにか止めて命を保っているようだ。

 だが、覇山の魔眼は、事象を巻き戻すことはできても、痛みや苦しさを軽減する力は無い。

 怪我の具合からするに、その苦痛は相当のモノだろう。

 生命維持こそ魔眼で行っているが、直立し、会話ができているのは、覇山の尋常ではない精神力によるものなのだろう。

 

 しかし、覇山は、魔眼も使ったのだ。

 多くの相手を完封してきた、極めて強力な魔眼を、全力で使ったのだ。

 それでもなお、この有様。

 怪我が元で今発生している不具合は巻き戻せているものの、多くの怪我は巻き戻せていない。

 敵の宇宙から受けた怪我が、巻き戻せていないのだ。

 覇山は、その魔眼で起点を視認できたものは、なんでも巻き戻すことができる。

 さらに、覇山の魔眼は全周視界、透視、千里眼、霊視、透明の視認、複数方向視認までできる優れモノのはずである。

 その魔眼で巻き戻せないとなると、それだけ能力を持つ覇山の魔眼でも、起点を視認できなかったことになる。

 一体、どんな攻撃を受けたのだろうか・・・。


 覇山の近くに俺と鈴が向かうと、満身創痍の覇山は、直立姿勢のまま、俺と鈴に説明を始める。

 その声色はしっかりとしているが、どこか余裕がない。

「突入は、メタルだけで、行け。」

 俺だけ、か。

 今、この場で戦いに出ることができる、覇山と並ぶ強さの者は、確かに、俺しかいない。

 そして、ここにはブライアンより強い者は、エメリアくらいしかいない。

 エメリアも、円の維持があるため、突入させるわけにはいかない。

 ブライアンが大きなダメージを受けてきた相手に、ブライアンより弱い者を突入させるわけにはいかない。

 確かに、俺が行くのが最適解だ。


 覇山は、さらに言葉を続ける。

 声色には、だんだんと苦しさが滲み出てきている。

「最も、重要なことを、言う。あの宇宙には、核がある。それを破壊しろ。」

 確かに、重要だ。

 どうやって、宇宙を攻撃すべきかわからなかったが、核があるならば、話は変わる。

 核を破壊しさえすれば、宇宙を破壊することはできなくとも、動きを長期間止めることができるだろう。

 宇宙規模の長期間といえば、億単位の年月だ。

 それだけの年月があれば、再度襲い掛かってきた時の対策を練ることができる。

 事実上の勝利だと言えるだろう。


 覇山の身体が、震え始める。

 どうやら、限界が近いようだ。

 周囲では、覇山の傷口を衛生兵たちが必死に治療している。

 覇山は、息も絶え絶えだが、言葉を続ける。

「突入の、時は、力を纏え・・・。・・・そう、しないと。・・・喰われる。」

 なるほど。

 相手の内部に突入するのだ。

 何かしら防壁が無ければ、一瞬で消化されてしまうということだろう。

「・・・他、に、も、ある・・・。」

 覇山はもはや、息も絶え絶えだ。

 俺は、そんな覇山に、言う。

「それだけ情報をもらえれば、大丈夫だ。」

 実際、最低限必要な情報は得た。

 核という弱点を発見し、力を纏うという戦うための最低条件を探ってきたのだ。

 覇山は、威力偵察として、十分に役割を果たしたのである。

 俺の言葉に、覇山は、少し、笑う。

「そう・・・か・・・。つよ・・・い・・・な。」

 その笑みには、少しの安堵があるように感じた。

「任せて、休め。」

 俺がそう言うと、覇山の身体から、力が抜ける。

 意識を、失ったのだ。

 だが、倒れはしない。

 その心は、最後まで、戦っているのだ。


 意識を失った覇山の魔眼が、ひときわ輝く。

 そして、口が、不自然に動く。

「メタルよ。宿主は死なせぬ。存分に戦ってこい。」

 魔眼が、意識を失った覇山の身体を使って話しているのだ。

 覇山の身体を借りて生きている魔眼がそう言うのだ。

 覇山の命は、心配しなくてもいいだろう。

 俺は、その魔眼の言葉に、頷く。


「任せろ。」


 俺がそう言った瞬間、意識のないはずの覇山が、ニッと、笑う。

「ああ・・・任せ・・・た。」 

 その言葉を最後に、覇山の身体を支えていた、最後の力が、抜けた。

 今の声は、魔眼の声ではなかった。

 覇山の意識は、辛うじて残っていたようだ。

 身体を支えていた魔眼も、その力の全てを覇山の生命維持に回す。

 完全に、支えるものがなくなった覇山の身体は、ゆっくりと、背後に倒れる。

 その覇山を支える、エメリア。

 魔力供給をしていたエメリアは、いつの間にか覇山の背後に移動していたのだ。

「あなた。ゆっくり休んで。」

 美しい光景だ。

 だが、魔力供給は大丈夫なのだろうか?

 そう思い、エメリアが立っていた場所を見れば、そこには、もう一人のエメリアが立っている。

「分身を置いたわ。しばらくは大丈夫。」

 エメリアが、言う。

 そのエメリアに、鈴が声を掛ける。

「わかりました。今は、覇山元帥に着いていてください。治療にも協力を。」

 エメリアは、鈴の言葉に頷く。

 

 そして、覇山は、エメリアと衛生兵に別の部屋へと搬送されていった。


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