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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第7話 帰還


「魔力の供給を、一秒だけ、止めてください。」

 120%を超えている出力でどうにかなっている状況で、鈴が言う。

「そ、それでは、致命的な穴が開いてしまいます!」

 技術者が、叫ぶ。

 それに対し、鈴が、言う。


「覇山元帥とブライアン中将が、帰ってきています。」


 鈴の一言で、技術者と魔術師たちの表情が変わった。 

 どうやら、赤い円が広がらないように魔力で行っている拘束が、覇山たちの脱出も阻害するようだ。

「魔力供給、切れ!」

 ラピーラが叫ぶ。

「魔力供給、切ります!2、1、今!」

 短いカウントダウンの後、魔力供給が、止まる。

 その瞬間、揺れが強くなる。

 技術者の数人が、揺れに耐えきれず、転ぶ。


 魔力供給が止まると同時に、エメリアが、どこからともなく取り出した槍を、赤い円に向けて投げた。

 その槍は、10mもない短い距離を、しかし、音速を遥かに超える速度で、飛ぶ。

 瞬きほどの時間もかからず、円に槍が到達する。

 その瞬間、円から腕が突き出し、その槍を、掴む。

 槍には魔力で構成された紐が繋がれており、その紐を、エメリアが引く。

 すると、赤い円の中から、何かが飛び出してきた。


 覇山だ。


 覇山は、その背に、人を一人、背負っている。

 背負われているのは、ブライアン。

 槍を掴み、宙に飛翔したまま、覇山が叫ぶ。

「衛生兵!」

 覇山とブライアンの姿を見たラピーラが、通信機に叫ぶ。

「衛生兵!重傷者2名!展開!」

 ラピーラは、覇山とブライアンを重傷者とみて、衛生兵に指示を飛ばす。

 さらに、覇山が完全に円から飛び出したことを確認し、ラピーラが再び叫ぶ。

「魔力供給、再開!」

 再度、エメリアから膨大な魔力が供給され始める。

 それと同時に、揺れが弱くなる。

 だが、魔力供給を切る前よりも、揺れは強い。

 覇山脱出のために仕方がなかったとはいえ、この一瞬で円が広がろうとする力は大きくなってしまったようだ。

 見れば、要塞の壁に、新たな罅が入っている。

 実際、揺れだけ見ても、先ほどは相当のものだった。

 大地震が起きたようなものである。

 罅も入るだろう。

「大盾要塞と沿岸の都市に、津波に気を付けるよう通達を。」

 鈴が、指示をしている。

 強い揺れだとは思ったが、津波を心配するほどの震度だったようだ。

 鈴が指示を出すのとほぼ同時に、要塞の扉が開いた音がする。

「負傷者2名!急げ!」

 俺たちが出てきたのとは異なる入口から、衛生兵が勢いよく入って来た。

 隊長らしき者の叫びとほぼ同時に、2台の担架を持った10名程度の衛生兵たちが展開する。

 練度の高い衛生兵で、その動きは素早く、無駄がない。

 覇山は、衛生兵が持ってきた担架に、ブライアンを横たえる。

 ブライアンは意識が無いのか、担架に寝かせられたその身体には、力が入っていない。

 さらに、顔色は悪く、肌の色も土気色だ。

 見た感じ、ブライアンの身体に大きな外傷は見られない。

 だが、気配と感覚で、分かる。

 生命力が、著しく減っている。

 

 生命力とは、全ての生物が持っている、生命を保つための力のことであり、呪力に近いモノだ。

 常に生物の体内で生成され、体内に満遍なく循環しているが、怪我や病気などを治す際に消費されていき、生成が追い付かなくて全て無くなると死亡してしまう。

 戦闘で生命力が大きく失われる要因となると、普通に考えれば大きな怪我である。

 

 だが、ブライアンの身体に大きな外傷は見当たらない。

 一体、どんな攻撃を受けたのだろうか?

 魔術?

 いや、魔術は、ほとんどの場合において、外傷を伴うダメージをもたらす。

 一応、外傷を伴わない魔術もあるが、非常に珍しく複雑な術だ。

 今回は、その可能性は除外していいだろう。

 実は、軍服の下に、大きな怪我がある?

 骨折や内臓へのダメージは、ダメージ自体は大きくても、外見ではわかりづらい。

 強烈な打撃攻撃などで、外傷こそ目立たないが、体内が大きく損傷することは、決しておかしいことではない。

 この可能性は、それなりに高いだろう。

 それとも、呪術か?

 呪術ならば、外傷を伴わないダメージも普通である。

 何かしら呪術的な攻撃で、生命力のみに大きなダメージを受けたのかもしれない。

 この可能性も、低くはない。

 全く新しい、未知の力?

 相手はこの宇宙とは異なる、別の宇宙なのだ。

 この宇宙の魔力や呪力とは違う力の可能性は、非常に高い。

 

 可能性としては、未知の力が最も有力だろう。

 相手は、完全に未知の存在である。

 魔術や呪術と言った、既存の枠内で考えない方がいい。

 既存の枠内で考えていると、精神的な奇襲を受けかねない。

 どんな攻撃をされても対応できるよう、心構えをしておかねばならない。


「ブライアンを先に治療しろ。」

 覇山が衛生兵に指示を出す。

 その声色には、余裕がない。

 衛生兵が、ブライアンに生命力製剤を注射する。

 すっと、ブライアンの顔色が良くなる。

 予断を許さない状況ではあるだろうが、助かる可能性は高そうだ。

 ブライアンが、担架に乗せられ、連れていかれる。

「覇山元帥も、こちらに。」

 衛生兵が、覇山用の担架を示す。

 気配から察するに、覇山の生命力も大きく目減りしており、決して少なくないダメージを負っていることが分かる。

 さらに、ブライアンと異なり、覇山の全身は血に塗れており、大きな外傷もあるようだ。


 だが、覇山は首を横に振り、言う。

「私は、いい。」

 そして、俺の方を見て、言葉を続ける。

「メタル、鈴、来てくれないか。」

 どうやら、自身の治療よりも先に、情報共有をするつもりのようだ。


 覇山の表情には焦りが浮かんでいる。

 何か、急いで情報共有をしなければいけない理由があるようだ。

 俺は、すぐに戦うことができるように心構えをしつつ、覇山の傍らへと向かうのだった。


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